さくらの話。

子供の歓声にふりかえると、幼稚園の柵のむこうに、八重桜が咲いていた。

やえざくら

ぽってり重い花の房が、緑のリボンでひとつひとつ、枝の先に結び付けたように咲いている。

なんてかわいいんだろう。

思わず胸をつかれて、立ち止まる。

若い頃は、パッと咲いてパッと散る、染井吉野の潔さのほうが、美しく、好ましく見えて、八重桜なんて、と思っていたが、今は違う。

染井吉野が自分の都合でぶわーっと咲いて、あとは知らん、とばかりに葉桜になってから、

遅くなりまして…

と、丸いかわいい顔を出す、かわいらしさ、いじらしさが、なんともいえない。

八重桜を軽視していた昔をふりかえって、申し訳なく、ゴメンネとお詫びしたい。

話は変わるが、私の好物の一つに玉子サンドがある。

まだファーストフードが普及しない子供の頃、母に連れられて外出して昼ごはん、という時、よく喫茶店でサンドウィッチを食べた。

今のように様々な選択肢がある時代ではない。ハムキューリと玉子のミックスサンド一択、というお店が多かった。

喫茶店の玉子サンドには2種類ある。

茹で玉子をマヨネーズで和えてはさんだのと、玉子焼きをはさんだの、である。

私はマヨネーズのほうが断然好みで、玉子焼きのがテーブルに来ると

今日はハズレ

などと思っていた。

ところが先日、お付き合いで久しぶりに喫茶店の玉子サンドを食べたら、これが美味しかった。

フワフワのあったかい玉子焼きが、パンに塗ったバターを溶かしながらほぐれる。ケチャップの甘さも好ましい。

長年ハズレとか思っていてホントにすみません、と、詫びたい気持ちだ。

しかし八重桜も玉子サンドも、どこに向かって謝ればいいのか、わからないのである。



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むかしむかし | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/04/22 11:26

はこんだ話。

街路樹も山も、緑に萌える季節となった。

歩道の植え込みの陰、足元のモシャモシャした茂みが懐かしくて、ふと足を止めた。

その昔、ムスメが幼稚園に上がったばかりの、春の日のこと。

手をつないで通う通園路にもまだ慣れなくて、物珍しくアッチコッチを見ながら歩く。

住宅地の道をノンビリ歩いていたら、道の真ん中に緑のカタマリがある。

何だろう?と近づくと、それは引っこ抜いた雑草の束だった。

枯らしてから捨てるにしても、道に投げるとは感心しないなあ、と、草のカタマリを道脇によけ、園に向かった。

ボーッとしているムスメを預けた帰り道、誰が取り捨てたのか、もう草は無くなっていた。

数日後。

少しは園にも慣れたムスメの手を引いて歩いていたら、道に面した住宅の門が開き、60代くらいの奥様が出てこられるところだった。

奥様は持ってきたものを道に投げかけたが、私とムスメに気付いて手を止め

ハイこれ

と、当たり前のようにそれを手渡してきた。

引き抜いたばかりの雑草の束。この前、道に投げてあったのと同じものだ。

?????

戸惑っている私の様子に気付いた奥様は、あっ、という顔をしてから、ほがらかに笑い、

これね… ハコベ… コッコちゃんとウサちゃんの…

はこべ

聞けばこの奥様は、庭の草取りでハコベをとると、幼稚園のニワトリやウサギのためにそれを取り除けておいてくださるのだという。

お宅が通園路に面しているため、道にポイと投げ出しておくと、誰かが拾って園まで持って行く、そういう習慣になっていたらしい。

それから何度、ハコベを拾って登園しただろうか。

みずみずしくやわらかい春先のハコベは、ニワトリもウサギも大好物だった。

ハコベを運んだ、春の思い出である。(今回ダジャレ)



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むかしむかし | コメント(11) | トラックバック(0) | 2017/04/20 11:26

