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すぐみた話。

シールなどはすぐ剥がす派である私は、同時にスグミル種でもある。(→ すぐみる話。

スグミル種とミナイ種は、作家の向田邦子による分類で、人間を、プレゼントの包みをすぐ開けるか否かで分けるものだ。

すぐみるしゅ
「無名仮名人名簿」 向田邦子著 文春文庫

スグミル種の私は、何かいただくとすぐ、我慢できなくてあけてしまう。

お中元なんか来たら困るだろう。

打ち水をした庭の見える、清らかな夏座敷で、絽の訪問着の美人が、熨斗紙つきの箱をスッと差し出す。

私はと言えば、美人が風呂敷を解いた時からもうソワソワして、中腰になっている。

白魚の指から、ひったくるようにして取り上げ、セロテープをはがす手間も惜しんで、バリバリと包みを破り、箱のふたを開けて、中身を確認する。

野蛮きわまりない。

まあ、さいわい、うちには庭も、座敷も、お中元をもらう当てもないけど。

お中元は来ないが、プレゼントをくれる優しい人は時々現れる。

その時困るのは、ステキなラッピングだ。

世の中には細やかでセンスの良い女性がたくさんいて、かわいいラッピングを施してくださる。

らっぴんぐ

キレイなリボン、カワイイ包装紙、オシャレなカード…嬉しくないわけはない。

でも、バリバリとあけてしまったあとの、そのリボンは、包装紙は、どうしたらいいのか。

取っておく場所はない。かといって、すぐにゴミ箱行きはせつなすぎる。

私はスグミル種であると同時に、貧乏性なのである。

つくづく因果な性分だと思う。




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もろもろ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2015/07/31 10:03

かめやま話。

所帯崩しの私と違って、友達のカナイさんのとこは、ずーっと夫婦円満である。

ところが、何年か前、いつも元気なカナイさんがメソメソしながら電話をかけてきた。

…もう… アノ人とやって行ける自信… ナイ…

どうしたの?ナニゴト

電話口の消え入りそうな声に驚いて聞き返すと

テレビ… 新しいテレビがね…

は?テレビ?

聞けばなんでもカナイさんでは新しい大型テレビを買った。シャープのアクオスである。

その日もパートから戻ったカナイさんが、夕飯の支度をしていると、ご主人が帰宅。すると突然

おい!何だこれ!どうした!

リビングで大声がしたので行ってみると、テレビの前で、ワイシャツのままのご主人が、ワナワナと震えていた。

どうしたの?

どうもこうも、アレはどうしたんだ!なんで無くなってるんだ!

見回したが、いつものリビングである。カナイさんは困惑した。

アレって…?

アレだよ!ここにあっただろ!亀山モデルって!

せかいのかめやま

新しいテレビに、色々貼り付けてあるシール。

買った後、そのままにしてたのだが、カナイさんがその日のお掃除の時、何となく剥がして捨てたのである。

え?シール?あんなの邪魔じゃ…

アレが値打ちだろ!亀山モデルなのに!

ご主人の怒りは収まらないが、カナイさんには何がそんなに怒ることなのか理解できない。

ケンカはこじれにこじれた。作りかけの夕食のおかずが、レンジの上で焦げていた。

あれから、ずいぶん経つ。メソメソするカナイさんを何と言って慰めたのか、もう記憶にない。

カナイさんは相変わらずオシドリ夫婦だが、「世界の亀山モデル」はめっきり聞かなくなった。



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ごきんじょ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2015/07/30 10:08

