つりばし話。

有名な大吊橋に行った。

たにせのつりはし

(→ 十津川村観光協会 谷瀬の吊り橋

好んで行ったわけじゃなく、ツアーに入っていたのだ。

なにしろ私は高所恐怖症である。

高いところを避ければいいだけなので、とくに困らないし、このトシで克服する必要もないから、ちょっと吊り橋に来たからって、がんばって渡ったりしない。

他のツアー客が戻るまで、橋のたもとで写真を撮りつつ待っていると、家族連れがやってきた。

お母さんと、小学生くらいの子供が2人。

子供たちがわーい!とばかり橋に向かうのを、お母さんはスマホで撮っている。

ママー!来ないの?

無理!ママ、怖いから…

どうやらこのお母さんは私と同類のようである。

そういえば、ずいぶん前にここに来た時、私も子供だけ渡らせたなあ。

なぜ怖いかといえば、落っこちるんじゃないか、と思うからであり、落っこちるかもしれないのに子供だけ行かせて平気でいるのは、考えてみればヘンな話だ。

ムスコはちょっと怖がりだが、ムスメは小さい時からぜんぜん怖がらない子である。

手をつないだ2人は、振り向いてこっちに手をふったと思ったら、どんどん行ってしまった。

もう手が届かない、大きな谷に渡された細い橋の上。

小さい背中が、もっと小さくなる。

お腹の底がギュッとなるような、奇妙な感覚に襲われた。それは、落っこちる心配とはまた別の、予感のようなもの。

いつか2人とも、こうして遠くに行ってしまうんだな。

悲しみでも寂しさでもなく、確信に近い予感だった。

同じことを、この人も感じるのかな。分からないけれど、お節介おばさんになった私は

3人で撮りましょうか?

気づけば、お母さんに声をかけていた。



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ごかぞく | コメント(12) | トラックバック(0) | 2017/07/15 11:30

えあこん話。

昼休みに携帯を見たら、おばーちゃんから2回着信。具合でも悪いのかと、慌てて折り返す。

なかなか出ないので、不安になっていると、10回目のコールでようやく応答があった。

モシモシ おかーさ…

あーゴメンゴメン! 2階にいたからさ 暑いね!

ふだんより元気なくらい大きな声で、ひと安心。

夏休みの予定など、いいかげんしゃべったので切ろうとすると

あのさー エアコンつけようかと思うんだけど…

ミョーにモゴモゴ言うから、何気なく

いいんじゃない?我慢することないよ つけなつけな!

そう答えると、何かホッとしたように

そうだよね… じゃあね…

電話が切れた。

けっきょく用件は何だったのか、わからないままである。

また別の日。家で仕事をしていると電話が鳴った。

モシモシ 私… 暑いね!

梅干しの浸かり具合など、どうでもいい話をしていると、急に声をひそめ

ねえ… エアコンつけようかと思ってるんだけど…

まるで人生相談みたいな、深刻な口調である。

つければいいじゃん 暑いんでしょ?

答えながらハッとする。もしかして、私に許可を求めてる

おかーさん!おかーさんのエアコンだし おかーさんが電気代払ってるんだから 暑いと思ったらスグにつければいいんだよ!

いやー アタシ1人なのにさ なんかワルイ気がしてさ…

暑がりのおじーちゃんがいた時は、エアコンつけろと指図されていたおばーちゃんは、自分で判断するのが苦手らしい。

父亡き後、これから暑い日には、私が指示したほうがよさそうだ。

こんなリモートコントロールもある、というお話。

しょうにんずみ



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ごかぞく | コメント(14) | トラックバック(0) | 2017/07/08 11:53

おーぷん話。

ショッピングセンターのトイレに向かっていると、角の個室の中から子供の声がした。

多目的トイレというやつである。

だれでもといれ

4畳半くらいの広さで、ベビーカーのまま入れるので、子供が小さい時は私もよく利用した。

まず、子供用の便座にムスメを座らせてから、ムスコのおむつを替え、その後、ようやっと自分が用を足せる。

全部が一室の中で済ませられるのだから、本当に助かった。

その日はとても暑くて、トイレの中で帽子を脱がせたら、ムスメの髪は汗で頭にくっついていた。

アカンボのムスコも、オムツを外すと涼しくて気持ちいいのか、足をバタバタさせている。

ヤレヤレ、次は私の番だ。

ムスメに手を洗うよう促してから、便座に腰かける。

はー…

ホッとするひととき、汗ばんだ額に、冷たい風。

へ?風?

