とのさま話。

昔の同僚との飲み会があった。

会社員時代のなじみで、バブル崩壊を乗り越えてガード下にしぶとく生き残った、カウンターだけのキッタナイ店だ。

ここは今時珍しいことに生がなくて、ビールは瓶ビール。

おしゃく

1杯目を隣のクリタ君についでもらっていたら、その向こうの席のヤマシゲ君が言った。

出た!トノサマOL!

懐かしい呼び名だ、「トノサマ」。

会社の宴会に出ると、お銚子を持って上司の席を回ることもせず、座布団の上にニコニコして座って、つがれるままに飲んでいたことから、ついたあだ名だ。

お姫様」ではなくて「殿様」であるところが、まあ反省すべき点ではあったのだろうが、幸い皆に面白がって見逃していただいた。

大箱の居酒屋なんかで、よその会社の宴会を見かけることがあるが、皆がてんでにジョッキの生ビールやチューハイを飲んでいて、若手がビール瓶を持ってウロウロお酌に回る姿は、今はあまり見ない気がする。

飲みかけのコップに継ぎ足しされるのを嫌がる、うるさ型の飲み手も多いようだ。

今なら、昔の私のようなOLも、「殿様」なんて言われることはないんだろうな~。

昔話に花が咲き、楽しく飲んで表に出たら、ガードの脇のシケた公園に、ふわっと大きな、白いかたまりが見えた。

桜の木が、ライトアップされることもなく、八分咲きに咲いている。

だなあ。



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むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2015/03/31 10:44

くりーむ話。

私は化粧がキライで、普段はほぼ洗ったっきりのスッピンである。

50にもなって周りに迷惑でしょう!ちゃんとしなさい!

と、おばーちゃんにもいつも叱られる。後期高齢者のおばーちゃんの化粧品代は、私の10倍以上だろう。

確かに顔はほったらかしの荒れ野原だが、ある個所だけは毎日シツヨーに手入れしている。

それは

顔なんて、朝、鏡を見れば夜まで見ないけど、手は一日じゅう、自分の目の前にある。

手が汚かったりカサカサだったりすると、ガッカリしちゃうのだ。大げさだけど、自尊心が損なわれる気がする。

水仕事のあとや、寒くて血行が悪いときなど、ハンドクリームをつけて指や手の甲のマッサージをするのが、私の唯一の美容行為である。

きれいなて
(まあこんなにキレイではないけど)  

今日もつけようとしたが、ハンドクリームが残り少なくてなかなか出てこない。

少なくなったマヨネーズを出す時のように、チューブを振り回してからフタを開けたら、

むにゅるっ

とんでもない量が飛び出した。プリンカップに余分を移した(ビンボくさい…)が、てのひらにも相当残ってしまう。

仕方なく、普段より多めのクリームを、念入りに両手にすりこんでから、家事を終えて、外に用足しに出た。

郵便局のカウンターで、記念切手の掲示を見ていたら、窓口のお姉さんが隣の人に言っている。

ねえ何か、おいしそうな匂いしない?ココナツみたいな、ハワイっぽい、甘ーい匂い…

お姉さん、ご名答!

ハワイで買ったハンドクリーム、いい匂いでしょう。

それにしてもちょっと、つけ過ぎだったなー。



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ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2015/03/30 09:36

