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にづくり話。

ムスコは去ったが、荷物は残る。

がらんとした部屋に置かれた段ボールには、文庫本やマンガなどが無造作に詰めてある。そこに洗濯した衣類を入れて、下宿に送るのだ。

数枚のTシャツと下着を、ポソッとのっけてみたが、まだだいぶスペースが余る。

送料をかけて空気を送るのもナンなので、スキマに買い置きの缶詰や即席めんを詰め込んだ。

愛情というより、モッタイナイ精神の発露である。

コンビニで宅配を頼み、戻ると電話。おばーちゃんだ。

なに?どうしたの?

いや 別に用事はないんだけどさ…

お盆のうち、滞在していたイモート一家が、昨日帰った。

今日、荷物を出したのよ そしたら ちょっと ガランとしちゃってね…

寂しくなっちゃったらしい。

イモートは昔から荷物が多い。とても持てないので、帰省の荷物はあらかじめ宅配で送ってくる。

帰る時、あらかたの荷造りはしていくが、最後に忘れ物や洗濯の済んだものを詰め込んで発送するのが、おばーちゃんの仕事になる。

思えば30年ちかく、そうしてきたわけだ。

そして私も、これからそうするのだろうか。

今は寂しくもなんともないが、そのうち私も、こんな風にムスメに電話するようになるのかな。

いつもより、ちょっとだけ優しい娘になって、おばーちゃんの話に、相槌を打つ。

ままぞん



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ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2018/08/21 11:31

せんぱい話。

その昔、就職協定というものがあった。

会社訪問や採用選考、内定日に制限があり、その解禁日の1つが8月20日

ウブだった学生時代に念じすぎたためか、いまだにこの日付を見ると緊張感が蘇る。

あの頃はリクルートスーツも決まったものが無く、今ほど黒一色ではなかった。

暑い盛り、キチンとしてかつ涼しい格好がよかろう、と、ワンピースなんか着てオフィス街をウロウロしたのだから、ノンキな時代である。

その日は、有名企業にお勤めのセンパイを訪問する日。

先輩といっても、学部が同じだけの見ず知らず。志望する会社にお勤めの人に個別に連絡を取り、人事につないでもらうというのが、当時の就活の常套手段だった。

下宿のピンク電話から、大学の名簿を見て、ドキドキしながらご自宅に電話をかけ、なんとかアポイントメントを取り付けたのである。

指定された高級ホテルのロビーで柱にもたれていると、

えーと、ぢょん子さん?

優しい声で呼びかけられた。

銀縁の眼鏡で、紺のスーツをスッキリと着こなした、細身の若い男性。センパイだ。

あわてて会釈をしながら

き、今日はお忙しいのに お時間をいただいてありがとうございます!

使い慣れない敬語を精一杯使ってご挨拶すると、センパイはけむったそうに顔の前で手を振り

そんなにしゃっちょこばらなくてもいいですよ 気楽に…

そう言いつつ、ホテルの喫茶室にいざなわれた。

ほてるのらうんじ

はじめて会う男性とお話しするのだ。気楽にと言われても、そうリラックスできるものではない。

促されて飲み物を注文したものの、ストローをくわえるのもためらわれて、結露したグラスの中では氷が溶けていく。

センパイは優しかった。

会社の業務について、社風について、福利厚生について。ひととおりの紹介に続いて

ぢょん子さんは専攻は? 

サークルでは何を?


モタモタと答える私を急かすこともなく、軽くうなずきながら、いかにも興味がある表情。

天井が高く、ひんやりと冷房された喫茶室。一張羅のワンピースで、豪華なソファに埋まるように座って、まるでお姫様になったようだ。

やがて約束の時間がきて、センパイは伝票をさっと取り、お支払いをしてくださる。

ぎこちないお辞儀をしてオフィス街を右左に分かれた後も、フワフワと夢の中だった。

あれが就職活動だったなんて、今思えばおかしくって、笑えてくる。

センパイの会社とは、ご縁が無かった。あれ以来、お会いする機会もない。



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むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2018/08/20 11:30

せっかち話。

ムスメが休暇旅行から帰って来た。

お土産のベトナムコーヒーをさっそく淹れてみようと、お湯を沸かす。

うちでは飲み物や料理に、ポット型の浄水器の水を使っている。

ぶりた
(ブリタマレーラ 浄水ポット 1.4L)

上から注いだ水道の水が濾されて下に溜まるのだが、濾過した水でさっき麦茶を作ったばかり。

コーヒーを淹れるにも、ぜんぜん足りないポットの水をぜんぶヤカンに入れて、まず火にかけた。

振り返って、浄水ポットに水を入れていると

も~ セッカチだなあ!

ムスメが言う。

セッカチ?私が?

それさ~ ポットに水がたまったら ヤカンにつぎたすんでしょ~?

