ねごとの話。

…から、おいでよ!

自分の声で目が覚めた。大きな寝言を言ったらしい。

フトンの中で反芻してみる。

誰かを誘ってたな、私。

電話だった気がするな。

何だからおいで、なのかな。

目をつぶって、霞のかかった夢の中を、手探りで戻る。

……… ハッ!

思い出した。

ウタダヒカルも来るから、おいでよ!

そう言ってた、私!

一体全体、どういう設定?

おいで、と言うからには、私が主催する集まりだ。

そこに、あの、世界の歌姫が来るというのだから、これはエライことである。

それなのに、まるで友だちが来るから、というような気軽な口調だった。

思い出すと次々記憶が蘇るが、電話して誘っている誰かも、たしか相当な有名人だった。

夢の中の私は、おおぜいの有名人を誘って、ホームパーティー的なものを開くようだ。

どんだけセレブなんだ、夢の中の私!

いつもいつも、日常の延長みたいな地味でシケた夢しか見ない私(→ またみた話。)にしては、かつてない豪華さである。

窓に目をやれば、外はまだ暗い。

それにしてもを誘ったんだろうな、私。

靄がかかったようで思い出せない。

ウタダヒカルも来るから、おいでよ!

口の中でもう一度、小さく言ってから寝返りを打ち、夢の底にまた沈んでいった。


うただひかる
(南アルプスにお邪魔した後、うちに来るらしい) 



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もろもろ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/06/23 11:30

りぞーと話。

あー!えらい目に遭った!

悲鳴を上げながら、ミヤケさんが事務所に飛び込んできた。

あら、また降ってきた?

夜半から朝にかけて、気象警報の出るほどの大雨

それがお昼になって嘘のように上がり、照りつけた日差しがあっという間にアスファルトを乾かした。はずだった。

外を見れば、一天にわかにかき曇り、大粒の雨が窓を叩いている。

どうなってんだろ、この天気…

ハンカチでスカートの裾を拭きながら、ミヤケさんがこぼす。

梅雨って感じじゃないよね スコールっていうか…

日本は もう熱帯になったのかもね

もはや温暖化じゃなくて、熱帯化か…

えはがき

熱帯もリゾートならいいけどね

ハハハ…おんなじ家に帰ってたんじゃ リゾート感覚はムリかァ

じゃ、違う家に帰る?

へ?

アタシ、ぢょん子さんちに帰る!

ハハハ…そんでアタシはミヤケさんちに帰るのか! ミヤケさんち、一戸建てだっけ?

そうよ お宅はマンション?いいなァ、憧れてんのよ、マンション暮らし…

イイかもね ひとんちでリゾート…

熱帯だもんね、日本…

ムダ口をききながら、残りの仕事を片付けるうち、雨はまた小降りになってきた。

お疲れ様~、と言いあって、事務所のカギを締め、右と左に別れた。

もちろんそれぞれ、自分の家に帰るのだ。大人だもん。冗談をホントにしたりはしない。

カサを打つ雨の音が、また少し大きくなった気がして、急ぎ足で駅に向かった。



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ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/06/22 11:30

とけいの話。

ご不浄を出て、つい首をかしげる。

本来の用件はスッキリと終わっているのに、この物足りない気持ちは、なんだろう。

かすかな違和感の正体が知れぬまま数日。

今朝やっと、その理由が分かった。

時計が無い

寝室に置いていたデジタル時計の液晶がだんだん薄れ、ついに見えなくなった。

そこで、ご不浄の窓枠にのっけていた、オモチャみたいな小さな時計を持ってきたのである。

若い頃は、ものすごい音量の、目覚まし時計を使っていた。

それでも起きられなくて、2個の目覚まし時計を、毎日違う、離れた場所に仕掛けたりした。

夜中に色々工夫して目覚ましをセットしていると、翌朝の自分を罠にかけるような、ヘンな気持ちになったものだ。

そんな私も齢50を数えて、すっかり目覚ましともご無沙汰になり、昔のような大音量で目覚ましが鳴ったら、ビックリするあまり、逆に一生起きられなくなってしまうかもしれない。

