びわのみ話。

うちの団地には、大きなビワの木がある。

濃緑の葉の陰に、ビワの実の、うぶ毛にけむる甘い黄色が見えれば、もう夏も近い。

子供のころ住んでいた田舎の家にもビワの木があり、毎年スズナリに実が生ったので、イモートも私も、自由に枝からもいでは、勝手に食べていた。

そのせいか、私はいまだに、おカネを出してビワを買う気がしない。

何年か前、小学生だったムスコに、なにげなく尋ねた。

ねえ ビワって食べたことないよね?

あるよ ヤマモトさんがくれる…

へ?誰?

ヤマモトさんは、団地の管理人さん。

ご夫婦で住込の常駐管理で、暇なときには子供をかまってくれる。

親の私はひと通りのお付き合いしかないが、団地の中で遊んでいる子供にとっては、とても親しい存在だったようだ。

団地の敷地内のビワの実が熟すと、ヤマモトさんは高枝伐りハサミなどを使って収穫し、そこらで遊んでいる子供にくれるらしい。

そんなことになっているとは、とんと知らなかった。

いいニオイだよね ビワって…

母親の私の知らないところで、ビワの味をとうに知っていたムスコ。

いつまでも手のひらにのせている気でいたけれど、ムスコはもう、自分だけの人生を生きている。

これから私が会わない人に会って、私の知らないことを知っていくんだな。

そう悟ったはじまりが、ビワの実だったような気がする。

ヤマモトさんは定年退職され、ムスコも大学生となって、家を離れた。

今はもぐ人のないビワの実が、霧雨に濡れている。

びわのみ



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ごかぞく | コメント(14) | トラックバック(0) | 2017/06/20 11:30

めもする話。

某通販で買い物をすると、B6サイズの明細書がついてくる。

たまたま同時に複数注文したとき、それが何枚もあったので、なにげなくクリップでとめた。

しばらくして、また注文した商品が届いたので、明細書を前のと一緒にした。

定期的に購入する商品があるので、けっこうな勢いで紙の束は厚みを増し、ふと気づけば、その裏をメモに使うようになっていた。

日付と、その日やらねばならないことを書く。例えば

6月18日 梅干しビン 報告書 図書館返却

などと書き、用が済めば線で消す。

雑多な毎日の中で、今日もこれだけできた、と確認し、達成感を得るのは、あんがい悪くない。

先日、通院の帰りに寄ったおばーちゃんが、この明細書の束を目にして、笑いながら言った。

あーら おじーちゃんみたいなことして… 親子ねえ…

思いもよらない指摘に、ギョッとする。

そういえば亡くなった父は、株の配当の明細書の裏を、メモに使っていた。

輪ゴムで止めて、手元に置いて、チョコチョコ何か書いていた姿が、記憶にある。

紙を捨てられない人だった。亡くなった後に、持ち物を整理すると、大量の裏の白い紙が、怖いほどキチーッと整理されて見つかった。(→ ほうふな話。

あれだけはマネしないようにしよう、と思っていたのに、親子ってオソロシイ。

父はもういないけれど、私の中の何かが、たしかに父を伝えている。

今日は父の日

ならづくり
(今年の父の日のお供えは「一番搾り 奈良づくり」)



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/06/18 11:46

LINE話。

らくらくスマホがラクラクじゃない、とお怒りだったおばーちゃん。(→ でびゅー話。

それでも慣れとはえらいもので、ボチボチ使えるようになってきた。

そこで先日イモートが帰省してきたとき、ムスメとムスコ、メイちゃんの孫世代も加えて、わが家のLINEグループを作ってみた。

始めてみると、あんがいに具合がいい。

電話するほどではないけど言いたい、というとき、見ても見なくてもいいLINEは気楽だ。

おばーちゃんは庭の花を、イモートは書道の作品を、写真で見せてくれるし、私も出先で見つけたヘンテコな看板を撮ったりしている。

たまにみんなが暇だと、メッセージの交換が活発になる。

孫世代はさすがに入力が早いので、どんどん画面が進み、おばーちゃんは追いつけない

文字入力が間に合わなくて、変なタイミングで

らいんすたんぷ

などと、カワイイが意味不明なスタンプをはさんでくるのも面白い。

家にこもって仕事をしているときなど、皆どうしてるかな、と、気分転換にスマホを見る。

らいんすたんぷ はろー

とりあえず打ったスタンプに、すぐに既読1がつき

今ちょうど、洋服のサイズ直しをしていました

と、ゆっくりめの返信が来た。

私は一日じゅう仕事~

と返すと、既読がついてだいぶ経ってから

今日一日誰とも話をしませんでした

そういえば私もそうだ。宅配すら来なかったから、朝から一言もモノを言っていない。

LINEの画面を閉じ、通話に切り替える。

モシモシ… 何、どうしたの?

