MRIの話。
がんがんがん がんがんがん がんがんがん
びびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびび…
ゔー ゔー ゔー ゔー ゔー
スコンスコンスコンスコンスコン スコンスコンスコンスコンスコン
鳴り続ける騒音の中、身じろぎもせずじっとしているのはMRI検査だからだ。

んー、そうねえ 心配ならやっときますか?
というお医者様の鶴の一声で予約された検査だが、正直なところ、やったことないのでやってみたい、というヤジウマ的興味があったことは否めない。
係のお兄ちゃんに、金属類を身につけていないか重々確認されたうえで、台上に横たわると、幅広のマジックテープで、動かぬように固定された。
がんがんがん がんがんがん がんがんがん
びびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびび…
不可解な音が次々に鳴り、合間合間に静かになり、また不定期な間隔で鳴りだす。
今回MRIを受ける目的は頸部から頭部の輪切り写真を撮るためである。
数種類の音の、どの瞬間に輪切りになっているのか、気になってしょうがない。
スコンスコンスコン…
今か?今輪切りか?
ゔー ゔー ゔー …
それとも今か?今なのか?
なんとかして輪切りになってる感を味わおうとするが、サッパリわからない。
そういえばさっき、いやに金属類を気にしていたけれど、私には銀歯がある。
銀歯だって立派な金属だが、大丈夫なのか?と思ったとたん、その周辺が微妙に振動しているような気がしてきた。
ベロを動かして確認したいが、動いてはいけないと釘を刺されている。
口のあたりを気にしていたら、かみ合わせが普段と違っていることに気付いた。緊張して食いしばっていたせいか、アゴがつきだしている。
このままでは、アゴの出たブスな頭蓋骨が撮れてしまうではないか。
そんなことを考えているうちに、今度は口の中に唾液が溜まってきた。
動くなとは言われたが、唾をごっくんと飲むのはいいのか、悪いのか。
がんがんがん がんがんがん がんがんがん
うるさいような、静かなような、長いような短いような時間。
不意にバタン、と右手が台から落ちて、我慢できないとき押すように、と握らされたナースコールが、床に落ちた。
なんと私は寝てしまったのである。
これほどうるさくて、あれだけ色んなことを考えていたのに、いったいどういうわけだろう。
数々の謎に首をひねりながらも無事検査は終了し、私は会計に並んだ。
ななせんえんになります…
な、7千円!
「やっときますか?」で7千円は、安いのか、高いのか。これが最大の謎かもしれない。

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びびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびび…
ゔー ゔー ゔー ゔー ゔー
スコンスコンスコンスコンスコン スコンスコンスコンスコンスコン
鳴り続ける騒音の中、身じろぎもせずじっとしているのはMRI検査だからだ。

んー、そうねえ 心配ならやっときますか?
というお医者様の鶴の一声で予約された検査だが、正直なところ、やったことないのでやってみたい、というヤジウマ的興味があったことは否めない。
係のお兄ちゃんに、金属類を身につけていないか重々確認されたうえで、台上に横たわると、幅広のマジックテープで、動かぬように固定された。
がんがんがん がんがんがん がんがんがん
びびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびび…
不可解な音が次々に鳴り、合間合間に静かになり、また不定期な間隔で鳴りだす。
今回MRIを受ける目的は頸部から頭部の輪切り写真を撮るためである。
数種類の音の、どの瞬間に輪切りになっているのか、気になってしょうがない。
スコンスコンスコン…
今か?今輪切りか?
ゔー ゔー ゔー …
それとも今か?今なのか?
なんとかして輪切りになってる感を味わおうとするが、サッパリわからない。
そういえばさっき、いやに金属類を気にしていたけれど、私には銀歯がある。
銀歯だって立派な金属だが、大丈夫なのか?と思ったとたん、その周辺が微妙に振動しているような気がしてきた。
ベロを動かして確認したいが、動いてはいけないと釘を刺されている。
口のあたりを気にしていたら、かみ合わせが普段と違っていることに気付いた。緊張して食いしばっていたせいか、アゴがつきだしている。
このままでは、アゴの出たブスな頭蓋骨が撮れてしまうではないか。
そんなことを考えているうちに、今度は口の中に唾液が溜まってきた。
動くなとは言われたが、唾をごっくんと飲むのはいいのか、悪いのか。
がんがんがん がんがんがん がんがんがん
うるさいような、静かなような、長いような短いような時間。
不意にバタン、と右手が台から落ちて、我慢できないとき押すように、と握らされたナースコールが、床に落ちた。
なんと私は寝てしまったのである。
これほどうるさくて、あれだけ色んなことを考えていたのに、いったいどういうわけだろう。
数々の謎に首をひねりながらも無事検査は終了し、私は会計に並んだ。
ななせんえんになります…
な、7千円!
「やっときますか?」で7千円は、安いのか、高いのか。これが最大の謎かもしれない。

