たぬきの話。
地理のイソベ先生の授業は脱線ばかりで、生徒にはとても人気がある。
脱線の行き先は、だいたい旅先のエピソード。
さすが地理学の専門家、目の付け所が面白くて、ハハハと笑った後にも何かが残る先生の脱線が、みんな大好きだった。
その日も教科書は「世界の気候」のページを開いたまま、先生は東京のウドンについて熱弁をふるっている。
…知らんやろ 東京のウドンのダシいうたらナ 真っ黒けでそらえげつないねんデ…
40年前の高校生は、旅行の経験も東京の知識も乏しかったので、へえーっと感心した。
せやせや キミらたぬきウドンて 分かるか?
???
教室全員の頭上に、大きな疑問符が浮かんだ。
大阪でタヌキといえばお揚げをのせたソバ。ソバをウドンに替えればキツネである。
たぬきウドンなどというものはそもそも存在しないのだ。
ソバ屋の品書きにたぬきウドンやら書いたあってやナ ビックリして聞いたんや そしたらナ…
イソベ先生はいたずらっぽい表情で、教室を見回した。
店のオバハン「アゲダマが入ってます」て言いよんねん…
先生は「アゲダマが入ってます」のところで鼻を天井に向け、すまして標準語を使ってみせたので、数人の生徒がくすくすと笑った。
ほんでアゲダマ、て何やと思う?天かすや!
教室中が、どっと沸いた。
大阪のウドン屋では、天かすは卓上に出してあり、好きなだけかけることができた。具が天かすだけ、というのは、つまり素ウドンなのである。
当時はコンビニも、ファストフードも、今ほどどこにでもなかった。
食べ盛りの大阪の高校生にとって、安くてお腹のふくれるウドンは、とても親しい食べ物だったのである。
今の高校生はたぬきウドンであんなにウケるだろうか。そう思うと、ちょっと寂しい。

(自慢されてもいっこうにピンとこないたぬきうどん)

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脱線の行き先は、だいたい旅先のエピソード。
さすが地理学の専門家、目の付け所が面白くて、ハハハと笑った後にも何かが残る先生の脱線が、みんな大好きだった。
その日も教科書は「世界の気候」のページを開いたまま、先生は東京のウドンについて熱弁をふるっている。
…知らんやろ 東京のウドンのダシいうたらナ 真っ黒けでそらえげつないねんデ…
40年前の高校生は、旅行の経験も東京の知識も乏しかったので、へえーっと感心した。
せやせや キミらたぬきウドンて 分かるか?
???
教室全員の頭上に、大きな疑問符が浮かんだ。
大阪でタヌキといえばお揚げをのせたソバ。ソバをウドンに替えればキツネである。
たぬきウドンなどというものはそもそも存在しないのだ。
ソバ屋の品書きにたぬきウドンやら書いたあってやナ ビックリして聞いたんや そしたらナ…
イソベ先生はいたずらっぽい表情で、教室を見回した。
店のオバハン「アゲダマが入ってます」て言いよんねん…
先生は「アゲダマが入ってます」のところで鼻を天井に向け、すまして標準語を使ってみせたので、数人の生徒がくすくすと笑った。
ほんでアゲダマ、て何やと思う?天かすや!
教室中が、どっと沸いた。
大阪のウドン屋では、天かすは卓上に出してあり、好きなだけかけることができた。具が天かすだけ、というのは、つまり素ウドンなのである。
当時はコンビニも、ファストフードも、今ほどどこにでもなかった。
食べ盛りの大阪の高校生にとって、安くてお腹のふくれるウドンは、とても親しい食べ物だったのである。
今の高校生はたぬきウドンであんなにウケるだろうか。そう思うと、ちょっと寂しい。

(自慢されてもいっこうにピンとこないたぬきうどん)

