ぽすたー話。

マンションの掲示板に、春から貼りっぱなしの防火ポスター。

背景のピンクも色あせて、風景に溶け込んでいる。

ニッコリ笑ったモデルの目がギラリと光ったので、ギョッとしてよく見ると、両目のところに画鋲が押されていた。

イタズラだろうが、場所が場所だけに、あまりいい気分じゃない。

私が子供の頃から、ポスターにイタズラをする者はいた。

清涼飲料水のビンを持ち、微笑む女優の顔に、描き込まれた鼻毛とおデコのシワ

レコード店の店頭に立つ、アイドルの等身大パネルにこすりつけられた、ガムの噛みかす。

本人の知らないところで、誰かがその人を嫌ったり、妬んだりしている。

人気者に向けられた、小さな悪意の棘

有名になるって、いいことばかりじゃないんだな、と、思ったのを覚えている。

周りを見まわしてから、目に刺さった画鋲を外し、掲示板の高いところに並べてとめた。

翌朝、ポスターは剥がされて、代わりに「資源ごみ回収のお知らせ」が貼られていた。

ぼうかぽすたー



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むかしむかし | コメント(4) | トラックバック(0) | 2017/06/17 12:14

しょうめい話。

帰り道の駅の乗り換えホームで、大学生らしい男の子とすれ違った。

見たことのある顔。名前は思い出せないが、誰だっけな…。

目に残った一瞬の印象を、10年幼くしてみたら、不意にかわいい声が頭に浮かんだ。

わーすげえ! お前んち 金持ち

ハハハ…思い出した。ムスコの3年生の時の同級生の、あの子だ。

今の家に来た時は、貧しいながらも新居の夢があった。

乏しい資金で工夫して、色彩なども考えに考え、家具もカーテンも好みに合ったものを選んだ。

困ったのは照明だ。

買おうとすると分かるが、照明器具というのは本当にお値段なりで、安いのは安っぽく、ステキなのはぜったい高い。

子供部屋や和室のぶんはどうにかこうにか見つけたが、肝心のリビングの一番大きな照明に、いいのが見つからない。

いや、そうではない。いいのはいくらでもあるのだが、私が買えないのである。

電話で愚痴っていたら、不意に母が思い出したように言いだした。

シンゴが店を閉めるでしょ… 何かあるかもしれない

シンゴおじさんは母の弟で、喫茶店が立ち退きに遭って閉店することになっていた。

さっそく連絡したところ

ああ…あるで 持って行くか?

見に行ってみると、夢みたいなアンティークのシャンデリアが、すでに取り外され、店の床に置いてあった。

豪華なシャンデリアは、こうして運送費だけでわが家にやってきたのである。

引っ越して間もなく、ムスコは友だちを家に連れてきた。オジャマシマースとリビングに入って、開口一番

わーすげえ! お前んち 金持ち

そう言った子の視線の先に、タダでもらったシャンデリアがあった。

そんなことないよ… オレの部屋行こう…

ムスコは恥ずかしそうに友だちの背中を押していたっけ。

誰もいない家に帰ってリビングの電気を点けると、なんだかホコリがかかって見える。

わーすげえ、お前んち金持ち? か…

1人つぶやいて、フフフと笑う。

週末には脚立を出して、掃除してやろう、と思った。

しゃんでりあ
(地震のときだけはちょっとしんぱい)



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むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/06/07 11:33

さんづけ話。

実家の両親はともに大阪の商家の出で、正調・大阪弁の使い手であった。

子供の頃はよく、言葉遣いを直されたものだ。

今でもよく覚えているのは

とか玉子とか、ゾンザイな言い方しなさんな!