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ぶたぶた話。
…阪神高速で6月8日、停車中のトラックにブタ37頭を積んだ家畜運搬用トラックが衝突し、19頭が逃走する事故が起きました…
テレビから流れてきたニュースが耳にとまり、画面に目をやる。

思わずニヤニヤしてしまってから、なんでおかしいんだろう、と考えた。
ブタだからか。
たとえば、ライオン19頭が逃げた、となれば、これは一大事である。
捕獲も危険であろうし、周辺一帯の住民は全頭回収まで、外出制限を余儀なくされるであろう。
では、ゾウ19頭が逃走したなら。
これは高速道路がひび割れたり底が抜けたりしないか、その耐久性が心配である。
逆にもっと小さい動物、たとえばペンギン19羽が逃げたとしたら、こんどは人ではなく、ペンギンの身の上が案じられる。
お魚しか食べないペンギンが迷子になったら、お腹は減るし、身体は乾くし、捕まるまでみんな、気が気じゃないだろう。
ブタなら逃げてもたいしたことないだろう、という気楽さが、ニュースを読むアナウンサーの口調にも、そこはかとなく感じられる。
しかし、ブタというのは、思っているよりデカいし凶暴だ。じっさいブタにかじられて死ぬ人だっているのだ。
自分がニヤニヤしたのを棚に上げて、報道にはもっと真剣味が欲しいよね、などと思っていると
…ブタは本線上を歩いたり、うずくまって昼寝をするなどして、道を塞いだため、大阪府警は一部区間を通行止めとし、捕獲作業を行いました…
あああ… せっかく真剣になろうとしたのに… ブタのやつ…。
…この事故で、衝突されたトラックの運転手が軽傷を負いましたが、幸い命に別状はありません…
ブタの安否については言及がなかったが、おそらく全豚ピンピンしていることであろう。

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テレビから流れてきたニュースが耳にとまり、画面に目をやる。

思わずニヤニヤしてしまってから、なんでおかしいんだろう、と考えた。
ブタだからか。
たとえば、ライオン19頭が逃げた、となれば、これは一大事である。
捕獲も危険であろうし、周辺一帯の住民は全頭回収まで、外出制限を余儀なくされるであろう。
では、ゾウ19頭が逃走したなら。
これは高速道路がひび割れたり底が抜けたりしないか、その耐久性が心配である。
逆にもっと小さい動物、たとえばペンギン19羽が逃げたとしたら、こんどは人ではなく、ペンギンの身の上が案じられる。
お魚しか食べないペンギンが迷子になったら、お腹は減るし、身体は乾くし、捕まるまでみんな、気が気じゃないだろう。
ブタなら逃げてもたいしたことないだろう、という気楽さが、ニュースを読むアナウンサーの口調にも、そこはかとなく感じられる。
しかし、ブタというのは、思っているよりデカいし凶暴だ。じっさいブタにかじられて死ぬ人だっているのだ。
自分がニヤニヤしたのを棚に上げて、報道にはもっと真剣味が欲しいよね、などと思っていると
…ブタは本線上を歩いたり、うずくまって昼寝をするなどして、道を塞いだため、大阪府警は一部区間を通行止めとし、捕獲作業を行いました…
あああ… せっかく真剣になろうとしたのに… ブタのやつ…。
…この事故で、衝突されたトラックの運転手が軽傷を負いましたが、幸い命に別状はありません…
ブタの安否については言及がなかったが、おそらく全豚ピンピンしていることであろう。

