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まきまき話。

♪ぴん ぽーん♬

暑い中、タオルでハチマキをして片付けをしていたら、呼び鈴が鳴った。

あーハイハイ ただいま…

鳴らした人にはぜったい聞こえない返事をしながら玄関を出る。

どうせ何かの配達だと思って顔を出したら、上の階のご夫婦がお揃いなので、慌てた。

背の高いご主人を従え、小柄で丸顔の奥さんが、ニコニコと笑っている。

あ、どーも…

お忙しいところすみません… 実は急なんですが、引っ越すことになりまして…

え?そうなんですか?

ここに住んで10年になるが、すぐ上の階のご一家とは、顔を合わせれば会釈する程度。

子供の年も近かったのに、親しくならなかったのは、ひょっとしたら私のせいなのだ。

越してきてすぐ、引っ越しで疲労困憊で寝ていると、ドンドンと重い音が聞こえてきた。

夜中過ぎても音は続き、ヘトヘトなのに気になって眠れない。

思い余った私はネマキのままセーターをひっかけ、上の階の呼び鈴を押した。

あの… 何か音がして… 眠れないで困っているんですが…

すみません!すぐやめさせます!

やはりネマキ姿の奥さんが恐縮して引っ込み、部屋に戻ると音はやんでいた。

いきなりクレームを言ったため、顔を合わせても気まずく、積極的に話しかけにくくなった。

挨拶するときの言葉つき、お子さんに接する様子などから、よさそうな奥さんだなと思いつつ、日々に取り紛れて過ぎたのだ。

お引越し先は、どちらのほうに…

金沢なんです

わー、ステキですね!

こうして話してみるとやはりとても感じのいい人だ。なぜもっとお話ししておかなかったのか、惜しい気がする。

ツマラナイモノデスガ、の決まり文句と一緒に小さな包みをいただいて、玄関に引っ込んでから、タオルのハチマキをしたままなのに気がついた。

最初がネマキ、最後がハチマキ

これじゃお友達になってもらえなくて当然だよね、と思うとおかしくて、一人で笑った。
ひっこしのそしな
(品物は台所用のスポンジでした)



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2016/08/11 10:23

かんばん話。

時々降りる駅に、盆踊りのカンバンがかかっていた。

新興住宅地でも、ちゃんと地域の祭りがあるのはいいものだ。

今年は浴衣を着る予定もないなあ、と思いつつカンバンの前を過ぎ、改札を通る。

電車に乗り込んだが、さっき見たカンバンが、妙に頭に残った。

かわいい感じの絵柄で、踊る人がペンキで丁寧に描かれていた、ような気がする。

次に通ったらもうちょっとよく見てみよう、と決意した。

そしてようやく、また見るチャンスが訪れた。

ぼんおどりのかんばん1

一見して気づくのは人物の年齢層である。

ご老人と子供しかいない。

提灯のともるヤグラの下で、浴衣姿のカレ・カノジョに胸をときめかす、青年男女はいないのか。

次に気がかりなのは、踊る子供たちの肩の関節

手のひらがどっちを向いているのかもわからないが、右手をこの角度であげるのは相当つらい。

私も試しにやってみたが、うっかりすると脱臼しそうだ。

現に中央の老夫妻は

この振付はトシヨリには無理

とばかり、列に加わりつつ踊りを放棄している。

最も気になるのは、人物の国籍構成である。

まぎれもなく浴衣を着た盆踊りでありながら、全体に漂うこの異国情緒は何だろう。

どこか遠い国の、日本人町の祭りのような気さえするのは、どことなくエキゾチックな人物の面立ちのせいであろう。

ぼんおどりのかんばん2

子供ながらグラマーな赤毛の彼女もさることながら、グレーの浴衣を着てノーブルな横顔を見せている彼の量感ある巻き毛などは、日本人のものと思えない。

さらに考察を続けたかったが、人通りの多い場所で長く立ち止まるのも気が引けて、やむなくその場を後にした。

次に通る時は、お盆も過ぎ、カンバンも片付けられているだろう。なんだか、お名残り惜しい。



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ごきんじょ | コメント(4) | トラックバック(0) | 2016/08/10 10:54

