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えいとの話。

昔、子供向けのガムの包み紙が、シールになっていることがあった。

ペタンと貼るステッカーではない。

裏紙を剥がすと、透明のセロハンにマンガの絵柄がついており、それを貼りたいものにあてがってこする、転写タイプのシールである。

うちではガムを買ってもらえること自体あまりなく、ガムのシールは貴重品扱いだった。

宝物の箱にしまい、時々取り出しては並べてみる。

シールを筆箱やノートの表紙にのせてみたりもしたが、じっさいには貼らない。

母はそういうことにはたいへん厳しく

お勉強のものにシールを貼ってはいけません!

言われて忠実に従っていた。

貼るものだけど貼ってはならないシール。その矛盾を思うには、私はあまりに幼かった。

かわいいマンガの絵柄の縁に書かれた

うら紙をとり、セロファンの上をていねいにこすってはがしてね!

この注意書きを何度読んだことだろう。

あれはちょうど今ごろ、夏休みに入ってしばらくした時分だった。

楽しみな家族旅行にはまだ間があり、休みにも少しダレて、退屈した私は、宝箱の中身を出して、しまいなおすという作業を始めた。

合間合間に、宝物を1つ1つじっくり眺めていると

うら紙をとり、セロファンの上をていねいにこすってはがしてね!

見慣れた注意書きが、その日はことのほか誘惑的に見えたのだ。

ああ、うら紙をとり、セロファンの上をていねいにこすってはがしたい!

強い衝動に駆られつつ、優等生の私は、叱られるのは嫌だった。

母の目を盗んで、学習机の下にもぐり込む。

机の脚の裏の、普通では目につかない死角の部分に、ドキドキしながらセロファンをあてがい、爪でこすった。

貼ったシールは、エイトマン

エイトマンが好きだったわけではなく、持ってるシールの中ではどうでもいい補欠だったからだ。

なにしろはじめてだから、失敗の可能性も考えて、たいせつなウサギちゃんやお姫様のシールを使わなかったのは、いかにも私らしい。

4日、エイトマンの作者、桑田次郎氏が亡くなった。

シールは露見したのだか、どうだったか。学習机もとうの昔に処分して、もう無い。

えいとまん
(主題歌を歌ってみたら全部歌えたので、自分でも驚いた)



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むかしむかし | コメント(18) | トラックバック(0) | 2020/08/06 11:30

もももも話。

夕方の散歩から帰って玄関を開けたら、甘い香りが私を迎えてくれた。

オカモトさんにもらった桃の香りだ。

もも

兼好法師は「良き友」の第一に「物くるる友」を挙げたが、オカモトさんは季節の美味しいものをくれる、素晴らしいお友達である。

硬めが好きなら2、3日、柔らかいのがいいなら1週間くらい、涼しいところに置いてね

言われて大切に持ち帰り、うちでいちばん涼しい玄関に置いた。

私は果物を買わない。べつに嫌いじゃないが、なんとなくめんどくさいのだ。

それに、果物は自分で買うより、いただきものが美味しい気がする。

そういえば、あの時も桃だった

まだ子供が小さかった頃だ。

ムスメが幼稚園に行ってる間に、私はムスコを連れて、都心に買物に出た。園のお迎えに間に合うよう、急いで用を済ませ、帰りのバスに乗る。

窓を背にしたロングシートに並んで座ると、向かいの優先座席には、お爺さんがひとり。

ニコニコしながらムスコを見ている様子から、子供好きな人らしい。

ムスコは決して美形ではないが、いかにも子供らしい丸顔をしており、お年寄り受けが良かった。

やがて、バスは昔ながらの商店街の前に停まり、お爺さんは立ち上がった。歩きかけてふと、思いついたように戻ったと思うと、紙袋に手を入れ

ほら、ボク 甘いぞ…

見上げたムスコの、ヒザに置いたちいさい手の上に、丸いものが置かれた。

パッと花が咲いたように、立ち上る香り。

私は驚いて中腰になったが、ちゃんとお礼を言う間もなく、お爺さんは降りて行ってしまった。

バスの中、むき出しでいきなりもらってしまった桃を、どうやって持って帰ったのだったか。

どんなふうに食べたのかも忘れてしまったけど、きっととても甘かったのだと思う。

オカモトさんの桃は、いつ食べようかな。



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むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2020/08/01 11:30

