かいがい話。

前にイタリアに行ってスリに遭った(→ 「いたりあ話。」)ムスメが、卒業旅行でヨーロッパに行くという。

心配してもしかたがないと思いつつ、前回のことがあるので、諸注意を垂れるのだが、本人はヒコーキに乗りもしないうちからウキウキで、上の空である。

ウフフ… ピーターラビットの あの湖水地方も行くんだ~!

ちくしょう、こちとら期末で忙しくって休みどころじゃないってのに。

アンタ 行ったことあるわよ湖水地方… 覚えてないだろうけど

ウソ!

ホントだよ ほら…

アルバムをひっぱりだし、証拠写真を見せてやる。麦わら帽子のムスメが立っているのは、ピーターラビットの家の前である。

えー… 麦わら帽子は覚えてるけど… 

だから二回目だね 湖水地方…

ムスメは軽くショックを受けていたが、なんとか気を取り直し

鉄道でパリ行くんだよ ユーロスター楽しみ!

私もそうだがムスメも乗り物が好きである。

ユーロスターも乗ったよ パリ行って ルーブル美術館でチョロQ遊んだじゃん

マジ?チョロQしか覚えてない

今じゃ家族旅行もままならないが、昔は海外に住んでたので、けっこうアチコチ行ったのだ。

憧れていたアッチもコッチも、実は行ったことがあって、しかも記憶がない、と知って、ムスメは凹んでいる。

いーじゃない!忘れてるんだから初めてと同じだよ!

と、励ましたものの、あんだけアッチコッチ連れてったのに、ホントに何にも覚えてないのか、と思うと、私だっていーかげんガッカリだ。

さもとらけのにけ
(ルーブルの床はチョロQがよく走りますが決してマネしないでください)



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ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/03/08 11:44

さいごの話。

洗濯を干し終えてコーヒーなんか飲んでいたら、ムスコが起きてきた。

あれ?早いじゃん

…今日 学校

ええっ!そうなの?知らんかった!

…明日の…卒業式の予行

高3の3学期に入ってからというもの、ムスコが登校したのは三者面談と予餞会などほんの数日。ずっと学校に行ってなかったので、忘れていた。

久しぶりに学ランを着て、ムスコがひょろひょろ出て行った後、マグカップをシンクに沈めながら、ふと思った。

そういえば最後のお弁当ってやつも 忘れてたな

上のムスメが幼稚園に入ってから、20年近く。途中すこし給食で中断したが、ずっと誰かの弁当を作ってきた。

幼稚園の小っちゃい弁当、遠足はリクエストのサンドイッチ、小学校の運動会は、ハリキって3段のお重詰め。

寝坊した日の海苔弁や、ケンカの翌日の手抜き弁当。いつもの玉子焼き、いつものフリカケ。

ムスコが高校を卒業すれば、私も晴れて弁当作りを卒業だ。

メンドクサガリの私の、毎日のことだから、どのみちたいした弁当じゃないが、それでもいくばくかの感慨はある。

最後の最後、ドラマみたいに、開けた瞬間思わずうッと泣くような弁当を作ってやりたかったが、忘れてたんじゃどうしようもない。

持って行っちゃ持って帰った弁当箱も、玉子焼き専用のフライパンも、お役御免だ。

大学が決まって家を出る時に、弁当を詰めて持たせてやろうか、などと思う。

いやいや、ガラにもないことはよしたがいい。

それより、桜が咲いたら、自分のための弁当を詰めてみよう。そして電車に乗って、降りたことない駅で降りてみよう。

20年見慣れた弁当も、初めての場所の花の下で、自分のために開いたら、きっとずっと美味しいかもしれない。

こうしてだんだん、「お母さん」じゃなくなるんだ。

ハレバレするような、心細いような、不思議な気持ちで、カラッポの弁当箱を眺めた。





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ごかぞく | コメント(12) | トラックバック(0) | 2017/03/01 10:30

