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びわのみ話。

うちの団地には、大きなビワの木がある。

濃緑の葉の陰に、ビワの実の、うぶ毛にけむる甘い黄色が見えれば、もう夏も近い。

子供のころ住んでいた田舎の家にもビワの木があり、毎年スズナリに実が生ったので、イモートも私も、自由に枝からもいでは、勝手に食べていた。

そのせいか、私はいまだに、おカネを出してビワを買う気がしない。

何年か前、小学生だったムスコに、なにげなく尋ねた。

ねえ ビワって食べたことないよね?

あるよ ヤマモトさんがくれる…

へ?誰?

ヤマモトさんは、団地の管理人さん。

ご夫婦で住込の常駐管理で、暇なときには子供をかまってくれる。

親の私はひと通りのお付き合いしかないが、団地の中で遊んでいる子供にとっては、とても親しい存在だったようだ。

団地の敷地内のビワの実が熟すと、ヤマモトさんは高枝伐りハサミなどを使って収穫し、そこらで遊んでいる子供にくれるらしい。

そんなことになっているとは、とんと知らなかった。

いいニオイだよね ビワって…

母親の私の知らないところで、ビワの味をとうに知っていたムスコ。

いつまでも手のひらにのせている気でいたけれど、ムスコはもう、自分だけの人生を生きている。

これから私が会わない人に会って、私の知らないことを知っていくんだな。

そう悟ったはじまりが、ビワの実だったような気がする。

ヤマモトさんは定年退職され、ムスコも大学生となって、家を離れた。

今はもぐ人のないビワの実が、霧雨に濡れている。

びわのみ



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ごかぞく | コメント(14) | トラックバック(0) | 2017/06/20 11:30

さされた話。

今年初めての蚊に刺された

かのばか

場所は団地のエレベーターの中

記憶をたどれば、たしか去年も一昨年も、最初に刺されたのはこのエレベーターの中だった。

バタバタ1日の仕事を終え、帰宅ラッシュをかき分けて、ようよう家にたどり着き、しばらくぶりに1人になる、それがエレベーターだ。

扉が閉まって、階数ボタンを押して、ふーっと思わずタメイキをついた、まさにその時

…むい~~~ん…

どこからともなくヤツの羽音が聞こえてくる。

狭い函の中、懸命に目を凝らしても見えず、気づけばどこかしらを刺されているのである。

エレベーターを降りて、いまいましくも刺されたヒジを、反対の手でボリボリ掻きながら考えた。

夏の夜は、よそでエレベーターに乗っても、かなりの確率で中に蚊がいる。

エレベーターというもの自体に、何か蚊を惹きつけるものがあるのだろうか。

それとも、エレベーターと見れば蚊を仕込んでおく、悪の組織のしわざだろうか。

エレベーターの底のどこかで、うじゃうじゃボーフラが湧いているところを想像しかけたが、怖くなったのでやめた。

函の中で、ホーッとつくタメイキの炭酸ガスが、蚊を呼ぶのかもしれない。

今日もどこかで、誰かがタメイキをつき、そして蚊に刺されている。

暑く、かゆく、くたびれる、夏がやってくる



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もろもろ | コメント(15) | トラックバック(0) | 2017/06/19 11:44