ふだんは自然に起きるし、それどころか、ウッカリ早寝すると、朝まだき、3時や4時に目が覚めてしまう。

まだ暗い中、ふと目が覚めた時、今何時か分からないのはちょっと不便。

だから枕元に時計が必要なのである。

同じ人間が、同じように寝室に時計を置いていても、それを必要とする理由は、昔と今ではぜんぜん違うのだ。

まだ暗い中、毎日必ず見る時計。

ご不浄の時計は元の場所に戻そう。ありものの間に合わせはよして、じっと眺めたくなるような、ステキな時計を買おう。

久しぶりに欲しいものができたので、ちょっと楽しい気分になった。

めざましどけい
(こんな時計でも面白いかもしれない)



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もろもろ | コメント(14) | トラックバック(0) | 2017/06/21 11:30

びわのみ話。

うちの団地には、大きなビワの木がある。

濃緑の葉の陰に、ビワの実の、うぶ毛にけむる甘い黄色が見えれば、もう夏も近い。

子供のころ住んでいた田舎の家にもビワの木があり、毎年スズナリに実が生ったので、イモートも私も、自由に枝からもいでは、勝手に食べていた。

そのせいか、私はいまだに、おカネを出してビワを買う気がしない。

何年か前、小学生だったムスコに、なにげなく尋ねた。

ねえ ビワって食べたことないよね?

あるよ ヤマモトさんがくれる…

へ?誰?

ヤマモトさんは、団地の管理人さん。

ご夫婦で住込の常駐管理で、暇なときには子供をかまってくれる。

親の私はひと通りのお付き合いしかないが、団地の中で遊んでいる子供にとっては、とても親しい存在だったようだ。

団地の敷地内のビワの実が熟すと、ヤマモトさんは高枝伐りハサミなどを使って収穫し、そこらで遊んでいる子供にくれるらしい。

そんなことになっているとは、とんと知らなかった。

いいニオイだよね ビワって…

母親の私の知らないところで、ビワの味をとうに知っていたムスコ。

いつまでも手のひらにのせている気でいたけれど、ムスコはもう、自分だけの人生を生きている。

これから私が会わない人に会って、私の知らないことを知っていくんだな。

そう悟ったはじまりが、ビワの実だったような気がする。

ヤマモトさんは定年退職され、ムスコも大学生となって、家を離れた。

今はもぐ人のないビワの実が、霧雨に濡れている。

びわのみ



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ごかぞく | コメント(14) | トラックバック(0) | 2017/06/20 11:30

さされた話。

今年初めての蚊に刺された

かのばか

場所は団地のエレベーターの中

記憶をたどれば、たしか去年も一昨年も、最初に刺されたのはこのエレベーターの中だった。

バタバタ1日の仕事を終え、帰宅ラッシュをかき分けて、ようよう家にたどり着き、しばらくぶりに1人になる、それがエレベーターだ。

扉が閉まって、階数ボタンを押して、ふーっと思わずタメイキをついた、まさにその時

…むい~~~ん…

どこからともなくヤツの羽音が聞こえてくる。

狭い函の中、懸命に目を凝らしても見えず、気づけばどこかしらを刺されているのである。

エレベーターを降りて、いまいましくも刺されたヒジを、反対の手でボリボリ掻きながら考えた。

夏の夜は、よそでエレベーターに乗っても、かなりの確率で中に蚊がいる。

エレベーターというもの自体に、何か蚊を惹きつけるものがあるのだろうか。

それとも、エレベーターと見れば蚊を仕込んでおく、悪の組織のしわざだろうか。

エレベーターの底のどこかで、うじゃうじゃボーフラが湧いているところを想像しかけたが、怖くなったのでやめた。

函の中で、ホーッとつくタメイキの炭酸ガスが、蚊を呼ぶのかもしれない。

今日もどこかで、誰かがタメイキをつき、そして蚊に刺されている。

暑く、かゆく、くたびれる、夏がやってくる



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もろもろ | コメント(15) | トラックバック(0) | 2017/06/19 11:44
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