ふうふの話。

両親は、特に仲の良い夫婦ではなかった。

家のことには無関心で、昔風の男であった父と。

楽しいことやキレイなものが好きで、ずっと女学生気分の抜けない母と。

けっして相性がよろしいとは言えなかったと思う。

口の重い父から、母への不満を聞くことはなかったが、母はよく父のことを愚痴った。

まったく 何が面白くて生きてるんだろう!

いくら言っても○○してくれない!


○○の部分は、その時によっていろいろだった。

50年近い結婚生活の中でも、何度か危機はあったようだ。

詳しい事情は子供だから分からなかったが、父が金銭的に大きな失敗をした時のことは、うっすら覚えている。

両親が夜更けまで何か話し合っている。フスマの隙間から細い光の筋と、ぼそぼそと話し声。

時折、感情が激した母の声が

…貴方はいっつもそうして……私は…

言葉が聞き取れるほど高くなると、父がシッとなだめ、寝ている私と妹の様子をうかがう。

私はあわてて目をつぶり、くうくう寝息を立てている妹にならった。

朝起きてみれば、いつもの父と母なのだが、2人の間にはよそよそしい空気が流れている。

そんなことが何日続いただろう。母は日に日に疲れて、ついにある日の晩。

お母さん… ご飯作れない… これ食べて寝てね

私と妹の前に、牛乳と菓子パン、大好きな神戸屋のマイケーキが置かれた。

夢の中で、泣き声を聞いた気がした翌日、

ねえ お母さんがおばあちゃんところに行くって言ったら ついてくる?

え、いつ?どれくらいで帰る?

もうずっと…たぶん、このおうちには帰らない…

何と返事をしたのだろう。イヤだ、と言ったのか、言えなかったのか。

私と母の間をオロオロと行ったり来たりする、小さい妹の姿だけを覚えている。

けっきょく母は出て行かず、家にとどまった。

それから父が亡くなるまで、相変わらずブツクサ言いながら、母は連れ添ったわけである。

あーゴメンゴメン!お水あげるの忘れてたわ!

今日も、父の仏壇あいてにモノを言っている母。

こらえ性なく所帯崩しをしてしまった私には見えないものを、母は見ているのだと思う。

今日はいい夫婦の日

こうべやまいけーき
(近頃売ってるのを見ない、神戸屋マイケーキ)



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/11/22 11:30

たごさく話。

久しぶりに晴れた日の午後、

駅まで出ておいでよ お茶でもしよう

歯科か、眼科か、整形外科か、とにかく何かの通院がえりのおばーちゃんから電話がかかる。

オゴってもらえるのは嬉しいが、着替えがめんどくさい。

なにしろ自宅にいる時の私の風体はヒドイのだ。

ユルユルのシャツとズボンに綿入れハンテン。前髪を押さえるハチマキを締め、首にはタオルを巻いている。

まるで昔の浪人生のような姿だ。

むかしのろうにん

時間がなくて、ハンテンをジャケットに着替えただけで出かけたら

なにその田吾作みたいなカッコ!

オシャレなおばーちゃんに叱られたこともある。

いくら50を過ぎても田吾作呼ばわりはやっぱり悲しい。ちゃんと着替えて行くことにしよう。

待ち合わせの店に行くと、おばーちゃんはチラリと私の全身に目を走らせたが、ノーコメント。

ほとんど褒めない人である。何も言われなければ合格なのだ。

お茶とケーキと地元情報の交換でしばし。

あ、私、お手洗い…

じゃあ私も…

用を済ませ、並んで手を洗っていたら、鏡に映った衿元に、ヘンなものが見えた。

アレ?

ズルズルズル…とひっぱりだせば、それはなんとタオル。首に結んだまま外出着に着替えてしまったらしい。

首元にタオル、まさに田吾作スタイルである。

ギャー!ハズカシイ!

どうしたのよ 何騒いでるの

おかーさん!私、こんなタオル巻いたまま… 教えてよ

アラそう?

おばーちゃんはキョトンとしている。

田吾作スタイルで駅前をウロウロしてしまったことももちろんショックなのだが

わかんなかったワ いつもと同じだから…

おばーちゃんにそう言われて、二重にショックである。



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ごかぞく | コメント(12) | トラックバック(0) | 2017/11/02 11:30

おでんの話。

1人暮らしも半年が経過、自分のペースができて、快適に暮らしている。

秋も深まり、肌寒い時季。スーパーの入り口でカゴをとりながら、今日はおでんだ、と思った。

ホカホカと暖かい湯気を上げるおでん鍋を思い浮かべ、ウキウキとたのしい気分になる。

文章なので「おでん」と呼ぶが、関西人なので本当は関東煮(かんとだき)と言いたい。

おでん

うちのおでんはおいしい。

といっても、とくに秘伝や隠し味があるわけじゃない。

おでんの秘訣はただ一つ、多種多彩な具をバランスよく、大量に煮る。それだけでいい。

だから、おでんを作る鍋はうちでいちばんデカい。

青果売り場でダイコンとジャガイモを、冷蔵の棚から厚揚げとチクワをとり、練り物を見ている時にハッと気がついた。

私、1人だった!

