ふたりの話。
早朝の雪は、昼前まで止まなかった。
楽しくなって表に出れば、いつもの景色を覆う雪が、周りの音を吸って、しんと静かだ。
このマンションも高齢化が進み、雪にはしゃいで飛び出してくる、子供もいない。
誰もいないと思っていたら、団地の児童公園に、動くものがある。
うつむき加減の顔は、フードで隠れて見えないが、私より少し上の女性らしい。かがんで歩き回っているのは、落し物探しだろうか?
詮索しているようで気の毒だから、あまり見ずに通り過ぎた。
やがて夕刻。
郵便物を取りにホールに降りると、ドアの横に小さな影が見える。
エントランスのライトに照らされているのは

心細そうに肩を寄せた、雪だるまふたり。
そうだ、あの女性の姿勢は、雪だるまを作っている人のそれだったのだ。
作りたくなる気持も、ひとりじゃ寂しそう、と、ふたつ作る気持も、どちらも分かる気がする。
雪はあらかた溶けて、明日には無くなるだろう。

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楽しくなって表に出れば、いつもの景色を覆う雪が、周りの音を吸って、しんと静かだ。
このマンションも高齢化が進み、雪にはしゃいで飛び出してくる、子供もいない。
誰もいないと思っていたら、団地の児童公園に、動くものがある。
うつむき加減の顔は、フードで隠れて見えないが、私より少し上の女性らしい。かがんで歩き回っているのは、落し物探しだろうか?
詮索しているようで気の毒だから、あまり見ずに通り過ぎた。
やがて夕刻。
郵便物を取りにホールに降りると、ドアの横に小さな影が見える。
エントランスのライトに照らされているのは

心細そうに肩を寄せた、雪だるまふたり。
そうだ、あの女性の姿勢は、雪だるまを作っている人のそれだったのだ。
作りたくなる気持も、ひとりじゃ寂しそう、と、ふたつ作る気持も、どちらも分かる気がする。
雪はあらかた溶けて、明日には無くなるだろう。

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ゆきふる話。
外が静かで、目が覚めた。
カーテンの隙間がしらしら明るくて、窓に寄れば雪が降っている。
温暖な当地で、こんなに降るのは久しぶりだ。コートを羽織ってベランダに出た。
牡丹雪というより、白梅の花のような雪。
くぼんだカップの形を保って、クルクルと周りながら落ちてくる。
水分の多い大粒の雪は積もらない、というから、今のうちにゆっくり見ておこう。
家の屋根や木の枝が、見る間に白くなっていくのに、寒さも忘れて見とれていたら、隣の棟の窓に動きがあった。
カーテンが絞られ、外を見ている顔は、高さも窓の半分あたり、小さなオバアサンだ。
ちょっと外を眺めて、すぐ引っ込んでしまった。
しばらくして、同じ窓がパッと開いたので、注目していると、さきほどのオバアサンがピュッと現れた。
サッとカメラを構え、パシャッと撮ったら、スッと引っ込み、シャッと窓が閉まる。
その間、じつに5秒たらず。
いくら寒いにしても、なかなかの素早さである。
閉じたカーテンをぼんやり見上げていたら、身体がすっかり冷えていることに気づいた。
雪は次第に細かくなってくる。これはあんがい、積もるかもしれない。


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カーテンの隙間がしらしら明るくて、窓に寄れば雪が降っている。
温暖な当地で、こんなに降るのは久しぶりだ。コートを羽織ってベランダに出た。
牡丹雪というより、白梅の花のような雪。
くぼんだカップの形を保って、クルクルと周りながら落ちてくる。
水分の多い大粒の雪は積もらない、というから、今のうちにゆっくり見ておこう。
家の屋根や木の枝が、見る間に白くなっていくのに、寒さも忘れて見とれていたら、隣の棟の窓に動きがあった。
カーテンが絞られ、外を見ている顔は、高さも窓の半分あたり、小さなオバアサンだ。
ちょっと外を眺めて、すぐ引っ込んでしまった。
しばらくして、同じ窓がパッと開いたので、注目していると、さきほどのオバアサンがピュッと現れた。
サッとカメラを構え、パシャッと撮ったら、スッと引っ込み、シャッと窓が閉まる。
その間、じつに5秒たらず。
いくら寒いにしても、なかなかの素早さである。
閉じたカーテンをぼんやり見上げていたら、身体がすっかり冷えていることに気づいた。
雪は次第に細かくなってくる。これはあんがい、積もるかもしれない。