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すけきよ話。
洗面所の棚が散らかってきたので、整理することにした。
ほぼスッピンの私だが、鏡の中のわが顔面に愕然とし、かくてはならじと買い込んだ多少の化粧品はある。
しかしながら無精者の悲しさ、そのほとんどが使い切られないまま年月を経る。
化石となった化粧品をポイポイとゴミ袋に入れていると、新品のチューブが1つあった。
使った記憶が一切ない「お顔スッキリパック」なるもの。
そう自称するからにはお顔がスッキリするのだろう。
使わずに捨てるのは残念なので、1度顔に塗ってみることにした。
しかしこのパック、どうやって使うものか。どうやら外箱に効能や使用法が書かれていたらしいが、その箱はすでに無い。
スグミル種の私(→ すぐみる話。)は、買い物から帰るなり、あらゆる箱や袋をバリバリと開けて中身を出し、捨ててしまう。
おかげで狭い家を散らかさないで暮らしているわけだが、このように困ることもある。
チューブから出た白いクリームを顔に塗り伸ばしてみたが、さて、この先どうすべきか。
パックとあるから、塗ったまま浸透させるのではないだろう、とは見当がつく。
一定時間経過後、取り除くことによって、お肌の汚れが取れて潤いが残る、それがパックである。
その取り除きかたが分からない。
どれほどの時間を置くのか、また、乾いてからはがすのか、拭き取るのか、洗い流すのか。
真っ白になった顔でしばらく待ってみたが、クリームの表面は少し乾いたようでもあり、そうでないようでもある。
頬のあたりは湿り気があるようだが、鼻の周囲がつっぱってきた気もする。
今のところ確たる効能は感じられない。
そのまま昼ごはんのお皿を洗い、コーヒーのおかわりを飲んでいると、
♪ ぴんぽーん ♪
待っていた荷物だ。インターフォンに応答し、ドアを開ける手を、すんでのところで止めた。
こんなスケキヨ状態で玄関を出るわけにはいかない。
慌てて洗面所に走り、乾いたようなそうでないようなパックを洗い流し、さらにタオルでごしごしと拭いた。
宅配のオジサンに、待たせたお詫びを言いつつ、荷物を受け取った。
ムリヤリ拭き取った顔面は、パックを塗る前よりゴワゴワして、スッキリしない。
もはや何の未練もなく、「お顔スッキリパック」のチューブを、ゴミ箱に捨てた。

(「お待ちなさいスケキヨ!玄関を出ては…」)

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ほぼスッピンの私だが、鏡の中のわが顔面に愕然とし、かくてはならじと買い込んだ多少の化粧品はある。
しかしながら無精者の悲しさ、そのほとんどが使い切られないまま年月を経る。
化石となった化粧品をポイポイとゴミ袋に入れていると、新品のチューブが1つあった。
使った記憶が一切ない「お顔スッキリパック」なるもの。
そう自称するからにはお顔がスッキリするのだろう。
使わずに捨てるのは残念なので、1度顔に塗ってみることにした。
しかしこのパック、どうやって使うものか。どうやら外箱に効能や使用法が書かれていたらしいが、その箱はすでに無い。
スグミル種の私(→ すぐみる話。)は、買い物から帰るなり、あらゆる箱や袋をバリバリと開けて中身を出し、捨ててしまう。
おかげで狭い家を散らかさないで暮らしているわけだが、このように困ることもある。
チューブから出た白いクリームを顔に塗り伸ばしてみたが、さて、この先どうすべきか。
パックとあるから、塗ったまま浸透させるのではないだろう、とは見当がつく。
一定時間経過後、取り除くことによって、お肌の汚れが取れて潤いが残る、それがパックである。
その取り除きかたが分からない。
どれほどの時間を置くのか、また、乾いてからはがすのか、拭き取るのか、洗い流すのか。
真っ白になった顔でしばらく待ってみたが、クリームの表面は少し乾いたようでもあり、そうでないようでもある。
頬のあたりは湿り気があるようだが、鼻の周囲がつっぱってきた気もする。
今のところ確たる効能は感じられない。
そのまま昼ごはんのお皿を洗い、コーヒーのおかわりを飲んでいると、
♪ ぴんぽーん ♪
待っていた荷物だ。インターフォンに応答し、ドアを開ける手を、すんでのところで止めた。
こんなスケキヨ状態で玄関を出るわけにはいかない。
慌てて洗面所に走り、乾いたようなそうでないようなパックを洗い流し、さらにタオルでごしごしと拭いた。
宅配のオジサンに、待たせたお詫びを言いつつ、荷物を受け取った。
ムリヤリ拭き取った顔面は、パックを塗る前よりゴワゴワして、スッキリしない。
もはや何の未練もなく、「お顔スッキリパック」のチューブを、ゴミ箱に捨てた。

