チビネコ本。

私はずいぶんオクテで、ボンヤリした子供であった。

子供の頃の記憶といえば、窓の外を見てボーッとしていたことばかり。

ボンヤリしているからといって、何かを考えるでもない。表現するとすれば

ふきだし…

こんな感じである。

言われたことは素直にやるが、生きる意欲に乏しく、本やマンガの世界に埋もれて、フワフワしている子供だった。

その日も雑誌をめくっていた私は、あるマンガに強く惹きつけられた。

わたのくにほし
(「綿の国星」 花とゆめコミックス)

主人公は仔猫。猫の絵ではなく、耳のついた小さな女の子の姿で描かれている。

今は珍しくもない猫耳の女の子のイラストは、当時は目新しかったが、そんなことより私を驚かせたのは、この仔猫が、じつによくヒトリゴトをいうことである。

コマの中に浮かぶ雲の吹き出しに書き込まれたセリフの、何倍も多い内心の声。

私はそれまで、言葉というのは、他人に向けて発するものだと思っていた。

しかし、幼稚園児ほどに見える仔猫は、心の中にたくさんの言葉を持っている。

誰にも言わない気持ちも、言葉に変えて胸にしまっている。

誰にも届かない言葉もあっていい、そう知った時を境に、私の世界は変わったのだ。

霞に包まれ、遠くで霧笛が鳴っていた心象の世界が、にわかに色とりどりに、饒舌に、周囲の事象を語り始めた。

この季節になると思い出すのは、このマンガの最後の言葉。

おばけのような桜が
おわったとおもうと
遅咲きの八重桜

すみれや 
れんぎょう 
花厨王

黄色い山ぶき
雪柳
なんとすごい
なんとすごい
季節でしょう


緑に萌える木々、名も知らぬ花にまといつくチョウを見て、私はつぶやく。

なんとすごい
なんとすごい
季節でしょう


聞く人は無いが、それでいい。幸せな、季節がはじまる。



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ブックガイド | コメント(3) | トラックバック(0) | 2017/04/27 11:06

てれびの話。

ムスコが家を出てもうすぐ1か月。1人暮らしにもだいぶと慣れた。

コメが減らないな、とか、トイレットペーパーの減りはあんまり変わらないな、とか、いろいろと発見はあるが、生活に大きな変化はない。

起きてまずテレビを点けるのは以前からの習慣である。

朝のワイドショーなど似たり寄ったりなので、点けた時にたまたまやっているのを、最後まで見ることが多かった。

ところがここのところ、毎朝同じ番組を見ている。気に入った、というほどではないのだが、気づけばチャンネルを合わせてしまう。

なかの中継のコーナーが、ちょっと見たくなるのだ。

担当の新人アナウンサーが、ピヨピヨと擬音をつけたいほどのヒヨッコで、言い間違ったり、慌てたりする様子が楽しい。

若者の未熟さを大目に見たり、カワイイと感じたりするのは、こちらがババアになったからだと思うと、ちょっと複雑ではある。

今日も番組を見ていて気づいたが、この新人、うちのムスコと同じ名前である。

もしかして、そのせいで親しみを感じたりしてるのか私?

急に恥ずかしくなってチャンネルを変えたら、ベテランキャスターがこっちを見て笑っていた。

ならけんないのにゅーす
(以上、奈良からお伝えいたしました)



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てれびじょん | コメント(3) | トラックバック(0) | 2017/04/26 11:37

ばばしゃつ話。

私はオバサンなので、ババシャツを愛用している。

商品名としては、レディースインナー、とでもいうのだろう。

Tシャツ1枚で過ごす真夏以外は、ほぼ通年、何かしらのババシャツを着用に及ぶ。

近頃めっきり暖かくなったので、厚手の長袖はひっこめ、今日はコットンセーターの下に、半袖のババシャツを着て出かけた。

楽しい1日を過ごした帰りの電車。暗い窓に我が身を映して、ギョッとした。

セーターの襟あきから、ババシャツが盛大に見えているではないか。

慌てて上着を羽織り、襟元をかき合わせるが、顔が赤くなっているのが分かる。

むかしむかし、学生の頃、セーラー服の襟元からババシャツがはみ出ていることをババチョロと呼び、それは女学生にとってこの上ない恥辱であった。

私も50になり、相当ずうずうしくなったからまだいいが、昔なら明日から学校に行けないところである。

襟元を気にしながら帰宅し、その日一緒にいた人に

今日1日ババシャツが出てたよ~! 注意してよ~!

