しるべの話。

ポストにハガキを投函しようと、夕方になってツッカケ履きで家を出た。

いつもの団地のいつもの通り…のはずだったが、おかしい、いつもの出口が無い。

明るいような、薄暗いような、雨上がりのたそがれ時

いいトシをして迷子になったような、心細い気持ちになる。

振り返ればなんのことはない、曲がるはずの角を、曲がりそこねただけのことだった。

用を済ませて帰り道、それにしても変な間違いをしたものだ、と、さっきの角で少し立ち止まり、周囲を見回して、1つ変わったことに気付いた。

団地だから、ほとんど見分けのつかない、同じ建物の同じ窓が並んでいる。

ただ、その角の部屋の窓には、グラグラ揺れるキノコの人形が、ずっと置いてあった。

そーらーきのこ

ところが今見るとそれが影も形もない。

どうやら私は、キノコを目印に角を曲がっていたのだ。

わざわざヘンなものを窓枠にのせるなあ、と思っていた。もしコレがうちにあったら、3秒も考えないで捨てるだろう。

そんな安っぽいプラスチックのオモチャが、いつの間にか私の道標になっていた。

この家の人にしてみれば、電池が切れたのか、故障したのか、何気なく捨てただけのことだろう。

しかしこれから、私はこの道を曲がるのに、ちょっとだけ不便になる。

同じものを買ってきてポストに入れようか、などと考えたが、家の人は気味が悪いだろうと想像して、思いとどまった。



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ごきんじょ | コメント(5) | トラックバック(0) | 2017/06/26 11:30

くばった話。

♪ ぴん ぽーん ♪

あーハイハイ ただいま…

ドアの外の相手には聞こえない返事をしてから玄関を出ると、作業着を着た40代くらいの女性が

あ、ワタクシ タテル工務店のナニガシと申します

と、名刺を出した。

この度上階のダレソレ様宅の改装工事を担当させていただきますので、ご挨拶を…

ハアハア、管理人さんからうかがってます

要するに、改装工事でちょっとウルサイですよ、というご挨拶だ。工事の日程や内容を説明してから、書面と一緒に

こちらつまらないものですが…

と、熨斗紙のかかった包みを差し出した。

ひっこしのそしな

あー、やっぱり。タオルか、ラップか、ゴミ袋か、どうせうちでもだぶついている品物なので

いえ、けっこうです お気持ちだけで…

と断ると、ハトが豆鉄砲を食らったような顔で驚いている。どうやら今まで、断られたことがないらしい。

あらゆる機会で粗品を配る、愚にもつかない習慣は、なかなかなくならない。

だいたい、500円やそこらで欲しいものなんて、みんなもう無いのだ。もらったところで、相手のことなどすぐ忘れてしまう。

かといって、選び抜いたシャレた品物を配っても、あとになって

あ、あの変わったもんをくれた人ね

と、ヘンな風に印象に残るのが関の山。ろくなことがない。

意外に粘り強いナニガシ嬢に、結局包みを押し付けられ、部屋に戻ってから、そういえば、ウチは何を配ったっけな、と思い出そうとしたが、わからない。

それもそのはず、粗品の買い物を、わが母おばーちゃんに丸投げしたのだ。

この家に来るときは、離婚、引越、子供の学校の手続きを1人でせねばならず、てんやわんやで、ご近所のご挨拶まで気が回らなかった。

見るに見かねたおばーちゃんが調達してきてくれた、何か軽い包みを、中身も確かめず、ヨロシクオネガイシマス、とご近所に配ったのだった。

そういえばさ、引越の時の粗品、アレなんだったの?

今さらながら電話で聞いてみると、おばーちゃんはしばらく考えて
 
あ、思い出した!ノリよ!焼海苔

てっきりタオルか何かだろう、と思っていたので、意外なセレクションだった。

私自身、粗品に焼海苔をもらった経験はないから、かなり珍しいんじゃないだろうか。

私は焼海苔を配る女だと、ご近所に思われているわけだ。

アレは私の趣味じゃないんです!と、つい言い訳したい気持ちになるが、10年も経っちゃ、もうどうしようもない。

ナニガシ嬢の包みの中身は、うちでは使わない洗剤だった。



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ごきんじょ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/06/24 11:33

りぞーと話。

あー!えらい目に遭った!

悲鳴を上げながら、ミヤケさんが事務所に飛び込んできた。

あら、また降ってきた?

夜半から朝にかけて、気象警報の出るほどの大雨

それがお昼になって嘘のように上がり、照りつけた日差しがあっという間にアスファルトを乾かした。はずだった。

外を見れば、一天にわかにかき曇り、大粒の雨が窓を叩いている。

どうなってんだろ、この天気…

ハンカチでスカートの裾を拭きながら、ミヤケさんがこぼす。

梅雨って感じじゃないよね スコールっていうか…

日本は もう熱帯になったのかもね

もはや温暖化じゃなくて、熱帯化か…

えはがき

熱帯もリゾートならいいけどね

ハハハ…おんなじ家に帰ってたんじゃ リゾート感覚はムリかァ

じゃ、違う家に帰る?

