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つりーの話。

年末の公演を前に、合唱団の練習も大詰めだ。

指揮者の熱の入った指導のもと、全曲をさらった日の帰り道。

すっかり疲れて、口数も少なく吊革にぶら下がっていると、隣のオオタケさんが小さく

あ、

と言った。

微笑を含んだ横顔に目をやれば

あの…あそこ 大きな木があるでしょう?

ちょうど通過したのは、暗くなった駅前広場。

ああ…ありましたかねえ…

思い浮かべようとしても、記憶はモヤモヤと像を結ばない。

あるの 大きな、三角の木

三角の…?

それがどうしたんだろう、と思ったのが、顔に出たかもしれない。彼女はちょっと恥ずかしそうに

ツリーの飾りつけすればいいのに って、いつも思うのよ…

言われた途端、広場の真ん中に立つ、大きな木が絵になって浮かんだ。あの木を電飾で飾ったら、さぞかし心浮き立つ眺めだろう。

木の姿は私だって目にしていたのに、これっぽっちも思いつかなかった。

並んで吊革につかまり、同じように車窓を見ながら、彼女はそんな素敵なことを考えていたのか。

クリスマス近く、街はイルミネーション。

窓の外は暗く寒々しいけれど、オオタケさんの夢のツリーは、私の胸を暖かくした。

くりすますつりーのいるみねーしょん



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ごきんじょ | コメント(1) | トラックバック(0) | 2019/12/15 11:30

ゆうせん話。

週末、お友だちのヤマダさんと、電車でお出かけ。

乗り込んだ急行列車は、始発駅から観光客でそこそこの混雑。

空席は見つからず、並んで吊革にぶら下がった。

ヤマダさんとはお稽古ごとで知り合い、お話しするうちに共通点も見つかった。今日ははじめて、2人で外出するのだ。

お互い好感はあるけれど、まだまだ会話はデスマス調の、これくらいの距離感はわるくない。

穏やかに会話していたら、斜め前に女子高生がいるのに気づいた。

部活帰りらしいスポーツウエアで、1人は座席に、もう1人はその前の吊革を持っている。こちらを見ながら、顔を寄せて相談していると思ったら

あの… どうぞ…

座っていた子が、ひざのバッグを胸に抱え、立ち上がった。吊革の子も半身になって道を開け、手のひらで空席を示している。

示した相手はヤマダさんである。

アラ… アラアラ…

当惑して顔を赤らめ、いちおうは辞退したものの、ニコニコと善意に満ちた女子高生たちに背中を押されるように、席についた。

若い子の親切は気持ちがいい。立ったままの私まで、譲られた座席の温みを感じた。

さて目的の駅に到着だ。

視線を下にしていたヤマダさんに声をかけ、一緒にホームに降りる。

いい子たちでしたね、そう言おうと口を開けかけたら

ショックだわァ…

タメイキ交じりの言葉に、先んじられた。

たしかに、私より少し年上の彼女を、老人扱いは早すぎる。そこに気付かないのは迂闊だった。

慰めるのもヘンだし、何をどう言えばいいものか、困ってしまった。

ゆうせんざせき



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ごきんじょ | コメント(20) | トラックバック(0) | 2019/12/01 11:30

すまない話。

ぎんざえきこうないず

混雑した駅の構内。

乗り換えのホームへと急いでいたら、流れを横切るように歩いてきた人と軽くぶつかった。

天井近くの案内表示に気を取られていたらしい。

あっ ごめんなさい!

大丈夫ですよ、と手を振って、右と左に分かれる。

乗って降りて、着いた駅のコンコース。

エレベーターの扉が開いたので、荷物が多くて大変そうな人に先を譲った。

あら、どうもありがとう!

どういたしまして、と会釈を返す。

地上に出て歩き出した時、なんだか気分が良くて、なぜだろうと考えた。

ごめんなさい、ありがとう。

もしかしたら、どっちもスミマセン!で済ませていたかもしれない、それぞれの場面。

ごめんなさい!

ありがとう!


ちゃんと言えることは、とってもステキだ。

次にこんなことがあったら、私もスミマセン、じゃなくて、ありがとうやごめんなさいを言おう。

そう思いながら歩く、街に冬の風。



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ごきんじょ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2019/11/16 11:30

くちどめ話。

ひさびさの、何もない平日。

思いきり寝こけて寝坊して、いいかげん寝飽きてようやく起きる。頭をボリボリ掻きながら、寝ぼけ眼でカレンダーを見ていたら

ハッ!

カードの決済日ではないか。

土日バタバタしていて、まだ入金していない。

慌てて着替えて、自転車にまたがると、記録的なスピードで銀行に着いた。

どうやら事なきを得て、ホッとして自動ドアを出たら、飛び込んできた人とぶつかりかけた。

スミマセン!

いえ、アレ?

あら!ぢょん子…さ…ん…

やっぱり オオバさん?

オオバさんはご近所の奥様。

髪は巻き髪、キラキラのアクセサリーを欠かさず、ゴージャスで華麗な装いの女性である。

それが今日はどうしたことだろう。

モシャモシャの髪をゴムで結わき、毛玉の湧きかけたフリースに、ジャージーのパンツ。

私だって他人様をアレコレできる服装ではないが、なにしろふだんがふだんだから、彼女のほうが落差が著しい。

ビックリしている私の前で、オオバさんは気まずそうに、頬に手をあてたり、髪を撫でつけたり、弥縫策にこれ努めていたが、ふと

あ コレ… コレあげる… 

持っていた紙袋に手を突っ込むと、茶色い円盤を取り出し

じゃ…

押し付けるように手渡したと思うと、あっという間に行ってしまった。

あっけに取られて手の中を見たら、それは回転焼、ここらでは御座候などともという、お菓子であった。

いやコレ、どうすんの?路上で、むき出しで…。

自転車置き場に向かいつつ、しかたなくかじれば、ホカホカと温かく、あんこが湯気を上げる。

これはアレだな、口止め料だな

そう思うとおかしくて、甘いあんこが、いつもより甘かった。

ござそうろう
(回転焼、今川焼、大判焼…あなたは何と呼ぶ?)



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ごきんじょ | コメント(22) | トラックバック(0) | 2019/11/12 11:30

ぎゅるぎゅる話。

こーらす

今日はコンサート

大ホールではなく、小さな会場に、舞台を囲むように椅子を並べた、こじんまりしたものだ。

やがて開演の時刻になると、会場は若い演者を励ますように、心を込めて手を叩いた。

やがて拍手が静まり、最初の1音が鳴る。

グゥ~ ギュルギュルギュルル

うわー、誰だ。

誰かのお腹が鳴っている。

音が聞こえた方向を、首を動かさないように見やる。顔をしかめて振り向く仕草を見せる、無遠慮で厳しい観客もいる。

演奏がはじまって、しばらくは美しい音色が会場を満たしたが、音が低く小さくなると

ギュルル

曲間にも

ギュル ギュルル

あーあ

私も会議なんかで経験があるが、あれだけはどうしようもない。

ご本人もさぞかしいたたまれない、恥ずかしい思いをしているだろう。明日は我が身と思えば腹も立たない。

ところが、次の曲が終わった時。

あれだけ鳴っていたお腹の音が、ピタリと止まっているではないか。

先程までの慎みも忘れて、音のした見当を探しても空席はない。

件の本人が、どうにかしてお腹の鳴るのを止めたとしか思えない。

そんな方法あるのだろうか。あるなら知りたい。

誰?どうやって止めたの?教えて!

大声で叫び出したい気持ちを、必死で押さえるうち、3曲目がはじまった。



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2019/11/07 11:30
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