fc2ブログ

ついーと話。

その日、父と母は旅行中だった。

たまの贅沢を、と、都会のホテルにゆっくりと泊まり、翌日はイモート一家のうちへ。

老夫婦の、そんな楽しい予定が、一変した。

7年前のあの震災である。

しばらく留守をするから、よろしくね、と頼まれた私は、ホテルの名前を聞いただけ。

携帯も、ホテルの代表も、電話はまったくつながらない。

続々と更新されるテレビの映像が、不安をそそるばかり。

どうしよう、どうしようとソワソワするだけの私に、ムスメが言った。

ツイッターで聞いてみる

へ?と戸惑う私をよそに、ムスメはさっさとスマホを出して

高齢の祖父母が○○のホテルにいます。お近くの方どういう状況か教えてください!

と、ツイートした。

そんなもんで何が分かるもんか

内心小バカにしつつ、半信半疑で待つことしばし。

その付近を先程、クルマで通過しました。多少の混乱はありますが、建物は崩れていません。

力強いコメントが返ってきた。

ムスメが歓声を上げたのは、祖父母の無事を知ったから、だけではなかった。

その返信をくれたのが、かねてフォローしていた、お笑い芸人さんだったからだ。

SNSの力に驚かされた。

あれから7年経った今でも、その人をテレビで見るたび、軽く頭を下げたい気持ちになる。

その節は本当に、ありがとうございました。

ついったー



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

ごかぞく | コメント(13) | トラックバック(0) | 2018/03/11 11:30

ちっぷす話。

…っぷすが無いんですよ!

へ?ナニぷす?

憤懣やるかたない表情の、ミヤケさんの早口が聞き取れなくて、思わず聞き返した。

ユーチューバーちっぷすです!

聞き返しても分からない。

ユーチューバーといえば、近頃子供のなりたい職業のトップに躍り出て、大人の眉をひそめさせているヤツどもである。

そのユーチューバーのチップ、ということは、ICチップの類か?

違いますよ~ カードがついてるんです!

ますますわからない。よくよく聞いて、驚いた。

ゆーちゅーばーちっぷす
(25g 税抜171円 カード1枚付き)

大人気YouTubeクリエイターたちが ポテトチップスになりました!

ノーマルカード45種、レアカード18種の全63種類!

集めてコンプリートしよう!


なんのこっちゃない、仮面ライダースナックである。

イマドキの小学生らしくユーチューバーに夢中の、ミヤケさんの息子さんも欲しがっているが、どこもかしこも売り切れで、買えないんだそうだ。

コンビニとかで、1つでも見かけたら、買っといてくださいね!

と、お願いされた。

まったく、ヘンなものが流行るなあ。

デジタルなんだかアナログなんだか、なんて思いながら、検索画像を見ていて気づいた。

ユーチューバーチップス、うすしお味なんだ。

のり塩でも、バター醤油でもなく、うすしお。

ソルト&ビネガーでも、コンソメでもなく、うすしお。

なぜか堰を切ったように笑いだした私を、ミヤケさんは不思議そうに見た。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2018/03/10 11:30

こころの話。

起きたらまず、台所のカレンダーを見る。

私のスケジュール管理はアナログもいいとこだ。

その日何時にどこに行くか、といった大雑把な予定はカレンダーに、行った先で何するか、という細かな予定は手帳に書く。

スマホだって持ってるんだから、もっとカッコよくできないかと思うが、長年やってきて不自由を感じない、こういう習慣は変えにくい。

今朝もコーヒーメーカーをONにしてから、冷蔵庫の脇のカレンダーを見に行った。

さて3月9日の欄に書かれた予定は



は?



2度見ても同じだ。

アイダミツヲじゃあるまいし、用件以外の言葉を書く趣味はない。

該当する固有名詞、店も、人も、なんの心当たりもない。

カレンダーの前でウーンとうなっているうちに、コーヒーが入った。

手帳を見ればすぐわかるのだが、こういう時ガンバッてしまうのが私の悪い癖だ。

心… 心… ココロ… 

マグにコーヒーをついで、飲みながらしげしげと考えたが、わからない。

カレンダーの前に戻り、顔を近寄せて自分の字を凝視する。

こころ

はっ!

1時!

あそこに1時なら、すぐ出ないと間に合わない!