へ?

アタシ、ぢょん子さんちに帰る!

ハハハ…そんでアタシはミヤケさんちに帰るのか! ミヤケさんち、一戸建てだっけ?

そうよ お宅はマンション?いいなァ、憧れてんのよ、マンション暮らし…

イイかもね ひとんちでリゾート…

熱帯だもんね、日本…

ムダ口をききながら、残りの仕事を片付けるうち、雨はまた小降りになってきた。

お疲れ様~、と言いあって、事務所のカギを締め、右と左に別れた。

もちろんそれぞれ、自分の家に帰るのだ。大人だもん。冗談をホントにしたりはしない。

カサを打つ雨の音が、また少し大きくなった気がして、急ぎ足で駅に向かった。



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ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/06/22 11:30

ごみぜろ話。

1人暮らしになるということは、食べる口が減ることである。

それを実感するのは、出すゴミの量だ。

週2回の燃えるゴミの日に家じゅうのゴミ箱を寄せても、スーパーの中くらいのレジ袋1つに入ってしまう。

ゴミ袋を提げて家を出ると、前方にやはりゴミステーションに向かう、年配の奥様。

ぱんぱんにふくらんだ45リットルのゴミ袋は、小柄な彼女がかしがるほど重いらしい。せかせかと小股で歩を進めるが、はかどらない。

なんだか追い越すのも申し訳なくて、道端の鉄道草の花をかまいながら、歩調を落とす。

ひめじょおん

ゴミステーションに着いたのはほぼ同時だった。

45リットルの奥様と協力してカラス除けネットを持ち上げ、めいめいゴミ袋を押し込んで、丁寧にネットをかける。

彼女が私の小っちゃいゴミを、チラリと見ていた気がした。

次のゴミの日、プラプラと家を出ると、またしても奥様に出会った。

前回同様パツパツに詰まった45リットルのゴミ袋を重そうに提げているが、3日であれほどゴミが出るとは、驚きである。

かたや私は、またしてもレジ袋1つ。

彼女にしてみれば、私のゴミの少なさのほうが、むしろ不審なのだろう。

何食べてんのかしら、と思われたかもしれない。

3日前と同じように協力してネットを上げ、きちんとゴミ袋を押さえてから、軽く会釈して右と左に別れた。

45リットルの奥様は、終始慇懃な態度だが、どこかフフン…と侮るような気配を感じたのは、気のせいではないと思う。

本日、ゴミゼロの日



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/05/30 11:30

あいでぃー話。

朝起きたら、シンジラレナイくらい顔がむくんでいた。

鏡を見れば、おとぎ話の顔のある月みたいなわが顔が浮かんでいる。

新しくいただいたお薬が合わなかったのか、それとも別のコワい病気か。

とにかく早く、と、マスクで顔の下半分を隠し、診察開始を待ちかねてヒカワ医院に行く。

おはようございます 今日はどうしました?

せ、先生…

泣きそうな気持でマスクをとる。

ん?どうした?

なぜか怪訝な表情。

あの、ですからこれ…顔がハレて

あ、そう?

不得要領なまま、頬を支えるように耳の下に両手を伸ばし

うーん… ちょっと張ってるかな… 耳下腺は異常ないね… リンパ腺も…

ブツブツとつぶやきながら触診を終えると、ヒカワ先生は私の顔面を観察しながら

そんなにハレてる?

とのたもうた。

満月みたいにハレてるのに、なぜ信じてもらえない!

ヒカワ先生!この10年ずっと、月に2回会ってる私の顔、なんでわからないんですか?

パラレルワールドに迷い込んだような混乱に襲われ、なぜか冤罪という言葉が脳裏に去来する。

先生!メッチャ ハレてるんです!別人みたいなんです!

懸命に強弁したが、先生は

そう?ふーん…

と、一向に響かない様子である。

なんとしても事態の深刻さをわかっていただかねばならぬ。

そうだ、冤罪を晴らすには、証拠だ!

美しかった(ウソ)過去の私と比べてもらえばいい、と思ったものの、自撮り写真を持ち歩くような人間ではない。

ハタと思いついたのが運転免許証である。

ペーパードライバーの私は、まばゆく金色に輝く免許証を持っている。

ワタワタとカバンを開け、サイフを出して、免許証の写真を見せると

ふーん… 確かに…

ようやく納得してもらえた。

30何年前、なけなしのバイト料を投じた免許証。

本当に久しぶりに、免許証を活用できたヨロコビで、顔がハレた憂鬱を一瞬忘れた。

めんきょしょう



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ごきんじょ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2017/05/27 11:45
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