るすばん話。

お出かけ好きの母(→ろぼっと話。)を持ちながら、出不精のインドア派に育った私。

その理由を考えるに、思い当たるのは、幼い日のお留守番だ。

昔の親は、じつに気軽に、子供に留守番させた。

今ほど世の中が子供対応でなかった時代、小さい子を連れて歩くのは大変だったのだろう。

いい子にしてなさい

ひと言残し、母がセカセカと出かけて行った後、静かな家の中で、まずは好きな本を読む。

本に飽きたら、母の三面鏡のカバーを外して覗く。

鏡に映った鏡の、無限の不思議。

頭がくらくらするまで眺めたら、台所に行って、蝿帳の中のオヤツを点検する。

3時になったら食べていいんだ、と思うと、いつものお菓子が輝いて見えた。

留守番の思い出は、なぜかいつも1人

2歳下のイモートはどこにいたのだろう?サッサとお友だちのうちに、遊びに行ったのだろうか。

ちっとも寂しくはないけれど、すこし肌寒くなったころ、ようやく母が帰ってくる。

紙袋の中身は、都会のベーカリーのチーズパンと、夏のブラウス。いつの間にか帰ったイモートと並んで、歓声を上げた。

あの頃のお留守番は本当に素敵で、そして楽しかった。

あめのひのおるすばん



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むかしむかし | コメント(6) | トラックバック(0) | 2020/07/17 11:30

くわれた話。

文章だから「蚊に刺される」と書く(→くすりの話。)が、話し言葉では「蚊に噛まれる」と言う。

どうやら関西の方言らしい。

蚊の口の形状も重々分かってはいるが、「噛まれる」と言い言いして育ったものは直らない。

大学時代、所属サークルの夏合宿

合宿といっても、運動部じゃないから、何をするでもない、ただの遊びである。

海に行って、泳いで、夜は花火とバーベキュー。バブル以前の大学生活はノンキなものだった。

花火を手に、キャーキャー騒いでいたら、隣にいた男の子が

あ、蚊に食われた

なにげなくTシャツの袖をまくった。

ずきゅーん
(画像は筆者の大学時代ではなく、イメージです)

噛まれた、じゃない。食われた、って言うんだ。

なんか、男っぽいな。

彼の腕の、袖の位置に、日焼けの境界線。

そんなことで誰かを好きになる、若い女なんて本当にバカである。

とてつもなくバカだったあの夏は、しかし、いちばん美しい季節だった、かもしれない。



本日早朝より他出のため、2018年8月10日の記事を再掲いたします。



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むかしむかし | コメント(10) | トラックバック(0) | 2020/07/14 11:30

いけばな話。

窓辺の枝を切るのに、花鋏を使った。(→ ありあり話。

忘れるほど久しぶりだが、パチンパチンとじつによく切れる。やはり専門の道具は大したものだ。

お花鋏は、生け花に使う。

なんで持っているかといえば習ったからであり、なんで道具箱の奥深く眠っていたかといえば、続かなかったからである。

むかしむかしのOL時代。仕事だけで手いっぱいの新人を脱却したころ、余裕ができたせいで、逆に心細くなってきた。

私はこの先 どうなっていくんだろう?

仕事の手を止めれば、漠然とした不安がひたひたと迫ってくる。

無鉄砲な性格ならば、会社を辞めて自分探しの旅に出るところだが、私は今も昔も、いたって慎重派である。

まずはなにか、新しいことをしてみよう、と、始めたのが生け花であった。

会社の会議室に先生がいらして、花材をいただき、お借りした花器にいける、気軽なお稽古だ。

私はだいたいが小器用で、なんでも無難にできるほうである。

花を切って差すだけのこと、フツーにやれると思ったが、これがなかなか、そうでなかった。

先生のお手本は、花の茎をグッと切り詰め、水面ギリギリに咲くように活けて、後ろに立てた長い葉との対比が美しい。

しかし私は、せっかく伸びた花を短く切るのが、どうしてもイヤだった。

切り口から少々切り取っただけの私の花は、中空にとぼけたように浮かび、バカみたいにユラユラ揺れている。

見回ってきた先生は、呆れてアラアラ、とおっしゃったと思えば、止める間もあらばこそ

パチンパチン!

爽快な音を立て、10分の1ほどに切った花を、引っこ抜いた場所に差し直して

ほら、良くなったでしょう!

そのあと何度、お稽古に出ただろうか。

一緒にはじめた同僚は、お免状を頂くまでになり、私の手元には、1丁の花鋏だけが残った。

たかねのはな



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むかしむかし | コメント(10) | トラックバック(0) | 2020/06/23 11:30
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