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みぬふり話。
私は運転しないので、クルマに疎い。
どういうクルマがカッコいいのか、どういうのが高級車なのか、ぜんぜんわからない。
トラックかそうじゃないか、くらいの区別はつくが、それ以外で分かるのは車体の色と大小、そんなレベルである。
何年か前の梅雨曇りのその日、私は駅までの道をテクテク歩いていた。
交差点のむこう側に、鮮やかな色のかたまり。
白やメタリックなどよく見る色でなく、古い映画に出てくるような、中間色のクルマが信号で停まっている。
車種は分からないが、クラシックな流線型が、そこいらの国産車ではないことを匂わせた。
きれいな色… 珍しいクルマなんだろうなあ…
私はポカンと口でも開けて見とれていたのだろう。
信号が変わり、そのクルマがこちらに走ってきた時、見たくないものを見てしまったのである。
シャレたクルマの運転席で、鼻たかだかのオッサンの顔を。
オッサンは、歩道で見とれている私の存在に気付いていた。
オレのクルマを庶民が見てるゼ カッコいいだろうオレのクルマ 高いんだゼオレのクルマ
一瞬だが私にはわかる。あれは、明らかにそう思っている顔だ。
得意げなオッサンの顔は、クルマの素敵さを帳消しにして余りある、ムカつくツラだった。
以来私は、シャレこいたクルマの気配を感じた時は、意地でも見ないようにしている。
視線を進行方向に固定し、何が何でもそっちを見ない。
タイヤが4つついていて、前に進む乗り物でしょ 何色でも どこのでも キョーミないわ
そういう顔を作って、スイスイと歩く。
負け惜しみは百も承知だが、いけ好かないオッサンに得意げなツラをされるのだけは、もう絶対にイヤなのだ。

(これくらい珍しければ見てやってもいい)

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どういうクルマがカッコいいのか、どういうのが高級車なのか、ぜんぜんわからない。
トラックかそうじゃないか、くらいの区別はつくが、それ以外で分かるのは車体の色と大小、そんなレベルである。
何年か前の梅雨曇りのその日、私は駅までの道をテクテク歩いていた。
交差点のむこう側に、鮮やかな色のかたまり。
白やメタリックなどよく見る色でなく、古い映画に出てくるような、中間色のクルマが信号で停まっている。
車種は分からないが、クラシックな流線型が、そこいらの国産車ではないことを匂わせた。
きれいな色… 珍しいクルマなんだろうなあ…
私はポカンと口でも開けて見とれていたのだろう。
信号が変わり、そのクルマがこちらに走ってきた時、見たくないものを見てしまったのである。
シャレたクルマの運転席で、鼻たかだかのオッサンの顔を。
オッサンは、歩道で見とれている私の存在に気付いていた。
オレのクルマを庶民が見てるゼ カッコいいだろうオレのクルマ 高いんだゼオレのクルマ
一瞬だが私にはわかる。あれは、明らかにそう思っている顔だ。
得意げなオッサンの顔は、クルマの素敵さを帳消しにして余りある、ムカつくツラだった。
以来私は、シャレこいたクルマの気配を感じた時は、意地でも見ないようにしている。
視線を進行方向に固定し、何が何でもそっちを見ない。
タイヤが4つついていて、前に進む乗り物でしょ 何色でも どこのでも キョーミないわ
そういう顔を作って、スイスイと歩く。
負け惜しみは百も承知だが、いけ好かないオッサンに得意げなツラをされるのだけは、もう絶対にイヤなのだ。

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しょうめい話。
帰り道の駅の乗り換えホームで、大学生らしい男の子とすれ違った。
見たことのある顔。名前は思い出せないが、誰だっけな…。
目に残った一瞬の印象を、10年幼くしてみたら、不意にかわいい声が頭に浮かんだ。
わーすげえ! お前んち 金持ち?
ハハハ…思い出した。ムスコの3年生の時の同級生の、あの子だ。
今の家に来た時は、貧しいながらも新居の夢があった。
乏しい資金で工夫して、色彩なども考えに考え、家具もカーテンも好みに合ったものを選んだ。
困ったのは照明だ。
買おうとすると分かるが、照明器具というのは本当にお値段なりで、安いのは安っぽく、ステキなのはぜったい高い。
子供部屋や和室のぶんはどうにかこうにか見つけたが、肝心のリビングの一番大きな照明に、いいのが見つからない。
いや、そうではない。いいのはいくらでもあるのだが、私が買えないのである。
電話で愚痴っていたら、不意に母が思い出したように言いだした。
シンゴが店を閉めるでしょ… 何かあるかもしれない
シンゴおじさんは母の弟で、喫茶店が立ち退きに遭って閉店することになっていた。
さっそく連絡したところ
ああ…あるで 持って行くか?
見に行ってみると、夢みたいなアンティークのシャンデリアが、すでに取り外され、店の床に置いてあった。
豪華なシャンデリアは、こうして運送費だけでわが家にやってきたのである。
引っ越して間もなく、ムスコは友だちを家に連れてきた。オジャマシマースとリビングに入って、開口一番
わーすげえ! お前んち 金持ち?
そう言った子の視線の先に、タダでもらったシャンデリアがあった。
そんなことないよ… オレの部屋行こう…
ムスコは恥ずかしそうに友だちの背中を押していたっけ。
誰もいない家に帰ってリビングの電気を点けると、なんだかホコリがかかって見える。
わーすげえ、お前んち金持ち? か…
1人つぶやいて、フフフと笑う。
週末には脚立を出して、掃除してやろう、と思った。

