りんすの話。

私は早風呂で、ちゃんと身体も髪も洗って、浴槽にゆっくり浸かったつもりでも、出るまで15分もかからない。

ムスメなど、入ったと思ったらいつまでたっても出てこないので、途中で声をかけてしまう。

あんなに長いこと、中で何をしているのか、である。

ゴシゴシ髪を洗い、ジャーと流しながら考えてみると、私もムスメの年頃には、ゆっくりお風呂に入っていた気がする。

いったい何をしていたのか、思い当たるのはリンスだ。

初めてわが家にリンスという文化が持ち込まれた時は感激した。

むかし、洗髪後の髪は、脂分が無くガシガシしていた。ところが、リンスをした髪は違う。

サラサラといい香りまでして、お姫様になったような気持になったものだ。

今はポンプでピュッと手のひらに出し、髪につけて流すだけだが、昔のリンスは違った。

まず、キャップで1回分を慎重に量る。

これを洗面器のお湯に溶かして髪にかけるのだが、1度で流してしまうのではない。かけたお湯はもう1つの洗面器で受け、再び頭にかけるのだ。

そうやって交互に2つの洗面器を使って、リンスを髪全体にゆきわたらせる。

あれはじつに優雅にして悠長な作業であった。

いつのまにか、あんなふうに薄めるリンスは姿を消し、ジカにつけるコンディショナーというものが登場する。

ガシガシ洗って、ピュッとつけて、流してオシマイの時代が来たのだ。

リンスの香りのするお湯を、行きつ戻りつさせていた、あの時間は、今思い出してもなかなかいいものだった。

キャップで量るリンスが買えるものならば、またやってみてもいい、と思う。

かおーふぇざーしゃんぷーあんどりんす
(いくら人気者でもシャンプーの広告にこの髪型はない)



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ



スポンサーサイト
むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/05/20 11:30

つばめの話。

巣作りのツバメが、晴天の軒先で騒いでいる。

完成間近な巣の口にとまって中を検分し、ぢいぢいと注文をつけているのは雌鳥だろうか。

その周りを、妻のご機嫌を取るように右往左往するのが、雄かもしれない。

ツバメの思い出は懐かしい。

あれは社会科見学の帰りか何かだったろうか。3年生の私は、学校までの道を歩いていた。

曇りはじめた空を気にした引率の先生が、少し急ぐように促した。

小さな町の商店街の道幅いっぱい、機織りの杼のようにせわしなく、ツバメが行き交う。巣作りも終わり、盛んに餌を集める時期だったのだろう。

ヒザのあたりを低くかすめていったツバメを指して、先生がおっしゃった。

ツバメが低く飛ぶとね お天気が悪くなるというよ

黄色い帽子の一同がポカンとしていると、先生は続けて

雨が近づいて空気が湿ると 虫は羽が重くて高く飛べないんですね

カンのいい数人がうなずく。

ツバメは虫を捕るでしょう だから…

なるほど!と、こんどは私にもわかった。

ツバメは餌を探す。虫は湿気で地面近く飛ぶ。だからそれを追うツバメも低く飛ぶ。

そこに原因から結果に続く、とても美しい考えの道筋が見えた。

雲間からさす陽が、すっと一筋光る道に見えるような、そんな気持ちだった。

あの一事を教わっただけで、小学校に6年通った値打ちはあった。

ツバメの巣がある家に住む人は、皆いい人に見える。今年ももうすぐ、夏がやってくる。

つばめさん



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ



むかしむかし | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/05/12 11:30

びーたー話。

朝のワイドショーの、クイズコーナーで、アナウンサーが大仰に持ち出したのはコレ。

ばったーびーたー

さて、この家庭用品の正式名称は 何でしょう?

主婦タレントが本気かワザとか、わからないと騒ぐのを横目に、ヘンと鼻で笑う私。

あれはバタービーターというのだ。

私とイモートは30年以上前から知っている。

イモートと私は同じ高校の出身で、共通の先生も何人もいたが、中でも家庭科は、われわれ姉妹の鬼門であった。

ミエコ先生は細身で上品な上流婦人風だが、中身はひねくれてイヤミな中年女性。

彼女が私とイモートが姉妹と知ると、楽しかるべき調理実習が最悪の時間になった。

あら~ 危なっかしい手つき お姉さんにソックリ!

お母さんお教えにならないのかしら?妹さんも心配ね…


あくまで笑顔で上品な口調で、ねちねちアラ探しが続く。

またミエコにやられちゃったよ~

アタシは来週だよ~ ヤダなあ…

ふだんケンカばかりしているイモートと私が、ことミエコ先生に関しては戦友であった。

その日はイモートのクラスの調理実習。メニューは出し巻き

じゃんけんでイモートが焼き係となり、コンロの前に陣取った。

流し込んだ玉子を、まさにひっくり返そうとしているところに、嬉々としてミエコがやってきて、皆に聞かせるよう、おおげさに叫んだ。

ダーメよ~! バッタービーターを使いなさい って、言ったでしょ~?