(「お待ちなさいスケキヨ!玄関を出ては…」)

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しきさい話。
オシャレの鉄則は季節の先取り。街を行く女性の服装はすっかり秋だ。
落ち着いた色合いを身につける人が増えて、そうなるとハデ好きの私は断然不利である。
強い日差しに映える原色が行き交う夏なら、少々ハデな格好をしていても、目に立つことはないが、シックな秋の装いに交じると
なんだあのハデなオバサンは…
そう思われるのではないか、と、落ち着かない。
私はだいたい中間色というやつが苦手だが、それには理由がある。
先日、すれ違った女性が、茶色のブラウスを着ていた。

黄みを含んだこっくりした濃い茶色の、ツヤのある布地。衿ぐりも袖つけも流行のデザインだが、問題はそこではない。
… う○この色だ …
心の中の小学生が、そうささやくのである。
私も50を過ぎて、いつまでもトイザらスみたいな格好をしてはいられない。
しかし、年相応に落ち着いた色合いの服を手にとると
カサブタみたい…
胆汁みたい…
治りかけのハナミズみたい…
と、こんな時ばかり、驚くほど豊かな連想が働くのである。
今日は、おばーちゃんとランチのため、心の小学生を何とか黙らせて購入した、ワインカラーのシャツを着てきた。
オシャレなおばーちゃんは、会うなり私の服装にふれ
アーラ珍しい!シックなシャツ着て…
おかしい?
おかしくない 似合うよ!
と言うので気をよくしていたら
血豆みたいな色ね!
と来た。
そうだった、そして私のハデ好きは、この人からの遺伝でもあるのだった。

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落ち着いた色合いを身につける人が増えて、そうなるとハデ好きの私は断然不利である。
強い日差しに映える原色が行き交う夏なら、少々ハデな格好をしていても、目に立つことはないが、シックな秋の装いに交じると
なんだあのハデなオバサンは…
そう思われるのではないか、と、落ち着かない。
私はだいたい中間色というやつが苦手だが、それには理由がある。
先日、すれ違った女性が、茶色のブラウスを着ていた。

黄みを含んだこっくりした濃い茶色の、ツヤのある布地。衿ぐりも袖つけも流行のデザインだが、問題はそこではない。
… う○この色だ …
心の中の小学生が、そうささやくのである。
私も50を過ぎて、いつまでもトイザらスみたいな格好をしてはいられない。
しかし、年相応に落ち着いた色合いの服を手にとると
カサブタみたい…
胆汁みたい…
治りかけのハナミズみたい…
と、こんな時ばかり、驚くほど豊かな連想が働くのである。
今日は、おばーちゃんとランチのため、心の小学生を何とか黙らせて購入した、ワインカラーのシャツを着てきた。
オシャレなおばーちゃんは、会うなり私の服装にふれ
アーラ珍しい!シックなシャツ着て…
おかしい?
おかしくない 似合うよ!
と言うので気をよくしていたら
血豆みたいな色ね!
と来た。
そうだった、そして私のハデ好きは、この人からの遺伝でもあるのだった。

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ぼくすい話。
職場のお疲れ様会で、久しぶりの夜の街。
予約の店に行く途中、夜道にほのぼのと、見たことのあるアンドンが灯っているのに気がついた。
民芸酒房というその店には、父がたまに連れて行ってくれた。
家を出て就職して、盆暮れくらいしか帰らない生活をしていたころ。誰でも携帯を持っている時代ではない。
ある日、ひょっこりと、父が職場に電話をかけてくる。
お前 今日ヒマか?
忙しいよ!
私用電話をとがめられそうで、上司を気にしながら、コソコソ小声で約束をするのだ。
約束の時間に少し遅れて暖簾を上げれば、紺絣の働き着のおねえさんたちが、口々に
おかえりなさい
と歓迎してくれる。
店の奥に目をやれば、父は必ず先に来ていて、おう、と手を挙げて見せた。
いつも同じ席、同じお酒を前に、常連らしい気楽な態度で、おねえさんに軽口を叩いたりなぞしている父は、いつも家で難しい顔をしている父とは、ちょっと違う人に見えた。
会ってたいした話をするわけでもない。
おい これウマいぞ
ウン
女の子が あんまり飲むなよ
ウン
そんな風に、いいかげん飲んで食べて、駅までをぶらぶらと歩き
おかーさんによろしくね
おう
なんて、いたって愛想もなく、右と左に別れる。そんなことが何回あっただろうか。
家族であの店に行った記憶はない。いつも父と私、2人だけだった。
父はすでに亡く、数えてみれば、あの頃の父と似たような年頃になっている私。
またあの暖簾をくぐってみたいような、そうでもないような、気がする。