まよまよ話。

今日は一人でランチ。

メニューを前に、カツ丼か鶏南蛮かで迷っていると、カラアゲ丼というものに目が止まる。

ご飯の上に鶏のカラアゲ、白髪ネギをこんもり盛ったさまは、とても魅惑的で美味しそうだ。

そう思うなら注文すればいいのだが、引っかかるものがあって思いとどまった。

引っかかるのは、カラアゲ丼のカラアゲに、縦横無尽にかけてあるマヨネーズ

飲食店が頼みもしないマヨネーズを、片っ端からかけて出してくるようになったのは、一体いつごろからだろう。

かつて、生野菜以外にマヨネーズをかけるのは、おおっぴらにできないゲテモノ趣味であり

若い頃はオカズがなくて、マヨネーズをご飯にかけたこともあります

などと言うのは、貧乏時代のハズカシイ告白であった。

例外はお好み焼きとタコヤキであるが、昔はそれさえオプションで、オバサンに

マヨネーズかけます?

と聞かれ、幾許かの羞恥を感じつつハイ…と答えてはじめて、かけてもらえるものであった。

誤解しないでいただきたいのだが私はマヨネーズが好きである。

カラアゲもタコヤキも、マヨネーズをかけるとおいしいと思うが、だからといって、最初っからかかってくるのは、何か違う。

はしたない、などと思う。

シチュエーションは、できればもっとひそやかであってほしい。

例えば1人の昼ごはん。オカズは昨夜の残りのカラアゲの温め直しである。

お皿にのせていったん食べかけたが、ちょっと考えて周囲をうかがってから、こそっとマヨネーズをかける。

そんな秘密っぽい味わいこそ、カラアゲにかけるマヨネーズの美味しさではないか。

揚げたてアツアツのカラアゲに、いきなりドバっとマヨネーズ!じゃあ、ダメなのだ。

お好み焼きでもタコヤキでも、いきなり網目状にマヨネーズをかけられちゃう、という状況には、いまだに慣れない。

たこやき
(デフォルトでマヨマヨな現代風タコヤキ)



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むかしむかし | コメント(12) | トラックバック(0) | 2016/08/09 10:28

みなさん話。

うちの近所はニュース用語で言うところの閑静な住宅地(笑)

遊歩道も整備されていて、朝夕は犬の散歩をさせる人が多い。

おおかたはマナーのいい飼い主と信じるが、そうでない人もいるのが世の習いで、路傍に警告のハリガミが出ている。

○○禁止2

役所が出すハリガミの表記は事務的だが、個人が貼るものはそうとは限らない。

私有財産を守る切実さと同時に、ご近所さんである飼い主への配慮も働く。

強く訴えたいが、高圧的にならないように、という難しさがあるのだ。

そこをクリアするために編み出されたのが、犬を相手にする方法である。

♥ ワンちゃんへ ♥
お花が泣いています
おトイレはよそでしてね♥


かわいい犬のイラストを添えた乙女チックなもの。

うちの前で用を足すなコンニャロ!と言いたいところ、ワンちゃん、お花、というクッションでごまかしている。

お犬様各位
用足しの後始末は
お付きの者にお命じください


筆文字で高札風に書かれているもの。

面白いでしょ?と得意げな顔まで想像できるが、こりゃ凝り過ぎだ。

昨日また、新しいハリガミを見た。

 ~ 犬の皆さんへ ~
地域の美化にご協力ください


イラストもなく、白地にあっさり手書きだけのシンプルなハリガミだが、新しいと思うのは

犬の皆さん

という表現である。

一見すると、例の犬を相手にするパターンか、と思われる。

しかし、地域の美化なんて抽象的な概念、犬に分かるだろうか。

もしかしたら、この書き手は

犬の皆さん

の一句をもって犬およびそれを連れている人間を表しているのではないか。

そう考えると、役所のハリガミよりもっとヒンヤリ冷たいものを感じて、少しコワくなった。

○○きんし
(古式ゆかしい方法だが犬には通用しない)



