かぜふく話。

静かな朝、洗濯物を干そうとベランダに出る。

サッシを開けて、いつもの位置にサンダルが無いのでアッと思う間もなく、強風が吹きつける。

メデューサのように髪を乱しながら、吹っ飛んでいたサンダルを、ようよう拾い集めた。

こんなに風が強いのに、家の中にいると全然わからないのだ。

ぴゅーぴゅー ひゅーひゅー びゅーびゅー

風の音を表せと言われたら、そんな風に書く人がほとんどだろう。

都心に住んでいた時は、寝床の中でも

ああ、風の音がする… 今夜は風が強いなあ…

そんなことをよく思った。

ところが、今の家に越してきてからというもの、そういうことは絶えて無い。

風が吹かないわけじゃない。山の上をひらいて建った団地だから、むしろ吹きっさらしだ。

それなのにヒューともピューとも聞こえないのが、最初は不思議で仕方なかった。

その理由に気付いたのは、久しぶりにビル街に出た日である。

コートの裾がはためく程度の風が吹いて、しばらく聞かなかったヒューの音が、頭上で鳴った。

わかった!

ヒューと鳴るのは、張り渡された電線なのだ。

それがないから、いくら風が吹いても、ヒューともピューとも鳴らないのである。

風の音、と思っていたのは、電線の音だった。

電線がなくても、よく注意すれば、風の日だな、と分かることもある。

山で木の葉がざわざわと騒ぐからである。

それは、音とも言えない、気配のようなもの。

今日も春の風が吹き、山は騒ぐ。

何かがそこまで来ていることを感じて、洗濯物のカゴを抱えたまま、目を閉じた。

かぜのうたをきけ
(風の歌か、あるいは電線の歌か)



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もろもろ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/04/12 12:31
コメント
No title
こんにちは。村上春樹の初期の作品ですね。「風」の話も「電線」の話も出てきませんが、このころが一番よかったというファンもいるくらいの作品です。
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No title
こんばんは
我が家では、風が強い日はベランダの洗濯竿がうなり出します。
吹く方向にもよりますが・・・
うちでは
ベランダにでる窓の鍵がかかっていないと、電線の音と同じような、ヒューーーって音がなります。
カギ閉め忘れ警報音だと思ってます。
Re: No title
ぱある様

世代もあり、この時分はまだ新刊の出るごとに読んでいたんですよね。

今はすっかり手が出なくなりました。
Re: No title
鍵コメZ様

ふとした思い付きを書き留めただけですが、そんなものでも深い考察に結び付くヒントになったようで、良かったです。

Re: No title
Carlos様

うちも風の強い日は物干しざおが気になりますので、夜のうちにおろしておくようにしています。

他の棟で、風にあおられた竿が窓を割ったというお話も聞きましたので。
Re: うちでは
まこ様

以前仕事していたビルが、どこもかしこも閉めまわしても風の音がする不思議なビルでした。

安普請なのか、老朽化してるのか…。考えてみたら怖いですね。
電線振動音は
我が家では現役です。
それにザワザワという木々の摩擦音。
それに純粋な風のゴーっとゆー轟音。

心底、ビビリます。
Re: 電線振動音は
rockin'様

枝葉のザワザワは風情があるとも言えますが、幹がすれるほどの強風は怖いですよね。

根源的な恐怖を感じます。

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