失敗を待ち構えるミエコを前に、イモートは菜箸2本でひょいっと玉子を返して見せた。

ニヤニヤしていた先生の顔が、凍り付く。

玉子焼きは数少ないイモートの得意料理で、家でもふだんからやっていたのだ。

もう胸がスッとしたわ!

やったねェ、エライ!

ばった~び~た~をつかいナサイって いったデショ~?…だってさ!

イモートの口真似は本当にソックリで、私も聞くだけで胸がスッとした。

以来30有余年、わが家では、台所でちょっとした失敗をするたび

ばった~び~た~をつかいナサイって いったデショ~?

と言っては、大笑いしてきた。

イヤミで大ッキライだったミエコ先生も、今となってはなんだか親しい人に思える。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ




むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/05/10 11:30

おどりこ話。

その朝、私は最高に憂鬱だった。

連休明けの登校。おまけに今日は大キライな物理と体育がある。

熱でも出ればいいのに、健康そのもののわが身が恨めしい。

いつものように電車に乗って、いつもの道を歩いたら、いつものように学校についてしまった。

視線を感じて、つま先を見ていた目を上げたら、ミドリちゃんが灰色の校門にもたれていた。

ねえ、タカラヅカ見に行かない?

はあ?

すっとんきょうな申し出に、状況が飲み込めないでいると、ミドリちゃんは

今日これからタカラヅカ見に行こうよ アサミレイだよ

と、かさねて言った。

彼女がヅカファンなのは以前から知っていたが、誘われたのは初めてだ。

正直、タカラヅカに興味はなかった。その頃はタカラヅカの舞台中継がテレビでも見られたが、チャンネルを合わせたこともない。

でも、学校をサボってどこかよそへ行く、と思ったとき、なぜだか急にコレだ!という気がして、ついていくことにした。

登校する学生の流れを遡って歩く。同級生が私たちを認めて、アレ?と、物問いたげな表情で見たが、誰にもとがめられず駅に着いた。

ふだん乗らない路線の電車を乗り継いで、宝塚へ。

タカラヅカの駅は、降りた時からキラキラヒラヒラとして、レビューの雰囲気満点である。

キップとかはどうしたのだろう?ミドリちゃんが持っていたのか、それとも30年以上前のこと、当日券があったのだろうか。覚えていない。

ミラーボールが回り、オーケストラは鳴り続ける。ライトの中、羽とフリルに包まれたスターが、現れては消える。

大学受験とか、選択科目とか、傾斜配点とか、そんなものから一番遠い、美しい人たち。

朝の憂鬱な気分は、いつの間にかすっかり消えていた。

その後私がヅカファンになったか、というと、そんなことは無い。あの日の演目も、覚えていない。濃厚なラブシーンの記憶があるから、「ジャワの踊り子」だろうか?

1日で治ってしまった、私の5月病の思い出である。

じゃわのおどりこ
(雪組公演 宝塚大劇場 麻美れい 遥くらら)



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ




むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/05/09 11:30

りかちゃん話。

その頃女の子は、当たり前のようにリカちゃんを持っていた。

集まって遊ぶときには、めいめい自分のリカちゃんを持ち寄る。

まみちゃんのリカちゃん、ゆきこちゃんのリカちゃん、かずえちゃんのリカちゃんが一堂に会しても、特に混乱をきたした記憶はない。不思議にオリジナルの名前をつけることもなかった。

何人いてもリカちゃんはリカちゃんなのだ。

私ももちろん、リカちゃんを持っていた。

しかし、声色を使って人形を動かしたり、衣装を着せ替えるのはそんなに好きではない。

ただ、付属する小物が好きなのである。なかでも一番好きなのはクツ

りかちゃんのくつ

私のリカちゃんは真っ赤なハイヒールを履いていた。

つやつやしたビニールのクツをリカちゃんの足から外し、3センチもないそれを手のひらにのせて、じーっと眺めたものだ。

もっといろんなクツが欲しかったが、洋服は作ってくれる母も、クツを買い足すのは渋った。

コチャコチャ小さいものが増えると失くすから、というのである。

その、コチャコチャ小さいのがいいのだが、子供なのでうまく説明できない。

クツが欲しい、ダメ、と押し問答するうちに、私も高学年になる。

大人になってオモチャやゲームを買っても恥ずかしくない今と違って、昔は年相応ということにうるさかった。

もう大きいんだから、と言われ、いつしか私もリカちゃんを忘れた。

今年はリカちゃん発売50周年。時々、あの赤いクツを、思い出す。

(→ Licca Kayama 50th Anniversary official site)

りかちゃんきゃっする
(「5月3日はリカの誕生日!リニューアルしたリカちゃんキャッスルに行ったよ!」)



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ



むかしむかし | コメント(12) | トラックバック(0) | 2017/05/04 11:44
 | HOME | Next »