おんぞん話。

夜は雨の予報だったせいか、車内には傘を持つ人がちらほら。

隣の席のおじさんも、ヒザの間に立てた長い黒い傘の柄の上に掌を重ね、あごをのせている。

何か懐かしいものを見た気がして二度見したら、おじさんの傘の柄が目についた。

買ったときの透明フィルムが、かかったままになっている。

フィルムが白く曇って、小さなかぎ裂きもあるところを見ると、新品じゃないらしい。この傘がまだ新品の時から今日まで、おじさんはフィルムを温存してきたわけだ。

時々こういう人がいるが、何でもすぐはがしてしまう私にとっては理解の外である。

そういえば、ママ友の家でランチをした時、マヨネーズが袋に入ったままだった。

彼女は外袋の口を開けて、チューブを取り出さず、袋をずり下げて使っているのだ。

ずりさげ

私はイーッ!となって、人んちであることを忘れ、バリバリと袋をむきかけたが、必死で思いとどまった。

温存派の抵抗が、意外に強いことを知っているからである。

子供のころ、自家用車のなかった我が家では、時々、親戚のタカベのオッチャンの車に乗せてもらった。

あれはどこに行った時だったか、長時間のドライブで姿勢よくするのにも疲れた私は、だんだんずり下がって、後部座席の窓側に、めり込むように座っていた。

低くなった視点から、ドアの内側に剥がされずに残ったビニールが見える。

いいかげん古びて白く濁り、一部はちぎれてフワフワ浮いていたそれを、私はヒマにあかせて丹念にむしった。

目的地に到着した時には、みすぼらしいビニールはなくなり、隠れていた綺麗な内装が見えて、とてもサッパリした(と、私は思った)。

しかしそれに気付いたタカベのオッチャンは、未だかつて見たことのない、赤鬼のような顔で怒った。

言うまでもないが、オッチャンは断固温存派だったのである。

父も母も平身低頭して謝っていたが、弁償のしようのないものだけに、困ったと思う。



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むかしむかし | コメント(18) | トラックバック(0) | 2015/07/29 09:19

やくそく話。

確か今日はおばーちゃんちに行く約束をしていた、と思う。

ただ、何の用件だったか思い出せない。

しかたがないのでお手紙書いた…では黒ヤギさんになってしまうので、文明の利器、電話をかけた。

今日さー、行く予定だったでしょ 何するんだっけ?

やーねー、若いのに何トボケてんのよ… アレ?何だっけ

ナカニシさんのキューリ… は先週もらったね

ウン… ゴーヤーは次まだ生ってないしね… あ、ペンキ屋の見積もり…

見たよ、こないだ見せてもらった

うーん、じゃあ何だろ…

一向に要領を得ない。

おばーちゃんのカレンダーには、ゴミの日や通院日と並んで、今日の欄に私の名前だけが書かれているという。

結局、二人とも要件を見いだせなかったため、本日の実家訪問は見送りとなった。

後期高齢者のおばーちゃんはまあいいとして、疲れてんのかな、私。

かれんだーのよてい




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ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2015/07/28 10:03

はなびの話。

どん!と低く大きな爆発音が響いた。

下の道路からかな、と思ったが、その後も

どん!…どんどん!…

音は続く。

花火大会だ。

はなびたいかい

ここらは高台なので、遠くに上がる花火を家から見ることができる。

日程を調べるわけじゃないから、その日家にいれば気づくが、見ないままのことも多い。

私にとって花火は、たまたま上がっているのを見つけて、おお!と思うもの。

流れ星とかと同じ感じだ。

今日も、おお!花火だ!と思ったけど、見回せば一人。

ムスコは誰だかとどこだかに出かけたっきりだし、ムスメは下宿からまだ戻らない。

おお!花火だ!

と窓に寄っても

ホントだ!

と返事する相手がいないと拍子抜けだ。しばらく眺めたが、なんとなくつまらなくて、見るのをやめてしまった。

そのうち、打ち上げ音も聞こえなくなり、終わったんだなと思っていたら、電話が鳴った。

モシモシ?!私!

おばーちゃんだ。外からなのか、後ろがウルサイ。

ハラダさんとナカニシさんと花火見に来たの!キレイだったよ!

