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ヨミタイ本。

そうだ、あの本あるかな…

図書館の蔵書を検索していて、フッと思い出す。

それはもう20年前のこと。

幼稚園でバザーの役員を一緒にしたことから、ちょっと親しくなった人がいた。

いわゆるママ友である。

ある時、私が子供のころの古い児童書をたくさん持っていると知った彼女に

ずっと探してる本があるんだけど お宅にないかしら

聞かれたことがあった。

昔好きだった本をお子さんに読ませたいと思ったら、絶版で手に入らないのだという。

残念ながらうちには無い本だったけれど

ありがとう 気長に探すわ 

白い頬にえくぼを見せて、笑って別れた。

間もなくわが家は引っ越し、会うこともなくなって数年後、共通の知り合いから訃報を聞いた。

あの本は、見つかったのだろうか。

長く記憶の底に沈んでいた題名を、いきなり思い出すことができたのは、彼女の命日が近いから、かもしれない。

少女のあのひとが繰り返し読んだのは、どんな本だったのか。

50にならずに亡くなった人の、キュッと深いえくぼのある笑顔を思い出しつつ、いつか見つけて読んでみよう、と考えた。

ふぁにおばさんとどうぶつたち
(「ファニおばさんと動物たち」 ローザー 作・絵 偕成社刊)



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ブックガイド | コメント(8) | トラックバック(0) | 2023/09/03 11:30

オサレツ本。

久しぶりに書店の新刊コーナーを歩いた。

マンガにもライトノベルにも偏見は無いつもりでいるが、食べるもんの話か、でなければ異世界に転生する話ばっかりで、変わり映えしない。

こんなもん読むくらいなら ○○○○でも読みゃいいのに

本好きオバサンの脳裏には、○○○○に入る名前が、即座に何人も思い浮かんだ。

面白いのに若者に読まれない作家がいる。いくつか思い当たる理由のひとつが教科書だ。

小説は、国語の教科書に掲載された瞬間に面白くなくなる。

授業中、あくびをこらえて眺めた作家の名前は、退屈でつまらないもの、として子供のやわらかい脳ミソに深く刻み込まれて、生涯消えない。

試験に出る作品名の「山椒魚」「黒い雨」だけを覚えて、それで終わりの作家。

そんな風に井伏鱒二を脳ミソに刻んでいる人は多いはずだ。

大人になって、何かの拍子に

「サヨナラ」ダケガ人生ダ

有名な一節が、彼による翻訳であることを知り

へえ~ シャレてるじゃん

意外に思うくらいが関の山だろう。

おしつおされつ

童話「ドリトル先生アフリカゆき」に登場するこの双頭の珍獣は、原著でpushmi-pullyuと呼ばれている。「push me, pull you」の意だ。

むろん架空のこの動物に、井伏があてた名前が、オシツオサレツ

はじめて読んだ子供の私(→ドリトル本。)は、外国語と思ったけれど、実は「押しつ押されつ」をカタカナ表記しただけなのである。

声に出して読んで無理がなく、カタカナの字面は、左右対称の動物のイメージに重なって、満点の訳語だと思う。

自分が幸運だと思うことは時々あるが、彼の名を教科書で見る前に知ったことは、そのひとつだ。

井伏鱒二、没後30年。



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ブックガイド | コメント(4) | トラックバック(0) | 2023/07/10 11:30

チンボツ本。

夕ご飯を終えてテレビを点けたら、見たことある映画をやっていた。

たいたにっく

いや、なんでよりによって今日?

沈没したこの豪華客船を見るために、深海にもぐった潜水艇が消息を絶った。乗船していた5人も絶望的だと報じられたばかりだ。

きっと今ごろ、タイミングが悪いだの、不謹慎だの、ネット上ではさぞかし喧しいに違いない。

しかし、いくらテレビ局に節操がないといっても、ニュースに乗っかったわけじゃないだろう。

昨日の今日でこんな大作、流せるわけがないから、たぶん事故のずっと以前から放送が決まってたのだろうけど

偶然って怖いねエ…

他人事じゃない気がしたのは、今朝届いた絵本のせい。

ちんぼつせんはたいむかぷせる
(佐々木 ランディ 著 矢野 恵司画 福音館書店刊)

かねがね水中考古学に興味があり、今月初めに出た子供向けの本が面白そうで、ネット書店で注文してあったのだ。

日本では数少ない水中考古学の研究者が、興味深い水中遺跡や、そこからの歴史的発見を紹介している本で、例の豪華客船は出てこないが

ちんぼつせんはたいむかぷせる2

題名がこれでは、事故がらみのヤジウマ的興味と思われても仕方がない。

内容は期待通りなのに、なんだか残念である。



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ブックガイド | コメント(2) | トラックバック(0) | 2023/06/25 11:30

