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う奈ぎの話。

地方都市に出張。

午前中の用件を終えて、駅前に戻った。

少し早いがここでお昼を済ませておこう、と見回すが、どうやらこちら側は駅裏のようだ。さびれた街並みに、飲食店は見当たらない。

テナントビルが立ち並ぶ向こう側に抜けようと、線路沿いを歩いているとき、その店を見つけた。

正確に言うと、最初は店だか何だかわからなかった。

しもた屋風のその家の、正面のガラス戸はいつ磨いたのか見当もつかないほど曇っているが、中をうかがうと人の気配があり、大変な勢いで換気扇が回っている。

香ばしい匂いが飛び込んできた。

看板は出ていないが、店先に積まれた、新しい段ボール箱の上に

奈ぎ 

太く頼もしい筆文字を見た瞬間、迷わず中に入っていた。

意外にも明るい店内には、磨き込んだテーブルが並び、お昼にはまだ間があるというのに、すでに数組の客が丼やお重を前にしている。

腰を下ろしながら、壁のお品書きから、値段も見ずに中丼を注文した。

待つことしばし、運ばれてきた丼のフタを取った時から、あんまり記憶がない。

ちゅうどん

アドレナリンか何かが、ドッと分泌してるのだろう。瞳孔が開いている。

気づけば左手に持った丼を置く暇もなく、中身は半分になっていた。

ようやく我に返って、周囲を見回してから箸を持ち直し、ゆっくり残りの半分を食べた。

しばらくは、お茶を飲む気もせず、ただ中空を見ていた。私に足りなかったウナギの成分が、身体にしみわたっていく。

支払を終えて店を出れば、駅裏のわびしい街並みも何か違うものに見える。

久しぶりにいいものを食べた、と思った。



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もろもろ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/08/21 11:47

8.20話。

カレンダーを見たら、胸が痛いようなドキンとするような、妙な気持ちになった。

8月20日

それは50代の人なら、1度は気にしたことがあるはずの、会社訪問解禁の日、である。

今はどうなっているのか知らないが、30年ほど前には就職協定というものがあった。

デキる学生を他に先駆けて確保したい企業と、学業がおろそかになるのを恐れる大学が協定を結び、採用開始時期を決めていたのだ。

そこで決まっていたのが、 8月20日会社訪問開始、11月1日内定解禁の、2つの日付。

しかし、抜け駆けは人の世の常であって、企業と学生は春先から水面下で交渉を持ち、8月を待たずにほとんどの学生に内定が出る。青田買いというやつだ。

大っぴらに会社訪問できる8月20日は、実質的な内定式であって、すでに採用の決まった会社を形式的に訪問する日なのだ。

…とまあ、こんなことはどこにも書いていない、全部まことしやかに語られる口コミなのだった。

今のようにネット情報が豊富に採れる時代ではない。

学生たちは誰が言いだしたかわからない「常識」に振り回され、右往左往した。

そんな中、8月20日という日付だけが、刻み付けられたように、唯一動かないものだった。

就職活動は学業とは違い、努力したから良い、一定の点数をとればよい、というものではない。

何が基準なのか、誰のルールで戦うのか、わからないままに、選ばれるのを待つ不安と焦燥

経験したことのない緊張を強いられた、暑く長い数か月であった。

学生時代の試験の夢を、大人になっても見る、というお話はたまに聞くが、私の場合は試験じゃなく、8月20日なのだ。

新卒で入った会社は出産で辞めてしまったが、毎年この日が来ると、暑かったあの夏が、蘇る。

しゅうかつのいめーじ
(就活関連の写真の若者はなぜ皆ジャンプしているのか)



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むかしむかし | コメント(4) | トラックバック(0) | 2017/08/20 11:30

ぼっちの話。

お盆明けの出勤。旅行や帰省、それぞれに休み中の情報交換になる。

ムスメちゃんやムスコ君も帰ってきたんでしょ?

ムスコは法事にちょっとだけね バイトがあるからすぐ帰ったけど

お坊様には会えなかったしな。(→ ブッダノ本。 )

えー、じゃあムスメちゃんは?

休みは旅行に行ってて、うちのほうには…

そうなんだ~ じゃあお休み中はひとりぼっち?

うなずきつつも何かに引っかかる。

ひとりぼっち

ここだな。

いや、事実ですよ。昨日も今日も、なんなら明日も、ひとりです。

でもさ、「ぼっち」は要らなくない?

お休み中ひとりだったのね

これで通じるじゃん!