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はつでの話。
ちょっと遅めの仕事始め。
ミミ先生は、今年も年齢不詳の美女だ。
シワシミのひとつもない雪白の肌に、ちょっぴり眠そうな目。
ほっそりした身体を包む、アヴァンギャルドな服装は若々しいし、仕事の感覚も、50代後半の私には追いつけないほどの、最先端である。
しかし、仕事にあたる時の世故たけた雰囲気は、私なんかよりよっぽど年上にも思える。
相手の年齢によって態度を変えるつもりはないが、いろんな方と会っていて、ミミ先生ほど見当のつかない方は初めてなのだ。
今日は時間があったので、珍しく雑談をした。
ぢょん子さんは今日が初出ですか?
ハイ…着物じゃないですけど…
は?ああ、フフフ… ありましたね…
あら?先生も?
ええ 昔…会社勤めのころは…
ステキ!うちの会社は初日からガンガン仕事で 松の内から事務服だったし うらやましいです
でも早朝から お着付けやら頭やら…
大変でしょうね!
今もやってるところあるのかしら、着物っていいですよね、と、話は流れ、表面は穏やかに仕事に移行したが、内心はドキドキしていた。
初出が着物なんてのは昭和の習慣で、私が若い時でさえ、既に廃れかけていたはずだ。
もちろん、証券取引所など、ずっと着物の初出を続けている業種もあるだろう。
はたしてミミ先生の年齢は?
わかったような、わからぬような。

(京都市役所では、今年もやっているらしい)

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ミミ先生は、今年も年齢不詳の美女だ。
シワシミのひとつもない雪白の肌に、ちょっぴり眠そうな目。
ほっそりした身体を包む、アヴァンギャルドな服装は若々しいし、仕事の感覚も、50代後半の私には追いつけないほどの、最先端である。
しかし、仕事にあたる時の世故たけた雰囲気は、私なんかよりよっぽど年上にも思える。
相手の年齢によって態度を変えるつもりはないが、いろんな方と会っていて、ミミ先生ほど見当のつかない方は初めてなのだ。
今日は時間があったので、珍しく雑談をした。
ぢょん子さんは今日が初出ですか?
ハイ…着物じゃないですけど…
は?ああ、フフフ… ありましたね…
あら?先生も?
ええ 昔…会社勤めのころは…
ステキ!うちの会社は初日からガンガン仕事で 松の内から事務服だったし うらやましいです
でも早朝から お着付けやら頭やら…
大変でしょうね!
今もやってるところあるのかしら、着物っていいですよね、と、話は流れ、表面は穏やかに仕事に移行したが、内心はドキドキしていた。
初出が着物なんてのは昭和の習慣で、私が若い時でさえ、既に廃れかけていたはずだ。
もちろん、証券取引所など、ずっと着物の初出を続けている業種もあるだろう。
はたしてミミ先生の年齢は?
わかったような、わからぬような。

(京都市役所では、今年もやっているらしい)

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そこつの話。
何年か前、ビックリするほど字がヘタになっているのに、ショックを受けた。
時を同じくして、パソコンが具合悪くなった。
それまで住所録もパソコンで管理していたので、それをきっかけに、宛名を手書きにしてみた。
住所録も作らず、前年のハガキを見て書く。
アナログ逆行もいいところだが、長く会えない友人の顔を思い浮かべつつ、名前や住所を書くのはいいものだ。
受け取った賀状を数えてみると、7対3で印刷が優勢ながら、手書き派も案外いる。
そんな中の1枚、幼馴染のミッコちゃんの字に、ちょっと引っかかった。
彼女の住む町、雪深いその土地の名を、この手で書いた覚えがないのだ。
記憶を辿る時、人の視線は左上にさ迷うという。
うーんと唸りつつ、頭上左、天井の隅をギロギロにらんでも、思い出せない。
余分のハガキにミッコちゃんの名前と住所を書いてみたら、どうも初めて書く気がする。
せっかく書いたので
2枚目だったらごめんね!
添え書きをして、投函することにした。
ミッコちゃんとはもう50年の付き合いで、私の粗忽は先刻承知である。これしきで怒ったりは、しないだろう。


