そとおり話。

彼女を見たのは、遅い朝の電車の中。

ドアのわきの空間に場所を占め、ぼうっと外を見ている。

顔立ちやスタイルが飛びぬけてすぐれているわけではない。服装も普段着らしくカジュアルだ。

それなのに目が止まったのは、彼女が美しかったから。

化粧気のない頬にキラキラ光る桃の産毛。

瞳は水をたたえたように潤い、白目の部分が青く見える。

レモン色のシャツの袖から伸びた腕はなめらかで、ひじまでもピカピカしている。

今この時、自分が美しいということに気づきもせず、生まれてきたばかりの清潔さと無頓着さで、彼女はそこにいた。

まるで今朝咲いた花のように。

はすのはな

大昔、その美しさが、着物を通して光り輝いたので、衣通姫(そとおりひめ)と呼ばれた人がいたという。

身なりや化粧では作れない、そういう美しさって、一生のうち、ごく短い若い時のものだ。

それは1年続くかもしれないし、たった1日かもしれない。

でも、どんなつまらない女にだって、きっと衣通姫の日はある。

その日を遠く過ぎて、今ならわかる気がする。



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2015/07/12 09:34
コメント
No title
> その日を遠く過ぎて、今ならわかる気がする。
同じく!
昔はそんなこと思いもしませんでしたが
年を経てやっとその価値に気づくようになりました。
若い子の、それも化粧っ気のない無垢なたたずまいの子を見ると
もうそれだけでまぶしいな〜と思います。
それに目鼻立ち、姿形が整っていたら最強です。
でも、本人はその価値にきっと気づいていないと思う。
彼女達が考えている美しさと私やぢょん・でんばあさんが思う美しさは
ちょっと違っているんですよね。
だって、今ここで言う美しさについて
私は若い頃ただの一度も考えたことがなかったもの。
ひょっとしたら自分にもそんな美しさがあったのか?
そんなの気づかなかった・・・(惜しい)
いや、気づかないことがまたいいのかな?
年を重ねて気づくことってまだまだありそうですね。
老後の楽しみにしよう。
衣通姫(そとおりひめ)
初めて聞く言葉です。

西施や貂蝉のような美女だったんすね。
まばゆいくらい光り輝き回りのものを圧倒する綺麗さを発揮できるのはほんの一瞬かも知れない。

で、本人は気付かない。
と言うか気付く人はいないんだ。
多分。
No title
おはようございます
衣通姫というんですか~どんなきれいな人だったんでしょうか?
誰でも、輝くときはあるものですよ!
それはいつかは・・・・
Re: No title
さとちん様

そうですよね~、ああいう美しさは若い時にはわからなかったと思います。

ずいぶんもったいないことをしてるなという若い人もよく見ますし。

でも、そんなことを若い時に言われても、何のこっちゃだったでしょうね。
Re: 衣通姫(そとおりひめ)
rockin'様

成熟した女性の美というのももちろんありますが、着ているものも何も関係ない、というような美しさって、本当に一時期のものだと思うんです。

古代の人は短命でしたから、生命の輝きは今よりきっともっと切実で胸に迫るものだったんじゃないかなあ。
Re: No title
Carlos様

過ぎていった季節の美しさを知ることができるのは、年をとった者の特典だと思います。

それが自分じゃなくても、輝いている人を見るのはいいものですよね。
No title
あなたの「気付き」のしなやかさはまるで衣通姫のような気がした。
「文章」のしなやかさと言い替えても良い。
Re: No title
old comber様

うわ~、ステキな褒め言葉をいただきました。

見た目はシミシミでも、心は衣通姫。そんな心意気でやります。

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