と、メールしたら

あれババシャツだったの? レースが華麗だったから ワザとかと思った!

と返信され、よけい凹んだ。

ばばしゃつ
(このようなタイプは今や少数派である)



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もろもろ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2017/04/25 12:01

ミカンノ本。

名前を呼ばれて振り向いたら、暖かな黄色の、まあるいものを渡された。

はい!おすそ分け…

わあ キレイ… なんていうミカンですか?

うーん… なんだっけ… 家に帰って段ボール見ればわかるんだけど…

今はいろんな品種がありますもんね

そーなの 何だっけな…確か、なんだか女の子の名前みたいな…

え?女の子?

ナンノコッチャと思ったところでお昼休みが終わったので、話はそこで中断。

家に帰って文明の利器で調べて、ナルホドと腑に落ちた。

はるみ
はるみちゃん

せとか
せとかちゃん

きよみ
きよみちゃん

じつにたくさんの女の子がいる。

ミカンというとコタツで食べるものと思っていたが、冬に出るのは温州ミカンなど一部の品種で、おおかたのミカンの旬は春先なのだという。

そういえば、

「これは レモンのにおいですか?」

で、はじまる、あのお話にも、モンシロチョウやタンポポが出てきた。

しろいぼうし
(「車のいろは空のいろ 白いぼうし」 ポプラ社)

どこか遠くから来た、この子の名前は何かしら。そう思いながら、ミカンをてのひらにのせた。



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ブックガイド | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/04/24 11:13

たけのこ話。

おばーちゃんとケンカして、ただいま冷戦中。

ここのところ電話もかけず、実家にも行かないでいる。

母親だから付き合ってるけど、だいたいこの人とは性格が合わないのだ。

赤の他人として出会っていたら、絶対友達になれないと思う。

おばーちゃんはひどく女性的で、万事察してほしい、めんどくさいタイプ。

私はどっちでもいいわよ… 

などと言いながら、内心思うようにならないと不満を溜めていき、ドンドン機嫌が悪くなる。

気に入らないならちゃんと言え、言えないなら後で不足を言うな、という私と、合うわけがないのである。

遠くに住んで、盆と正月だけ帰省してた時も、後半は必ず大ゲンカになって

二度と来るもんか!こんなうち!

と、捨てゼリフをして帰るようなことが、よくあった。

私も齢50を越して、若い頃よりは穏やかになったものの、性格は変えられない。

とはいえ、独居の後期高齢者である母のこと、気がかりでないわけはない。フトンの中でふと、おかーさんどうしてっかな、と思ったりする。

没交渉のまま数日が過ぎた朝。

♪ぴんぽーん♪

宅配便だ。

お兄さんの抱えた段ボールの、ガムテープでぐるぐる巻きにした、ヘタクソな荷造りを見て、すぐ誰からかわかった。

考えなくても押せる電話番号をぴぽぱぽと押し、

…モシモシ おかーさん? タケノコ来たよ… ウン… ウン… アリガトウ…

こうして、めんどくさい人との、めんどくさい付き合いが、また始まる。

たけのこ



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ごかぞく | コメント(22) | トラックバック(0) | 2017/04/23 11:42

