べんとう話。

ぱん!ぱん!

スターターピストルの音が聞こえる。

足を進めるにつれ、人のざわめきと、スピーカーを通した音楽が近づいてきた。

運動会だ。

うんどうかい

フェンスの金網に指をかけて、子供たちの演技と、とりまく父兄の人垣を見ていたら、不意打ちのようにどこかがズキン、と痛んだ。

こんな痛みとはとっくにご縁が切れた、と思っていたので、自分でも驚く。

子供がまだ小学生の頃、夫婦関係が悪くなり、夫は家を出て行った。

別居がはじまって、離婚するのか、しないのか、あやふやな時期に、子供の運動会があった。

見に来るか、と事務的に問い合わせたところ、来る、という。

迷ったけれど、去年と同じように、親子4人分の弁当を作った。

来るとは言ってもお客様だ。早起き、場所取り、子供の準備、全部自分ひとりでやらねばならない。

早朝から、目の回るような思いをして、確保したシートの上に座っていたら、夫がフラフラとやってきた。

寝ぼけた顔で、見たことないシャツを着ている。

こちらの存在は認めたが、シートには座らず腕組みをして立ち、競技を見ていた。

お昼時、子供たちはクラスを離れて、それぞれの親のもとに戻されてくる。

巣を目指すヒナのように、いっさんに駆けてきたムスメとムスコは、久しぶりに会う父親を、眩しそうに見た。

気まずい雰囲気のなか、それでも見た目は普通の親子のように、お弁当の時間。

夫は案外こだわりなく弁当に手を出し、パクパク食べながら、子供たちにあれこれ話しかけている。

私が作ったカラアゲ、私が作ったオニギリ、私が作ったポテトサラダ。

不意になぜか

この男、バカじゃないの

という思いがきざした。

人に愛想を尽かす瞬間、というものがあったとすれば、それはあの時だった。

金網から指を離し、喧騒の続くグランドに背を向ける。

朝からの雲は切れて日が射しはじめ、絶好の運動会日和だ。

さっきの痛みは、もう消えていた。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ



スポンサーサイト
むかしむかし | コメント(12) | トラックバック(0) | 2016/10/02 11:17
コメント
運動会
昨日から順延された、近隣小学校の運動会が始まっています。
私も嫁に愛想をつかされないように頑張りましょう。
こんにちは
 
 何となく しんみりしました、
 私も あまり 良縁でなかったようで 
 死別しましたが 二女には 別れろ! 早く別れないの?と うるさかったですね、
 未だに 悪縁のようで 夢でも 追い回されています、 お墓も 作ってあげたのにと 腹が立ちます、夫の両親は どこにいるか?不明です、
4歳ころに離婚して 行き来はありませんでした、 まだ お若いから 前向きに がんばりましょう! いつもありがとうございます、 たか
共感。
こんにちは。
初めてコメントします。
先月このブログに出会い、面白くて寝不足になりながらバックナンバーを読みあさっています。
我が家も子供が小中学生ながら、家庭崩壊中。夫が家庭に目を向けなくなり、別居を申し出てきました。
我が家の今年の運動会も今日のブログみたいでした。
何の協力もしないくせに、私の料理は食べてる夫。
愛想が尽きますよね。
多分、離婚になりそうで今は斜めに歩いてる私ですが、じょんでんばあさんのような生活が待っているなら、と励まされています。
No title
朝早く起きて 運動会の準備は大変です。
ご主人の労いの一言が有っても
良かったですのに…。

お弁当を一緒に食べさえすれば
親の務めが終わると思って
いたのかしら笑)
知らないシャツを着てフラリと現れた所も
カチンと来ますね。

私 もう 運動会に行く事も無くて良かったです。
多分 ぢょん でんばーさんの 当時の気持ちを
思い出し 切なくなるから。
No title
こんばんは
運動会シーズンですね。
懐かしい思い出やら、不快な思い出があるんですね。
お子さんたちも立派に成長し、お母さんの力は凄い。
嫌な思い出は早く忘れましょう。
もし
人に愛想を尽かす瞬間、というものがあるとすれば、逆に見直す瞬間もあるのでしょうね。
残念ながらこの時はそうならなかった。

この point of no return を人は見逃しがちです。
後で気が付いて激しく後悔する人もいますし気付くことなく終わる人もいる。
難しいな。


他山の石、以て玉を攻むべし・・・
Re: 運動会
MK様

運動会はいかがでしたか?

奥様と仲良くなさってくださいね。
Re: こんにちは
たか様

お子さんが味方をしてくださったのですね。

私も子供という心の支えがあって幸せだったと思います。
Re: 共感。
くまこ様

おつらい時期ですね。わかります。

ふざけた記事ばかりですが、トンネルを抜けた先に、こんなとぼけてのんきな日々があるとわかれば、ちょっとは気持ちを楽にしていただけるかしら。

どんな時もご自分を大切に、たとえ怖くても不安でも、今より明るい方向を目指してください。応援しています。
Re: No title
優様

ご同情くださいましてありがとうございます。

お名前通り本当にお優しい方なんですね。嬉しかったです。
Re: No title
Carlos様

年を取ると、1つの行事にもいくつもの思い出が重なっていますよね。

嬉しい、楽しい思い出もいっぱいあるので、そちらは忘れたくないですね。
Re: もし
rockin'様

もしもを考え始めたら、ここまでにたくさんの分かれ道がありました。

それは必ずしも右か左かの2択じゃなく、いつでもいくつもに分かれた道だったと思います。

でも私は今の私が好きです。

管理者のみに表示