モメンノ本。

知らない人が、あたかも旧知の友人のように話しかけてくる、というのは、地域性もあるかもしれない。

ふと昔読んだ随筆の一節を思い出した。

筆者は北海道の出身で、大阪に住んだ時の経験を書いている。

心斎橋の婦人小物店で買い物をしていたところ、着物の袖をグイと引かれるのを感じて、驚いて振り返ると、二人の中年の奥さんが両側からその袖を持って、生地の品評をしている。

鹿ノ子やおまへんで

そうでんな なんやゴリゴリしてまんな

奥さん方は、振り返った筆者(つまり着物の持ち主)の存在をいっさい斟酌せず、心ゆくまで、その珍しい生地を鑑賞したのち、ようやく解放してくれたが、その間筆者はただ茫然と、されるがままだったという。

このくだりが、私はおかしくてならない。

それくらいやりそうだな、と思えるあの顔、この顔を、思い浮かべることができるからだ。

もめんずいひつ

(「もめん随筆」 森田たま)

大阪のオバチャン、というと、テレビの影響もあって、ヒョウ柄を着て、アメちゃんを持って、自転車に傘をくっつけて、スーパーの特売を奪い合いしている庶民のイメージだ。

しかし、阪神間の高級住宅街に住み、何不自由なく暮らすお上品な奥様にも、昔からどこか他人に対する敷居の低い、開放的な部分があったようだ。

「細雪」を読むと、四姉妹のそれぞれが、えらく女性的でくにゃくにゃしていて従順らしいが、そのくせ頑固で、命じられたことにシラッと背いたりする。

おとなしく黙っているかと思うと、突然思い切った行動に出る、という不合理のかたまりが、いかにも昔の大阪の女性らしい。

筆者は札幌という新しい街で育った、近代人らしい合理的な知性で、大阪という古い土地の人々、とりわけ女性を、興味関心を持って見つめている。

この本もまたぞろ絶版であるが、再々復刊されているので、比較的手に入りやすいはず。



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ブックガイド | コメント(8) | トラックバック(0) | 2016/01/26 10:46
コメント
No title
着物のお値段を突っ込まれたら
ムカッとするけど
此れくらいなら カワイイ わね 笑)

ある程度節度が有って ?
ユーモラス?なおばちゃん達かしらん?
私 も やりかねませんわ 笑)
こんばんは
「もめん随筆」 森田たま
 面白そうですね
読みたいです
私は図書館で借りて読んでおります
No title
こんばんは
ほんと関西、特に大阪のおばちゃんはなれなれしいですね。
豹がら、雨ちゃんのイメージがどうしても出てきます。
どこか憎めないんですよね。
すっごく驚きました
驚いたことは二つあります。

一つは「もめん随筆」by 森田たまが取り上げられいること。
もうひとつはこの本が文庫本になっていたことです。

今、私の手元には「続もめん随筆」があります。
文庫本ではなく単行本です。
発行年月日は書いていませんが表紙をめくると横書きで本のタイトルが書かれています。
右から左に向いて書かれています。
そして旧仮名づかいでです。

ウイキで調べると1937年の出版ですね。
随分昔に古本屋で買いました。
鉛筆で200って書いてますので200円で買ったのでしょう。

昔の大阪のことが書いてあります。
読みなおそうかな。



Re: No title
優様

ハハハ…!値段を聞かれたらイヤですね!

私は「どこで買ったの?」だったら聞かれたことあります。

お店の名前を言うついでに、こっちから値段を言っちゃいました!
Re: こんばんは
ヒロちゃん7様

森田たまさんは今は忘れられていますけれども、なかなか著名な文筆家で、参議院議員もなさっていた方ですので、図書館にはきっと蔵書があると思います。

他の部分も面白いですので、ぜひ。
Re: No title
Carlos様

大阪にいらしたことがおありなんですよね。その時の印象でしょうか?

私は何度も飴ちゃんを持とうとするのですが、カバンに入れたまま忘れて、食べないまま溶かしてしまいます。

ナイスなタイミングで人に勧められるようになりたいです。
Re: すっごく驚きました
rockin'様

それはそれは奇遇ですね。

私は正続を単行本で1冊ずつ、「もめん随筆」に関してはふだん読むように、平成6年に出た新潮文庫版を追加で買いました。

筆者が大阪の人じゃないんで、珍しそうにしてるのがいいんですよね。

愛読書なんです。

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