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ごきんじょ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2016/08/08 11:13

せらせら話。

♪ ~ わたしが~ ちい~さい~とき~ ママに~ き~き~ました~ … ♪

台所で母が歌っている。

もー!おかーさん!静かにしてよ!

テレビ聞こえないよ!

私とイモートは、居間でザ・ベストテンを見ているのだ。

♪ ~ ケ~セラ~セラ~ なるように~ なるわ~ さきのこと~など~ わから~ない~ ♬ 

娘どもの抗議など意に介することなく、絶好調の母は歌うお母さんで、煮炊きの時、掃除の時、いつも歌っている。

やがて夕飯の後始末が終わり、前掛けで手を拭きながら、母もテレビの前に座った。

テレビの画面では、ヨコハマギンバエが暴れている。

こんなの見てると心配だわ…

なにが?

あんたたちもそのうち お母さんになるでしょ

そりゃまあ、できればね…

その時お勝手で歌う歌がないんじゃないかって…

はあ?

♪ ~ かぁなしいぜぇ~ あおい い な づ ま~ ♬

ぶるーじーんずめもりー

画面は袖のないジージャンを着た、コンドウマサヒコに変わっている。

♪ かぁなしいぜぇ~…♬ なんて 洗い物しながら歌えないでしょ

ハハハ… それ心配する?

歌わなくったっていいじゃん!

娘どもは母の取り越し苦労を笑い飛ばした。

月日は流れ、私もイモートもあの時の母より年を取った。

遺伝か刷り込みか、えらいもので今や私も立派な歌うお母さんである。

ボカロも歌うが、演歌も歌う。

「ブルージーンズメモリー」は歌わないが、今日のようなお天気の日、母譲りの「ケセラセラ」は、洗濯物干しにちょうどいい。



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むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2016/08/07 11:22

きせきの話。

このごろ食欲がない

なんだか食べる気がしないし、食べてもおいしくない。

暑さには強いほうだと思っていたのに、トシのせいだろうか。

ガックリしかけたが、待てよ、夏痩せというものがある。

夏に痩せる。スバラシイ響きだ。ウキウキと、しばらく見ずに済ましていた体重計に乗る。

デジタルの 数値を見れば こはいかに。(五・七・五)

痩せるどころか、微増ではないか。

ただでさえ汗をかく季節に、どういうことなのか。検証のため、昼食を思い起こす。

食欲のない時はのど越しの良いものがよかろうと、具だくさんのソーメン

パッとしなかったので、ちょっとご飯をついで、泉州名産・水茄子の漬物を出した。

胃がもたれる気がしてヨーグルトを食べたら、あと口が悪かったので、アイスも食べた。

… うーむ、なんたること。

冷静に見れば、食べる量は減るどころか、むしろ増えている。

私の場合、食欲と食べる量は関係ないのかもしれない。

おまけに夜は夜で、当然のようにビールを飲む。

その飲む量たるや、昼間にかいた汗の量を何倍も上回るであろう。

これでは痩せるどころか、むしろ微増で済んでいるのが奇跡である。

思わぬところで奇跡を起こしてしまったが、これっぽっちも感激はないのであった。

あざらし
(水泳もやっております 夏は水が気持ちいいです)



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もろもろ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2016/08/06 11:20

だっぴの話。

靴がボロい、とムスコが言うので、やむをえずショッピングセンターに行った。

ムスコも私も買い物がキライなので、滞在時間はなるたけ短くしたい。

広いフロアを斜めにつっきって靴売り場に行くと、わき目もふらずスニーカーのコーナーへ。

どうすんの?

