こうべの話。

その日私は神戸にいた。

天気は快晴、絶好の街ブラ日和である。

さあこれからどうしよう、と思った時、ふとわが母・おばーちゃんの顔が頭に浮かぶ。

おばーちゃんは元・兵庫県民であって、女学生時代のお友達とも、いつも神戸で会っている。

ターミナルビルの公衆電話に50円入れて、実家に電話した。

あ、モシモシおかーさん?今さ、神戸にいるんだけど…

あら~、どうして?また変なバスツアーでも当たったの?

(※ みすてり話。を参照)

違うよ!仕事があってさ…

神戸のどこ?元町?六甲?今年はまだ行ってないなあ… 前に行った時はさ…

おばーちゃんは世間話のテンポだが、えらい勢いで10円玉が落ちるので、気が気じゃない。

おーかーあーさん!ちょっと聞いて!おかーさん神戸詳しいじゃない?だから…

詳しいなんてそんなあ~… 私なんかさ~あ、友達について歩いてるだけでさ~あ…

謙遜はいいから!あー!もう30円無くなっちゃった…

え?30円?何が30円?神戸のバスはさ…

バスじゃない!電話!あーもう40円!早く早く、どこでお昼食べたらいいか教えて!

あー、お昼ごはん?だったらねえ、北野のねえ… プツッ … … ぷー ぷー ぷー …

けっきょく、情報は何一つとして得られなかった。

仕方がない。10円玉5個分軽くなった財布をカバンに入れ、当てもなく歩き出す。

なんきんまち
(南京町のファミマにて)



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2016/04/20 10:44

だいがく話。

大阪弁の抜けない大学教授のヨネザワ君(→ おおさか話。)に、引越見舞の電話をした。

ほたらナニか、キミのとこのボクも、もう受験生か!早いなあ!

ほたらナニかというのも上方落語みたいだが、キミのとこのボク

キミ=私のところにボク=ヨネザワ君がいるという意味では、もちろんない。

「ボク」は「少年」という意味であり、「キミのとこのボク」は、うちのムスコのことなのだ。

こんな表現がスラッと出るなんて、やはりヨネザワ君はスゴイ。

そうなのよ~ あんまり難しいとこは無理だし… 私立は学資も高いし…

首都圏は下宿からなにから、えらい高いしなあ… 地方の国立なんかどや? 

いいねえ!金沢とか、東北とか… 遊びに行けるし…

ちゃうちゃう、四国か九州や ボクにもそない言うたれ

え、なんで?

雪降って、寒いやろ? 冬が長い… なんし大阪もんは、根性ナシやよってな

ええ~、そおお?

あんな、遊びに行くんやったらナ、ものごっつエエとこやねん せやけど一人で住んだらな、そらしんどいデ

ヨネザワ教授は独身なのである。

あ!ヨネザワ君、アンタ!

彼の前の勤務地は北陸の某都市であった。

エエでえ~太平洋側は… ぬくいし、天気はエエし…

寒いのが苦手な根性ナシの大学教授は、へへへと笑った。

かつらべいちょうししょう
(米朝師匠の高座が聞きたくなった)



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ごきんじょ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2016/04/19 10:47

おおさか話。

ヨネザワ君から転居ハガキが来たので、ちょっと電話してみた。

地方大学から、首都圏の有名大学への転勤だから、ご栄転だ。

大学教授の彼は、私の友人の中でずば抜けてインテリであるのだが…

もしもし、ヨネザワ君?私…

あー、キミか!どや、機嫌良うしてるか?

うちはみんな元気だよ ヨネザワ君、えらいご栄転じゃない

せやろ! 来おへんか、て、言うてくれはる人があってなぁ~

関西を出てもう30年になろうとするのに、いっこうに大阪弁の抜けないヨネザワ君。

現に関西に住んでいる私よりずうっと、大阪人らしい大阪弁である。

字にすると伝わりにくいが、ガラが悪いわけではない。人品高潔、物腰オダヤカな紳士だ。

それにしても、大阪弁抜けないねえ…

せやねん こないだもなあ…

おっとりしたヨネザワ君が、少し困った声を出した。

ワシこないだ、学会で英語で講演したんや… ほしたら、あとの懇親会で、知らん子おがスルスルッと寄ってきてなあ 「ヨネザワ先生、関西のご出身ですか?」て…

え?英語だったんでしょ?

