FC2ブログ

せいしゅん話。

朝の洗顔が、冷たい水でもつらくない季節。

ザバザバ洗った顔を、タオルにうずめて

はー、サッパリした…

手に広げた色鮮やかなタオルを、ふと見つめる。

うちのタオルはほとんどがもらいもの。引出物、内祝、粗品、そんなのばかりだ。

たおるつめあわせ

数少ない例外が、今朝のこれである。

ムスメはずっと、ある音楽グループのファンであった。

テレビ番組は録画し、CDを買い、ファンクラブに入り、ライブに行ってはグッズを持ち帰った。

タオルはそのツアーグッズなのだ。

ツアータイトルが描かれたタオルは、もちろんふだんに使ったりしない。彼女の部屋のクローゼットに、大事にしまわれていた。

ある年の、連休のこと。

アパートから帰っていた大学生のムスメが、何を思ったか、自室の片付けを始めた。

1人暮らしを始めて以来、物置と化していた部屋から、散らばった雑誌を集め、洋服を袋に詰め

これ捨てといてね!

言い残すと、風のように去って行った。

その「捨てる」が大変なんだよ。いい気なもんだよな。ブツブツ言いつつ、しかたなく雑誌を縛っていると、雑誌じゃないものが混じっている。

件のミュージシャンのファンクラブの会誌だ。

○○のファンクラブ会誌あったけど これ捨てていいの?

急いでLINEで尋ねたら

あー、いい いい 捨てといて!

あっさり返事が来た。

古着の中にあった、何枚かのツアータオルを

モッタイナイからうちで使おう…

拾い上げれば、ムスメの部屋は、明るい日に照らされ、清々しく広く見えた。

彼女も、もう大人だ、そう思った。

大昔、私にもきっと、こんな日があった。それもあの日みたいな、晴れた日だった気がする。

青春の、終わりは5月。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

スポンサーサイト



ごかぞく | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/05/10 11:30

しんぐる話。

イモートに荷物到着を知らせようと電話したら、久しぶりなので長電話になった。

話題は高校生になったメイちゃんの学費問題に移る。

部活も定期も 何やってもお金! この先いくらかかるか 見当もつかないワ

そうだよね~ 予備校に大学に… 私学だったらまた大変!

それにしてもおねーちゃん よくやれたね!1人なのに

まあガマンはさせたよね ムスメにも ムスコにも…

「国公立しかダメよ!」とか言った?

いや、言わない けど…

けど?

無言の圧力はあったかも…

ハハハ…無言! 逆に怖いね!

割引シールのパンばかり食べて(→わりびき話。)育てば、そりゃわかるだろう。

にわりびき

子供の将来の可能性まで、割り引いてしまったのではと思うと、内心忸怩たるものはある。

ホントは留学とか、したかったかもね

パピーにもらうわけにもいかないしね!

へ?パピー?

ほら…モト婚約者…

ああ、ハハハ…斬新なアイデアだよね!そしたら 学費の高い大学も行けたし…

ミヤサマとお友だちになれたし…

いいよー!遠慮します ハハハハ…

まあ ムスメちゃんも立派な社会人になって

あとはヘンなお母さんのいる彼氏さえ 連れてこなければ…

双方、ゲラゲラ笑いながら電話を切った。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2021/04/30 11:30

ぶーつの話。

衣更えは終盤、靴の入替におよぶ。

モコモコした厚い冬靴をしまい、軽快なサンダルを出すのだ。

ブーツに湿気取りを詰めながら、何年も前に捨てた別のブーツを思い出した。

それはキャメルの、ムートンのブーツ。

むーとんぶーつ

亡くなった父の、最後の入院は冬だった。

お医者さまにも、家族にも、もう何もできることはなくて、弱っていく病人を、ベッドの横でただ見ている日々。

じっと座る病室は、暖房してあるはずなのに、足元からじくじく冷えがのぼってくる。

薄い靴では居られなくて、ブーツを履いて行くようになった。

看病でもお見舞いでもなく、次第に起きている時間が短くなる父のそばで、ただブーツのつま先を見降ろしていた、ふがいない娘である。

葬儀を終えて久しぶりに自宅に帰り、玄関で黒い靴を脱ごうとした時、キャメルのブーツを見て、うっと胸が詰まった。

好きで買ったし、安くはなかったし、まだどこも傷んではいない。

それでも、どうしても履けなくて、ゲタバコの隅にあるのもつらくて、思い切って処分したのだ。

あれももう、何年も前のことである。

チクリと痛いブーツの季節が、今年も終わった。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2021/04/03 11:30

はいほー話。

学業にはいたって不熱心なムスコであるが、受験のたぐいはうまいこと潜り抜けて、今に至る。

思えば幼稚園から、そうだった。

思いつきで受けた私立幼稚園が、倍率5倍の人気園であったことを、知ったのは願書を出したあとだった。(→めんせつ話。

ビクビクして挑んだ面接当日。

母親の私が園長先生と面談している間、ムスコは園庭で遊ばせていただく。

常識的な内容の面談は、拍子抜けするほどあっさり終わり、ムスコを迎えに行くと、ちょうど砂場遊びが佳境に入っていた。

大きなスコップを手にしたムスコは

♪はいほー はいほー しごーとがすきー♪

白雪姫の小人たちを真似て、歌いながらただただ穴を掘っている。

相手をしてくださった若い先生はニコニコと

ムスコ君 おうた上手ですね!穴掘りも…

褒めてくださった。

歌が良かったのか、穴掘りが評価されたか、難関を突破したムスコは、楽しい3年間を過ごした。

♪はいほー はいほー しごーとがすきー♪

歌っていたムスコも、驚くなかれ今日から社会人である。

エラくならなくていい、金持にならなくていい。

人さまの役に立つとか、社会に貢献するだとか、大それた望みもいらない。

♪はいほー はいほー しごーとがすきー♪

誰のためでもない穴を、歌いながら掘っていた、あんなふうに毎日を送れたら。

そんなことを思ったりする。





にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

ごかぞく | コメント(14) | トラックバック(0) | 2021/04/01 11:30

そつぎょう話。

振袖、袴にブーツのはいからさんが、駅のホームに立っている。

ああ、大学生だ、卒業式だ。

そういえば、ムスコの卒業式も、今日だったか。本人も、出るとか出ないとか言っていたが、どうしたのだろう。

出なくてもいいけど、卒業証書はもらってよ、と言ってやったら

見たい?

ときた。

そりゃあ 一応スポンサーだからね

返事をしながら、少々心穏やかではないのは

ホントに卒業したのか?

いささかの疑念が拭えないからでもある。

なにしろムスコは筋金入りの粗忽者である。忘れ、失くし、期限には遅れた。

大学生活中も、サイフを忘れ、スマホを落とした。言わないだけで他にもいろいろやらかしているであろうことは、想像に難くない。

大丈夫と思ってたけど 単位数え間違ってた…

そんな不吉な想像をしていると

♪ぴろん♪

通知音が鳴って、スマホを開けば、友人らしい数人と並んだ、ムスコの写真が届いていた。

手には学位記の金文字が光るファイル。

は―、ヤレヤレ…

おめでとうのすたんぷ

スタンプを送っておいたら、夜になって

会場でサイフ落とした

LINEが入っていたので、爆笑した。

卒業おめでとう、ムスコ。こっちも、母親卒業だよ。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

ごかぞく | コメント(24) | トラックバック(0) | 2021/03/26 11:30
 | HOME | Next »