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ソウセキ本。

夏目漱石について、語るべきことは何もない。

猫や坊ちゃんの江戸前の笑談は、関西人の私にはいっこう通じないし、かといって則天去私などと深刻ぶられても、さらに面白くない。

だいたい私は、外でいい顔をしてきて、家で妻子に当たり散らす男はキライなのだ。

そのくせ、漱石のナントカ、などとという本を見るとつい読んでしまう。

漱石山脈などという言葉があるように、彼の周囲には彼を師と仰ぐ若者が集まっていた。木曜が面会日、と決めないと、仕事に差し支えるくらい、うじゃうじゃ集まった。

なんぼ洋行帰りの文学者だといって、40そこそこの若いヤツが、もっと若いヤツを集めて喜んでいる、そのことが不思議で興味深い。

こういう集まり方を女はしない。

男、それも若い男のすること、という感じがする。

集めたんじゃない、先生のご人徳を慕って集まったのだ、と言う人もあるかもしれないが、本人が嫌がってるのにそんなになるわけがない。

迷惑顔をしつつも内心では嬉しがり、余は苦しゅうないという態度であったればこそ、山をなすほど人が集まったんである。

師弟といっても何を習うでもない。若々しい野心と未熟な自尊心のまま、ただ集まって、各自の趣味やら失敗談やら、披露しては月旦している。

そんなわちゃわちゃ感、うだうだ感がよく出ているのがこの本。

せんせいとぼく
(「先生と僕 ~夏目漱石を囲む人々~」)

漱石門下が実名で登場し、それぞれに、大好きな先生に愛されたいと願いながら、仲良くしたりケンカしたりしている、その感じは男子高校生の集団とそう変わらない。

今日12月9日は、漱石忌。


本日早朝より他出のため、2016年12月9日の記事を再掲いたします。



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ブックガイド | コメント(0) | トラックバック(0) | 2018/12/09 11:30

ヘチマノ本。

病人の看護が苦手である。

子供が小さい時は、例外的に面倒も見たが、大人相手は自信がない。

とくに男の病人なんて、想像するだけでウンザリだ。つくづく離婚しておいてよかった。

そんな私が、なぜかこの本は読んでしまう。

ぎょうがまんろく
(「仰臥漫録」正岡子規著 岩波文庫)

文学史に偉大な足跡を残した子規であるが、病人としてはじつに難儀な男である。

「仰臥漫録」の書名の通り、仰向けで寝がえりもうてない重病人でありながら、その感受性には曇りなく、筆を執ることを忘れない。

驚くべきはその食欲。例えば明治34年の今日、9月19日には

朝飯 粥三碗
午飯 冷飯三碗 鰹さしみ 味噌汁さつまいも 佃煮 奈良漬 梨一つ 葡萄一房
間食 牛乳五勺ココア入り 菓子パン 塩煎餅 飴一つ 渋茶
晩飯 粥三碗 泥鰌鍋 キャベツ ポテトー 奈良漬 梅干し 梨一つ


付き添う妹と母は、これだけの食事を用意し、看病に心を配っても、病人からは絶えず不満を言われ、激しく当たり散らされている。

私だったらやってられねえと思ってしまう。

考えてみれば、40にならない若造である。

夏目漱石や秋山真之ら、友人が各々の分野で活躍する中、自分ひとり病床から離れられない現状への苛立ち、意に任せぬ身体に対する怒り。

その鬱憤を、彼は母に妹に、いっさい遠慮なくぶつけている。

それは甘えであり、血縁への安心であるだろう。

怒号に身を縮めるわが母、わが妹の眼の中に、死にゆく己への憐みの色を見て、病んだ胸をさらに苦しめる日もあったろう。

痰一斗糸瓜の水も間にあはず

今日は子規の忌日、糸瓜忌である。



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ブックガイド | コメント(4) | トラックバック(0) | 2018/09/19 11:30