すみれの話。

コンクリートの継ぎ目にスミレの花が咲きだした。

ここは毎年見かけるところで、5メートルほどの間に点々といくつものスミレの株がある。

こんくりすみれ

誰が植えたものでもなく、雑草の類だろうが、ついしゃがんでみたくなるくらいかわいらしい。

実は私は数年前から、地味な努力をしている。

花が枯れてタネのできる頃を見計らって出かけ、はじけそうになった小さな小さなタネを収穫。

こぼさないよう注意して持ち帰り、うちの周りに撒くのだ。

こんな可愛い花が、何の世話をすることもなく、毎年見られるようになったらステキだなあと考えてのことだ。

しかし、今のところ、その努力は実る気配はない。

数年間で数百つぶの種をまき散らしたにもかかわらず、可憐なスミレは影もないのだ。

いくら私が園芸音痴だといっても、歩留まりが悪すぎるのではないか。

もうよそうかな、と思いながら、今日も歩いていたら、小さな紫のかたまりが目にとまった。

スミレだ。

この場所は、例のスミレの群落からはかなり離れたところで、我が家との中間地点にあたる。

以前はここら辺りにはなかったはずだ。

もしかしたら、せっせとタネを運んでいた私が、途中でこぼしたタネから生えたのかもしれない。

撒いたところには一向に生えずに、こんなところに勝手に生えちゃって、と、一瞬ムッとしたが、ここが新しい群落になるんなら、それはそれでいいかな、と思いなおした。

何しろ、うちからの距離は半分になるわけだし。



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ごきんじょ | コメント(18) | トラックバック(0) | 2015/03/29 10:11

おばさん話。

学生時代の友達のヨッチャンが、仕事で近くまで来るというので、会うことにした。

ほどほどの店に決めて席に落ち着くと、小さい紙袋に入った地元の銘菓を

出がけに駅で買ったんだけど…

と、私にくれる。気を使わせない程度の少量であるのがニクい、いつものヨッチャンの気配りである。

食事中も、粉チーズを手渡してくれたり、スカーフが垂れてきてるのを注意してくれたり、相変わらずまめまめしい。私はヨッチャンと行動しているといつも、お母さんと一緒にいるような安心感に包まれる。

いい年のオバサンにはこういう人は珍しくないが、ヨッチャンは、まだみんなぼんやりコドモ気分でいる学生時代から、ずっと気配りの人だった。

グループ行動していても、一人一人に目配りできるヨッチャンは頼りにされていた。私も、人知れず困っているところをヨッチャンに助けられた経験がある。

他の子の家庭の事情などもよく知っていて、さりげなく配慮していた。

そんなヨッチャンに、こっそりあだ名をつけた者がいる。

男オバサン

そう、ヨッチャンことヨシムラ君は男性なのであった。

優しい男の子はモテそうなものだが、そういう面では報われることが少なかった。みんなヨッチャンに助けられながら、ご面相のいい別の男に心を奪われてしまう。

当時の私を含め、若い女なんて残酷なものだ。

女が男を優しいと感じるレベルを通り越して、まめまめしすぎ、気がつきすぎたヨッチャンは、親切すぎるゆえに軽んじられていたように思う。

そんなヨッチャンだが、誠実な人柄が評価されて誰にも尊敬される職業に就き、奥さんとの間に2人の子供をもうけて幸せな家庭を築いている。

食事を終えて店を出ると、春の突風が吹いてきた。ヨッチャンは

晴れてるけど風、冷たいよ。上着着たほうがいいんじゃない

と、優しく言ってくれた。

そうしゅんふ




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もろもろ | コメント(14) | トラックバック(0) | 2015/03/28 07:45

しかめる話。

いつもの電車の窓の外に、いつも通りデカい建物が見えてきた。

実はこの路線、平城宮跡という歴史遺産の上を、ぶった切るように走る、とんでもないヤツなのだ。

へいじょうきゅうせき

 平城宮跡

せっかく辺り一帯を史跡として保存してるんだから、電車もそこを避けて走らせりゃいいのにといつも思うが、この電鉄会社にはそういう考えは無いらしい。

だから、ある場所にさしかかると、両側の窓に、再建された大極殿と朱雀門が見え、間をつなぐ大路には踏切がある。

これは天下の奇観だと私は思うが、慣れっこになった地元民は、もう目をやることもない。

しかし観光客は別である。

今日は春休みらしい学生のグループが、急行のロングシートの一角を占めていた。

わ~、すげえ!あれ見て!平安京だ、平安京!

鳴くよウグイス 平安京!

おめーら!奈良と京都の区別もつかねえで、何しに来た!と、苦々しい表情になりかけたとき、学生たちの隣に座った、私と同じくらいのオバサンの顔が、目に入った。

人間というものは、こんなにも顔をしかめることができるのだ、と感心したくなるほど、すごいシカメ面をしている。

私は思わず自分の顔をしかめるのを忘れた。

オバサンの渋面に気付かぬまま、彼らの歴史談義は尻切れトンボに終わり、海外ホームステイの話題に移った。

やっぱネイティブ、ネイティブと話さないと…

10日間英語漬け生活…みたいな…

てめーらなんぞ、10日ぽっち漬け込んだところで何も進歩しねーよ!英語以前に中学の教科書読んどけ!と、思わずこぶしを握る。

とっさに件のオバサンに目をやると、こちらもえらいことになっていた。顔をしかめすぎて、身体までよじれている。

休暇の学生と、よじれたオバサンと、握りこぶしのオバサンを乗せた急行は、まもなく終点。

言葉を交わすこともなく散り散りになって、それぞれの1日が始まる。



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ごきんじょ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2015/03/27 09:27