顔を上げると、なんたるちあ、ドアが全開になっている!

そして手を洗っていたはずのムスメの姿が無い

奥の女子トイレに行く人が、驚いてこちらを見ているのと、目が合った。

どうやってドアを閉めたのか、ムスメをどう呼び戻したのか、よく覚えていない。

今はムスメも大人になったが、あの時のことを思い出すと、ボーナスからビールの1杯でもおごってもらいたいものだ、と思う。



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ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/07/02 11:30

びわのみ話。

うちの団地には、大きなビワの木がある。

濃緑の葉の陰に、ビワの実の、うぶ毛にけむる甘い黄色が見えれば、もう夏も近い。

子供のころ住んでいた田舎の家にもビワの木があり、毎年スズナリに実が生ったので、イモートも私も、自由に枝からもいでは、勝手に食べていた。

そのせいか、私はいまだに、おカネを出してビワを買う気がしない。

何年か前、小学生だったムスコに、なにげなく尋ねた。

ねえ ビワって食べたことないよね?

あるよ ヤマモトさんがくれる…

へ?誰?

ヤマモトさんは、団地の管理人さん。

ご夫婦で住込の常駐管理で、暇なときには子供をかまってくれる。

親の私はひと通りのお付き合いしかないが、団地の中で遊んでいる子供にとっては、とても親しい存在だったようだ。

団地の敷地内のビワの実が熟すと、ヤマモトさんは高枝伐りハサミなどを使って収穫し、そこらで遊んでいる子供にくれるらしい。

そんなことになっているとは、とんと知らなかった。

いいニオイだよね ビワって…

母親の私の知らないところで、ビワの味をとうに知っていたムスコ。

いつまでも手のひらにのせている気でいたけれど、ムスコはもう、自分だけの人生を生きている。

これから私が会わない人に会って、私の知らないことを知っていくんだな。

そう悟ったはじまりが、ビワの実だったような気がする。

ヤマモトさんは定年退職され、ムスコも大学生となって、家を離れた。

今はもぐ人のないビワの実が、霧雨に濡れている。

びわのみ



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ごかぞく | コメント(14) | トラックバック(0) | 2017/06/20 11:30

めもする話。

某通販で買い物をすると、B6サイズの明細書がついてくる。

たまたま同時に複数注文したとき、それが何枚もあったので、なにげなくクリップでとめた。

しばらくして、また注文した商品が届いたので、明細書を前のと一緒にした。

定期的に購入する商品があるので、けっこうな勢いで紙の束は厚みを増し、ふと気づけば、その裏をメモに使うようになっていた。

日付と、その日やらねばならないことを書く。例えば

6月18日 梅干しビン 報告書 図書館返却

などと書き、用が済めば線で消す。

雑多な毎日の中で、今日もこれだけできた、と確認し、達成感を得るのは、あんがい悪くない。

先日、通院の帰りに寄ったおばーちゃんが、この明細書の束を目にして、笑いながら言った。

あーら おじーちゃんみたいなことして… 親子ねえ…

思いもよらない指摘に、ギョッとする。

そういえば亡くなった父は、株の配当の明細書の裏を、メモに使っていた。

輪ゴムで止めて、手元に置いて、チョコチョコ何か書いていた姿が、記憶にある。

紙を捨てられない人だった。亡くなった後に、持ち物を整理すると、大量の裏の白い紙が、怖いほどキチーッと整理されて見つかった。(→ ほうふな話。

あれだけはマネしないようにしよう、と思っていたのに、親子ってオソロシイ。

父はもういないけれど、私の中の何かが、たしかに父を伝えている。

今日は父の日

ならづくり
(今年の父の日のお供えは「一番搾り 奈良づくり」)



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/06/18 11:46
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