チビマル本。

漫画家のさくらももこさんの死去が報じられた。

ほぼ同年齢なので、その早さにビックリしたが、ショックというほどではない。

彼女がデビューしたころ、私はもう少女マンガ雑誌からは卒業していたし、アニメがはじまったのは子供が生まれる前。

食い違いが重なり、作品に親しむ機会を逃した。

それでもこれだけのヒット作だから、目にする機会はいくらでもある。

マンガを読めばやはり、当時いかに斬新で面白かったか、分かる気がする。

それはなんといっても、主人公まる子の人物描写だ。

かつてこれほどセコくてズルいヒロインがいただろうか。

悪のヒロインなら過去にもあった。

運命に翻弄され、復讐のため、愛する人のため、悪に手を染める美貌の主人公は、ドラマチックで魅力的だ。

しかし小学3年生のまる子にドラマはない。

愛らしい一方の天使でもない。

地道な努力はしたくない、人よりちょっとトクしたい、できれば注目を集めたい。

まる子の頭には、そんなセコい欲望が渦巻いていて、そのために近道を探し、しじゅうささいなズルを考えている。

現実の子供なんてそんなものであり、そのあまりのリアルさに人は笑ったのだ。

アニメは続くが、永遠の3年生の時間は、終わった。

ちびまるこちゃん



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2018/08/28 11:30

オススメ本。

お盆でムスコが帰省してきた。

正月に大学に戻った時と比べても、とくに太りも、痩せもせず、元気そうである。

ムスコのほうも、代わり映えのせぬ母親をマジマジと眺め

うーん… ちょっと痩せた?

いんや 1グラムも痩せてない

そっか… 気のせいか…

お互い体型のみをチェックする親子である。

大学生のムスコなど、家にいて何をするでもない。

夜更かしに朝寝坊、お腹が減ればハラヘッタ、満腹になったら床に長くノビている。

大きめの猫が1匹いるようなものだ。

テレビを見ていたら、新作アニメ映画の紹介をしていたので

これの原作ってどうなの?

と聞いてみた。

SFが好きなムスコなら読んでいそうだと思ったからだが

あー… 面白いよ モリミでいちばんじゃない?ヘンな京大生の男も出てこないし…

やっぱり読んでいた。

私は書評を読まないし、人のお勧めも信用しないが、いつの頃からか、ムスコの意見は聞くようになった。

身近にいていちばん読むのがムスコだからだ。

ムスコが面白い、という本は、面白かったり、そうでもなかったりするが、こういうのが面白いのか、とわかるのも楽しい。

それは一種の親の覗き趣味であって、子供の日記を盗み読みするのに似ているかもしれない。

合法的なのにどこか後ろめたい気持ちで、今日もムスコの勧めた本を買いに行く。

ぺんぎんはいうぇい
(ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦著 角川文庫)



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2018/08/13 11:30

ジョオウノ本。

ヘプバーンといえば、オードリー。聞けば9割の日本人がそう言うだろう。

アカデミー主演女優賞1回の彼女に対し、60年のキャリアの中で、オスカー像を4つまで獲得した女優・ヘプバーン。

それがキャサリン ヘプバーンである。

名優の定評はあるものの、人気の点ではパッとしない。かく言う私も、鼻の穴の目立つオバサン、という程度の認識だった。

なんだか色気が無いのである。もっと言えば夢がない、のである。

例えばかの名作「旅情」

休暇旅行のオールドミスが、洗練の極みみたいなイタリア男にボーッとしたものの、我に返って逃げ帰るというオハナシ(ひでえ要約)だ。

頭はよくても繊細さに欠け、背ばかり高くて肉体的魅力のないアメリカ女の存在感が同情を呼ぶのだけど、さてそういう女に憧れるか、といえば、それは別問題である。

流し目で斜に構えるだけで観客を惹きつけたモンローなどとは、対極にある女優なのだ。

ある時、本屋でこんな本を目にした。

『アフリカの女王』とわたし またはボギーとバコール、ジョン・ヒューストン。はじめてやってきたアフリカで、わたしの頭はどうにかなってしまいそうだった。

あふりかのじょおうとわたし
(原著もほとんど同じ題名で同じ装丁)

何じゃこの長い題名は。

「または」の後に内容説明をくっつけるこういう題名は、実は英米圏にはけっこうある。

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」なんてのもそれだ。

単純に題名に惹かれてこの本を手にしたが、読んでみるとめっぽう楽しい。

ハンフリー ボガート、ローレン バコール、ジョン ヒューストンらの個性はもちろん、何よりも書き手のキャサリン ヘプバーンである。

この人、ものすごーく面白い人なのだ。

観察眼に優れ、率直な感想を述べるにはばからず、いい格好をしない。

知的で自立した女性の象徴、アメリカのもっとも偉大な女優と呼ばれたキャサリン ヘプバーン。

知的であるということは、ユーモラスであることを恐れない、ということである。

そういう人にとっては、カメラの前でスタア然とふるまうことのほうが、ずっと恥ずかしいのかもしれない。

「冬のライオン」での彼女について、ライフ誌は「演技の女王が現実の女王を演じる」と評したが、本質はむしろ「アフリカの女王」にあるのではないか。

美しい女でいて、なおかつ面白いとはどういうことか。そんなことを考えるのである。

きゃさりんへぷばーん
(Katharine Houghton Hepburn  1907.5.12 - 2003.6.29)



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ブックガイド | コメント(4) | トラックバック(0) | 2018/06/29 11:30
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