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8・1・3本。

お盆休みも出かける予定は無いので、できるだけ涼しくして家にいる。

エアコンなしのわが家で「涼しく」とは、日除けを下ろし、電気も点けず真っ暗の中、他人様にはお見せできない薄着でいる、という意味だ。

テレビは発熱するから見ないし、加熱調理も最低限。ビールも汗をかくから、氷水で済ます。

そんな具合で、真夏の家計費は異常に低い。

GO TOしないぶん、浮いたお金で買物でもしてやろうと、ネットの古書店を見ていたら、見覚えのある男の顔に出くわした。

813.jpg
(「8・1・3の謎」南洋一郎著 ポプラ社)

モノクルにシルクハット、蝶ネクタイのいでたちは変わらねど、シリーズの各巻で微妙に顔立ちが違い、この巻のルパンがいちばん、いい男だ。

田舎の小学校の、薄暗い図書室。

貧弱な蔵書の中で、ゆいいつ光輝を放っていたのが、この怪盗ルパン全集だった。

見返しのポケットに差し込まれた、貸出カードには、私の借りた日付が並んで、卒業までに何度、この全集を読んだだろう。

華やかなパリの社交界。オーケストラの音楽に、厚地のカーテンが揺れて、黒いドレスの妖女と、奪われた秘宝。白馬に引かれた馬車が疾走する。

何もかもが、知らない世界だった。

なかでもこの「8・1・3」は、読んで興奮し、驚いて声を上げた、初めての本なのだ。

昔のあの本に、クリックでまた手が届くと思うと、読んでみたい気もする。

いや、よそう。きっと落胆する、それが怖い。

過ぎ去った50年近い年月は、やはり長すぎた。



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2020/08/13 11:30

ヨシタケ本。

朝のテレビのゲストは人気の絵本作家

歯科の待合室にも備えてあるくらい、有名な人だが、司会のタレントは知らなかったようだ。

知ってても、知らないテイで質問したほうが、うまくいくのかもしれない。

世俗的な人が、浮世離れしたアーティストの珍しい発想を拝聴する、という、おなじみのトーンで番組は進む。

わりに本を読むほうなので、話題になった絵本も知っているが、好きなのはこの人が「絵本作家」になってしまう前の、スケッチ集のほうである。

しかもふたがない
(「しかもフタが無い」ヨシタケシンスケ著 PARCO出版)

簡潔で、でもとても絵が上手いと分かるちっちゃなイラストの横に、コメントが添えてある。

絵はかわいいけど子供向けじゃないので、キビシいことやツラいこと、地味にエロいことなんかも描いてあって、共感できるのだ。

時々手に取って眺めると、今も励まされる。

売れた人を、売れる前から知っている、と吹聴するのは、自慢げでいやらしい。

売れた人の、売れる前の仕事が好きだ、なんていうのは、もっといやらしい。

わかっちゃいるんだけど、気づけば「絵本作家」になってしまう、なんて表現をしている。

文章を書いていて凹むのは、こういう時である。



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ブックガイド | コメント(8) | トラックバック(0) | 2020/07/31 11:30

シュールナ本。

根を詰めすぎたせいか、ひと晩寝ても肩こりがとれず、パッとしない。

カーテンを開けば、重い気分を映したような雨。

こんな朝は、どっしり食べて、景気をつけよう。

冷蔵庫にあったカレーをアツアツに温め、ラッキョウを添えて食べたら、ちょっと元気が出た。

そうか、あっためるといいんだな。

ふと、レンジでチンする湯たんぽがあったのを思い出す。

れんじでゆたぽん

説明書にあるとおりの時間をセットし

ちーん!

いそいそと取り出した湯たんぽに、異変が。

このニオイ、この色…カレーだ!さっき温めた時に、庫内に吹きこぼれたと見える。

湯たんぽにカレー。あり得ない。

あり得ないものがくっつく。

そういえば、なんかそういうのあったな…

レンジから目を背け、視線を中空に漂わせて

Il est beau … comme la rencontre fortuite sur une table de dissection d'une machine à coudre et d'un parapluie !

解剖台の上でのミシンと蝙蝠傘の不意の出会いのように美しい!


詩の中に逃避を試みたが、煮詰まったスパイスのニオイに、現実に引き戻された。

電磁波の中のカレーと湯たんぽの不意の出会いは、うう、ちっとも美しくない。

まるどろーるのうた
(「マルドロールの歌」ロートレアモン著 現代思潮新社刊)



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2020/07/09 11:30

ナツバラ本。

テレビの旅番組は再放送ばかり。

露天風呂が映って、こんな風に屈託なく温泉に行けるのは、次はいつだろう、などと思った。

サスペンスの犯人役か、でなければ被害者役専門の女優が、湯けむりに包まれている。

…湯けむりの立つ夏原や狩の犬

ふいに俳句が口をついて出た。

俳句?これ、俳句か?

夏原って、夏の野原のことだろうか。

野原に湯煙が立つか。突然沸いた噴煙なのか。

突然出てきた犬は温泉に何の用があるのか。

湯けむりの立つ夏原や狩の犬

なぜかスラスラとよどみなく浮かんでくる。

湯けむりの立つ… 夏原や… 狩の犬…

かみしめるように復唱してみたが、分からない。

いったい何なんだこれ?

ゆけむりの… なつばら…ハッ!

本棚にむかい、目当ての本を抜きだして

よーろっぱたいくつにっき
(「ヨーロッパ退屈日記」 伊丹十三著 新潮文庫)

ペラペラとページを繰ると、やっぱり!

国際派と称された筆者が、エルヴィス プレスリーの「Hound Dog」の冒頭、

♪you ain't nothin but a hound dog…♪

この部分を、ある若者が

♪ユエンナツバラ…

歌ったのを聞き、まるで日本語じゃないか、と日本人の英会話能力を嘆いたくだり。

ユエン、ナツバラに漢字を当てて

湯煙の立つや夏原狩の犬

詠んでみせた、それが原典だった。

狩の犬は、もちろん「Hound Dog」である。

小さな覚え違いはあったが、記憶を確かめることができ、非常に満足である。





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ブックガイド | コメント(10) | トラックバック(0) | 2020/06/15 11:30

トットク本。

本棚の整理(→ ヒヒノハ本。)で見つけた本。

同じ作者の他のシリーズが好きで買ったものの、パラパラ見てイマイチだったので、ほとんど未読のまま、ほうってあった。

在宅が続き、ヒマを持て余して、読んだら未練なく捨てればいい、と手にとった。

印象にたがわず、やっぱりつまらない

人物に魅力がなく、設定に説得力がなく、謎解きは物足りない。初版から30年になるが、文庫化されないのも納得の絶版書である。

読み終えて古本屋行きかと思いきや、少しためらってから、本棚の、割といい場所に戻した。

とっておいた理由、それは物語の舞台。

なんと、うちの近所が死体発見現場なのだ。

何もないのが値打ちみたいな、住民しかいないこんな町で、殺人事件なんて、たとえフィクションでも、まさに空前にして絶後である。

絶版書はいつでも買えるものではないから、まあとっておこう。

知ってる場所が出てくるだけで嬉しくなるなんて、ちょっと情けないけれど、ご当地ソングがヒットする理由が、わかった気がする。

ひれんのいけ
(「悲恋の池」有明夏夫著 中央公論社刊 )



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ブックガイド | コメント(8) | トラックバック(0) | 2020/05/28 11:30
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