(地震のときだけはちょっとしんぱい)

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見たことのある顔。名前は思い出せないが、誰だっけな…。
目に残った一瞬の印象を、10年幼くしてみたら、不意にかわいい声が頭に浮かんだ。
わーすげえ! お前んち 金持ち?
ハハハ…思い出した。ムスコの3年生の時の同級生の、あの子だ。
今の家に来た時は、貧しいながらも新居の夢があった。
乏しい資金で工夫して、色彩なども考えに考え、家具もカーテンも好みに合ったものを選んだ。
困ったのは照明だ。
買おうとすると分かるが、照明器具というのは本当にお値段なりで、安いのは安っぽく、ステキなのはぜったい高い。
子供部屋や和室のぶんはどうにかこうにか見つけたが、肝心のリビングの一番大きな照明に、いいのが見つからない。
いや、そうではない。いいのはいくらでもあるのだが、私が買えないのである。
電話で愚痴っていたら、不意に母が思い出したように言いだした。
シンゴが店を閉めるでしょ… 何かあるかもしれない
シンゴおじさんは母の弟で、喫茶店が立ち退きに遭って閉店することになっていた。
さっそく連絡したところ
ああ…あるで 持って行くか?
見に行ってみると、夢みたいなアンティークのシャンデリアが、すでに取り外され、店の床に置いてあった。
豪華なシャンデリアは、こうして運送費だけでわが家にやってきたのである。
引っ越して間もなく、ムスコは友だちを家に連れてきた。オジャマシマースとリビングに入って、開口一番
わーすげえ! お前んち 金持ち?
そう言った子の視線の先に、タダでもらったシャンデリアがあった。
そんなことないよ… オレの部屋行こう…
ムスコは恥ずかしそうに友だちの背中を押していたっけ。
誰もいない家に帰ってリビングの電気を点けると、なんだかホコリがかかって見える。
わーすげえ、お前んち金持ち? か…
1人つぶやいて、フフフと笑う。
週末には脚立を出して、掃除してやろう、と思った。

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モリマリ本。
最初になぜ手にしたのか、今となっては分からない。
しかし、とにかく大昔、少女のころから、その本は私の書棚にあった。

(「贅沢貧乏」 森茉莉 新潮社)
ボロアパートの一室で、自分の好きなものに囲まれている、筆者らしき女性の暮らしぶりが楽しくて、こんな風に暮らせたらなあ、と夢みたりした。
文中では牟礼魔利(むれ・まりあ)と表記されたモリマリその人に興味がわいて、他の著書も読んでみたが、耽美的と評されるロマンスや、親バカならぬ娘バカとしか思えない、父親・森鴎外に関する無条件の礼賛には、ついていけなかった。
キライなの!私はこれがキライなの!と、当たるを幸い切って捨てるような晩年のエッセイには、独自のものの見方があって面白いが、私にとってモリマリといえば、やはり最初に読んだあの本である。
無秩序に散らかっているように見えて、好きなもので埋め尽くされた部屋。
貧乏アパートでも、心は贅沢。
他人がなんと言おうとも、自分で価値を見つけていく素敵さ。
いい大人を通り越して、おばあさんと言っていい年齢の人が、永遠の少女のような、夢みる生き方をすることに、少女の私は憧れたのだと思う。
しかし、こうして自分がいい年になってみると、また違う感じ方がある。
散らかった部屋から、自分の見たいもの、美しい部分だけを切り取って耽溺できるということは、一種の才能だ。
モリマリは、在ることを無かったような顔ができる人である。
2度結婚して2人の子供を産んでおきながら、自らを無垢な少女になぞらえることも。
今でいうゴミ屋敷状態の部屋に住みながら、欧羅巴の美や江戸の粋を語ることも。
見たくないものを見ずにいなければできるものではない。
他人の手前、無いようなふりをする、というのではなく、彼女にとって不愉快なことや嫌いなものは、ほんとうに存在しないことになってしまうのだろう。
そこに私は、子供らしい想像力よりも、女のふてぶてしさを見る。美しい人の足に、醜い座り胼胝を見てしまったような、悲しみをおぼえる。
モリマリの部屋に招かれた室生犀星は、その混沌を仔細に観察したあげく、帰り際には
このさびしい部屋
と、評して去った。
女性の美にことのほか敏感な、この文学者の眼は、信じていいのではないか。
森茉莉が、その部屋から彼岸へと歩み去ってから、もう30年になる。