なんでもいい…

じゃ今のと同じにする?

ウン…

サイズは?1つ大きくする?

アア…

ものの20秒で、買い物は終了。履いてるのとまったく同じ靴を購入することとなる。

箱を持ってレジまで行くと、カウンター横に緑のカンバン。

くつしたどり

靴の下取り承ります 履き古した靴とお引き換えに5%オフ!

5%オフと聞いては黙っていられない。

あの、これ、履いて来た靴でもいいですか?

ああ、大丈夫ですよ じゃあこちら値札取らせていただきますね

そう言った店員さんだが、それじゃ、とムスコが脱いだ靴を見て、わずかにピクッとした。

たった今値札を取って渡した靴が、一瞬で古くなって戻ってきたら、誰だって驚く。

ともかくも、首尾よく5%引いてもらい、スタコラサッサと家に帰る。

新しい靴を履いたムスコは、心なしかこざっぱりして見えるが、これは親の欲目だろう。

カウンターに乗っていた古靴を思い出し、ありゃ脱皮だな、と思った。

こんばーす
(ここんとこもうずーっとコレばっか)



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ごかぞく | コメント(14) | トラックバック(0) | 2016/08/05 10:32

わっとの話。

うちのご不浄は暗い

もともとは、60ワットの電球がついていたのだが、切れた時の間に合わせに、以前に百円均一で間違って買った、小さい電球をつけた。

小さいのでかなり暗いが、それなりに用は足せる。

考えてみれば、ご不浄では読書も、精密な作業もしないのだから、隅々まで照らす必要などないのであった。

新しい60ワットを買ってきて、すぐ付け替えるつもりだったが、まあ、切れるまではこれでいっか、という気がしてきた。

このさい間違って買った電球を使い切ろうという、貧乏性ならではの考えであるが、

暗っ!なにコレ?

ちょっと怖いよ…メイちゃん来たら泣くんじゃない?

と、ムスメとムスコには不評である。

先日、その小さい電球が、意外に長持ちしたあげく、ついに切れたのである。

さっそく60ワットを買ってきてつけた。狭い空間を、まばゆい光が満たす。

これで元通り、めでたしめでたし、と手をはたき、スイッチを切ってご不浄を出た。

しばらくして、台所でもぞもぞしていたら

おわっ!

おかしな声がした。行ってみると、じゃーと流れる音がしてドアが開き、ムスコが出てきて

明るっ!なにアレ?

なぜか不満げである。続いて、私も入ってみた。

壁や床が白々とし、蛇口や取っ手がやけに光って、落ち着かない

それに、こんな明るいところで下着を下げて用を足すなんて、恥ずかしい気がする。

恐ろしいことに、われわれ一家はあの暗いご不浄に慣れてしまったのだ。

数日間明るさに耐えたが、ついに今日、百円均一で、例の小さい電球を買ってしまった。

切れてもいない60ワットを外し、小さいのにつけかえる。

薄暗い灯の下でパッケージを見たら、7ワットと書いてあった。

いんえいらいさん

「陰翳礼賛」 中公文庫



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もろもろ | コメント(16) | トラックバック(0) | 2016/08/04 10:19