飲みかけのコーヒーをそのままに、カバンをひっつかんで飛び出した。

次から「時」は漢字で書かなきゃ、と思いつつ、駅に急ぐ。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

もろもろ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2018/03/09 11:30

かたづく話。

仕事休みの朝、のんびり起きてカレンダーを見たら、

消防せつび点検 10じ~

と、キッタナイ字で書いてある。

エライコッチャ!

消防設備点検では、全部屋に係の人が入り、火災報知機を点検する。(→ かじです話。

ホウチキ

大掃除は無理でも、来られる方に失礼のない程度には取り繕っておかねばならぬ。

急に忙しくなってきた。

こうなると私の動きは、先程までと別人のように早い。

大きく窓を開けて、抜け出したばかりの寝床をベッドメイク。

ソファに投げ出してあった衣類を洗濯カゴにほうりこみ、朝ごはんのお皿とカップは台所に下げ、チャッチャと洗った。

あらかた片付いたテーブルの上、昨日とってきて、まだ見ていない郵便物が目にとまる。ムスコの大学からだ。

バリバリ開けると、新学期の教科書代の案内。概算で2万円を振り込まねばならないようだ。

今日を逃すと来週末になりそうなので、サッサと済ませてしまおう。

上着と自転車のカギを手に飛び出しかけた時、図書館の本を読み終えたことを思い出す。

出かけるついでにあれも返して来よう。

図書館の前にはリサイクルボックスがあるから、空き缶とペットボトルも持って行く。

郵便局から図書館にまわり、振込と返却と回収が終わったところで、

そうだ、パンもなくなってた!

思い出してベーカリーに寄る。

1度のお出かけで、よどみなく4つの用件を済ませ、われながら自分の有能さに感心する。

ルンルンと家に帰って来たら、新聞受けに白い紙片がはさんであった。

消防設備の点検にうかがいましたが ご不在でしたので…

ギャー!



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

ごきんじょ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2018/03/08 11:30

フイチン本。

ずっと昔に古本屋で買った、古いマンガ本がある。

ふいちんさん
(「フイチンさん」 上田としこ著 講談社刊)

主人公のフイチンさんは、ハルビンの富豪リュウタイ家の門番の娘。

元気で物おじせず、正義感が強くて、おっちょこちょい。富豪の坊ちゃんリイチュウのお守りで大活躍…とまあ、ごくごく罪のない内容である。

軽快な絵柄が愛らしく、歴史の教科書でしか知らない満州の風俗が珍しくて、楽しく読んだ。

写真のこの本は昭和33年6月刊、なにしろ子供の読んだものだから傷みが激しい。

背はグズグズだし、ページのあちこちが破れ、見返しも裂けてなくなっている。おまけに人物の顔がいくつか汚れて見えない。

アリテーに言って、バッちいしボロッちい

古書としての値打ちは知れているし、気持ちよく読むなら、復刻版がちゃんとある。

にもかかわらず、バッチくてボロッちい本を手放さないのは、その汚れゆえなのだ。

エンピツのラクガキや、爪でひっかいた傷。

よくよく注意すれば、主人公に意地悪をする、富豪夫人の顔ばかりにそれはある。

失敗したフイチンにクビを言い渡すシーンなど、表情が分からないほど、ぐりぐりと濃く塗られている。

見ようによってはショッキングだけれど、この本の前の持ち主は、高慢なタイタイが、よっぽど憎らしかったのだろう。

悪役の顔を塗りつぶしたくなるほど、今の子供たちがマンガにのめり込むだろうか。

そう考える時、この時代のマンガが、とても幸せで、大切なものに思える。

著者上田としこが亡くなったのが、10年前の今日である。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

ブックガイド | コメント(10) | トラックバック(0) | 2018/03/07 11:30

ふじたの話。

出先で早めに用件が終わった。

遠出したので、ただ帰ってはもったいない。駅でポスターを見た、美術館に寄って帰ろう。

静かな住宅街の中の美術館。切符を買おうとして、ハタと気づく。

お金がない。

電車に乗るにはICカードを使い、お昼はクレジットで支払い、現金が無いのに気づかなかった。

表示が無いとは思いつつ

あの… クレジットカードは…

ダメもとで尋ねてみるが、上品なカウンターの女性に、申し訳なさそうに

現金のみなんです… 申し訳ございません…

謝られた。

もともとそれを目的に来たわけではないから、見ないで帰ってもいいようなものだが、なんとなく悔しい。

近くに銀行か郵便局はないですか?