元気だなあ…。母を見習うべき点はたくさんある、と思った。



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2015/07/27 09:19

たれんと話。

押入れの整理は続く。

OL時代の写真がもう1枚出てきた。

テレビ取材がきた時のもので、同僚たちと、タレントのヒロコさんを囲んでいる。

私の同僚もきれいな人は多かったが、やはりプロのタレントの写真うつりは、一味違う

取材に来たヒロコさんは、体験の成果を番組中に披露するので、一所懸命練習していた。

ベテランさんがそばについて指導するが、なかなかうまく行かないらしい。失敗して、ああー、と落胆している。

見守るスタッフもヒヤヒヤ、緊張ムードが流れた。

そんな時、先輩のカネコさんがどやどやと入ってきた。とてもいい人なのだが、ちょっと雑というか、雰囲気を察しないところがある。

一緒に写真撮ってもらいましょうよ!お願いしまーす!

私を含む数名がハラハラする中、使い捨てカメラを手に、ぐいぐい迫っていく。

練習を中断されたヒロコさんは、シブシブの表情。オバサンはしょうがない、と思っているのが、アリアリとわかる。

ところが、出来上がった写真を見ると

ここにいる皆さんが大好きです

満点の笑顔に輝く彼女が写っていた。

うーん、やはりプロのタレントの写真うつりは、一味違う

しゅざいふうけい
(取材って、写る人数の10倍くらい人が来る)


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てれびじょん | コメント(4) | トラックバック(0) | 2015/07/26 10:34

もでるの話。

押入れを片付けていたら、OL時代の沖縄旅行の写真が出てきた。

20代だった同僚と私が、思い思いのポーズで写っている。

リーコはカニのように両手でピースを作って。

ミキコは両ヒザに手を置いた前傾姿勢で、たぶんだっちゅーの

私はバカみたいに背伸びでバンザイをしている。

中で一人、あきらかに異色を放っているのがクミちゃん。

下半身を軽くひねり、前に出した足は浮かしてつま先だけ地面につけ、両手は耳の下で、肩までの髪をかき上げている。

顔も真正面ではなく、少し角度をつけて、いたずらっぽい流し目でカメラを見ている。

もでるだち
(これはクミちゃんではなくマリリンちゃん)

普通のOLが、とっさにこんなポーズをとれるものだろうか。

旅行から戻ってこの写真を見て、タダモノじゃないと確信した私は、彼女に詰め寄った。

へへへ…、バレたか…

学生時代にモデルをやっていたが、足を洗って企業就職したのだという。

なるほど、確かに美人だし、なにしろ化粧がうまかった。

連絡を取り合わなくなってもう10年以上経つが、私とは同期入社だから、彼女も今頃は50のオバサンである。

いまごろ夏の旅行先で、モデル立ちで家族写真に写っているのだろうか。



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むかしむかし | コメント(10) | トラックバック(0) | 2015/07/25 08:43

なまえの話。

いつものバスの前方から、制服の女子高生が乗ってきた。

背の高い、体格のいい子で、エナメルの部活バッグを持っている。

しばらくわからなかったが、よく見ると、見覚えがある。

ムスコの同級生だ。

思わず笑顔を浮かべて声をかけた。

あ、久しぶり、

強いまなざしと、への字に結んだ唇に制せられ、言いかけた言葉は中途になった。

彼女は私に向かって、黙ってぺこんと頭を下げると、目を合わせることなく通路をずんずん進み、一番後ろの席に腰かけた。

言えなかった彼女の名前は、ヒヨコちゃんという。

ひよこちゃん

ムスコと同じクラスだったのは小学校の3年生の時。

縄跳びが得意で、人懐こくて、PTAの用事で学校に行くと、目敏く見つけて

おばちゃーん!