かじです話。

今日はマンションの消防設備点検の日。

朝から業者さんが回ってきて、各部屋の天井にあるセンサー部分に長い棒で何かをあてがうと、警報音が鳴る。

ホウチキ

火事です 火事です 火災が発生しました 火事です 火事です 火災が発生しました 

うちの火災報知器はサイレンじゃなく、男性の声。この声がまあ、いい声なのだ。

いざ本当に火事となったら、それは大変なパニックだろう。

冷たい電子音声ではショックが大きい。かといって、ふざけた調子では信用できない。

貴女の大事な家が燃えています
決して貴女が悪いのではなく、避けられない運命の仕業なのです
大切なものもあるでしょうが、どうか一刻も早く逃げてください
命さえあれば、いくらでもやり直せるのですから


短い間にも、そう語りかけてくるような、頼もしく誠実な声。

いつまでも聞いていたい気もするが、この人の声が聞こえたときは我が家のピンチなのだから、嬉しがっていてはだめなのだ。

火事です 火事です 火災が発生し 

業者さんは普通の顔で警報音を切って、

異状ありません。点検表にハンコお願いします

と言って去って行った。

次の点検の時まで、あの声は聞けない。残念だが、それでいいのだと思う。



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ごきんじょ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2015/03/26 11:07

ばかぼん話。

時々通る歩道に面した家の庭に犬がいた。

最近は家の中で飼う人が増えたから、外飼いの犬って珍しい。

見たところありふれた中型犬だが、この犬の変わっているところは、そのフレンドリーさである。

とにかく、通行人が大好きらしい。

いつも柵越しに、誰か来ないかな~という期待に満ちた目で、歩道を見張っていて、人が通りかかると、伴走するように柵の内側をついてくる。

犬にかまわずその人が行ってしまうと、つまらなそうに小屋の横の定位置に戻る。

また誰か来ると、いそいそと伴走だ。

左右から同時に人が来ると、両方を見ながら、ジグザグに行ったり来たりしている。

たまに犬好きらしい人がかまってやると、ハアハアいって尻尾を振り回し、ちびりそうなくらい喜んで喜んで、しまいにはお腹を出してひっくり返ってしまう。

知らない人が大好きじゃあ、番犬の用をなさないだろう。ドロボーが入っても歓迎しそうだ。

人でも犬でもそうだけど、あんまり人懐っこいとバカに見える。口には出さねど、私は密かに、彼をバカボンと呼んでいた。

ばかぼん
(犬だけどこんな感じ)

バカボン、最近見ないな…

気づいたのは先月の末頃だったろうか。

散歩か何かだろうと、気にもとめなかったが、通りかかったら、バカボンの家の柵に貼り紙がしてあった。

我が家の愛犬アレックスが寿命を終えました(享年11歳)
生前はご通行の皆様にかわいがっていただきありがとうございました


なんだ、バカボン、死んじゃったのか。

私は特に犬好きじゃないし、かまってやったこともなかったが、見慣れたものがいないのは、ちょっぴり寂しい。

それにしてもバカボン、アレックスって名前だったのか。全然イメージ違うけど。

バカボン改めアレックスの小屋はそのまま、中にはよごれた毛布が、きちんと畳んで入れてあった。

あれっくす
(アレックスっつーとこんな感じ)



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ごきんじょ | コメント(14) | トラックバック(0) | 2015/03/25 08:18

ねぐせの話。

朝起きたら、髪がしっちゃかめっちゃかの大変なことになっていた。

ねぐせ

お風呂上がりにビールを飲んでイイ気分になり、生乾きで寝たからだ。

私の髪はいわゆる剛毛で、黒くて太くて多いので、ネグセがつくとなかなかとれない。

スプレーやらドライヤーやら蒸しタオルやら持ち出して、しばし四苦八苦。

…だったのよ~。やっぱり乾かしてから寝なきゃだめだね~

などと話していると、なぜかちょっと苦々しい表情でおばーちゃんは言った。

そんなの、若い証拠!私くらいの年になったら、ネグセもつきゃしない 

若いころに比べると髪が痩せて細くなってるらしい。

たまにハネてても、しばらくしたらヘニャヘニャのペチャンコだもん

ええ~、いいじゃん、そのほうがラクで。あたしも早くそうならないかな~

バカだね、髪につかなくなったら、顔につくんだよ!