森茉莉 (1903.1.7-1987.6.6 )

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しかし、とにかく大昔、少女のころから、その本は私の書棚にあった。

(「贅沢貧乏」 森茉莉 新潮社)
ボロアパートの一室で、自分の好きなものに囲まれている、筆者らしき女性の暮らしぶりが楽しくて、こんな風に暮らせたらなあ、と夢みたりした。
文中では牟礼魔利(むれ・まりあ)と表記されたモリマリその人に興味がわいて、他の著書も読んでみたが、耽美的と評されるロマンスや、親バカならぬ娘バカとしか思えない、父親・森鴎外に関する無条件の礼賛には、ついていけなかった。
キライなの!私はこれがキライなの!と、当たるを幸い切って捨てるような晩年のエッセイには、独自のものの見方があって面白いが、私にとってモリマリといえば、やはり最初に読んだあの本である。
無秩序に散らかっているように見えて、好きなもので埋め尽くされた部屋。
貧乏アパートでも、心は贅沢。
他人がなんと言おうとも、自分で価値を見つけていく素敵さ。
いい大人を通り越して、おばあさんと言っていい年齢の人が、永遠の少女のような、夢みる生き方をすることに、少女の私は憧れたのだと思う。
しかし、こうして自分がいい年になってみると、また違う感じ方がある。
散らかった部屋から、自分の見たいもの、美しい部分だけを切り取って耽溺できるということは、一種の才能だ。
モリマリは、在ることを無かったような顔ができる人である。
2度結婚して2人の子供を産んでおきながら、自らを無垢な少女になぞらえることも。
今でいうゴミ屋敷状態の部屋に住みながら、欧羅巴の美や江戸の粋を語ることも。
見たくないものを見ずにいなければできるものではない。
他人の手前、無いようなふりをする、というのではなく、彼女にとって不愉快なことや嫌いなものは、ほんとうに存在しないことになってしまうのだろう。
そこに私は、子供らしい想像力よりも、女のふてぶてしさを見る。美しい人の足に、醜い座り胼胝を見てしまったような、悲しみをおぼえる。
モリマリの部屋に招かれた室生犀星は、その混沌を仔細に観察したあげく、帰り際には
このさびしい部屋
と、評して去った。
女性の美にことのほか敏感な、この文学者の眼は、信じていいのではないか。
森茉莉が、その部屋から彼岸へと歩み去ってから、もう30年になる。

森茉莉 (1903.1.7-1987.6.6 )

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すぱいの話。
ちょっとしたイベントに参加した。規模は小さいが、全国から参加者がやってくる催しだ。
関西人の私は、こういう時いつも、どういう風に話すべきか迷う。
その場の大半が関西人である場合は、関西弁でしゃべってしまったほうが細かなニュアンスも伝わるし、親しみもわく。
しかし、他地域から来られた方が多数おられる場合、あまり関西弁を強調すると、疎外感を与えたり、共感を得られない。
そんなわけで、今回は標準語で話そうと決めた。
自慢じゃないが私は、話そうと思えばアナウンサーばりの標準語が使えるのである。
転勤族時代、外では関西弁をしゃべらなかったので、出身を明かすと
ぢょん子さん、関西の人だったの?全然わからなかったわ!
と驚かれることもあった。
もし日本で幕藩政治が続いていたら、御庭番になって他の藩に潜入できるかもしれない。
式次第は進んで、参加者の懇談の時間。
名刺を交換し、なごやかに旅行の話などしていると、いきなり相手に
でんばあさんって関西の方ですか?
と言われた。
なぜだ なぜバレた 標準語はカンペキだったはず…
内心の動揺を押し隠し、
ええ でもどうして?
と聞き返すと
ハワイのこと は→わ↑い→ って真ん中高くおっしゃったでしょ
ああああ ハズカシイ!
潜入、失敗!
身分も出自も偽り、他の国に入り込むスパイってすごい!と、あらためて思った。