さくらの話。

子供の歓声にふりかえると、幼稚園の柵のむこうに、八重桜が咲いていた。

やえざくら

ぽってり重い花の房が、緑のリボンでひとつひとつ、枝の先に結び付けたように咲いている。

なんてかわいいんだろう。

思わず胸をつかれて、立ち止まる。

若い頃は、パッと咲いてパッと散る、染井吉野の潔さのほうが、美しく、好ましく見えて、八重桜なんて、と思っていたが、今は違う。

染井吉野が自分の都合でぶわーっと咲いて、あとは知らん、とばかりに葉桜になってから、

遅くなりまして…

と、丸いかわいい顔を出す、かわいらしさ、いじらしさが、なんともいえない。

八重桜を軽視していた昔をふりかえって、申し訳なく、ゴメンネとお詫びしたい。

話は変わるが、私の好物の一つに玉子サンドがある。

まだファーストフードが普及しない子供の頃、母に連れられて外出して昼ごはん、という時、よく喫茶店でサンドウィッチを食べた。

今のように様々な選択肢がある時代ではない。ハムキューリと玉子のミックスサンド一択、というお店が多かった。

喫茶店の玉子サンドには2種類ある。

茹で玉子をマヨネーズで和えてはさんだのと、玉子焼きをはさんだの、である。

私はマヨネーズのほうが断然好みで、玉子焼きのがテーブルに来ると

今日はハズレ

などと思っていた。

ところが先日、お付き合いで久しぶりに喫茶店の玉子サンドを食べたら、これが美味しかった。

フワフワのあったかい玉子焼きが、パンに塗ったバターを溶かしながらほぐれる。ケチャップの甘さも好ましい。

長年ハズレとか思っていてホントにすみません、と、詫びたい気持ちだ。

しかし八重桜も玉子サンドも、どこに向かって謝ればいいのか、わからないのである。



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むかしむかし | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/04/22 11:26

にげきる話。

きらめき

期替りで少し間があいて、久しぶりのスイミング。

半月以上泳いでないわ~

泳ぎ方忘れたかも~ 浮くかしらワタシ~ 

お決まりのやりとりをしつつの着替え。準備体操中も会わない間の情報交換をして、ようやく水に入った。

なんだかんだ言って、水に浸かればスイスイ。さすがの先輩たちである。

今さ~ もう花粉症で大変なのよ~ 

ワタシも~ でも泳ぐとちょっとマシよね いろいろ洗い流されるからかしら

何が洗い流されているのだろうかと、ついプールの水を見る。

私はまだ花粉症、ないのよね…

そうおっしゃるのは未亡人オカさんである。

アラ~ いいわね~ ウラヤマシイ!

あ、でも、うちの母 70歳前にイキナリ発症したわよ

そうそう、アレはなんかの限界を越えたらイキナリなるのよ 私もそうだったわ

それまで花粉症なんて気のせいだとか言ってたくせに もー大騒ぎよ

限界って いつ頃来るのかしら…

オカさんは少し不安そうである。

まあ、人それぞれ抵抗力とか…体質もあるだろうし…ならないかもしれないしね…

そうそう 限界が来る前に寿命が来るかもしれないし…

物騒な意見にヒヤヒヤしていると、オカさんはパッと明るい表情になり

そうね、そうよね、私、ガンバッて逃げ切るわ!

話はそこで終わったのだが、オカさんが、具体的にはどうやって花粉症から逃げ切るつもりなのか、そのことで頭がいっぱいで、バタフライの泳ぎに身が入らなかった。



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ごきんじょ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/04/21 11:27

はこんだ話。

街路樹も山も、緑に萌える季節となった。

歩道の植え込みの陰、足元のモシャモシャした茂みが懐かしくて、ふと足を止めた。

その昔、ムスメが幼稚園に上がったばかりの、春の日のこと。

手をつないで通う通園路にもまだ慣れなくて、物珍しくアッチコッチを見ながら歩く。

住宅地の道をノンビリ歩いていたら、道の真ん中に緑のカタマリがある。

何だろう?と近づくと、それは引っこ抜いた雑草の束だった。

枯らしてから捨てるにしても、道に投げるとは感心しないなあ、と、草のカタマリを道脇によけ、園に向かった。

ボーッとしているムスメを預けた帰り道、誰が取り捨てたのか、もう草は無くなっていた。

数日後。

少しは園にも慣れたムスメの手を引いて歩いていたら、道に面した住宅の門が開き、60代くらいの奥様が出てこられるところだった。

奥様は持ってきたものを道に投げかけたが、私とムスメに気付いて手を止め

ハイこれ

と、当たり前のようにそれを手渡してきた。

引き抜いたばかりの雑草の束。この前、道に投げてあったのと同じものだ。

?????