うめみの話。

うちの近所には、わりとおいしいパン屋がある。

住宅地の中にポツンと1軒、心細そうに建つ小さなパン屋は、経営が心配になる佇まいであるが、ずっとつぶれずにあるということは、あんがい繁盛しているのかもしれない。

ここに越してきたばかりの頃のこと。日曜の朝、遅く起きたら、朝食のパンがない。

コンビニで何か買おう、と靴をはいていたら、朝ごはんを自分で選びたい子供たちも、寝ぼけ眼でついてきた。

広い通りに出て周囲を見渡すと、赤い三角屋根の、住宅とは思えない建物が見える。

ちょっと行ってみようか

提案すると、ムスメもムスコも異論はない。3分ほど歩いたら、そこにその店があった。

私はこういう時、みょうに気前がよくなる癖がある。トングをカチカチ鳴らし、ムスメとムスコが指さすパンを、次々とトレーにのせる。

レジのそばに、あんまり見たことのないジュースのパックがあったので、それも3つ。

思ったより重くなった紙袋をムスメに持たせて店を出ると、ハレバレと青い空

そうだ、どっか外で食べよう

衆議一決、方向転換だ。住宅地の中の小さな緑地には、犬の散歩をする人がちらほら。

石のベンチに腰かけ、パンを手に持ったら、どこからかふわりと爽やかな匂いがした。

見まわせば、梅の花

うめのはな

梅林というほどではないが、手入れの悪い梅の木が数本、それでもたくさんの花をつけている。

子供と3人、梅が香の中で食べるあんパン。

忙しさに固まっていた心が、ゆらゆらとやわらかく溶けて、晴れた空高く昇っていった。

昨日大学受験を終えて、遅く起きてきたムスコに

梅見にでも行こうか パン買って…

と言うと

イイね…

と、ニッと笑った。

今日は日曜。よく晴れた、梅見日和である。



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ごかぞく | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/02/26 12:00

みおくる話。

ムスコが遠方の大学を受験するので、ターミナル駅まで見送る。

玄関で見送っても構わないようなものだが、実はここんとこあまりツイてないムスコ。

まず、センター試験のあと、気晴らしに出かけた繁華街で、サイフを落とした。

お年玉をほとんど使っていなかったので、中身はけっこうな金額である。

つぎに、家に帰っていた大学生のムスメが、夜中に常にない高熱を出した。

ムスメもかわいそうだが、もしインフルエンザなら、試験日前のムスコに移ったら一大事。

さいわいサイフは奇特な方が警察に届けてくださったし、ムスメの熱もインフルではなく、一晩で下がったのだが、よりによって試験前にこんなことになるとは。

他にもコマゴマつまらないことがあり、行く手に暗雲がたちこめるようで、心穏やかではない。

沈滞ムードのまま行かせるのが心配になり、せめて見送りなりと、と思ったのだ。

とはいえ、18のムスコに母親がくっついていったからといって、何がどうなるわけでもない。

終始ムッとした表情で、ただバスに乗り、電車に乗り、乗換駅に着く。入場券を買っていると

いいよ、ここまでで…

と、うるさそうだが、せっかく来たのだから、と、改札を入り、ホームまでついていく。

やがてムスコの乗る特急が、スルスルとホームに入ってきた。

窓の外から見ていると、ムスコの席はホーム側だ。

見える位置まで移動して、手でも振ろうと思った時、不意に身体が動いた。

その場でピョンピョン飛び跳ね、足を左右に蹴って、グーに握った手を突き上げる。

ポンポンはないけれど、チアガールのダンスである。

ムスコはギョッとして凍りつき、それから噴き出した。

ガラスのむこうでゲラゲラ笑っているムスコを乗せて、特急電車が定刻に発車する。

さあ、私ができることは、もう何もない。

がんばれ、ムスコ!

ちあだん
「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」



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ごかぞく | コメント(20) | トラックバック(0) | 2017/02/25 10:00

おはかの話。

父が亡くなって困ったのは、お墓をどうするかということであった。

父は5人兄弟の三男なので、うちにはお墓も仏壇もなかった。

自分が死んだらどうしろこうしろと、事細かに指図を残す人もあるようだが、物言わずの父の意向は、50年そばにいた母も知らなかった。

うちは女の子しかいないしねえ… 永代供養でいい気もするんだけど…

いいんじゃない だったらタカコおばちゃんと同じとこにしたら?

遠縁のタカコおばちゃんのお参りは、父亡き後、私の仕事になっている。(→ 「やさしい話。」

でも、お墓がなくって、本当にいいのかしら…

さあ… おとーさんって そういうのこだわらない人だったでしょう?

そうねえ…

いっつも「お前らのエエようにしたらエエ」しか言わなかったじゃない

そうねえ…

だから おかーさんのエエようにしたらエエと思うよ

そうねえ…

そうねえ、そうねえと言いながら、話はなかなか決まらずに、春が過ぎ、夏が過ぎた。

秋風が吹き始めたころ、母はを見た。

病院で亡くなったはずの父が、食卓のいつもの位置にいつものように座って、新聞なんか読んでいる、と思ったら、ふと顔をあげ、母に向かって

ちょっと寒いなぁ…

と言ったのだという。

朝起きてすぐ、母は見晴らしの良い丘陵の霊園に、予約の電話を入れた。

やっぱりお墓に入れてあげることにする おとーさん寒いって言ってたから…

母の決めたことに否やはない。丘の上の霊園に、父のお墓ができた。

今年ももうすぐ、父の命日だ。

おぼんのれいえん



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ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/02/21 11:07
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