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予約の店に行く途中、夜道にほのぼのと、見たことのあるアンドンが灯っているのに気がついた。
民芸酒房というその店には、父がたまに連れて行ってくれた。
家を出て就職して、盆暮れくらいしか帰らない生活をしていたころ。誰でも携帯を持っている時代ではない。
ある日、ひょっこりと、父が職場に電話をかけてくる。
お前 今日ヒマか?
忙しいよ!
私用電話をとがめられそうで、上司を気にしながら、コソコソ小声で約束をするのだ。
約束の時間に少し遅れて暖簾を上げれば、紺絣の働き着のおねえさんたちが、口々に
おかえりなさい
と歓迎してくれる。
店の奥に目をやれば、父は必ず先に来ていて、おう、と手を挙げて見せた。
いつも同じ席、同じお酒を前に、常連らしい気楽な態度で、おねえさんに軽口を叩いたりなぞしている父は、いつも家で難しい顔をしている父とは、ちょっと違う人に見えた。
会ってたいした話をするわけでもない。
おい これウマいぞ
ウン
女の子が あんまり飲むなよ
ウン
そんな風に、いいかげん飲んで食べて、駅までをぶらぶらと歩き
おかーさんによろしくね
おう
なんて、いたって愛想もなく、右と左に別れる。そんなことが何回あっただろうか。
家族であの店に行った記憶はない。いつも父と私、2人だけだった。
父はすでに亡く、数えてみれば、あの頃の父と似たような年頃になっている私。
またあの暖簾をくぐってみたいような、そうでもないような、気がする。


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ぞろめの話。
平日のショッピングセンターはほどほどの人出。
台風が近づいているせいか、朝から気分が冴えない。たまには甘いものでも食べて元気を出そうと、チェーン店のベーカリーカフェに入った。
ランチタイムの喧騒が去って、ノンビリした店内。ゆっくりメニューを見て、コーヒーと、アイスをのせたデニッシュパンを注文した。

…ホットのラテと …デニッシュで …円になります
サイフを開けながら、レジのデジタル表示で金額を確かめると
777.
こういう時黙っていられないのがオバサンというものである。
アラ!ゾロ目…
コーヒー色のエプロンをかけた店員さんは、笑ってふだんの顔になり
時々出ますね 777円… レジ打っててもオッと思います
なんとなく嬉しいわ なにしろ ふだん嬉しいことがあんまりないからね
つい口が滑った。もう1人の店員さんが、コーヒーを淹れながらフフフ…と笑っている。
コーヒーだけのったトレイを受け取り
お呼びしますから お席でお待ちください
そう言われて、ケイタイのメールをチェックしながらコーヒーをすすっていたら
お待たせしました~
フフフの人がパンのお皿を席まで持ってきてくれた。
呼ばれて取りに行くつもりだったので、驚いてお礼を言ったら、いえいえと顔の前で手をふり
これから休憩なんです
お皿を置いて、STAFF ONLYの扉のむこうに去って行った。
ふとカウンターを見やると、レジの人もこっちを見て、ニコニコしている。
トーストした熱いパンの上で、ソフトクリームとシロップがゆっくりと溶けている。いつもよりもソフトクリームがたっぷりな気がするが、たぶん気のせいだろう。
食べ終えたトレイを返却口に戻し、カウンターの中に
ごちそうさま!
声をかけて外に出た。
ポケットに手を入れたら、ゾロ目のレシートが触れた。なんとなく捨てずに、サイフに入れた。