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時を同じくして、パソコンが具合悪くなった。
それまで住所録もパソコンで管理していたので、それをきっかけに、宛名を手書きにしてみた。
住所録も作らず、前年のハガキを見て書く。
アナログ逆行もいいところだが、長く会えない友人の顔を思い浮かべつつ、名前や住所を書くのはいいものだ。
受け取った賀状を数えてみると、7対3で印刷が優勢ながら、手書き派も案外いる。
そんな中の1枚、幼馴染のミッコちゃんの字に、ちょっと引っかかった。
彼女の住む町、雪深いその土地の名を、この手で書いた覚えがないのだ。
記憶を辿る時、人の視線は左上にさ迷うという。
うーんと唸りつつ、頭上左、天井の隅をギロギロにらんでも、思い出せない。
余分のハガキにミッコちゃんの名前と住所を書いてみたら、どうも初めて書く気がする。
せっかく書いたので
2枚目だったらごめんね!
添え書きをして、投函することにした。
ミッコちゃんとはもう50年の付き合いで、私の粗忽は先刻承知である。これしきで怒ったりは、しないだろう。


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ぽすとの話。
元旦の賀状の中に、出してない人のがあった。
急いで書いたハガキを手に、コートをひっかけて、玄関を出る。
冷たい朝も、新年の空気だと思えば爽快だ。
信号のない住宅街を抜けて、最寄りのポストには先客がいた。
くりくり坊主の兄弟と、小柄なお母さん。
投函するお兄ちゃんの後ろに、弟くんが自分のハガキを手に、並んで待っている。
ふだん郵便を出すことなどないのだろう。儀式のようにうやうやしく、1枚ずつハガキを入れているのを見て、とっさに電柱の陰に隠れた。
ところが、不自然な動きが、かえってお母さんの目にとまってしまったみたいだ。
あ、ホラ、早くしなさい!
いいですいいです!ごゆっくり!
慌ててそう言ったけれど、時すでに遅し。驚いたお兄ちゃんは、残りのハガキを、まとめて差入口に突っ込んでしまった。
恐縮したお母さんに、スイマセン、ほら早く…と急かされて、弟くんも続く。
背伸びした手のハガキには、2Bの濃い鉛筆で書かれたおめでとうの文字。
ゴメンね~ せっかくだったのに…
いきなり現れた知らないオバサンは、つい話しかけてしまう。
年賀状 自分で書いたの?
ふたつの丸いアタマがコクンと動いた。
エライね~ きっと イイコトあるよ!
何の根拠もないそんなオバサンの言葉に、小さい兄弟の表情がパッと明るくなる。
会釈するお母さんと子供たちの後ろ姿を見ながら、ハガキをポストに入れた。
あるよ、イイコト、きっと。
ポカポカ暖かい胸を抱いて、うちに帰った。


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急いで書いたハガキを手に、コートをひっかけて、玄関を出る。
冷たい朝も、新年の空気だと思えば爽快だ。
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くりくり坊主の兄弟と、小柄なお母さん。
投函するお兄ちゃんの後ろに、弟くんが自分のハガキを手に、並んで待っている。
ふだん郵便を出すことなどないのだろう。儀式のようにうやうやしく、1枚ずつハガキを入れているのを見て、とっさに電柱の陰に隠れた。
ところが、不自然な動きが、かえってお母さんの目にとまってしまったみたいだ。
あ、ホラ、早くしなさい!
いいですいいです!ごゆっくり!
慌ててそう言ったけれど、時すでに遅し。驚いたお兄ちゃんは、残りのハガキを、まとめて差入口に突っ込んでしまった。
恐縮したお母さんに、スイマセン、ほら早く…と急かされて、弟くんも続く。
背伸びした手のハガキには、2Bの濃い鉛筆で書かれたおめでとうの文字。
ゴメンね~ せっかくだったのに…
いきなり現れた知らないオバサンは、つい話しかけてしまう。
年賀状 自分で書いたの?
ふたつの丸いアタマがコクンと動いた。
エライね~ きっと イイコトあるよ!
何の根拠もないそんなオバサンの言葉に、小さい兄弟の表情がパッと明るくなる。
会釈するお母さんと子供たちの後ろ姿を見ながら、ハガキをポストに入れた。
あるよ、イイコト、きっと。
ポカポカ暖かい胸を抱いて、うちに帰った。


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