(おそらく最もバカバカしいスパイマンガ)

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関西人の私は、こういう時いつも、どういう風に話すべきか迷う。
その場の大半が関西人である場合は、関西弁でしゃべってしまったほうが細かなニュアンスも伝わるし、親しみもわく。
しかし、他地域から来られた方が多数おられる場合、あまり関西弁を強調すると、疎外感を与えたり、共感を得られない。
そんなわけで、今回は標準語で話そうと決めた。
自慢じゃないが私は、話そうと思えばアナウンサーばりの標準語が使えるのである。
転勤族時代、外では関西弁をしゃべらなかったので、出身を明かすと
ぢょん子さん、関西の人だったの?全然わからなかったわ!
と驚かれることもあった。
もし日本で幕藩政治が続いていたら、御庭番になって他の藩に潜入できるかもしれない。
式次第は進んで、参加者の懇談の時間。
名刺を交換し、なごやかに旅行の話などしていると、いきなり相手に
でんばあさんって関西の方ですか?
と言われた。
なぜだ なぜバレた 標準語はカンペキだったはず…
内心の動揺を押し隠し、
ええ でもどうして?
と聞き返すと
ハワイのこと は→わ↑い→ って真ん中高くおっしゃったでしょ
ああああ ハズカシイ!
潜入、失敗!
身分も出自も偽り、他の国に入り込むスパイってすごい!と、あらためて思った。

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れたすの話。
1人になると夜がヒマだ。
しばらく音沙汰がないムスメにLINEでも、と思いついたが、用事は無いので
晩ゴハン何食べた?
と送ると
豆腐とキムチとレタス
と、わりとすぐ返事が来た。
ベジタリアンか!
とすぐさま返事すると
めんどくさいから
と返ってきた。ムスメの文面はいつも、こんなふうに短くてぶっきらぼうである。
それにしても、そうか、レタス買って食べてるのか。何となくおかしくて、フフンと笑う。

私はレタスを買わない。
レタスって、値段のわりに栄養価は乏しいし日持ちもしないし、洗って出すのもめんどくさいし、かといって水気をよく切らないとビシャビシャしておいしくない。
キライじゃないけど、食べなきゃいけない野菜じゃない気がするのだ。
たまに外食して、薄ーく切ったキュウリとトマトの下敷きになったレタスにお目にかかれば食べるが、やはり買って食べるほどのものではない、と再確認する。
気候の影響を受けやすいのか、何年かに一度かならずレタスが不作だとか値段が高いとかいうニュースを聞くが、食べない私は痛くもかゆくもない。
少なくともここ10年というもの、うちの食卓の上にレタスが現れたことは無いと思う。
そんな家で育ったムスメが、わざわざレタスを買って食べているとは、意外だった。
じつはレタス好きだったのかムスメ。食べさしてやらなくて、ごめんよムスメ。
ムスメが家を出て、4年が過ぎようとしている。

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しばらく音沙汰がないムスメにLINEでも、と思いついたが、用事は無いので
晩ゴハン何食べた?
と送ると
豆腐とキムチとレタス
と、わりとすぐ返事が来た。
ベジタリアンか!
とすぐさま返事すると
めんどくさいから
と返ってきた。ムスメの文面はいつも、こんなふうに短くてぶっきらぼうである。
それにしても、そうか、レタス買って食べてるのか。何となくおかしくて、フフンと笑う。

私はレタスを買わない。
レタスって、値段のわりに栄養価は乏しいし日持ちもしないし、洗って出すのもめんどくさいし、かといって水気をよく切らないとビシャビシャしておいしくない。
キライじゃないけど、食べなきゃいけない野菜じゃない気がするのだ。
たまに外食して、薄ーく切ったキュウリとトマトの下敷きになったレタスにお目にかかれば食べるが、やはり買って食べるほどのものではない、と再確認する。
気候の影響を受けやすいのか、何年かに一度かならずレタスが不作だとか値段が高いとかいうニュースを聞くが、食べない私は痛くもかゆくもない。
少なくともここ10年というもの、うちの食卓の上にレタスが現れたことは無いと思う。
そんな家で育ったムスメが、わざわざレタスを買って食べているとは、意外だった。
じつはレタス好きだったのかムスメ。食べさしてやらなくて、ごめんよムスメ。
ムスメが家を出て、4年が過ぎようとしている。