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台風が近づいているせいか、朝から気分が冴えない。たまには甘いものでも食べて元気を出そうと、チェーン店のベーカリーカフェに入った。
ランチタイムの喧騒が去って、ノンビリした店内。ゆっくりメニューを見て、コーヒーと、アイスをのせたデニッシュパンを注文した。

…ホットのラテと …デニッシュで …円になります
サイフを開けながら、レジのデジタル表示で金額を確かめると
777.
こういう時黙っていられないのがオバサンというものである。
アラ!ゾロ目…
コーヒー色のエプロンをかけた店員さんは、笑ってふだんの顔になり
時々出ますね 777円… レジ打っててもオッと思います
なんとなく嬉しいわ なにしろ ふだん嬉しいことがあんまりないからね
つい口が滑った。もう1人の店員さんが、コーヒーを淹れながらフフフ…と笑っている。
コーヒーだけのったトレイを受け取り
お呼びしますから お席でお待ちください
そう言われて、ケイタイのメールをチェックしながらコーヒーをすすっていたら
お待たせしました~
フフフの人がパンのお皿を席まで持ってきてくれた。
呼ばれて取りに行くつもりだったので、驚いてお礼を言ったら、いえいえと顔の前で手をふり
これから休憩なんです
お皿を置いて、STAFF ONLYの扉のむこうに去って行った。
ふとカウンターを見やると、レジの人もこっちを見て、ニコニコしている。
トーストした熱いパンの上で、ソフトクリームとシロップがゆっくりと溶けている。いつもよりもソフトクリームがたっぷりな気がするが、たぶん気のせいだろう。
食べ終えたトレイを返却口に戻し、カウンターの中に
ごちそうさま!
声をかけて外に出た。
ポケットに手を入れたら、ゾロ目のレシートが触れた。なんとなく捨てずに、サイフに入れた。

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ゆうやけ話。
ベランダに出た途端、うわあ!と声が出た。

キレイを通り越して、たいへんな夕焼けだ。
いそいで洗濯物を部屋に投げ込み、手すりにヒジをついて眺める。
見ている間に雲が流れ、茜色から紫へ、無段階に刻々と、空の色が変わっていく。
まだ明るい時間なのに、不思議なほどしんと静かで、私の他には眺めている人もないみたい。
せっかくの贅沢な独り占めを楽しめばいいのに、もったいない気がするのは貧乏性の悲しさ。
ねえねえ、夕焼けキレイだよ
言葉は声に出さないまま、中空に消えて行く。
てんでバラバラに離れて暮らす、私の家族。誰かに言いたくても、誰もいないのだ。
ガラにもなく空なんか眺めたせいだろうか、
今、ミサイルが落ちてきたら、みんな会わずに死ぬんだな
なんて思ってしまった。
空に深い藍がさしてきた。冷えてきた肩をこすって、部屋に入った。

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キレイを通り越して、たいへんな夕焼けだ。
いそいで洗濯物を部屋に投げ込み、手すりにヒジをついて眺める。
見ている間に雲が流れ、茜色から紫へ、無段階に刻々と、空の色が変わっていく。
まだ明るい時間なのに、不思議なほどしんと静かで、私の他には眺めている人もないみたい。
せっかくの贅沢な独り占めを楽しめばいいのに、もったいない気がするのは貧乏性の悲しさ。
ねえねえ、夕焼けキレイだよ
言葉は声に出さないまま、中空に消えて行く。
てんでバラバラに離れて暮らす、私の家族。誰かに言いたくても、誰もいないのだ。
ガラにもなく空なんか眺めたせいだろうか、
今、ミサイルが落ちてきたら、みんな会わずに死ぬんだな
なんて思ってしまった。
空に深い藍がさしてきた。冷えてきた肩をこすって、部屋に入った。