鍋にいっぱいおでんを煮ても、とてもじゃないが食べきれない

カレーやシチューなら冷凍もできるが、具の大きいおでんではそれも無理だ。

来た通路をもどって、カゴに入れた食材を1つずつ、もとの売り場に戻す。たのしい気分が1つずつ、消えて行く。

コロッケを2コ買ってスーパーを出たら、ヒューと冷たい風が吹いてきて、軽いレジ袋をカサカサと鳴らした。



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ごかぞく | コメント(14) | トラックバック(0) | 2017/10/23 11:30

ふぇあの話。

老舗デパートの催事場は、オシャレでお金持ちそうなマダムでごったがえしている。

そう、恒例の英国フェアだ。

えいこくふぇあ2017

おばーちゃんが楽しみにしているこの催し、衝動買い抑止係として、私も毎年随行する。(→「かわれた話。」

しかし、おばーちゃんの買い物欲の前に、抑止係の任務は失敗に終わるのが常である。

前回は、タタミ2畳はある巨大なスコットランドのストールを、その前は、メマイするほど複雑な編み込みセーターを、混雑に紛れ、一瞬目を離したすきに、買われてしまった。

さらに恐ろしいことに、そのいずれも、おばーちゃんが身につけているところを見ないのである。

おそらく、魔窟状態の実家の収納のどこかに、新品のまましまい込まれているのであろう。

おばーちゃんの老後の財政を考えても、かような散財は避けねばならぬ。

混んだフロアに所在無げに立つ私の、内心は決意に満ちているのである。

フィッシュ&チップスや焼きたてスコーンのブースを通り過ぎ、タータンチェックにひっかかり、ヴィクトリアンジュエリーのショーケースを覗く。その背後に影のように控え

カワイイ! よく似たの持ってるよね…

ステキ! でも おかーさんには重いかな…


さりげなく口をはさんで、買い気を削ぐ。われながら頑張ったと思うが、ふと気が緩んだ。

あ!あれ見て!

指さす先に、フラフラ従ってしまう。

ホラ!アンタんちのカップと同じ柄よ!

イギリスに住んでいる時、古道具市で買ったカップは、80年ほど前の品物だった。

そのカップと同じ模様の、楕円形の大皿

気づくとおばーちゃんはお店の人と話している。

カワイイわよねえ このお花の模様…

そうですねえ コレクターもいらっしゃるんですよ もうこれも残り1枚で…

最後の1つ、というのは、おばーちゃんにとっての魔法の言葉である。

電光石火、おばーちゃんのサイフが取り出され、口をはさむ間もなく売買が成立した。

あー、またやられた…。

ガックリしながら、プチプチで包まれていく、デカい皿を見つめた。カウンターを離れながら

ハイこれ

厳重に包装されたお皿の入った、2枚重ねの百貨店の紙袋を、おばーちゃんは私によこした。

へ?

あげる カップとお揃いで カワイイでしょ

自分のじゃないの?!

いやー、欲しいと思ったけど ウチにあってもさ… アンタんちにあるほうが…

自分のじゃなくても、欲しいものを買えたおばーちゃんは満足そうだ。

買って3秒、これは新記録である。



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ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/10/15 11:34

おんどく話。

朗読がテーマのドラマを見た。

このこえをきみに

声を出して本を読む、ということが、かたくなだった男を変え、家族を変え、周りを変えていく、という内容である。

そこまでうまくいくかあ?とも思うが、最近は学校教育でも、朗読は重視されているらしい。

うちの子たちが小学生の頃は、教科書の音読が宿題に出た。

子供は厚紙に枡目の紙を貼りつけたおんどくカードというものを持たされている。

夕飯の支度をしながら、子供が教科書を鼻の前に立て、棒読みに読むのを聞く。終わったらカードの「おうちのひと」の欄にハンコを押せば完了。

2学期も後半、国語の教科書が「上」から「下」に代わり、その日ムスメが読み始めたのは、初めて聞く話だった。

…かげおくり ってあそびを ちいちゃんにおしえてくれたのは おとうさんでした…

いつもの退屈な時間…と思っていたのに、気づけば鼻がツーンとして、前が見えなかった。

ちいちゃんのかげおくり
「ちいちゃんのかげおくり」 あまんきみこ作

一本調子のムスメの声が、小さい女の子のつらいお話を、心に染み込ませる。

この忙しい時に、なんちゅう悲しい話を聞かせてくれるんだ!

半分怒りながらも、涙とハナミズが止まらない。

ムスメは自分が母親を泣かせたと知ってか知らずか、驚いてポカンとしている。

こうなっては料理どころではなく、その日のオカズは1品減った。

今日のドラマでは、主人公が小学1年生の教科書に載っている「くじらぐも」を朗読するらしい。(→「この声をきみに」 NHKドラマ10

これは泣くやつではないので、安心してご覧ください。



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/10/06 11:30
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