そうだよ 

フツーはたまってから入れるよ~ そんなチョッピリの水を いきなり火にかけるなんてさ~

だって 早くかけたほうが 早く沸くでしょ

それがセッカチなんじゃない~

50歳を過ぎる今日まで、トロいと言われたことはあっても、セッカチ呼ばわりは初めてである。

ほら前にもさ~ チヂミの粉をさ~ 作り方見ずに先に袋捨てちゃって ゴミ箱覗きながら作ってたよね~

あー そんなこともあったね。

あとさ~ 回ってる洗濯機とか 煮物の鍋のフタとか よく途中で開けてるし~

だって、中で何やってるか、気になるんだもん。

それにしても、セッカチ?それがセッカチ?

ぜんぜん、ピンと来ない。

根を詰める細かい作業も平気だし、幼い頃は降る雨粒を眺めて飽きなかった私。

セッカチなんて言葉とは無縁のつもりが、そう思われていたとはいささか心外である。

ポタポタと、一滴ずつ、ゆっくり落ちたベトナムコーヒーは、濃くて苦くて、おいしかった。

べとなむこーひー



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もろもろ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2018/08/19 11:30

やざわの話。

盛夏の1か月は新規プロジェクトには取り組まず、最低限の行動でやり過ごす。

暑い時に何かしてもロクなことは無い、という、経験からの習慣である。

納戸と呼ばれるアトリエ(→ あとりえ話。)を片付ける、というささやかな計画さえ放棄され、今に至る。

ところが、昨日今日と信じられないほど涼しい。

すると、ぐでぐでしていたのがウソのように何かしたくなるのだから、人体とは現金なものだ。

しかしまあ、イキナリそう立派なことは思いつくものではない。とりあえず、録画したっきり見ていないテレビでも見よう。

やざわさん
(「激レアさんを連れてきた。」月曜夜11時15分より ※一部地域を除く ←ウチはその一部地域)

極端な経験をした人が次々に出てくる、楽しい番組。

まず見たのは、闘病中バックギャモン世界一になった女性の回である。

勝負事に弱い私には想像もつかない経験だが、この女性が自分に課しているYAZAWAルール(ヤザワさんという人なのだ)というのが頭に残った。

それは「1年間で10個挑戦すべし」というもの。

私は良く言えば柔軟、悪く言えばエーカゲンな性格で、人生においてこういう目標というか、決め事をしたことがない。

50代のここらで、いっちょやってみっか。

小学校の「なつやすみのめあて」すら守れたことのない私。

だが、よしんば10は出来なかったとしても、やろうとすること自体は悪いことではない。

複数の選択肢がある時、未経験のほうを選んでみる、という行為は、もしかしたら人生を動かす、かもしれない。

少し遅めの夏休みの目標ができて、楽しくなってきた。



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てれびじょん | コメント(12) | トラックバック(0) | 2018/08/18 11:30

なまえの話。

ゴミ出しで、隣の棟のオカモトさんと会った。

いつものように会釈して、右と左に別れかけたが、つい

あっ!そうだ… あの…

と声が出た。

オカモトさんは足を止め、何か?という表情でこちらに向き直る。

オカモトさんの息子さんと、うちのムスコは同い年で、小学校の時はよく遊んだ。

笑うと目が細くなる、やさしい子だったが、デキのいいオカモト君は、中学受験をして私学に進んだので、いつしか疎遠となってしまった。

昨日夕飯を食べながら、ムスコがふいに

オカ どうしてるのかなあ…

と言ったのだ。

それを伝えたかったのだが、さあ、オカモト君の下の名前が分からない

お母さんだってオカモトさんなのだから、オカモト君、ではおかしいし、あだ名の「オカ」では、もっとおかしい。

あの…と言いかけたまま、続きが出ずに固まってしまった。

オカモトさんはしばらく待っていたが、何かを察したのだろう

ムスコ君はお元気?うちのケンゴは明日、東京に帰るって…

と、先に話しかけてくれた。

オカモト君にソックリな、やさしい笑顔。

ホッとして、男の子がいると部屋が狭いわよね、だの、ゴハンの準備が大変ね、だのと、帰省あるあるを話して、別れた。

ムスコも今日、大学のある街に帰る。

かえっているかえる



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ごきんじょ | コメント(4) | トラックバック(0) | 2018/08/17 11:30