めもする話。

某通販で買い物をすると、B6サイズの明細書がついてくる。

たまたま同時に複数注文したとき、それが何枚もあったので、なにげなくクリップでとめた。

しばらくして、また注文した商品が届いたので、明細書を前のと一緒にした。

定期的に購入する商品があるので、けっこうな勢いで紙の束は厚みを増し、ふと気づけば、その裏をメモに使うようになっていた。

日付と、その日やらねばならないことを書く。例えば

6月18日 梅干しビン 報告書 図書館返却

などと書き、用が済めば線で消す。

雑多な毎日の中で、今日もこれだけできた、と確認し、達成感を得るのは、あんがい悪くない。

先日、通院の帰りに寄ったおばーちゃんが、この明細書の束を目にして、笑いながら言った。

あーら おじーちゃんみたいなことして… 親子ねえ…

思いもよらない指摘に、ギョッとする。

そういえば亡くなった父は、株の配当の明細書の裏を、メモに使っていた。

輪ゴムで止めて、手元に置いて、チョコチョコ何か書いていた姿が、記憶にある。

紙を捨てられない人だった。亡くなった後に、持ち物を整理すると、大量の裏の白い紙が、怖いほどキチーッと整理されて見つかった。(→ ほうふな話。

あれだけはマネしないようにしよう、と思っていたのに、親子ってオソロシイ。

父はもういないけれど、私の中の何かが、たしかに父を伝えている。

今日は父の日

ならづくり
(今年の父の日のお供えは「一番搾り 奈良づくり」)



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/06/18 11:46

ぽすたー話。

マンションの掲示板に、春から貼りっぱなしの防火ポスター。

背景のピンクも色あせて、風景に溶け込んでいる。

ニッコリ笑ったモデルの目がギラリと光ったので、ギョッとしてよく見ると、両目のところに画鋲が押されていた。

イタズラだろうが、場所が場所だけに、あまりいい気分じゃない。

私が子供の頃から、ポスターにイタズラをする者はいた。

清涼飲料水のビンを持ち、微笑む女優の顔に、描き込まれた鼻毛とおデコのシワ

レコード店の店頭に立つ、アイドルの等身大パネルにこすりつけられた、ガムの噛みかす。

本人の知らないところで、誰かがその人を嫌ったり、妬んだりしている。

人気者に向けられた、小さな悪意の棘

有名になるって、いいことばかりじゃないんだな、と、思ったのを覚えている。

周りを見まわしてから、目に刺さった画鋲を外し、掲示板の高いところに並べてとめた。

翌朝、ポスターは剥がされて、代わりに「資源ごみ回収のお知らせ」が貼られていた。

ぼうかぽすたー



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むかしむかし | コメント(4) | トラックバック(0) | 2017/06/17 12:14

ごはんの話。

私は将棋がまったく分からない。(→ しょうぎ話。

そんな人間でも名前を覚えてしまうくらい、フジイ四段というのはスゴイらしい。

将棋番組を見なくても、ニュースで1つ勝つごとに騒いでいるのを見ると、よほどのことらしいと見当がつく。

それなりに興味を持ってワイドショーを見ていて、気づくことがあった。

対局の日のお昼に何を食べたか、どの番組も毎回、妙に詳細にレポートするのだ。

会場周辺の複数の飲食店にカメラを張り付け、出前の電話が来るのを待ち構える局まである。

いくら将棋が強いったって中学生の食べるもの。しかも近所からとる出前のランチだから、たいしたゴチソウではない。

なぜ、わざわざ貴重な時間を使って、そんなことを得得と報道するのか。

テレビで騒いでいる人間だって、大半はしょせんヤジウマだ。将棋自体に詳しいわけじゃない。

しぜん関心が向かうのは、フジイ四段ご本人である。

なんでそんなに強くなったのか? どんな中学生なのか? 休みは何をしてるのか?

幼少の頃のエピソードが詳細に報じられた結果、彼が使った将棋盤や、遊んだ積み木が今、飛ぶように売れているらしい。

しかし、いかんせん、わずか14歳の少年。

親の家でご飯を食べて学校に通う中学生に、華やかな交友関係も、泣ける苦労話も無い。語るべき挿話が絶対的に不足するのだ。

もはやふだん何食ってるんだ?くらいしか、報じることが無いのだろう。

超人的な天才も、自分と同じ人間で、お腹が減れば物を食べる。汗もかけばご不浄にも行く。

見る側もそんなことを確認して、安心したいのかもしれない。

しかし、このまま連勝が続けば、昼ごはんのメニューだけでは、いずれ間が持たなくなるだろう。

そのうち、フジイ四段が対局中、何度手洗いに立ったか、その所要時間とか、フジイ四段が出たあとのご不浄の映像とかが、テレビで流れないことを祈るのみである。

ぶっかけそば
(昨日はぶっかけそば650円とお稲荷さんのセット)



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てれびじょん | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/06/16 11:30

かんばん話。

地元に遊びに来た友だちとブラブラ。持ち慣れないスマホで写真を撮ったりしながら歩く。

さっきから気になってたんだけどさア いったい何撮ってるの?