ワシ、どうやら英語も訛っとんのや… 英語も大阪弁やねん… て、なに笑ろとんねん  

ハハハ… 嬉しいなあ… 米朝師匠が来たみたい…

電話を切っても、しばらくは、ほのぼのとした気分が続いた。

あじのしょうたいせき
(「味の招待席」がまた見たい)



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ごきんじょ | コメント(16) | トラックバック(0) | 2016/04/18 10:33

はいくの話。

ずいぶん前だが、見るものがなくて、教育テレビの俳句講座をつけっぱなしにしていた。

投稿された視聴者の句に、ステキなのがあったのを覚えている。

春の雨の中、傘を差さず小走りで郵便受けに行くと、遠い人からの手紙
雨が一粒、宛名の上に落ちて、万年筆の懐かしい筆跡が、少しにじむ


…という情景を描いたものだ。

ところが肝心の句がどうであったのか、全然思い出せない。

それでは、と再構成を試みたが、これだけの内容を17文字で表すのは、到底無理なのだ。

俳句ってスゴイと思う。

それにしても、メールが普及して、昔に比べて手紙をもらうことはぐっと少なくなった。

郵便受けを覗いて、DMばかりの中、たまーに手書きの封筒があると、とっても嬉しい。

ベリルには英会話を習ったのだが、年も近かったし、先生と生徒から、お友達になった。

今は国に帰っていて、年に一度クリスマスカードが来る。

パソコンを買った時にアドレスを知らせてきたので、しばらくはメールもしたが、尻切れトンボとなり、今は郵便だけのやりとりである。

5年前、東北の震災のすぐ後、クリスマスでもないのに、まるまっちい字の封筒が届いた。

おはなのかーど

きれいなお花のカードに

恐ろしいニュースを聞きました TUNAMIを逃れ、このカードが無事に届くことを祈ります

とある。

ニュースを見て、すぐに書いてくれたのだろう。いつも以上に字が乱雑である。

しかし、私の住まいは近畿地方、しかも海なし県

3年も日本に住んでたくせに、地理音痴にもほどがあるよベリル!

だけど、遠いとおい国で、私のこと心配してくれて、ありがとう。

ベリルの手紙は、暖かな春の雨に濡れていた、ような気がする。



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2016/04/17 10:23

しーとの話。

一夜明けて、まだ恐ろしい時間が続く。

週末の天気の崩れに備え、避難所で雨除けのシートが配布される模様が、テレビに映った。

鮮やかな青に、動悸が早まる。

神戸の震災の時にも、家という家を覆っていた、あの色だ。

震災の後、大阪梅田から阪急電車に乗って、宝塚の親戚まで、何度も往復した。

季節の商品に彩られた梅田のターミナルから乗車して、しばらくは繁華な街の景色を眺める。

しかし、神戸に近づくにつれて様子は変わってくる。

屋根瓦の崩れを青いシートで覆った家屋が、ぽつぽつと見え始めて、あ、と思った時には、地震の激しかった地域だ。

陥没した屋根。膝を折った人のように、柱の支えをなくして、傾いた家。

あったはずの家がなくなって、ぽっかりできた空き地に、積み重なる瓦礫。

そしてそれらの多くが、青いシートで覆われていた。

何か月も経っても、シートはなかなかなくならない。工事が間に合わないのである。

梅田から宝塚まで、に包まれた家が一軒もなくなったのは、いつのことだったろう。

あれから、ブルーシートを見ると、心穏やかではいられない。

あの人工的な青い色は、どんなに自然に抗っても勝てない人間の、敗北の旗であった。

ぶるーしーと



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てれびじょん | コメント(10) | トラックバック(0) | 2016/04/16 10:48