この人は、悪い人ではないのだが、常日頃から言葉を選ばない無神経さがあり、以て他山の石とするところである。

そういえば、学生言葉で、友だちのいないことを「ぼっち」と言う。

「ぼっち」の対義語が「リア充」ということになるのだろうか。

「ひとりぼっち」という言葉の寂しさが、「ひとり」にではなく、「ぼっち」の部分にある、と捉えているあたり、なかなか鋭い。

群れることで自分を保つ若き有象無象にとって、ぼっちは致命的な欠点かもしれない。

しかし50過ぎたオバサンは、いないほうがいいツレもいると身に染みて知っている。

ヒトリだろうがボッチだろうが、今さら痛くもかゆくもない。いや、強がりではなく。

ただ、傍目にはそう見えるかもしれない、ということは頭に置いておくべきかな、と思った。

ひとりぼっち
(予告を見て、見ようと思ったが忘れて見逃した映画)



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/08/19 11:34

ぺぽん♪話。

この春目出度くスマホデビューをした私だが、新しいメルアドを知る人は少ない。

友人知人のメールは今まで通りパソコンに届き、スマホのほうはいたって静かだ。

そんな私のスマホに、唯一うるさいほどメールをよこすのが、地元のスーパーである。

ぺぽん♪

通知音にあわててフォルダを開くと

From: スーパーまるまるファンクラブ

チッ、またか。

そもそもは、お得情報や割引クーポンをお届けします!という惹句に、ついファンクラブとやらに登録をしてしまったのが始まりだった。

けーたいくーぽん

ほとんどのものを生協で買う私は、月に2度も行かないスーパー。

それなのに、火曜市だ、お米の特売だ、シニアデーだと、しげしげ連絡が来て、ぺぽん♪ぺぽん♪と、うるさくてならない。

近頃はぺぽん♪と鳴るたびに、サッサと削除している。

先日、足りないものがあって、久しぶりにスーパーに出かけた。レジの店員さんが

まるまるクーポンはお持ちですか?

と尋ねるので聞き返すと

今日はまるまるデーですので、ケイタイのクーポン画面で5%オフになります

と言うではないか。

えーっ、あれ、クーポンなの!削除しちゃった… だって毎日毎日、うるさいし…

ショックを受けていると、私の次に並んだ知らない奥さんが

そうそう!だいたい、どうでもいいメールが来過ぎなのよね!

小声で同調してくれた。

5%引いてもらえなかった買いものを袋に入れていると、今度はさっきの奥さんが

まるまるクーポンはお持ちですか?

と聞かれている。

無いわよ、削除しちゃったもん!

気持ち大きめな声に見返れば、彼女は、5%損をするのになぜか、やや得意げに笑っていた。



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ごきんじょ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2017/08/18 11:30

しゅくだい話Ⅱ。

昨日に引き続き、本日お届けするのは

高学年向け自由研究野菜・果物産地調べ~

1 ・ 日本地図の白地図をネットで探してプリントアウトしておく。

2 ・ 冷蔵庫の野菜室を覗き、在庫が貧弱ならスーパーに買い物に行って、ムダにならない程度に、家庭の予算の最大限、野菜や果物を買ってくる。

3 ・ 野菜・果物の本体は自由に食べてよいが、果物に貼ってあるシール、野菜の入っていた袋、ネギをしばるテープなど、産地の分かる包装材を剥がして取っておく。

!「岡山の白桃」「高知のピーマン」など、地名と品名が同時にわかるものがあればベスト。なければ、地名のわかるところを残し、品名はメモしてクリップでとめておく!

4 ・ 取っておいたシールや袋を見て、地名を地図帳で調べ、白地図の該当箇所に貼り付ける。

!絵的に寂しければ、野菜や果物の絵を描いてごまかす!

5 ・ 基本的にはこれで完成だが、1枚っきりでは情けないので、発展形を目指す。

発展形その1) … 世界に雄飛タイプ

グレープフルーツやオレンジ、アボカドなど、輸入ものの野菜・果物を買い集め、世界地図の白地図に貼る。

産地のお国柄や主産品など、豆知識的に追記すれば格好がつくし、なんとなくオシャレなので、女子向き。

くだもの
(輸入果物のシールはかわいい)

発展形その2) … 地方の時代タイプ

お父さんお母さんの実家やオバサンの嫁入り先など、親戚パワーを結集して、よそのうちの野菜室の野菜の袋・シールを集めまくる。

もらいに行く日にちがない場合は速達で送ってもらうのが良い。

白地図も家庭数だけ刷り出して「埼玉のおばさん宅」「滋賀のおばあちゃん宅」などと何枚も作ると、労作っぽく見える。

同じピーマンでも、関西の家庭で食べているのと関東のでは、産地が違う、とか、複数の家庭の比較対照で、うまいこと格好つけてまとめる。

急なお願いごとができる程度に嫁姑関係が良好かどうか、常日頃の付き合いがものを言う、母親の実力が問われる仕事だが、緊急の場合は子ども自身が泣きながらおばーちゃんに電話する、という荒業がある。