えっ?!顔にネグセ?

枕カバーのヨレとか、シーツのしわとか、写真みたいにつくわよ。ついたらとれないし…

恐ろしいことを聞いてしまった。

顔のネグセはどうやって直すのだろう。ドライヤーじゃないし…。おばーちゃんがどうしてるのか聞いたら、

その日は外に出ない

と、全然参考にならなかった。



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ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2015/03/24 09:59

ばいとの話。

パソコンに向かっていて、大昔のアルバイトを思い出した。

そこは小さな工場で、まん中にベルトコンベアがある。ベルトの上にはキーボードのキーが、組み立て前のバラの状態で乗っていて、どんどん回ってくる。

きー

私たち数人のバイトは、ベルトの前に、アルコールで湿したガーゼを持って座り、回ってくるキーをテキトーにつかまえては、ガーゼで表面を拭く。

ガーゼでこすってみて、印刷されたアルファベットや記号が、にじんだり取れたりしたら、そのキーは不良品として取り除け、足元のダンボールにぽいと入れる。

屋内で座ったままできるので、楽なバイトだったが、私はいまだにこの仕事の意味が分からないのだ。

不良品の選別のようだが、全部チェックするわけじゃなく、たまたまバイトが手に取る何十個かに1個だけである。ほとんどは、ただベルトに乗って流れていってしまう。

それに、わざわざガーゼでこすってボツにしたりせず、そのまま乾燥させれば、字が消えることもなく、ちゃんと使えるキーになるのじゃないだろうか。

さらに不可解なのは、工場全体に漂うやってもやんなくてもどっちでもいいよ~的な、けだるい雰囲気だ。

考えるほどに意味不明なバイトなのである。

意味不明といえば、別のバイトに行った時。

中華惣菜の試食販売で、チャイナドレス着用、と条件にあったのだが、担当のにーちゃんは、私を上から下までジロジロ見た挙句、

あんまり意味ないか~。いいよ、着なくて

と言いやがった。

確かに当時の私は起伏に乏しい体型をしていたが、意味ないとは何だ!意味ないとは! 




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むかしむかし | コメント(6) | トラックバック(0) | 2015/03/23 07:57

トノヤマ本。

子供のころから本が好きで、ずうっと読んでいたかった。

今みたいに子供向けの本がたくさん安く出回っている時代でもなかったから、字の書いてあるものは何でも読んだ。

漢字だらけの大人の本でも、読みたい一心で拾い読みしたものだ。

トノヤマ

三文役者の無責任放言録 (1966年) (三一新書)

これは父の本棚から勝手に取ってきて読んだ、大人の本だ。

筆者は新藤兼人監督作品や、「愛のコリーダ」などにも出演した個性的な俳優。

当時、私は田舎の女子小学生。トノヤマ氏言うところのジャリメスである。

自称三文役者のオジサンが、仕事を頑張ったりしくじったり、大酒飲んで糖尿になったり、女の人に好かれたり嫌われたりおシリを触ったり、大日本帝国バカヤロウと叫んだり、そんな随筆の何が面白かったんだろう。

いま読み返してみても、中身が分かって読んでいたとは思えない。

一見して乱暴な文章も、決して子供向きじゃあない。

でも私は、この本を何度も何度も読んだ。母に見つかって、子供が変なもの読むんじゃないと叱られてからは、隠れて読んだ。

書いてあることはわからないけれど、ここには大人の世界があり、とてつもなく豊かな何かがある、ということだけは分かったのだろう。

ジャリメスも案外バカじゃないのだ。

著者は没後既に25年、本書はもちろん絶版。のちに角川から文庫化されたが、こちらも絶版になっている。



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ブックガイド | コメント(10) | トラックバック(0) | 2015/03/22 09:17
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