へ? 

しかのえじき1

ホラ!どうしてシカのいるほう撮らないの?

だってこれ…

しかのえじき2

シカせんべいって、中国語でシカのえじき って言うんだなあ…と思って…

さっきランチの店を出た後も 何か撮ってたよね? 

ああ、あれは…

いいやっきょく

自分で「いい薬局」って言うのは わりと珍しいなあ と思ったから…

友達は眉間にしわを寄せ、怖い顔になった。

アンタ いい年して何やってんのよ! ちょっと見せなさい!

スマホを取り上げられ、撮影記録を検分された。

ヘンな写真ばっか! どうしてキレイな景色とか オシャレなスイーツとか そういうものを撮らないの?

そういうのは他の人が撮ってるから…

友だちはスースーと画面を指で送って、ふと手を止めた。

こんなの、撮り間違いよね?消しちゃう?

がくしゅうじゅく1

あーダメダメ!それは貴重

何の変哲もないビルの写真だが、写りが悪くてわざわざ後日撮りなおしに行ったものなのだ。

なんで?!

納得してくれない友だちに、画面の一部を拡大して見せる。

がくしゅうじゅく2

ほらココ!誤字があるでしょ?

ごじ?

この窓、学習塾なんだよ!しかも勉強の勉が間違ってるなんて ダメだと思わない?

友だちは、大きなタメイキをついて、スマホを返してくれた。

これからオシャレなスイーツの店に行くのだ。お菓子の写真は、友だちが撮るだろう。



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もろもろ | コメント(20) | トラックバック(0) | 2017/06/15 11:49

でぐちの話。

今日は買い物。

支払いを済ませ、カウンター越しに商品を受け取ろうとすると、なぜかスンナリともらえない。

店員はがっちり紙袋をつかんだままニッコリ笑い

出口までお持ちしますね~

持てないほど重いものは買っていないが、そう言われればしかたがない。出した手をカラ手のままひっこめて、回れ右して店の外に向かった。

その後ろを、総重量500グラムにも満たない紙袋を恭しく提げて、しずしずと店員がついてくる。

なんだこの状況。

王女様か!

しかも、この店は路面店ではなく、ショッピングモールのテナントである。

出口といっても、ドアがあるわけじゃなく、通路に向かってオープンなスペースなのだ。

どこを出口と考えるべきか迷っていると、私の斜め後ろにいたはずの店員がいつの間にか前に出て

お買い上げありがとうございました~

と言いながら、紙袋を両手で捧げ持っているではないか。

通路を歩く買い物客が、アラお買上げなのネ、という顔でこちらを見る。

慌てて店員に追いつき、軽い軽い紙袋を奪い取って、逃げるように店を離れた。

角を曲がって、小走りになった歩調をゆるめながら、あの店はあそこが出口なんだ、と思ったら、おかしくて自然に笑えてきた。

ふろあがいど



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もろもろ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/06/14 11:30