さあ、小学生諸君もお父さんお母さんも、残り少ない夏休み、今日から枕を高くして眠ろうではないか。

急な出張のため、2014/08/24の記事を再掲させていただきました。
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もろもろ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2017/08/17 11:30

しゅくだい話。

夏休みも残すところ2週間となった。

気になるのは宿題だが、計算や漢字ドリル、アサガオの観察日記まではどうにかやっつけても、自由研究にまで手が回らず、焦るお子さん、親御さんも多かろうと思う。

そんな悩める親子のため、やっつけ仕事の天才と呼ばれたこのワタクシが、かつてムスメやムスコのためにひねり出した、あっというまにできて、かつ見栄えのいい(ここ重要)自由研究をお教えしましょう。

低学年向け工作キラキラUFO~

1 ・ 百円均一でピクニック用の紙皿と、銀色のスプレー塗料を買い、ついでに好きなキャラのガチャポンを一回やって、家に帰る。


2 ・ おもちゃの部品、ネジ、インクのなくなったボールペン、洗濯ばさみなど、不要品を2枚の紙皿の外側(くぼんでないほう)に貼り付ける。ただし、まんなかは丸く空けること。
   !見栄えは気にしない。はみ出しなど気にせず、接着剤でベタベタくっつける!

3 ・ 2枚の紙皿を、内側を中にしてホッチキスで止める。
   !この時点では、単なる丸いガラクタのカタマリだが、不安にならないこと!

4 ・ 3の丸いものと新聞紙、スプレー塗料を持ってに出る。
   !既に相当のボロ家である場合は屋内でもよいが、換気に注意!

5 ・ 新聞紙を広げた上に丸いものを置き思う存分スプレーを噴射する。
   !非常に楽しいので、「これは大人しかできないの」とスプレーを取り上げ、親がやること!

6 ・ 乾いたら、片面の丸く空けてあった部分に適当に穴をあけて、ガチャポンの人形の下半身を差し込み、カプセルの透明な方をかぶせるように貼り付ける。これが運転席になる。
   !ウルトラマンやライダーのようなキャラよりも、カワイイ系のキャラのほうが面白く仕上がるかも!

7 ・ カプセルの不透明な方の半分を、もう一方の紙皿の丸い部分に貼り付け、好みで星やアルファベットのシールなど貼って出来上がり。

ガラクタの寄せ集めが、銀のスプレーで一気に機械的に、やりようによっちゃサイバーパンクな雰囲気にさえなるのだ。

きかい
(こんな感じの仕上がりをイメージする)

何しろ10年くらい前の作品なので、現物も写真も残ってないのが残念だが、さあ、私を信じてやってみよう!

明日は高学年向けだよ!

急な出張のため、2014/08/23の記事を再掲させていただきました。
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もろもろ | トラックバック(0) | 2017/08/16 11:30

ブッダノ本。

実家でお世話になっているお坊様は、若くて元気。

活気があるのはいいのだが、勢い余って予定の時刻より早めに来てしまわれる傾向にある。

今年も12時の予定なので、用心して11時前には着くように、ムスコともども家を出た。

実家まではバスで10分。

乗車賃を出そうとサイフを探っていた時、ケイタイが2度ばかり、ブルンと鳴った気がした。

角を曲がって実家の門が見えてきたと思ったら、おばーちゃんが顔を出している。

わざわざのお出迎えは珍しい。

ゴメンねー、わざわざ来てもらって…

いやいや、毎年のことだから

違うのよ~ もう帰っちゃって!

はあ?!

12時過ぎに、と約束したお坊様は10時半に現れ、大変な勢いでお経を唱えると、10時40分にはゾウリを履いて、帰ってしまわれたのだという。

LINEを確かめると

おばーちゃん どうしよう お寺さん来た 10:28

おばーちゃん 帰りました 10:38


焦った感じのメッセージが残っている。

おばーちゃんは必死で

マゴが!遠くからわざわざこのために、マゴが来るんです!

と、引き留めようとしたが、お坊様は黒いカバンから

ではこれを

1冊の本を取り出しておばーちゃんに授けると、スイスイと出て行かれたのだという。

その本がコレ

ぶっだがせんせい
(「ブッダがせんせい」 宮下 真 著 永岡書店)

あのー、うちのムスコ、今年19歳なんですけど…。



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ブックガイド | トラックバック(0) | 2017/08/15 11:30

としごろ話。

毎夏恒例の催しで、久しぶりの皆に会う。多少ばらつきはあるが、ほぼ同世代の女性ばかりだ。

あっついわね~!

優雅な扇子をバタバタと、優雅でなく使いながら、1人が口を切ると

ホントどうなってんのかしら、この気候!