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はってた話。
今日はおばーちゃんとお出かけ。
私鉄の急行で大きな駅に着いて、そこから徒歩で15分ほどの場所に行くのだ。
おばーちゃんが逆方向に行こうとするので
違うよ!こっちじゃん!
と声をかけると、
もう暑い… 歩くのヤだし…
タクシー乗り場に並んでしまう。
たしかにお天気はいいけれど、アーケードの下を歩けば日は当たらない。商店を冷やかしながらブラブラ歩くのは、お買い物好きの母の楽しみでもあったのに。
元気に見えても後期高齢者、これも衰えか、と、ちょっとショックだ。
近いのにすみません、と運転手さんに詫び、タクシーで目的地に向かえば、あっという間に着いてしまった。
行った先でもおばーちゃんは、暑い、暑いを連発し、ふーふータメイキをついている。
昔はこんな不平を言う人じゃなかったし、子供が暑いの寒いのと言えば
言えば涼しくなるわけじゃなし、暑い暑い言うんじゃありません!
などと叱る母だった。
おかーさんもトシとっちゃったなあ…と、口には出さねど、シミジミと寂しくなる。
ようよう用件を終え、冷たいものでも、と喫茶店に入った。
アイスコーヒーを冷コーと呼びたくなるような昭和の喫茶店で、クリームソーダを注文したあと、おばーちゃんはみょうにソワソワして、
お手洗い行ってくる…
と、席を立った。

ソーダに浮かんだアイスの、表面のジャリジャリを味わっていると、やけにサッパリしたおばーちゃんが戻ってきて
暑いと思った…コレ…
と、なにやら四角い袋を見せる。
朝 腰が痛くてさ カイロ貼ったの忘れてた…
この陽気にカイロを貼ってれば、そりゃー暑いだろう。
カイロをはがして冷たいソーダを飲んだおばーちゃんは、にわかに元気になり、
さあ、どこ行こうか!
伝票をつかんで、勢いよく立ち上がった。

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私鉄の急行で大きな駅に着いて、そこから徒歩で15分ほどの場所に行くのだ。
おばーちゃんが逆方向に行こうとするので
違うよ!こっちじゃん!
と声をかけると、
もう暑い… 歩くのヤだし…
タクシー乗り場に並んでしまう。
たしかにお天気はいいけれど、アーケードの下を歩けば日は当たらない。商店を冷やかしながらブラブラ歩くのは、お買い物好きの母の楽しみでもあったのに。
元気に見えても後期高齢者、これも衰えか、と、ちょっとショックだ。
近いのにすみません、と運転手さんに詫び、タクシーで目的地に向かえば、あっという間に着いてしまった。
行った先でもおばーちゃんは、暑い、暑いを連発し、ふーふータメイキをついている。
昔はこんな不平を言う人じゃなかったし、子供が暑いの寒いのと言えば
言えば涼しくなるわけじゃなし、暑い暑い言うんじゃありません!
などと叱る母だった。
おかーさんもトシとっちゃったなあ…と、口には出さねど、シミジミと寂しくなる。
ようよう用件を終え、冷たいものでも、と喫茶店に入った。
アイスコーヒーを冷コーと呼びたくなるような昭和の喫茶店で、クリームソーダを注文したあと、おばーちゃんはみょうにソワソワして、
お手洗い行ってくる…
と、席を立った。

ソーダに浮かんだアイスの、表面のジャリジャリを味わっていると、やけにサッパリしたおばーちゃんが戻ってきて
暑いと思った…コレ…
と、なにやら四角い袋を見せる。
朝 腰が痛くてさ カイロ貼ったの忘れてた…
この陽気にカイロを貼ってれば、そりゃー暑いだろう。
カイロをはがして冷たいソーダを飲んだおばーちゃんは、にわかに元気になり、
さあ、どこ行こうか!
伝票をつかんで、勢いよく立ち上がった。

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めくった話。
月が替わって6月。
もう6月か~、と思わないではないが、その手の感慨をあんまり語るとババアっぽい。
なるべくビジネスライクに、壁のカレンダー、5月を剥いだ。
このミシン目をピリピリ切るのはホントに気持ちがいい。年に11回しかないのが残念だ。
そして1か月見慣れた新緑から、まっさおな海の写真に変わる。