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はっこう話。
今日も今日とて、作る気もない料理番組を見る。
まあ、お味噌汁にチーズを入れるんですかぁ?
アシスタントが大仰に驚いてみせると、センセイは
お味噌もチーズも発酵食品ですから よく合うんですよ
ニコニコと言い放つ。こういう言い方、地味ながら最近の流行りみたいだ。
ヨーグルトもキムチも発酵食品なので よく合います
お漬物もパンも発酵食品なので 意外にマッチします
てな感じで、何度か見聞きしている。
いいトシして何事にも疑問を抱いてしまう私は、またしてもホンマかいな、と思うわけである。
味噌とチーズは合う、かもしれない。けど、それって、発酵食品だからなのか?
発酵という工程が共通することと、結果としてできた味が調和するということは、ぜんぜん別問題じゃなかろうか。
だいいち、チーズは乳酸菌、味噌は麹菌、菌どうしは赤の他人である。
両者の差異はフランス人と日本人の違い以上に大きいのではないか。
お味噌もチーズも発酵食品ですから よく合うんですよ
というのは
相撲も水泳も、ハダカだからおんなじなんですよ
というくらい、むちゃくちゃで無意味な論法である。
反証を挙げたくて、クサヤと甘酒とか、べったら漬とナンプラーとか、様々な組み合わせを考えたら、気分が悪くなってきた。

(「赤の他人ですが仲良くやってまーす」)

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まあ、お味噌汁にチーズを入れるんですかぁ?
アシスタントが大仰に驚いてみせると、センセイは
お味噌もチーズも発酵食品ですから よく合うんですよ
ニコニコと言い放つ。こういう言い方、地味ながら最近の流行りみたいだ。
ヨーグルトもキムチも発酵食品なので よく合います
お漬物もパンも発酵食品なので 意外にマッチします
てな感じで、何度か見聞きしている。
いいトシして何事にも疑問を抱いてしまう私は、またしてもホンマかいな、と思うわけである。
味噌とチーズは合う、かもしれない。けど、それって、発酵食品だからなのか?
発酵という工程が共通することと、結果としてできた味が調和するということは、ぜんぜん別問題じゃなかろうか。
だいいち、チーズは乳酸菌、味噌は麹菌、菌どうしは赤の他人である。
両者の差異はフランス人と日本人の違い以上に大きいのではないか。
お味噌もチーズも発酵食品ですから よく合うんですよ
というのは
相撲も水泳も、ハダカだからおんなじなんですよ
というくらい、むちゃくちゃで無意味な論法である。
反証を挙げたくて、クサヤと甘酒とか、べったら漬とナンプラーとか、様々な組み合わせを考えたら、気分が悪くなってきた。

(「赤の他人ですが仲良くやってまーす」)

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のぎさん話。
今はジャンケンといえば、日本中どこに行っても
さーいしょーはグー!
になってしまっているが、うちでは違った。
♪じゃんけん とてとて ほっかいどーは さーむいよ!
と、独特の節で歌い、「よ!」でグーチョキパーを出すのである。
子供の頃の刷り込みというのは恐ろしいもので、私はいまだに北海道と聞けば、反射的に寒い!と思ってしまう。
北海道が寒いのは事実としても、遠い関西で、なぜジャンケンのたびにそれを引き合いに出さねばならぬのか。不可解である。
もうひとつ不可解なのが「ニッポンのノギサン」だった。
母がちょっとした景気づけに歌う、しりとり歌。
♪ ニッポンの ノギサンが ガイセンす スズメ メジロ … ♪
言葉の終わりがシリトリになっていて、最後に
♪ しんでもいのちがあるように ニッポンの … ♪
最初に戻って循環するのが面白く、イモートも加わった3人で、よく歌った。
ところが、「ノギサン」が分からない。
どういうニッポンの人なのか。ヒントは唯一「ガイセンす」のみ。
ただし、どういうわけかノギサンがヒゲの人であることだけは知っていた。
昔の親は子供の疑問にいちいち答えてくれるほどヒマではない。ガイセンするヒゲの人というのが、小学生の私に与えられた情報である。
だいたい、ガイセンって何なのか。
想像するに、センは線に違いない。ノギサンの仕事は、線をガイすることなのだ。
そして線といえば、電線に決まっている。
昔は電気の状況が悪くて、ヒューズもよく飛んだし、配線、断線といった言葉は、子供にも親しみがあった。
配線、断線、ガイセン。きっと似たものに違いない。
想像の中のノギサンは、うちに修理に来た電気会社の人とおなじ、グレーの作業服を着、ヒゲの顔に黄色のヘルメットをかぶっていた。
以来40年が経過。
もちろん今は、ノギサンが陸軍大将乃木希典だと知っているし、「凱旋」だって漢字で書ける。
しかし、頭の中でいったん電信柱にのぼってしまったノギサンを、おろすのは難しい。
ノギサンのいじっている電線には、もちろんスズメとメジロがとまっている。