ターシャノ本。

わが母、おばーちゃんの誕生日が近い。

後期高齢者相手に、もういいような気もするが、本人も期待しているようなので、やめにくい。

ヤッカイなのは、実用品を喜ばないことである。

便利だろう、生活が楽だろう、と考えた品物は、イマイチ嬉しくなさそうだ。
 
カワイイもの、キレイなもの、不必要なもの。

そういうものにリボンをかけてフワフワと包んであげると、キャーキャー喜んでいる。

自分より年上の人間を、いまさら正そうとしても無理だから、ここは先様の流儀に従うよりない。

あれこれ考えて、写真集なんかどうだろう、と思いついた。

たーしゃのいえ
(「ターシャの家」 KADOKAWAパブリッシャーズ)

実家には、この人の庭の写真カレンダーがかかっていたこともある。

ターシャ テューダーは絵本作家。

制作の傍ら花を育て、手作りの自給自足生活をしたことで有名な人だ。若い女がよく

アタシ、将来は カワイイおばあちゃんになりた~い♥

などとほざくが、クラシックなドレスに痩身を包み、丹精の庭で季節の花に囲まれたターシャは、いかにもそんなイメージだ。

パラパラとページを繰ると、花を生けた暖炉のある室内、アンティークの食器や家具など、母の好きそうな素敵な写真がたくさん載っている。

これでいーやと買いかけて、待てよ、と手を止める。

そういえばあの人、ターシャのカレンダーを指してなんか言ってたな。

ステキな風に写ってるけどね 並み大抵の苦労じゃないよ こうなるまでは…

そんなもんかね。

亡くなった後は相続争いになったらしいしね 兄弟は他人の始まりよ 怖い怖い!

ミョーに詳しいな。

たしかに、人のしないスタイルを貫き、自身の美意識の許さぬものを排除する生活は、楽しいことばかりじゃないだろう。

若いオンナは、いきなりカワイイおばあちゃんにはなれない。

コワモテのオバサンになり、憎らしいババアになり、日々を生きアクが抜けて、やっと歳月にさらされた、カワイイおばあちゃんになるのである。

私より近づいているぶん、母は彼女の姿に、憧れではない何かを見ているのだろう。

誕生日プレゼントは、まだ決まらない。

たーしゃてゅーだー
(Tasha Tudor 1915.8.28 - 2008.6.18)



ターシャ テューダーの没後15年に際し、2018年6月18日の記事に加筆のうえ再掲載いたします。



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2023/06/18 11:30

サインノ本。

大きな書店に行くと、たまに著者サイン会をやっているのに出くわすことがある。

好きな作家にサインがもらえたら嬉しいだろう。

残念ながら私が好きな作家はほとんど鬼籍に入っているので、サインはもらえない。

以前アマゾンで古書を買ったら

しじゃく

大好きな落語家桂枝雀のサイン本だった。

どうせお弟子さんの代筆だろうけど、生きた枝雀サンにサインをもらうことはもうできないから、やっぱり嬉しい。

アマゾンでは、こういうのが来たこともある。

むらかみ

村上たかしのマンガの見返しに、イラスト入りのサインがある。

村上さんはあんまりさっさと描けるタイプではないのか、サインなのにイラスト部分にエンピツの下描きがあるのが微笑ましい。

買った私としては、ちょっとトクした気分だが、下描きまでして書いてもらったサイン本を売っぱらっちゃうのって、どうなのか?とも思う。

サイン本は、値打ちがありそうで、古書店の方にうかがうと、あんがいそうでもないらしい。

よっぽどの大家・文豪が、自著初版本にサインした、とかいうのでない限り、大方は単なる汚れ扱いで、買い取り価格も安くなるのだそうだ。

著者のサインがコドモが記名しちゃったのと同じ汚れ扱い、って、なんかすごい。

そういえば、サインは無かったけど、こんなのが挟んであったこともある。

えりか

○○○先生

1ページも読まず、メモにも気付かずに売りましたね○○○先生!

でも、じかにサインは入ってなかったから、売値が下がらなくってよかったですね○○○先生!

手紙は元通りに挟んで、古書店に払ってしまったので、本はもう手元に無い。



本日早朝より他出のため、2014年6月9日の記事に加筆のうえ再掲載します。



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2023/06/09 11:30
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