と聞いてみると

無いですが… コンビニならあります

お金を出すだけならコンビニでいい。女性は丁寧に、けっこう距離のありそうな、そのコンビニの場所を教えてくれた。

わかりましたと踵を返し、門を出たところで、

すみません!お客様!

後ろから呼び止められた。

振り返れば先ほどの女性がカウンターを離れ、小走りに追いかけてきて

入場は4時半までですので 少しお急ぎください

と、わざわざ教えてくれた。

時計を見れば3時を回っている。

うっかりコンビニで長居でもしていたら、危ないところだった。礼を言って歩き出す。

教えてくれたコンビニは、目印もない住宅街の中。行きすぎたり、戻ったり、15分たっぷりかかってたどり着いた。

お金をおろして、帰りはまっすぐ。なんとか4時になる前に、2度めの入り口を入ると、カウンターの女性はこちらを認めて、椅子から腰を浮かせた。

よかった!ご説明 わかりにくかったかしらと思って…

花が咲くような笑顔になった彼女に、もう1度、丁寧にお礼を言って、切符を求めた。

ごゆっくりご覧ください

優しい声に送られて館内に足を進める。

いいところに来た、ステキなものを見た。そう思った午後。

ふじたほんのしごと

(西宮市大谷記念美術館 2018.1.13〜2.25)



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

もろもろ | コメント(4) | トラックバック(0) | 2018/03/06 11:30

かいたい話。

毎週日曜、ついつい見てしまう番組がある。

やすとものどこいこ
やすとものどこいこ!? テレビ大阪

ウナバラヤスヨ・トモコという姉妹の漫才師が、ショッピングモールやホームセンター、量販店に出かけ、ただ自分の欲しいものを買う番組である。

どこが面白いのか見当がつかないだろうが、驚いたことに関西ではたいした人気番組なのだ。

さらに驚くべきはこの姉妹、毎週毎週買い物に出かけて、買うものが無いということがない。

いつ見ても、そうそうこれが欲しかったの、と、何かしらの品物をカゴに入れている。

私だって、買いたい!と思うこともある。

だったら買えばと思うだろうが、そう簡単ではない。なぜなら何を買えばいいか、わからないからである。

買いたい!と思っても、買うモノのイメージはボンヤリとぼやけて、いっこうに像を結ばない。

どうやら私は、お金を出して、代わりにモノを受け取るという行為、純粋にそれだけがしたいらしい。

因果なことに、私はモノはあんまり欲しくないのである。

モノを持てば、しまい場所がいる。なくさない用心や、傷めないための手入れもいる。

ステキなモノを買ったはいいが、その後のことを考えると、途端に憂鬱になるのだ。

そんな私にはヤストモ姉妹がドカドカお店に踏み込み、ガサガサ買い物をする様子を見ることが、ちょっとしたガス抜きになるのかもしれない。

2012年3月4日に放映がはじまったこの番組、なんと7年目に突入した。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

てれびじょん | コメント(10) | トラックバック(0) | 2018/03/05 11:30

じゅえりー話。

郵便物の中に、キラキラしたDMがあった。

じゅえりーふぇあ

以前おばーちゃんと行ったジュエリーフェア

粗品をもらうのに氏名住所を書いたので、何も買わないのに毎年ご案内がいただける。

買う気もないので捨てかけて、ふと考える。

なぜジュエリーが欲しくないんだろう?