爽やかでいいが、えらく気が早いな。
日本にはこれから、梅雨というものが来るのだぞ。
少々ありきたりでも、カレンダーにはやはり、わかりやすい季節感がなければ。
カレンダー業界ももうちょっとシッカリしてもらわないといけない。
などと思いつつ、はがした5月をたたみかけたら、アレ?
2枚ありますよ?
慌てて壁に残ったカレンダーを見ると
7月 July
ぎゃー!2枚めくっちゃった!
気が早いのはカレンダー業界じゃなくて、私だった!
これから1か月、どうしよう。
セロファンテープで貼り戻したら、7月に剥がすのがヤッカイそうだし。
どうせ大した予定もないし、6月、いっそなかったことにするか?
1度も壁を飾らなかった6月には、色とりどりの長靴が、濡れた路面に映っている。

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もう6月か~、と思わないではないが、その手の感慨をあんまり語るとババアっぽい。
なるべくビジネスライクに、壁のカレンダー、5月を剥いだ。
このミシン目をピリピリ切るのはホントに気持ちがいい。年に11回しかないのが残念だ。
そして1か月見慣れた新緑から、まっさおな海の写真に変わる。

爽やかでいいが、えらく気が早いな。
日本にはこれから、梅雨というものが来るのだぞ。
少々ありきたりでも、カレンダーにはやはり、わかりやすい季節感がなければ。
カレンダー業界ももうちょっとシッカリしてもらわないといけない。
などと思いつつ、はがした5月をたたみかけたら、アレ?
2枚ありますよ?
慌てて壁に残ったカレンダーを見ると
7月 July
ぎゃー!2枚めくっちゃった!
気が早いのはカレンダー業界じゃなくて、私だった!
これから1か月、どうしよう。
セロファンテープで貼り戻したら、7月に剥がすのがヤッカイそうだし。
どうせ大した予定もないし、6月、いっそなかったことにするか?
1度も壁を飾らなかった6月には、色とりどりの長靴が、濡れた路面に映っている。

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あめふり話。
特に理由がなければ、天気予報は見ない。
朝、雨が降っていればカサをさして出るし、降ってなければ持たない。簡単だ。
だいたいみんな大げさなのだ。
雨が降りだした時、何もない大平原に立っているということはまずない。
そもそも室内にいることも多いし、たまたま外にいても、建物に駆け込めばいいだけのこと。
それに雨に濡れるといったって、いきなりバケツ一杯の水をぶっかけられるわけじゃない。
降りはじめのほんの数滴が、ポチポチ頭にのっかったからって、何を困ることがあるだろう。
今朝も何の迷いもなく、カサを持たずに家を出た。
行先で用件を済ませ、最寄り駅に戻った時、遠くの空が不思議な藍色に染まっていた。
ぬるい風のなかに、敷石が濡れたような、カルキくさい湿っぽさが漂っている。
ははーん…これは…
内心の声にせかされて、ふだんより少し早い足取りで家に向かった。
集合ポストを覗いてから、カギを開けていると、駐輪場の屋根をパラパラと打つ音が聞こえる。
部屋に入ってリビングの窓から外を見ると、みるみるかき曇った空から大粒の雨。
部屋着に着替えて飲み物を手に、もう一度外を見れば、吹き降りの大雨である。
なんとなく勝った、というような、してやったり、というような感覚になるが、何に勝ったのか、自分でもよくわからない。
もうすぐ梅雨の季節。


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朝、雨が降っていればカサをさして出るし、降ってなければ持たない。簡単だ。
だいたいみんな大げさなのだ。
雨が降りだした時、何もない大平原に立っているということはまずない。
そもそも室内にいることも多いし、たまたま外にいても、建物に駆け込めばいいだけのこと。
それに雨に濡れるといったって、いきなりバケツ一杯の水をぶっかけられるわけじゃない。
降りはじめのほんの数滴が、ポチポチ頭にのっかったからって、何を困ることがあるだろう。
今朝も何の迷いもなく、カサを持たずに家を出た。
行先で用件を済ませ、最寄り駅に戻った時、遠くの空が不思議な藍色に染まっていた。
ぬるい風のなかに、敷石が濡れたような、カルキくさい湿っぽさが漂っている。
ははーん…これは…
内心の声にせかされて、ふだんより少し早い足取りで家に向かった。
集合ポストを覗いてから、カギを開けていると、駐輪場の屋根をパラパラと打つ音が聞こえる。
部屋に入ってリビングの窓から外を見ると、みるみるかき曇った空から大粒の雨。
部屋着に着替えて飲み物を手に、もう一度外を見れば、吹き降りの大雨である。
なんとなく勝った、というような、してやったり、というような感覚になるが、何に勝ったのか、自分でもよくわからない。
もうすぐ梅雨の季節。


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