たまごの話。

イースターに、イギリスでは子供が玉子の形のチョコをもらう。

日本から来たばかりのムスメでも、なんだかんだで3個はいただいたし、幼稚園の友だちなどは、10個もらうという話もザラだった。

玉子の形といっても鶏卵大ではない。

ダチョウか、エミューか…仔犬くらい軽く入れる大きさの、デカい玉子である。

芯までチョコレートでは歯が立たないから、中はもちろん空洞だが、なにせデカいので、食べきるのに苦労する。

チョコの玉子といえば、こういうものもあった。

ちょこえっぐ

中に小さなオモチャが入った玩具菓子で、日本でも季節関係なく売られている。

このオモチャ、いわゆる食玩を、夢中で集めたことがあった。

子供の頃ではなく、立派な大人、しかも母親になってからである。

キッカケは、外食の帰り、フラフラと入ったコンビニで、せがまれるままに買った1個。

チョコの中のカプセルを開けると、驚くほど精巧にできたフィギュアが出てくる。子供も喜んだが、もっと惹きつけられたのは私だった。

こんな小さな玉子の中に、毛並みまで再現した動物が入っているという感激。

シリーズに10個あると聞けば10個全部欲しくて、買い集めた。

指の先ほどのオモチャの動物を、かわるがわる掌にのせ、あっち向けこっち向けして眺めていると心が和むが、もっと嬉しいのはレアなキャラクターが出たときである。

通常品とはカラーリングが違うものや、隠しキャラが飛び出してくると、震えるほど嬉しかった。

あまりモノを集めない私が、あの時なぜあれほど熱中したのか、今となってはわからない。

思えば、離婚前提の別居で、元亭主が家を出て行った頃のことだった。

集めたフィギュアは段ボール1つ。あれもそろそろ処分どきかもな、と思いつつ、時おり押入れの天袋に目をやったりする。



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むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/04/16 11:46

すーつの話。

この春就職したムスメの会社では、服装は必ずしもスーツでなくてもよいらしい。

私が新卒で就職した会社は、いわゆる堅い業界であった。

男性は全員ワイシャツにスーツ、それもダークブルーの無地。縞ものや茶色は歓迎されない。

制服じゃないけど、制服みたい。みんな同じように見える。

新入社員の私は、研修を終えて配属になった部署で、同期と一緒に並ばされた。

これから君たちと仕事することになった サカクラだ 

直属の上司は、胸を張って堂々と言った。

40代くらいか、体格も態度も立派なのに、なぜだろう、なんだか貧相である。

大学を出たばかりの若造が、不遜なことだと思われるだろうが、どうも尊敬の念が湧かない。

しばらく理由が分からなかったが、やがてサカクラ氏の背広が、他の社員に比べ、格段に安物なのに気づいた。

その昔、祖父が輸入業をやっていた加減で、私の身の回りの男、父や叔父は全員、商売ものの輸入生地を仕立てた背広を着ていた。

化繊をミシンで縫ったような背広を、私はその時はじめて見たのである。

サカクラさんは部下に優しく、責任感の強い、いい人だった。しかし、もちろん背広のせいだけではなかっただろうが、職場の中でどことなく軽んじられていた気がする。

一緒に営業に出た時など、上着を脱ぐとずっとステキに見えて、本当に惜しいなあ、と思ったことは忘れられない。

今では「吊るし」なんて言葉も死語となり、既製服もきちんと身に合うようだ。

サカクラさんも今なら、もっと高く評価されているかもしれない。

つるし



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むかしむかし | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/04/10 12:39

たりらり話。

その頃、私には怖い場所があった。

軒下にプランター代わりのスチロールの魚箱が並ぶ、ありふれた下町の通り。

他の季節には通り過ぎてしまう道が、春先の今ごろだけ恐怖の巷と化す原因は、だった。

ヒガンバナから儚さを引いて、バタ臭さを足したような花が、その通りに並ぶのだ。

太い茎に突き出した真っ赤な花は、険しい顔で首を伸ばし、こちらを見ている気がした。

おまけに通りの住人は、みんな園芸好きで仲良しらしく、花は株分けされて、年々増えていく。

軒先を伝って花がジワジワ広がっていくのは、宇宙人の侵略みたいだった。

その花が咲きだすと、なるたけそこを避け、どうしても通らねばならぬ時は、全力で走り抜ける。

心楽しい新学期に、このことだけが憂鬱だった。

学校でリコーダーを習い始めたのはその頃だったと思う。

♪ ソ ラ ソ ド ソ ラ ソ~ ラ ラ ソ ラ ソファ ミレ ミ~ド~ ♪

思った通りの音が出ると、優しいメロディーがたのしい。

教科書の楽譜には、歌詞もついている。

♪ ら り ら り ら り ら~ し ら べ は アマリリス~ ♪

アマリリスって、かわいい名前だけど、何だろう?図書室で図鑑を調べると

あまりりす

それはあの、怖い花だった。

私ももう大人だから、花を見て怖気づいたりはしない。

でも、この迫力十分の赤い花には、アマリリスなんてかわいい名前も、らりらりら~と優しい歌も、全然似つかわしくないと、今でもそう思っている。



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むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/04/08 11:40
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