LINE話。

らくらくスマホがラクラクじゃない、とお怒りだったおばーちゃん。(→ でびゅー話。

それでも慣れとはえらいもので、ボチボチ使えるようになってきた。

そこで先日イモートが帰省してきたとき、ムスメとムスコ、メイちゃんの孫世代も加えて、わが家のLINEグループを作ってみた。

始めてみると、あんがいに具合がいい。

電話するほどではないけど言いたい、というとき、見ても見なくてもいいLINEは気楽だ。

おばーちゃんは庭の花を、イモートは書道の作品を、写真で見せてくれるし、私も出先で見つけたヘンテコな看板を撮ったりしている。

たまにみんなが暇だと、メッセージの交換が活発になる。

孫世代はさすがに入力が早いので、どんどん画面が進み、おばーちゃんは追いつけない

文字入力が間に合わなくて、変なタイミングで

らいんすたんぷ

などと、カワイイが意味不明なスタンプをはさんでくるのも面白い。

家にこもって仕事をしているときなど、皆どうしてるかな、と、気分転換にスマホを見る。

らいんすたんぷ はろー

とりあえず打ったスタンプに、すぐに既読1がつき

今ちょうど、洋服のサイズ直しをしていました

と、ゆっくりめの返信が来た。

私は一日じゅう仕事~

と返すと、既読がついてだいぶ経ってから

今日一日誰とも話をしませんでした

そういえば私もそうだ。宅配すら来なかったから、朝から一言もモノを言っていない。

LINEの画面を閉じ、通話に切り替える。

モシモシ… 何、どうしたの?

電話口にはちょっとビックリした声のおばーちゃん。

いや、しゃべってないもの同士、お話でもしようかと…

どちらからともなくウフフと笑って、たわいのないおしゃべりがはじまった。



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ごかぞく | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/06/13 11:30

つゆいり話。

全国的に梅雨入りが報じられて数日が経った。

ばいうぜんせん

しかし、梅雨入り宣言からこっち、当地はお天気続きで、雨は一滴も降っていない

皮肉なことに、梅雨入りが報じられる前日は、ざんざか降りの大雨だった。

梅雨入りを宣言する意味って、何なんだろう。

ニュースで梅雨入りが報じられればヘエ~と思い、会う人には梅雨入りしたねえと言ったりするかもしれない。

しかし、それだけのことに少なからぬ労力と時間を使うのはバカバカしい気もする。

もしも、梅雨入りが100%予報できるなら

今日からは、いつ雨が降っても文句は言えませんよ~

という宣言を機に、人は毎日カサを持ち歩き、梅雨明けまで気象予報士は全員休みなんてことが可能になるのだろうか。

それはそれでちょっと面白いが、現実には、梅雨入り宣言のあとも、セッセと毎日、天気は予報され、降ったり照ったり、当たったり外れたりしている。そして梅雨時をとうに過ぎてから

じつはあれは梅雨じゃなかったんですよ~

とか

ホントはあの時はもう梅雨入りしてたんですよ~

とか、コソッと訂正が発表される。

ムスメが梅雨、という言葉を初めて知ったころ、雨が降るたびに空を指さし

ママ、 これはつゆ

と聞かれたが、どう説明したのだったか。

梅雨入りのあと降る雨と、梅雨入りする前に降っていた雨と、何が違うのだろう。

考えてみたが、よくわからない。



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てれびじょん | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/06/12 11:30

うぬぬぬ話。

ちかごろうちのベランダは、野鳥の水飲み場になっている。(→ ちゅんちゅん話。

ちゅんちゅんと騒がしく、早朝に起こされることもあるが、海のように心の広い私は、腹を立てたりしない。

鳥の声で目覚めるなんて、童話のお姫様のようでステキじゃないか。

色気のないパジャマではなく、レースのネグリジェ(死語)で窓辺に寄りたくなる。

ところが、じきにステキじゃないことに気がついた。

朝一でぐびぐび水を飲むと、内臓が活発に動き出すのは、鳥も人間も同じらしい。

スイレン鉢で水を飲んだあと、鳥どもはその場でお腹を軽くして飛んで行くのだ。

立つ鳥跡を濁さずなんて大嘘である。

コンクリートの部分ならまだしも、今朝はついに、干したばかりの洗濯物に爆撃が命中。

童話のお姫様はネグリジェ(死語)をかなぐりすて、武将に変身した。

うぬぬぬ… わが水を飲んでおきながら礼の一言も無く…恩を仇で返すとは!

仁王立ちでこぶしを握り締めるが、鳥どもはとっくのとうに飛んで行った後。

許さぬ!飼い犬に手を噛まれるとはこのことじゃ!

いや、飼ってないけど。

海のように広いと思った心は、せいぜいスイレンの鉢程度であったということも、バレてしまったわけである。

とりのみずのみば
(慌ててこういうやつを買わないでよかった)



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もろもろ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/06/11 11:41
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