ろーかる話。

持ち帰りの仕事をチビチビやりながら、刑事ドラマを見ていたら、画面に地震速報が出た。

身体に揺れは感じないが、心が強くざわつく。

テレビ画面に近づいて文字を読んだら、震度7とあるので、驚いてチャンネルを変えた。

NHKをつけたつもりが、慌てていたのだろう。

画面に、青々とした芝生で平和そのものにゴルフを楽しむ男女が映った。

えんじょいごるふ
「牧野裕のEnjoy Golf」 チバテレ

ローカル局のKBS京都だ。

すぐにNHKにチャンネルを変えると、局の屋上カメラが大きな揺れを映している。

暗くて様子は定かではないが、大変なことになった、という感じがだんだん伝わってくる。

しばらく見ていて情報が一巡したようなので、民放に変えたら、そちらもそれぞれに通常の番組を中止して、地震のニュースを伝え始めていた。

なんだかもう座っていられなくて、立ったままリモコンを持ち、チャンネルをアチコチしているうちに、またKBS京都になった。

晴天のゴルフ場、楽しそうなプレー風景が、まだ映っている。

こんな時に不謹慎な、何がエンジョイゴルフだ!

と、とっさに、つい思った。

ふだん不真面目な人間が、ガラにもなくカッとしたが、しばらく考え直して、反省した。

ノンキな番組を流しているから、ローカル局の人がノンキなわけじゃない。

遠く離れて、今はなすすべもなく、ただ胸を痛めるだけなのは、私だって同じなのだ。

そんなヤツが、安い正義面をするのは、間違ってるし、恥ずかしいことだ。

テレビを消して歯を磨き、布団を敷いた。

心の中がどうでも、今日という日、私は私の日常を過ごすしか、できることはない。



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てれびじょん | コメント(10) | トラックバック(0) | 2016/04/15 10:32

たけのこ話。

何かいいことあったんですか?

そう聞いてみたのは、マルミさんの表情が、なんだかとても晴れやかだったから。

ウフフ… タケノコがね… タケノコが来たのよ…

たけのこ

へ?

私は???な顔をしていたのだろう。詳しく話してくれた。

マルミさんには、女学生時代からの親友がいる。彼女を、仮にカズコさん、と呼ぼう。

カズコさんは農家に、マルミさんはサラリーマンに嫁いだが、離れても仲良くしてきた。

住まいが遠くてなかなか会えないが、春先には、カズコさんからタケノコが届き、マルミさんからはお手製のイカナゴのくぎ煮を送る、という友情の交換が、ずっと続いている。

ところが、昨年の春、マルミさんは、カズコさんからタケノコが来てない、と気付いた。

催促するのもおかしいので黙っていたが、待てど暮らせど、来ない。

時は過ぎ、ついに全国的にタケノコは竹になってしまった。

もしや自分は、カズコさんを怒らせるようなことをしたのか?

それとも、なにかタケノコどころじゃない事情があるのか?

マルミさんは悩んだ。

その後いつも通り暑中見舞いや年賀状が来て、ひと安心したものの、タケノコのことを思うと、マルミさんの心に、小さな暗雲が兆すのであった。

そして今年、カズコさんから、例年と変わらぬ立派なタケノコが届いたのである。

段ボールを開けてすぐ、マルミさんは電話に飛びついた。

あ、カズちゃん?私… あの、タケノコ、タケノコありがとう…

マル? 今年のは立派でしょ? 去年はごめんね、不作で、いいのがなくて…

そうだったの! ううん、いいの…

そう電話で話しながら、マルミさんは、頬に安堵の涙を感じた。

フフフ… おっかしいでしょ、タケノコで泣いちゃって… トシとるとダメね…

ちょっと恥ずかしそうな、マルミさん。

セーラー服のマルミさんとカズコさん、二人の仲良し女学生の姿が、目に浮かぶ気がした。



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2016/04/14 10:15

はんかち話。

わが家の春の大掃除は続く。

衣装ダンスのハンカチの引き出しが、ギッチリ詰まって出しにくいのが気になっていた。

テーブルに中身をあけたら、小さい引き出しなのに、かなりの枚数が入っている。

その数、実に、ひ、ひ、122枚!

