しょうじょの話。

夏の終わりに、小さな思い出が一つ。

日曜日の午後、母は婦人雑誌の洋裁の記事から型紙を写し取り、子供服を縫っている。

小学生の私はそばで腹ばいになり、用済みになった雑誌を見ていた。

イモートは、おひるごはんの後、ツクツクホウシを捕ってくる、と、網を持って飛び出していったきり。

開け放した窓からの風が母の髪をなぶり、畳の上のページをめくっていく。

中に、漢字は読めるけど意味の分からない言葉があった。

おかーさんおかーさん、セーリって何

すると母はなぜか真っ赤になり、手にした縫物を下に置いてしまった。

返事がないので重ねて

ねーねー、セーリって

そう聞くと、やっと

まだ知らなくても、そのうち学校で教えてくれるわよ…

と、返事があったが、けっきょく

ほら、ピアノの練習まだでしょう!

と、ごまかされ、追い払われてしまった。

教育の専門家には叱られそうな対応である。

どんな育児書を見ても、そんな時は恥ずかしがらず、率直に正しい知識を伝えましょう、とある。

しかし、今思い返すと、あれはあれでよかったという気がする。

その言葉には、大人の秘密が含まれていて、子供が軽々しく言ってはいけない、ということ。

時に恥ずかしさを感じる事柄であること。

だけど、学校で教わるほど、重要な問題でもあること。

どんな明快な説明より、不器用でヘタクソな母の反応が、小さい私に理解させたのだ。

夏休みに行った海の遠鳴りと一緒に、裸足だった少女の日の畳の感触が、夏の終わりにはいつも、よみがえる。

こぱとーん



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むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2016/09/03 11:22
コメント
あ、そうなんだ
母=女性⇒娘=女性
であっても、話しにくいんだ。

初めて知りました。
私が小さい時〜、
ママに聞きました〜。
「ねえ、赤ちゃんってお母さんが生むんだから、お母さんに似るのは当たり前だよね? じゃあ、お父さん似の赤ちゃんが生まれるのはどうして?」と。

「アンタの言ってること、訳わからんわ!」
と、はぐらかされてしまいましたが、その時のハハの様子から、何か禁忌に触れたような感触を幼いながらに感じました。

それもまた、意味ある「教育」だと思います。
No title
おはようございます
親として、子供にどのように性教育したらいいのか、まごつきますよね。
きっとお母さんもびっくりしたことでしょうね。

懐かしい思い出ですね。
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Re: あ、そうなんだ
rockin'様

そうですね。私も、娘に向かっては、言えるけどちょっと言いにくいです。

むしろ息子のほうが関係ないだけ気楽かも。
Re: 私が小さい時〜、
Westwing様

親の反応からいろいろと探り出す、というのが昔の子供のたしなみだったと思います。

今の親のように物分かりよくなんでも話されると、探求の楽しみがないですね。
Re: No title
Carlos様

昔の親は今の親のように育児理論は知らなかったかもしれませんが、その姿から子供は学ぶものが多かったような気がします。

本当に懐かしいです。
Re: No title
鍵コメj様

昔のお母さんはやはり女性らしいというか、万事につつましかったんですね。

私はいつも大マジメですので、下ネタを期待されるのは心外です!


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