わが母おばーちゃんは欲しい人だ。

祖母から受け継いだもの、父に買わせたもの、ソコソコ持っているが、財政状況が許せば、きっともっと買ったろう。

しかし私のジュエリーボックスはいたって貧弱である。

婚約指輪は、離婚後売っぱらって、そのお金で子供と焼肉を食べた。(→ ゆびわの話。

セレブリティの知り合いが無いので庶民の話だが、そもそも私たち世代でジュエリーを身につける人ってあまりないように思う。

しかし、高齢者世代になると、割合気軽につけている。

おばーちゃんも、ちょっと駅前まで、くらいのお出かけで、指輪だのブローチだのつけてくるし、ちゃんと似合っている。

私はけっして質素なたちではなくハデ好きなので、イヤリングもネックレスもするが、材質はガラスだったり、樹脂だったり、とにかく貴金属ではない。

いいと思うアクセサリーは数百円、せいぜい数千円までの安いものである。

DMで、キラキラとダイヤやエメラルドが輝いていても、コソッとも欲しいと思わないのだ。

私がそう言うと、おばーちゃんは意外そうに

そーお?アタシがアンタくらいの頃には 欲しくて欲しくてたまんなかったけどねエ…

欲しくて欲しくて、と言うおばーちゃんの表情は、余裕と豊かさを含んでいる。

なんだか、うらやましい。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

もろもろ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2018/03/04 11:40

わたるの話。

私にも、お人形で遊んだ少女の頃はあった。

いちばん長く遊んだのはやっぱりリカちゃん(→ りかちゃん話。)。

私もイモートも、それぞれ自分のリカちゃんを持っていた。他にタミーちゃんや小さいマスコット人形を組み合わせて遊ぶ。

私とイモートのリカちゃんが、代わりばんこにお母さん役で、ちょっとおへちゃのタミーちゃんは、遊びに来た友だちか、お手伝いさんの役。マスコット人形が、ペットや赤ちゃんの役になる。

人形ごっこは家族ごっこでもあるのだ。

お人形の家族には少女と動物しかいなかったが、とくに変だとも思わず、楽しく遊んでいた。

しかし、ある時、その均衡が崩れた。

ワタル君の登場である。

わたるくん

なぜ、突然彼が現れたのか、わからない。

遊びを見ていた母が、お父さん役も必要だろうと、買ってくれたのではないか。イモートも私も、欲しいと言った覚えはない。

そのことは、その後の扱いのヒドさで証明された。

唯一の男性として家族に加わったワタル君が、夫や父親の役をさせてもらえることはなかった。

ある時は、押し売りに扮し、団結したリカちゃん家族に撃退される。

ある時は、カステラの箱に寝かされ、リカちゃんのお医者さんから大手術を受ける。

またある時は、幽霊になり、白いハンカチでテルテルボーズにされ、ヒモで吊るされる。

リカちゃんたちは、何枚もかわいい衣装を持っていたが、ワタル君は最初のまんま、1枚っきりの着たきりスズメだった。

子供は残酷である。人形の家族に、男は要らなかったのだ。

私とイモートが中学に上がり、お人形を処分した時には、すでにワタル君はどこかに行って、いなくなっていた。

リカちゃんとカップルにもなれず、時空のクレバスに落ちたように消えたワタル君を思う時、どうにもやるせない申し訳なさに、心が痛む。

今日はひな祭り



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

むかしむかし | コメント(12) | トラックバック(0) | 2018/03/03 11:33

オウニン本。

前方にミエさんらしき後ろ頭が見えたので、見つからないようにコソコソ会場を出ようとしたら

あーいたいた、ぢょん子さん!

探されてしまってはしかたがない。悪い人ではないのだが、とにかく話が長いのだ。

アータ、アレ読んだ?アノ本!

息せき切って話題に入る。久しぶりとか元気とか、前置きが一切無いのもミエさんの特徴だ。

アノ本?

あの、新書の、オウニンの…

ああ、アレですか 話題になりましたよね、「応仁の乱」

おうにんのらん
(「応仁の乱」 呉座勇一著 中公新書)

…私、映画でも本でも、流行ると見ないんですよね

あーそーよね 私も応仁の乱だし、京都だし、関係ないと思ってたんだけど…

ミエさんは京都ギライである。

たまたま読んだのよ あれはアータ、えらいことよ!

コーフンして顔が赤くなっている。

アータ、奈良でしょ?奈良県民でしょ?

あー、ハイ

だったら読まなきゃ!興福寺のボーズがアータ、あんなことしたり、こんなことしたり…

そうなんスか?

興福寺や、春日大社が、もうね、シカにおセンベやってる場合じゃないのよ!

なんだかわからないが、次会うまでに「アノ本」を読んでおく約束をさせられてしまった。

図書館で借りて読んでる途中だが、確かに興福寺のボーズがあんなことしたり、こんなことしたり、えらいことである。

これはアータ、奈良県民必読の書よ!

と、ミエさんが、広い会場で私を探してくれたのも、納得なのであった。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2018/03/02 11:30
« Prev | HOME | Next »