材質で分けると、

タオル 42枚
ガーゼ 7枚
布帛 73枚


絵柄で分けると

キャラクター 31枚
花など柄物 55枚 
チェック 25枚
無地 11枚


驚きのあまり、思わず分類してしまったが、さてこれをどうするか。

一番簡単なのは、元通りギッチリ詰めて戻すことだが、分類しながら見たところ、どう考えても使わないのが、何枚もある。

春霞のように絵柄が薄れてしまったもの。

あんた誰?と尋ねたくなるのキャラクターもの。

やっぱり、そんなのは処分して、スッキリしよう。

使う… 要らない… 迷う… 要らない… 要らない… 使う…

トランプを配るみたいに、要らないハンカチは決まったが、問題はどう処分するか、だ。

ぼろいタオルでさえ、すぐには捨てにくい私である。きれいな色、かわいい模様のハンカチは、いきなりゴミにはできない。

「ハンカチ 再利用」で検索してみた。

使わなくなったハンカチで かわいいポーチ♥を作りましょう!

というような、手芸の記事が、わんさかヒットする。

しかし、ハンカチの隣の引き出しには、既にポーチが13個も入っている。

使わないハンカチを、使わないポーチにしても、なんの解決にもならない。

色とりどりのハンカチの山を前に、腕を組んで顔をしかめ、ウーンと唸る。

それもまた、私のspring cleaningである。

かまくらのおみやげ
(趣深い「古都鎌倉の見どころ」ハンカチ)



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もろもろ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2016/04/13 10:19

おそうじ話。

私はかねがね、年末の大掃除なんて辛くて不合理なことはやめよう!というキャンペーンを地味に続けている。(→ そうじの話。

寒い、暗い、せわしい時期に、バタバタ家をひっくり返すなんて、愚の骨頂ではないか。

その代わりにおこなうのが、spring cleaning

なんと軽やかにして楽しげな響きであろうか。

進学、進級、就職、転居…環境の変化は春に多い。

不用品を処分して、生活を一変するのに、一番ふさわしいのは、今の時期なのだ。

明るく暖かな春の日差しの中で、家をサッパリさせるのは本当に気持ちがいい。

と、いうわけで、私も春の大掃除中である。

ところがまあ、これがなかなか、一筋縄ではいかない。

要らないものを捨てればそれでいいじゃんか、というのは、コドモの考えである。

例えばタオルが寿命を迎えたら、まず半分に切り、二つ折りにして縫う。

それを台拭きとしてしばらく使用してから、ゾウキンに下げる。

ゾウキンとしてもくたびれたら、外回りや自転車の油拭きに使って、やっと捨てることになるが、捨てるとなれば今度はゴミの分別の問題がある。

もちろん、減ったタオルの引き出しには、新しいのを補給しなければいけない。

一枚のタオルの処分にも、様々な要素が有機的に絡み合っている。

そんな不用品が、一度に無数に発生し、目まぐるしくアッチへ行き、コッチへ移動する。

要らないものをちょいと出して、袋に入れて捨てる、なんて、カンタンな話じゃないのだ。

いくつもの引き出しをぶちまけ、その真ん中で、なぜか鬼の形相でミシンをかけている。

それが私のspring cleaningである。

spring-cleaning.jpg
(私のと、だいぶイメージが違う)



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もろもろ | コメント(14) | トラックバック(0) | 2016/04/12 10:06

なのはな話。

次の約束まで時間があったので、バス停2つ分を歩くことにした。

桜の花時から少し咲き遅れて満開になった、菜の花の堤。

なのはなのどて

一面の菜の花が空気まで染めて、うっとりと金色に光る土手道を歩いていると、起きているのに夢の中みたいだ。

足が地につかない、フワフワした気分で進んでいると、向こうから若い男女がやってきた。

オンナノコのほうが、盛んに

なにこれ、くっさーい!菜の花って、くっさーい!

と、騒いでいる。

確かに菜の花のニオイは、いい香りではない。

おヘソのゴマのような、洗わない犬のような、ちょっと動物的なニオイだ。

私などはそのニオイをかぐと、古い布団に顔を埋めた時みたいに、懐かしい気分になる。

しかし、菜の花なんか嗅いだことのないオンナノコは、くさい、くさいを連発している。

バカだなあ。

オトコノコと一緒の時には、思ったことを何でも言えばいいってもんじゃない。

くさい、くさい言ってると、彼の中で、あなたはくさいオンナノコになっちゃう。

口をむすんで、オトコノコの手につかまって、この一面の金色を、ただ見ていれば、その時間はふたりの宝物になるんだよ。

そう思いつつ口には出さず、私は自分の夢に戻って、また歩き始めた。



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2016/04/11 10:30
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