乃木 希典(のぎ まれすけ 1849.12.25 - 1912.9.13)

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さーいしょーはグー!
になってしまっているが、うちでは違った。
♪じゃんけん とてとて ほっかいどーは さーむいよ!
と、独特の節で歌い、「よ!」でグーチョキパーを出すのである。
子供の頃の刷り込みというのは恐ろしいもので、私はいまだに北海道と聞けば、反射的に寒い!と思ってしまう。
北海道が寒いのは事実としても、遠い関西で、なぜジャンケンのたびにそれを引き合いに出さねばならぬのか。不可解である。
もうひとつ不可解なのが「ニッポンのノギサン」だった。
母がちょっとした景気づけに歌う、しりとり歌。
♪ ニッポンの ノギサンが ガイセンす スズメ メジロ … ♪
言葉の終わりがシリトリになっていて、最後に
♪ しんでもいのちがあるように ニッポンの … ♪
最初に戻って循環するのが面白く、イモートも加わった3人で、よく歌った。
ところが、「ノギサン」が分からない。
どういうニッポンの人なのか。ヒントは唯一「ガイセンす」のみ。
ただし、どういうわけかノギサンがヒゲの人であることだけは知っていた。
昔の親は子供の疑問にいちいち答えてくれるほどヒマではない。ガイセンするヒゲの人というのが、小学生の私に与えられた情報である。
だいたい、ガイセンって何なのか。
想像するに、センは線に違いない。ノギサンの仕事は、線をガイすることなのだ。
そして線といえば、電線に決まっている。
昔は電気の状況が悪くて、ヒューズもよく飛んだし、配線、断線といった言葉は、子供にも親しみがあった。
配線、断線、ガイセン。きっと似たものに違いない。
想像の中のノギサンは、うちに修理に来た電気会社の人とおなじ、グレーの作業服を着、ヒゲの顔に黄色のヘルメットをかぶっていた。
以来40年が経過。
もちろん今は、ノギサンが陸軍大将乃木希典だと知っているし、「凱旋」だって漢字で書ける。
しかし、頭の中でいったん電信柱にのぼってしまったノギサンを、おろすのは難しい。
ノギサンのいじっている電線には、もちろんスズメとメジロがとまっている。

乃木 希典(のぎ まれすけ 1849.12.25 - 1912.9.13)

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つなかん話。
1人暮らしになってから、ツナ缶をよく食べる。
たんぱく質をもうちょっと、という時、70グラムの1缶が、ちょうど食べきれる量なのだ。
最近は缶切りも要らないし、手軽で便利だなあと思いつつ、開けるたび少しイラッとする。
それは缶底のミゾ。

このミゾに、細かなツナのカケラが入りこんでとれないのである。
量としては微々たるものだが、ケチの私はそういうのがいちばんキライだ。
フタとの接続部分にミゾがあるのは成型の都合上やむをえないとしても、底のミゾは鉄板を曲げてわざわざ作ったものだ。
百歩譲ってどうしてもミゾが必要だというなら、それもしかたない、受け入れよう。
しかしそれなら、なぜミゾをもう少し広く、せめてスプーンの先が入る幅にしないのか!
口には出さねど、私はつねづね大声で思っている。
ツナ缶メーカーの人は、自分では缶を開けて中身を食べないのだろうか?
美味しいツナをカケラまで食べたいと思うのは、ワガママなのだろうか?
解決方法を探していて、こんなものを見つけた。

(底まですくえる缶たんスプーン 198円)
広い世の中には、やっぱり私と同じように、あのミゾが我慢ならない人がいたのだ!
ほのぼのと嬉しく、さっそく注文しかけて、ピタリと手が止まった。
なんとこの商品、猫缶用のスプーンなのである。
はたしてこれを人間が使って問題ないものか、迷っている。

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たんぱく質をもうちょっと、という時、70グラムの1缶が、ちょうど食べきれる量なのだ。
最近は缶切りも要らないし、手軽で便利だなあと思いつつ、開けるたび少しイラッとする。
それは缶底のミゾ。

