クラクラ本。

ダレソレさんの奥さんというひとが書いた本が、わりに好きだ。

作家、音楽家、画家、漫画家。面白い人の奥さんは、やっぱり面白い。

坂口美千代は、作家坂口安吾の妻であった女性。

無頼派と呼ばれ、型破りの作風と薬物中毒と奇行の間にあった男とともにあり、子をなした彼女が、夫の没後銀座のバー経営者となってから、書いたのがこの本である。

くらくらにっき
(「クラクラ日記」 ちくま文庫)

ヒロポンやアドルムを常用して中毒になったり、流行作家になっても、浪費で稿料を使い果たし、差し押さえを食らって、あげくに税務署にケンカを吹っ掛けたり、思いつく限りの暴れっぷり。

長男の生まれる前夜には、酒と薬で錯乱状態になり、留置場にぶち込まれている。

読んでるだけで疲れるような夫なのだが、このひとの書きぶりは終始、のんきで客観的だ。

言葉の行きがかりで、おまえに心中というものを教えてやる、と言われ、2人で死にに出かけたものの、シナソバ屋でチャプスイを食べて、人力車で戻ってくる話など、ほんの薄い皮いちまいの向こうに、真っ黒くろの死のかたまりを見ながら、不思議におかしくて、笑えてくる。

薬物中毒状態の安吾に、真夜中、3分で酒を買って来いとか、ライスカレーを百人前取り寄せろとか、難題を押し付けられて応対に苦心したことなども、克明に記録されており、文字通り死ぬ思いをしているはずなのに、なぜかどこか楽しそうだ。

安吾が死に、すべてが終わって、若くて無茶だった日々を振り返っているからかもしれない。

こういう大変なご亭主というのは、早死にしてもらうのが平和である。そうすれば大変な目をした奥さんが、面白い本を書くことができる。

本日、安吾忌




にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ




ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/02/17 11:30

セツブン本。

今日は節分

流行りの恵方巻には、いたずらに反感を抱いている(→ せつぶん話。)私だが、逆に昨今すたれ気味な豆まきは、大マジメにやっている。

スーパーの乾物売り場で、鬼のイラストのついた福豆の袋を見比べていたら、子供の頃を思い出した。

実家の豆まきは、母と子供だけでやっていた。父は仕事でいなかったのか、いたけど参加していなかったのか、よくわからない。

はじめはマジメに鬼は~外~とやっているが、クレヨンで描いた鬼のお面をかぶって豆を投げているうちに、イモートと私は次第にコーフンしてふざけだす。

キャーキャー言いながら豆をぶつけあっていると、母がとつぜん

あかのっぽあおのっぽ、か…

と言ったのだ。

あかのっぽあおのっぽ?

何の脈絡もなく出てきた謎の言葉を、その時聞き返したのか、どうだったか。

それは何?と聞いたけれど、はかばかしい答えは得られなかったような気がする。

もう何十年とそのまま、私の脳ミソの底に沈んでいた疑問が、いま不意に浮かび上がってきたのである。

ありがたいことに今はネット検索というものがある。

あかのっぽあおのっぽ
( 「赤ノッポ青ノッポ」武井武雄 )

昭和の小学生今野桃太郎君が、鬼ヶ島の鬼を日本に招待し、一緒に小学校に通う、というお話らしい。

赤ノッポは赤鬼、青ノッポは青鬼の呼び名なのだ。

半ズボンをはいてランドセルをしょって、小学校に入学した赤鬼と青鬼が、珍騒動を引き起こすのだが、この鬼たちが子供の鬼ではなく、スネ毛にひげヅラのオトナの鬼なのがおかしい。

武井武雄という人は童画家ではあるが、鬼ヶ島の鬼を子供向けにかわいらしく描こうという配慮は一切なく、異界の怪物の姿で、ちゅうちょなく気味悪く、恐ろしく描いている。

いくら鬼の面をかぶっているとはいえ、かわいい年ごろの娘たちを見て、この鬼を思い出すというのは、ちょっとヒドイ。

母が説明をためらった気持ちが、今わかる気がする。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ



ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/02/03 11:31

イソップ本。

ムスコの受験に、学資の金策、来たるべき一人の老後など、悩み多いお年ごろ。

のび太並みの就寝スピードを誇る私(→ ねむたい話。)にも、眠れない夜はある。

そんな時こそ寝床で読書だ。

長編小説は途中でスジを見失うし、あまりドラマチックな内容では興奮して眠れなくなる。

だからといって退屈な本は読みたくない。

あれはダメ、これはどうかと試行錯誤して、良い本を見つけた。

いそっぷぐうわしゅう
(「イソップ寓話集」岩波文庫)