戸惑っている私の様子に気付いた奥様は、あっ、という顔をしてから、ほがらかに笑い、

これね… ハコベ… コッコちゃんとウサちゃんの…

はこべ

聞けばこの奥様は、庭の草取りでハコベをとると、幼稚園のニワトリやウサギのためにそれを取り除けておいてくださるのだという。

お宅が通園路に面しているため、道にポイと投げ出しておくと、誰かが拾って園まで持って行く、そういう習慣になっていたらしい。

それから何度、ハコベを拾って登園しただろうか。

みずみずしくやわらかい春先のハコベは、ニワトリもウサギも大好物だった。

ハコベを運んだ、春の思い出である。(今回ダジャレ)



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むかしむかし | コメント(11) | トラックバック(0) | 2017/04/20 11:26

むーびー話。

朝まず点けたテレビから、シロウトが撮ったらしい結婚式の映像が流れてきた。

新郎新婦から、両親に感謝の言葉を述べる、ありがちなシーン。

留袖を着た新婦の母が、ハンカチを目に当てる姿からカメラが動き、1人の男性が映った。

ハンカチが間に合わないほどの大泣きをしているのは、新婦の兄だという。

新婦のお兄さんが、当の新婦よりも、両親よりも泣く、というのは確かに珍しいし、きっと仲良いご家族なんだろうが、なんだかお兄さんが気の毒になった。

妹の結婚披露宴のその時、お兄さんが何を思い、何に感極まって涙を流したのか。

大のオトナが、ちょっとおかしな状況で大泣きしてしまった、それは確かに滑稽かもしれないが、赤の他人がテレビで見て、笑っていいこととは思えない。

個人情報の保護が言われ始めて久しく、住所氏名電話番号といった個人のデータに対する配慮は、どこでもなされるようになった。

だけど、感情って、住所氏名よりよほど個人的なものじゃないのだろうか。

あなたのスマホにとっておきの家族動画がありませんか?

ぜひ、みなさんの家族の映像をお寄せください!


にこやかにそう言ってのけるアナウンサーを見ていたらバカバカしくなり

ネタは自前で探せ バカ…

言わずもがなのヒトリゴトのあと、チャンネルを変えた。

かぞくむーびー



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てれびじょん | コメント(4) | トラックバック(0) | 2017/04/19 11:35

めろでぃー話。

コールセンターに電話で問い合わせる。

カスタマーサービスの電話番号にかけると、申し訳ございませんがこちらではわかりかねます、と言われるが、この程度は想定の範囲内なので、腹も立たない。

あーハイハイ、じゃあ分かるところに回してください

おそれいりますが少々お待ちください

ところがその少々が、少々の少々ではない

♪ぴろりろぴろりろ ぴろりろぴろりろ ぴろろりりぴろりろろ♬

保留音が延々と流れる。

この、保留音というのも、会社によってさまざまだ。

この会社はピアノ曲、それも、その昔カレーのCMでナカムラヒロコが弾いていたような、華麗で速いテンポの曲を採用している。

はうすざかりー

♪ぴろりろぴろりろ ぴろりろぴろりろ ぴろろりりぴろりろろ♬

早いタッチで気がせいて、イライラを助長する。

しかし、かといって

♪り~ら~ り~ら~ り~らら~り~り~♬

というような悠長な曲が流れたら、それはそれでムカつくかもしれない。

大変ながらくお待たせしております まことに申し訳ございません

というお詫びが流れる会社もあるが、私のようなひねくれ者は、申し訳ないとか思ってないくせに、と、無用な反感を抱いてしまう。

保留音ひとつとっても、難しいもんだ。

けっきょく、3カ所をタライマワシにされ、とくに得るところのないまま、電話を切った。

まあこの程度は覚悟していたので、いちいち腹を立てたりはしない。

唯一ムカつくのは、

♪ぴろりろぴろりろ ぴろりろぴろりろ ぴろろりりぴろりろろ♬

このメロディーをソラで歌えるほど、バッチリ覚えてしまったことである。



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もろもろ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/04/18 11:12
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