学校の地理では日本は温帯気候って習ったけど 今は違うわよ絶対…

せかいのきこう

でもさ 若い子って涼しそうにしてるわよね 

やっだ、暑いのって私たちだけ?

扇子の人が、バタバタをやめてにわかに声をひそめ

ホラ、私たちお年頃だから… 

オトシゴロとは更年期の婉曲表現のようである。

ハハハ…お年頃はよかったわね

その日の会の間じゅう、「お年頃」はちょっとした流行語になった。

オトシゴロだから、汗かいちゃって。

オトシゴロだから、ひざが冷えちゃって。

オトシゴロだから、段差につまずいちゃって。

オトシゴロだから、ウッカリ忘れちゃって。


だんだん年代が上がってきている気もするが、分かってる仲間だから、野暮は言いっこなし。

体調不良も、小さな悩みも、笑い飛ばせたらいい。

あなたも、私も、そんなお年頃。



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ごきんじょ | コメント(4) | トラックバック(0) | 2017/08/14 11:30

はっぴの話。

幼稚園児のムスコを、虫歯にしてしまった。

小さい子を診てくれる歯科は少ない。バスに乗って少し離れた歯科医院に通うことになった。

ある日の通院がえり。

バス停まで歩いていたら、角刈り半白の頭に粋な法被を着たオジサンが前を歩いていた。

背中に書かれた勘亭流は、このあたりの地名のようである。

あのふくはなんのふく?

さあ お祭りの法被だと思うけど 今日はお祭りじゃないしね… なんだろね

今も昔も、関西人の私は、こういう江戸っ子ぽい人がちょっと怖い。ムスコの子供っぽい高い声が響いて、オジサンに聞こえやしないかと気になった。

ちょっときいてくる

止める間もなくムスコは駆けていき、けっこうなコワモテのオジサンに、いきなり話しかけた。

オジサンは案外気さくに、法被の背中や襟の文字を見せながら、あれこれ説明してくれている。

しばらくして駆け戻ったムスコは

きょうはおまつりじゃないけど もうすぐだから おまつりのふくでれんしゅうするんだって おみこししたり うたもうたうんだって

分からないことが分かったムスコは、満足げであった。

不活発で協調性が無く、インドア派で読書が好きなわりに勉強ギライなうえ、友達は少ない、まあ今日までいろいろと問題の多かったムスコ。

それなのにどこかでこの子は大丈夫と思えて、それはなぜだろうと考えると、あの時、1人駆けて行った後姿を思い出せるからかもしれない。

この子はきっとどこでも行ける。何でもできる。

あれから10年以上が経つ。オジサンは今もお元気で、お祭りに出ているだろうか。

ふかがわはちまんまつり
(2017年は3年に一度の本祭り→ 富岡八幡宮HP



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2017/08/13 11:30

かいだん話。

団地の敷地から道路に出るまでのところに、数段の階段がある。

裏手なので利用する人が少ないことに加え、敷地内なのか公道なのか、イマイチ線引きがはっきりせず、掃除もおざなりで荒れた感じの場所である。

アスファルト舗装ではなく、割石を敷き詰めてあるのだが、整備が悪いためにところどころ外れ、凸凹に足をとられるので危ない。

団地の理事会でも問題になるが、何か面倒な理由で、勝手に補修もできないらしい。

つまずかないよう気をつけて下りたところで、以前自治会の役員を一緒にやった、オクヤマさんの奥さんに会った。

こんにちは~と会釈ですれ違いかけて、声をかけられた。

あ、そうそう… ヨシミさんが亡くなったらしいの、ご存知?

ヨシミさんというのも、同じ時に役員をやった人だ。

小柄で元気で、新舞踊とかいう踊りを習っていて、ことあるごとに披露したがるのが玉に瑕だが、一緒に働いて楽しい人だった。

あんなにお元気な方が?ついこの前、お見かけした気がしますけど…

ご病気じゃないみたいなのよね… つけつけお尋ねするのもナンだし…

そこで急に声をひそめ、

聞くところでは どうも転んだらしいの… ここで…

たった今下りた階段を指さすではないか。

えーっ!と大きな声を出しかけた口もとに、オクヤマさんはシッと人差し指を当てた。

ここだけの話よ… ウワサだし…

打ち所が悪かったのか、本当だとしたらお気の毒で、怖い話だ。

しかし本当に怖いのはその話を聞いたあとのこと。

ずっと放置されていた危ない階段が、いきなり修理されたのである。

誰に聞いても、誰が、いつ工事をしたのか、わからない。気づけば敷石の凸凹は、しらじらしくも新品同様に直されていた。

その素早さ、手際の良さが、ぼんやりした疑念に形を与えたようで、ゾッとした。

いしのかいだん



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ごきんじょ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2017/08/12 11:30
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