と寄ってくるような女の子だった。

しかし女の子の成長は早い。男の子がボンヤリしているうちに、ぐんと大人っぽくなる。

小学校の卒業式で、急に背が伸びた彼女を見て以来、消息を聞くことはなくなった。

そして今日久しぶりに会ったヒヨコちゃんは、どう見てもその名にそぐわない女性だった。

親が名前を付ける時には、小さくてかわいくて、いたいけな赤ん坊。

だけどやっぱり、その子がオッサン、オバハンになった時のことを、考えたくなくても、考えた方がいいんだなあ。

ヒヨコちゃんの怒りの表情が、古い衣服のように自分に合わない名前に対してなのか。

それとも、成長してしまった自分に対してなのか、それは私にはわからない。



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ごきんじょ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2015/07/24 09:12

むぎちゃ話。

そろそろ冷たい麦茶がたくさん欲しいので、ポットを出してみた。

確か一昨年、買ったものである。

よけいな模様がなくて、ヘンな色じゃなくて、横に置けて、中に手を入れて洗えて…と、いろんな条件を考慮して選んだ。

むぎちゃぽっと1
 (雨のせいか写真が暗いな)

半年以上しまってあったので、とりあえず洗ったら、思い出した。

そうだコイツ、もうイヤになったんだったっけ

さまざまの条件をすべてクリアしたポットだが、使いだすとイヤなところがいくつもあった。

一番イヤなのは、持ち手の付け根の、ここ。

むぎちゃぽっと2

カセットテープ1個分(例えが古い)の、この空間。

何の働きもしないくせに、入り組んでいて洗いにくい。そのうえ、中を乾かすために伏せると、ここに水滴が溜まって、なかなか乾かないのだ。

透明部分と白い部分の継ぎ目が汚れるのもイヤな点である。

冷蔵庫に横倒しに入れられて、パッキングがよくて水漏れしない。作った人はきっと、「よくできた」と思っているだろう。

だけど、イヤなものはイヤなのだ。

アイデア商品や家電を作る人はきっと便利な機能が一番喜ばれると思っているのだろうが、実は違う。

どんな最先端の高価な製品でも、使っているオバチャンはきっと

んーもう、洗いにくいなあ…

とか

こんなヤヤコシイもん、誰が掃除すると思てんねん、ホンマに…

と、みんな不平タラタラなんだけど、そんな声は、なかなか届かない。




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もろもろ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2015/07/23 10:24

コウカン本。

梅雨も明けて、いよいよ

私は冬生まれで暑い時期は苦手だが、夏の声を聴くと、暑ければ暑いほどうれしい、というこの作家の本を手に取る。

かいがらとうみのおと

(「貝がらと海の音」 新潮文庫)

一貫して身辺を書き続けた作家の、晩年の作品。

二男一女はそれぞれに伴侶を得て、孫の成長を楽しみにする老夫婦の日々が描かれている。

あとがきで作家本人がそう呼んでいるように、あくまで「小説」だが、人名も地名もほぼ実名であることからして、作中の出来事も現実と重なるものと思われる。

この本を私の本棚から持っていった友人は

誰が来た、どこに行った、の記録だけで、何にも起こらなかった…

と、つまらなそうな顔で返してくれたが、その通りなのだ。

この本の前後の別の作品の内容も、皆「おじいさんの日記帳」のようなものだ。

それを繰り返し巻き返し読む自分が、ちょっと不思議でもある。

このおじいさんの家では、実によくモノのやり取りをする。

孫に童話の本を贈る。孫からは、絵入りのお手紙が来る。

山の家で作った野菜やアップルパイを届けた娘には、すき焼き用のお肉を渡す。

友人からの花や菓子は、子供たちへおすそ分け、ご近所には季節のお寿司やおはぎを届ける。

それぞれに、ありがとう、嬉しい、の言葉が添えられたモノの行き来が、作品の核をなしていると言ってもいい。

交換は交歓なのだなあ、などと思う。

おすそ分けやいただき物を、迷惑に感じる人も多いようだが、そういう要素を切り捨てた人生は貧しい

自分が選んで買ったものだけで暮らすのは、ステキに見えても偏狭である。

家に流れ込むモノを扱い兼ねて、断捨離なんていう荒療治が流行る昨今。

しかし作者の家では、モノを受け入れ、行き先を決め、そんなことの全てを楽しんでいる

老夫婦の、年を経た逞しさが、頼もしく羨ましい。



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ブックガイド | コメント(10) | トラックバック(0) | 2015/07/22 09:14
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