電話口にはちょっとビックリした声のおばーちゃん。

いや、しゃべってないもの同士、お話でもしようかと…

どちらからともなくウフフと笑って、たわいのないおしゃべりがはじまった。



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ごかぞく | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/06/13 11:30

れたすの話。

1人になると夜がヒマだ。

しばらく音沙汰がないムスメにLINEでも、と思いついたが、用事は無いので

晩ゴハン何食べた?

と送ると

豆腐とキムチとレタス

と、わりとすぐ返事が来た。

ベジタリアンか!

とすぐさま返事すると

めんどくさいから

と返ってきた。ムスメの文面はいつも、こんなふうに短くてぶっきらぼうである。

それにしても、そうか、レタス買って食べてるのか。何となくおかしくて、フフンと笑う。

れたす

私はレタスを買わない

レタスって、値段のわりに栄養価は乏しいし日持ちもしないし、洗って出すのもめんどくさいし、かといって水気をよく切らないとビシャビシャしておいしくない。

キライじゃないけど、食べなきゃいけない野菜じゃない気がするのだ。

たまに外食して、薄ーく切ったキュウリとトマトの下敷きになったレタスにお目にかかれば食べるが、やはり買って食べるほどのものではない、と再確認する。

気候の影響を受けやすいのか、何年かに一度かならずレタスが不作だとか値段が高いとかいうニュースを聞くが、食べない私は痛くもかゆくもない。

少なくともここ10年というもの、うちの食卓の上にレタスが現れたことは無いと思う。

そんな家で育ったムスメが、わざわざレタスを買って食べているとは、意外だった。

じつはレタス好きだったのかムスメ。食べさしてやらなくて、ごめんよムスメ。

ムスメが家を出て、4年が過ぎようとしている。



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ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/06/04 11:47

はってた話。

今日はおばーちゃんとお出かけ。

私鉄の急行で大きな駅に着いて、そこから徒歩で15分ほどの場所に行くのだ。

おばーちゃんが逆方向に行こうとするので

違うよ!こっちじゃん!

と声をかけると、

もう暑い… 歩くのヤだし…

タクシー乗り場に並んでしまう。

たしかにお天気はいいけれど、アーケードの下を歩けば日は当たらない。商店を冷やかしながらブラブラ歩くのは、お買い物好きの母の楽しみでもあったのに。

元気に見えても後期高齢者、これも衰えか、と、ちょっとショックだ。

近いのにすみません、と運転手さんに詫び、タクシーで目的地に向かえば、あっという間に着いてしまった。

行った先でもおばーちゃんは、暑い、暑いを連発し、ふーふータメイキをついている。

昔はこんな不平を言う人じゃなかったし、子供が暑いの寒いのと言えば

言えば涼しくなるわけじゃなし、暑い暑い言うんじゃありません!

などと叱る母だった。

おかーさんもトシとっちゃったなあ…と、口には出さねど、シミジミと寂しくなる。

ようよう用件を終え、冷たいものでも、と喫茶店に入った。

アイスコーヒーを冷コーと呼びたくなるような昭和の喫茶店で、クリームソーダを注文したあと、おばーちゃんはみょうにソワソワして、

お手洗い行ってくる…

と、席を立った。

くりーむそーだ

ソーダに浮かんだアイスの、表面のジャリジャリを味わっていると、やけにサッパリしたおばーちゃんが戻ってきて

暑いと思った…コレ…

と、なにやら四角い袋を見せる。

朝 腰が痛くてさ カイロ貼ったの忘れてた…

この陽気にカイロを貼ってれば、そりゃー暑いだろう。 

カイロをはがして冷たいソーダを飲んだおばーちゃんは、にわかに元気になり、

さあ、どこ行こうか!

伝票をつかんで、勢いよく立ち上がった。



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/06/03 11:56
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