このミゾに、細かなツナのカケラが入りこんでとれないのである。
量としては微々たるものだが、ケチの私はそういうのがいちばんキライだ。
フタとの接続部分にミゾがあるのは成型の都合上やむをえないとしても、底のミゾは鉄板を曲げてわざわざ作ったものだ。
百歩譲ってどうしてもミゾが必要だというなら、それもしかたない、受け入れよう。
しかしそれなら、なぜミゾをもう少し広く、せめてスプーンの先が入る幅にしないのか!
口には出さねど、私はつねづね大声で思っている。
ツナ缶メーカーの人は、自分では缶を開けて中身を食べないのだろうか?
美味しいツナをカケラまで食べたいと思うのは、ワガママなのだろうか?
解決方法を探していて、こんなものを見つけた。

(底まですくえる缶たんスプーン 198円)
広い世の中には、やっぱり私と同じように、あのミゾが我慢ならない人がいたのだ!
ほのぼのと嬉しく、さっそく注文しかけて、ピタリと手が止まった。
なんとこの商品、猫缶用のスプーンなのである。
はたしてこれを人間が使って問題ないものか、迷っている。

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9.11話。
その年、8月中にお休みを取り損ね、遅い夏休みで海外旅行をした。
まったく初めての国。日本語はもちろん、英語も通じなくて、心細い思いもしたけれど、何もかもが目新しく興味深い。
時差ボケも消えて、さあ今日も観光するぞ、とガイドブックを見ながら朝ごはんを食べていると、バーカウンターの後ろの大型テレビが、急に点いた。
ホテルのバーのテレビは、夜はサッカー中継を映していたが、確か昨日も一昨日も、朝は点いていなかったはず。
音の出ない画面。

これはなに?いったい何が起こったの?
テロップは読めないが、とてつもない暴力がふるわれた、ということだけは分かる。
同じように朝食を食べていた客たちが、ザワザワとした。飲み物を補充に来たウェイターも、手を止めて画面に見入っている。
スマホですぐ検索できる時代ではなかったし、誰かに聞きたくても、言葉が分からない。どうやらアメリカで何かあったらしい。
画面から目の離せぬまま食べ終えたが、遠く離れたこの国で、何ができるわけもない。
しかたなく予定通り観光に出かけた。
青く晴れた空、のどかな風物、おおらかな人たち。
昨日は楽しく、面白く見えたすべてが、先ほど画面の中に見てしまった圧倒的な悪意の前で、どうしようもなく無力で、儚いものに思えた。
その後のことは、あまり記憶に残っていない。
帰りの機内で、久しぶりの日本の新聞を、むさぼるように読んだことは、はっきり覚えている。

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まったく初めての国。日本語はもちろん、英語も通じなくて、心細い思いもしたけれど、何もかもが目新しく興味深い。
時差ボケも消えて、さあ今日も観光するぞ、とガイドブックを見ながら朝ごはんを食べていると、バーカウンターの後ろの大型テレビが、急に点いた。
ホテルのバーのテレビは、夜はサッカー中継を映していたが、確か昨日も一昨日も、朝は点いていなかったはず。
音の出ない画面。

これはなに?いったい何が起こったの?
テロップは読めないが、とてつもない暴力がふるわれた、ということだけは分かる。
同じように朝食を食べていた客たちが、ザワザワとした。飲み物を補充に来たウェイターも、手を止めて画面に見入っている。
スマホですぐ検索できる時代ではなかったし、誰かに聞きたくても、言葉が分からない。どうやらアメリカで何かあったらしい。
画面から目の離せぬまま食べ終えたが、遠く離れたこの国で、何ができるわけもない。
しかたなく予定通り観光に出かけた。
青く晴れた空、のどかな風物、おおらかな人たち。
昨日は楽しく、面白く見えたすべてが、先ほど画面の中に見てしまった圧倒的な悪意の前で、どうしようもなく無力で、儚いものに思えた。
その後のことは、あまり記憶に残っていない。
帰りの機内で、久しぶりの日本の新聞を、むさぼるように読んだことは、はっきり覚えている。

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