というやつである。

豆を豆と呼んで何が悪いとお思いであろう。

母によれば、豆はお豆さん、芋はおイモさん、玉子はお玉さんと呼ぶべきなのである。

おまめさんのたいたん
(「煮豆」は「お豆さんの炊いたん」)

身近な食品にこそ尊敬の念を持て、とも言われた。

そのこと自体に異論はないが、同じ食品でもさん付けするものとしないものがあるのが不思議な点である。

日本人の食生活でもっとも重要であろうコメはお米さんとは言わない

言語習慣は時に不合理なものだ。

おそらく全国的に有名だろうが、大阪のオバチャンがバス停でくれるのはアメちゃんである。

飴は豆や芋よりもかわいらしく親しみやすいから、ちゃん付けなのかもしれない。

しかし、やはり言語の不合理か、かわいくも、親しみたくもなく、食品でさえないものに、ちゃん付けをしていた例を思い出した。

曰く、うんこちゃん (※ここ小さな声)



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むかしむかし | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/05/26 12:26

りんすの話。

私は早風呂で、ちゃんと身体も髪も洗って、浴槽にゆっくり浸かったつもりでも、出るまで15分もかからない。

ムスメなど、入ったと思ったらいつまでたっても出てこないので、途中で声をかけてしまう。

あんなに長いこと、中で何をしているのか、である。

ゴシゴシ髪を洗い、ジャーと流しながら考えてみると、私もムスメの年頃には、ゆっくりお風呂に入っていた気がする。

いったい何をしていたのか、思い当たるのはリンスだ。

初めてわが家にリンスという文化が持ち込まれた時は感激した。

むかし、洗髪後の髪は、脂分が無くガシガシしていた。ところが、リンスをした髪は違う。

サラサラといい香りまでして、お姫様になったような気持になったものだ。

今はポンプでピュッと手のひらに出し、髪につけて流すだけだが、昔のリンスは違った。

まず、キャップで1回分を慎重に量る。

これを洗面器のお湯に溶かして髪にかけるのだが、1度で流してしまうのではない。かけたお湯はもう1つの洗面器で受け、再び頭にかけるのだ。

そうやって交互に2つの洗面器を使って、リンスを髪全体にゆきわたらせる。

あれはじつに優雅にして悠長な作業であった。

いつのまにか、あんなふうに薄めるリンスは姿を消し、ジカにつけるコンディショナーというものが登場する。

ガシガシ洗って、ピュッとつけて、流してオシマイの時代が来たのだ。

リンスの香りのするお湯を、行きつ戻りつさせていた、あの時間は、今思い出してもなかなかいいものだった。

キャップで量るリンスが買えるものならば、またやってみてもいい、と思う。

かおーふぇざーしゃんぷーあんどりんす
(いくら人気者でもシャンプーの広告にこの髪型はない)



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むかしむかし | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/05/20 11:30

つばめの話。

巣作りのツバメが、晴天の軒先で騒いでいる。

完成間近な巣の口にとまって中を検分し、ぢいぢいと注文をつけているのは雌鳥だろうか。

その周りを、妻のご機嫌を取るように右往左往するのが、雄かもしれない。

ツバメの思い出は懐かしい。

あれは社会科見学の帰りか何かだったろうか。3年生の私は、学校までの道を歩いていた。

曇りはじめた空を気にした引率の先生が、少し急ぐように促した。

小さな町の商店街の道幅いっぱい、機織りの杼のようにせわしなく、ツバメが行き交う。巣作りも終わり、盛んに餌を集める時期だったのだろう。

ヒザのあたりを低くかすめていったツバメを指して、先生がおっしゃった。

ツバメが低く飛ぶとね お天気が悪くなるというよ

黄色い帽子の一同がポカンとしていると、先生は続けて

雨が近づいて空気が湿ると 虫は羽が重くて高く飛べないんですね

カンのいい数人がうなずく。

ツバメは虫を捕るでしょう だから…

なるほど!と、こんどは私にもわかった。

ツバメは餌を探す。虫は湿気で地面近く飛ぶ。だからそれを追うツバメも低く飛ぶ。

そこに原因から結果に続く、とても美しい考えの道筋が見えた。

雲間からさす陽が、すっと一筋光る道に見えるような、そんな気持ちだった。

あの一事を教わっただけで、小学校に6年通った値打ちはあった。

ツバメの巣がある家に住む人は、皆いい人に見える。今年ももうすぐ、夏がやってくる。

つばめさん



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むかしむかし | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/05/12 11:30
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