誰でも子供の頃、1つや2つは読んだことのある、イソップの寓話集である。

長くても10行そこそこで、単純でわかりやすい筋立てのたとえ話が、順不同に並んでいる。

ただ面白く読み飛ばしても、そういえば私も…とわが身に思いを致してもいい。

中には、いったい何の教訓なのか、意味不明なお話もある。

キツネとワニがお互いの家柄を競いました。
ワニは自分の先祖を自慢して、「私のご先祖は体育館長をしていたのだぞ」と言いました。
キツネは「なるほど、君の皮膚を見れば、長年身体を鍛えてきたことはよくわかるよ」と答えました。
このように、事実はまた嘘をつくものをすっぱ抜くものです。


なんのこっちゃわからないが、なんとなくおかしい。

わかったり、わからなかったり、脳にほどよい波状の刺激を受けるうちに、とろとろ眠くなる。

ベッドサイドに最適の本だ。

もう1つ紹介しておこう。

ラクダが激流を渡りながら、こらえきれずに糞をしました。
激流に流された糞が、目の前を通りすぎていくのを見て、ラクダが言いました。
「これはしたり、私の後ろから出たものが、私の先を進んでいくとは!」
これは、最も劣った考えのない者が、思慮深い人を差し置いて、力を得ている国に当てはまります。


ラクダの糞がリーダーになる国とは、いったいどこだろう。

※(注) 紹介した寓話は内容に影響しない程度に原文と表現を変えています



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ



ブックガイド | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/01/24 10:59

センター本。

日本全国を襲った記録的大寒波の中、どうにか無事センター試験が終了したムスコ。

世のご家庭では、ピリピリしたこの時期の受験生を腫れ物のように扱うのだろうが、わが家にはそういうデリカシーや配慮は無い。

帰宅したムスコを捕まえて聞く。

そんでどーなのよ、デキのほうは!

…んー… 普通

聞くだけムダだった。この男はいつもいつもいつも

…普通…

しか言わないのだ。

自己採点は、高校に行って、いっせいにやるというので、結果はお預けである。

夕飯の支度をする間、何やらゴソゴソやっていると思ったら、キッタナイ部屋を片付けているらしい。

2次試験に向けて、心機一転、キレイな部屋でがんばろう、ということか。さっそく感心感心。

しばらくしてドサッという音がしたので見てみたら、古紙の置き場が本やノートでいっぱいになっていた。

一番上にはこんな本。

9わりとれるちり
(直前30日で9割とれるセンター地理)

捨てんの早えな!

しかも、直前30日という、驚きの寿命の短さ

まあ、税込1,296円を30で割って、1日43.2円と考えたら、そう高くないのかもしれない。

本当に9割取れてれば、の話であるが。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ




ブックガイド | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/01/16 11:23

ソウセキ本。

夏目漱石について、語るべきことは何もない。

猫や坊ちゃんの江戸前の笑談は、関西人の私にはいっこう通じないし、かといって則天去私などと深刻ぶられても、さらに面白くない。

今年は漱石の素顔を描くドラマなども次々放映されるが、見ない。だいたい私は、外でいい顔をしてきて、家で妻子に当たり散らす男はキライなのだ。

そのくせ、漱石のナントカ、などとという本を見るとつい読んでしまう。

漱石山脈などという言葉があるように、彼の周囲には彼を師と仰ぐ若者が集まっていた。木曜が面会日、と決めないと、仕事に差し支えるくらい、うじゃうじゃ集まった。

なんぼ洋行帰りの文学者だといって、40そこそこの若いヤツが、もっと若いヤツを集めて喜んでいる、そのことが不思議で興味深い。

こういう集まり方を女はしない。

男、それも若い男のすること、という感じがする。

集めたんじゃない、先生のご人徳を慕って集まったのだ、と言う人もあるかもしれないが、本人が嫌がってるのにそんなになるわけがない。

迷惑顔をしつつも内心では嬉しがり、余は苦しゅうないという態度であったればこそ、山をなすほど人が集まったんである。

師弟といっても何を習うでもない。若々しい野心と未熟な自尊心のまま、ただ集まって、各自の趣味やら失敗談やら、披露しては月旦している。

そんなわちゃわちゃ感、うだうだ感がよく出ているのがこの本。

せんせいとぼく
(「先生と僕 ~夏目漱石を囲む人々~」)

漱石門下が実名で登場し、それぞれに、大好きな先生に愛されたいと願いながら、仲良くしたりケンカしたりしている、その感じは男子高校生の集団とそう変わらない。

夏目漱石が49歳で亡くなったのが、ちょうど百年前の今日である。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談 ブログランキングへ




ブックガイド | コメント(10) | トラックバック(0) | 2016/12/09 11:38
« Prev | HOME | Next »