ふぁくすの話。

朝の6時に電話。

一族皆健康であるとはいえ、高齢者もいる。ドキッとして飛び起き、受話器を取った。

… ♪んぴーー  … ぼーー♪ …

なんだ、ファクスだ。

しかしこの時間にファクスなんて尋常じゃない。受話器を置き、吐き出される紙を見守る。

… んんんんん …んじ じ じ じ じじじじじじ …

ペロン、と床に落ちた受信紙を拾ってみると、表題は

観光ガイド申込メール

ナンノコッチャ?発信者情報はなく、添え状もない。

氏名、住所、日時と人数などが順に打ち出され、「希望コース」として

東大寺をメインに1時間でおすすめコースを案内してほしい

とある。

どうやら観光ガイドの会社のHPのメールフォームのようだが、いくつか手書きの丸印と、人名らしき書き込みがある。

以上から推測した経緯はこうだ。

1・ガイドしてほしい人が会社のHPから申し込み

2・会社は受付して内容をチェック、派遣するガイドを決めた

3・決まったガイドに概要を知らせるため、メールフォームのプリントアウトをファクス

4・ところが番号を間違え、うちにファクスが届いた


さて、うちとしては、これをどうするか。

早朝にファクスが入るだけあって、日にちは迫っている。

私はだいたい親切でお節介なほうで、過去に間違いファクスが入った時は、添え状を見て発信者に電話をかけ、間違って来てますよ、と教えてあげた。

しかし今回は発信者受信者ともに不明。

わかるのは、ガイドを申し込んだ人の、住所氏名電話番号等、詳細な情報だ。

しかし、そこに電話をして、1から4の経緯を説明するのはいかにも面倒くさいし、個人情報の問題がある気もする。

一番の問題は、この申込者が中国人観光客だということである。

メールフォームの備考欄には

中国語を話せる方希望

とある。

東大寺周辺なら、私がガイドしてあげてもいいのだが、中国語はちょっと無理である。

とうだいじ
(東大寺HPはこちら → 華厳宗大本山 東大寺



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もろもろ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2016/08/03 11:12

かりんと話。

お、ボーヤ、かわいいなあ!

声をかけられたのは信号待ちの交差点。

私は2歳のムスコを乗せたベビーカーを押して、区役所に向かう途中だった。

今でこそヒョロヒョロと背ばかり伸びてパッとしないムスコだが、小さい頃はぷっくり丸顔で、とてもかわいかった。

子供らしい子供の顔なので、年配の方にウケるのだ。

その日声をかけてきたのも70代くらいのオジサン。セッタなど穿いて、職人風である。

1つ食うか?

オジサンは手にした袋をいきなりバリバリと開け、中身を指でつまんで、ムスコに差し出した。

真っ黒でゴツゴツの、カリントである。

ムスコはまだカリントを食べたことがなかったので、目を丸くしている。

あまりの展開の速さに、それまでまごまごしていた私は、やっとのことで口をはさんだ。

この子、カリントはじめてなんです!

だいたい、道端で通りすがりの人に、いきなりもらったカリントを、子供にやっていいものか。

しかも、知らないオジサンがジカに指でつまんだカリントである。

母親として決断を迫られる時。

目の前の、悪意のカケラもなさそうなオジサンを、むげに断るのもはばかられ、つい口走った。

私がお相伴すれば、食べると思います

お、そうか!

オジサンは最初につまみ出したカリントを、そのまま私にくれた。

もはや後戻りはならぬ。ボリボリとかじる私を、ムスコはじっと見ている。

オジサンはその様子をしばらく見て、やおらガサゴソと袋に手を突っ込み、2つ目のカリントをつまみ出した。

じゃあこれ、ボーヤのぶん

こんどはムスコは手を出してカリントを受け取り、グーに握って先端を口に入れた。

黒糖の甘味が気に入ったのか、にへらーと笑う。

そうか、うまいか!良かったなボーヤ!

1度になった信号が、2度目のに変わって、オジサンはさっさと行ってしまった。

その後ろ姿を見ながら、私もベビーカーを押して横断歩道を渡る。ムスコはカリントで手と顔をベタベタにしてゴキゲンである。

教育的衛生的なお母さんなら、絶対しないことをしてしまった。

しかし、もし今あの状況になっても、私はたぶん、また同じようにすると思う。

かりんとう
(今私が一番おいしいと思うカリント→ 日本橋錦豊琳 きんぴらごぼう 



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ごかぞく | コメント(18) | トラックバック(0) | 2016/08/02 10:15
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