おひがん話。

お彼岸なので、おばーちゃんともども墓参に行く。

霊園は丘の上で見晴らしはいいが、最寄りのバス停からの上り坂はちょっとキツい。

おばーちゃんがヒザを痛くしてからはタクシーをお願いするようになった。

今日の運転手さんは、70年配の愛想のいいオジサンだ。短く刈った頭は白髪だが、つやつやした顔色が元気そうである。

雨の後ですけど 今日はまた いいお天気になって良かったですなあ

ホントに… ウチのお父さん 晴れ男で…

そういえば お墓参りで雨だったこと ないかもね

あたりさわりのない、車内のおしゃべり。

ここで終わればまあ普通だろうが、そうならないのがおばーちゃんの恐ろしいところである。

いつの間にか話題は、天気から運転手さんのプライベートにグイグイ入り込んでいる。

…アラ!まあ!奥さんが?

ハア… 50になるやならずで倒れましてなア… それからずっと家で看てます

そんな長いこと… 偉いねえ!

まあ それまで苦労させましたからなア 

いやいや 誰にでもできることじゃないわ!ご立派よ!ヘルパーさんは頼んでおられるの?

今日会った人にどこまで踏み込むのか、ヒヤヒヤするうちに霊園に到着した。

おぼんのれいえん

待っていただくようにお願いしてクルマを降り、タクシーが見えなくなったところで

もー!おかーさん!まーた はじめて会った人にズケズケと…

大丈夫よ イヤなら返事しないだろうし 怒ってなかったでしょ、運転手さんも

だからってあんな根掘り葉掘り…

いいのよ ああいう苦労話は したほうがいいの!

ええ~?そうなの?

そうよ!知り人やら身内には かえって話しにくいの もう会わない相手なら気楽でしょ? 

おばーちゃんは自信満々だが、そういうもんなんだろうか。

おじーちゃんが病気して、動けなくなって入院して、その間に、そんな気持ちになったことがあるのだろうか。

知らない人に、つらい気持ちを聞いてもらったことがあるのだろうか。

お参りを終えて駐車場に戻ると、クルマの向きを変えてタクシーが待っていてくれた。

おかげさまで 良いお参りができました

報告すると運転手のオジサンは

来るまでは億劫でも 済ますとスッキリしますな お彼岸は…

ハンドルを切りながら、横顔でほほえみを見せた。

オジサンも、ちょっとはスッキリしたのだろうか。おばーちゃんは窓の外を見ながら、われ関せずとハナウタなんか歌っている。



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ごかぞく | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/09/25 11:30

ゆうやけ話。

ベランダに出た途端、うわあ!と声が出た。

ゆうやけ

キレイを通り越して、たいへんな夕焼けだ。

いそいで洗濯物を部屋に投げ込み、手すりにヒジをついて眺める。

見ている間に雲が流れ、茜色から紫へ、無段階に刻々と、空の色が変わっていく。

まだ明るい時間なのに、不思議なほどしんと静かで、私の他には眺めている人もないみたい。

せっかくの贅沢な独り占めを楽しめばいいのに、もったいない気がするのは貧乏性の悲しさ。

ねえねえ、夕焼けキレイだよ

言葉は声に出さないまま、中空に消えて行く。

てんでバラバラに離れて暮らす、私の家族。誰かに言いたくても、誰もいないのだ。

ガラにもなく空なんか眺めたせいだろうか、

今、ミサイルが落ちてきたら、みんな会わずに死ぬんだな

なんて思ってしまった。

空に深い藍がさしてきた。冷えてきた肩をこすって、部屋に入った。



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/09/15 11:30

ばらばら話。

しばらく会ってない友達と、電話で話す。

えー、じゃあ、ムスコ君も家にいないの?

ウン 大学遠いし、通うのは無理…

家族バラバラだね 心配じゃないの?

そう言う彼女は、成人したお嬢さん2人を自宅から職場と大学に通わせている。大学を決める時も、就職の時も、家から通える、というのが条件だったという。

こういうことは個人の考え方なので、お互い指図がましいことは言わないが、2人の子供をてんでバラバラに外に出して平気でいるなんて、気が知れない、と、彼女は思っているに違いない。

まあ心配っちゃ心配だけど、いつまでも後をついて回るわけにもいかないしね

でもほら地震とか、最近だとミサイルだとか…

あーねー…

あいまいに言葉を濁して、話題を変えた。

一緒にいてミサイルから逃れられるとは思えないが、遠くにいる子供のところに、大災害があったら、という危惧は常にある。

離れ離れでは、助けることも、話すこともできないと思うと、ギュッと胸が苦しくなる。

でも、逆に、私の家のほうに、何か起こったとしたら。

ああ、あの子らが うちにいなくて良かった

私はきっとそう思う。

一緒だと3人全員に災難が及ぶけれど、離れてさえいれば、1人でも助かるかもしれない。

もう死ぬ、という瞬間でも、子供は大丈夫だ、と思えたならば、そこに希望はある。

こんな考えはたぶん少数派で、家族は共にあるべきと信じる彼女には、理解の外だろう。

だから、そんなことは言わないで、電話を切った。

みさいるらっか
(一応読んでみたが何をすればいいのかわからない)



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ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/08/29 11:30

ごかぞく話。

去年から空室になっていた上の階(→ まきまき話。)で、工事していると思ったら、新しい方が入るようだ。

日曜の夕方に、ご挨拶にいらしたのは、私と同年輩のほっそりした女性と、上品な年配の女性。

ツマラナイモノデスガ…

の紋切り型から、少しだけお話した。

9月から、私と、母と…

お2人ですか、気楽でよろしいですね

いえ、あとオトウトが… 2人ともドクシンで… おハズカシイ…

いかにも恥ずかし気に身を縮める彼女に、あわてて

あ、お、男の方がいらっしゃると ご安心ですわよね!

なんとか取り繕う。

部屋に戻って、ご挨拶の品から熨斗紙を剥ぎながら、いい感じの家族でよかったな、と思った。

お母さんと姉と弟の3人家族、というと、うちと同じ家族構成である。

娘さんが私と同年輩ということは、わが家の30年後はあんな感じかもしれない。

80の私と、50のムスメと、45のムスコかあ…

うーん、なんというか、上の階のご家族にはワルイけど、ちょっとアレだなあ。

ムスメよ、ムスコよ、うちに戻ってくるなよ!

暮れはじめた空に向かい、とりあえず強く念じたが、届いたかどうかは、わからない。

ごかぞく



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/08/28 11:30

からのす話。

淡青色の朝の空を、小さな黒いハサミが、小気味よく切り分けていく。

ツバメだ。

軒でジュクジュク言っていた仔ツバメもとうに巣立ち、用済みの巣は空っぽの口を開けている。

日本を離れる秋までは、親も子も、どこか茂みの中に宿って夜を過ごすのだろう。

せっかく安全な巣を作ったのだから、全員は無理でも、親だけでもそこで寝ればいいのにと思うが、それは人間の考えで、ツバメにとって巣は子供を育てるためだけの場所らしい。

考えてみれば、野生動物はみなそうだ。人間は、家を建てると愛の巣とか呼んで喜んでいるが、巣は家ではないのである。

子供が巣立った後、同じ場所に同じように住み続けているのなんて、人間だけだ。

ツバメに不動産は無く、実家も無い

空を飛ぶ鳥のかろやかさは、古い巣を顧みない潔さ、かもしれない。

つばめさん



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ごかぞく | コメント(4) | トラックバック(0) | 2017/08/23 11:30
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