おっけー話。

お盆に集まるといっても、お坊様はハヤテのように去ってしまった(→ げっこう話。)し、万事いいかげんなわが家では何をするでもない。

仏様が何人もいる立派なお仏壇のある知人宅では、人数だけお膳をこしらえて供えるらしい。

しかも1日目は何々、2日目は何々と、決まった献立通りにしないといけないというから、考えただけでメマイがする。

食の細い母は毎日ご飯は炊かないので、何日もお供えを忘れ

しまったー 忘れた まーいいや 

などということもしばしばである。この、まーいーや、の後には

おとーさん怒んないし

という、言い訳が続く。

確かに亡き父はそんな風だった。お仏飯が炊き立てだろうが、乾いてカリカリだろうが、怒らず、かといって笑いもせず、黙ーっているだろう。

テレビを見ていたらこんなCM があった。

ぜんぜんおっけー

うちの父はぜんぜんおっけー、が口癖のこのお父さんのようにハゲてはいないし、母は酒井和歌子みたいにホッソリしてはいない。

しかし、父の没後、持ち物を処分する時も、お仏壇やお墓を決める時も、母は

だいじょうぶ おとーさん怒んないし

と言い、イモートも私も異論なく従った。

父は物を言わない人だったし、流行りのエンディングノートなどつける気もなかっただろう。

それでも、どんなときも、父ならこうするだろう、と、共通の想像ができることはありがたい。

ぜんぜんおっけー、のお父さんも、きっと良い人なんだと思う。

それに、仏壇のお水を換え忘れ

まーいーや おとーさん怒んないし

と言っている時、母はなんだか幸せそうなのだ。

そして今年もお盆が終わる。



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てれびじょん | コメント(6) | トラックバック(0) | 2018/08/16 11:30

つくつく話。

ムスコともども、イモート一家が帰省中の実家に帰る。

バスを降りて周囲を見回すと

変わらんなー…

頻繁に来る私と違い、ムスコは久しぶりである。

灼けたアスファルトの歩道、むせかえる夏の熱気の中でいつもの角を曲がって、家が見えた時。

なぜか周囲が不思議に静かになり

…ツクツクウォー ツクツクウォー ツクツクウィーオー ツクツクウィーオー…

秋のシッポがさっと頬を撫で、一陣の風が過ぎて行く。

アレ?ツクツクホウシ?

つい口に出した途端、あ、間違えた、というように、ピタリととまる。

転瞬、ワンワンと降るようにクマゼミが鳴きだし、さっきまでの熱気が戻った。

今のは何だったんだろう?

思わず無言でムスコと顔を見合わせる。

亡き父が、暑さに疲れた子に孫に、秋の気配を見せてくれたような。

そんな、お盆の中日

なすのうしときゅうりのうま



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ごかぞく | コメント(10) | トラックバック(0) | 2018/08/15 11:30

Tしゃつ話。

ムスコが帰省して3日目、早くも夕飯が種切れとなり、回転寿司に行く。

久しぶりの生ビールが美味しく、量を過ごした。

昔から私は酔っぱらうと気前がよくなる。

靴とか服とか なんか要るもんないの?何でも買っちゃるよ

うーん… Tシャツ

何でも、と言ったからと、高価なものを要求しないあたり、親孝行である。

ヨシヨシ、と、ショッピングモールの衣料品店に行くが、ムスコは浮かない顔。

あんまり… 好きなのが無い…

どういうのがいいの?

シャケ… みたいな…

Tしゃけ
(ムスコが帰って来た日に着ていたシャツ)

どこで買うんだ、こんなの。

仕方なく買い物はあきらめた帰り道、そういえばムスメがもうせん、ヘンテコなTシャツを置いてったのを思い出す。

おかーさん着てていいよ、と言ったから、ムスコに着せてもいいだろう。

こんなのどう?レディースだけどサイズは大丈夫でしょ

広げて見せてみた。

ufo-kitten-cat-laser-attack-beach-tee-shirt.jpg
(仔猫がビームを出して海水浴客を襲うの図)

ムスコは一瞥

ぜ…ったい着ねえ!

そうだろうな。

それにしても、うちの子供らは、揃いも揃ってどこでTシャツを買っているのだろうか。



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ごかぞく | コメント(14) | トラックバック(0) | 2018/08/14 11:30

オススメ本。

お盆でムスコが帰省してきた。

正月に大学に戻った時と比べても、とくに太りも、痩せもせず、元気そうである。

ムスコのほうも、代わり映えのせぬ母親をマジマジと眺め

うーん… ちょっと痩せた?

いんや 1グラムも痩せてない

そっか… 気のせいか…

お互い体型のみをチェックする親子である。

大学生のムスコなど、家にいて何をするでもない。

夜更かしに朝寝坊、お腹が減ればハラヘッタ、満腹になったら床に長くノビている。

大きめの猫が1匹いるようなものだ。

テレビを見ていたら、新作アニメ映画の紹介をしていたので

これの原作ってどうなの?

と聞いてみた。

SFが好きなムスコなら読んでいそうだと思ったからだが

あー… 面白いよ モリミでいちばんじゃない?ヘンな京大生の男も出てこないし…

やっぱり読んでいた。

私は書評を読まないし、人のお勧めも信用しないが、いつの頃からか、ムスコの意見は聞くようになった。

身近にいていちばん読むのがムスコだからだ。

ムスコが面白い、という本は、面白かったり、そうでもなかったりするが、こういうのが面白いのか、とわかるのも楽しい。

それは一種の親の覗き趣味であって、子供の日記を盗み読みするのに似ているかもしれない。

合法的なのにどこか後ろめたい気持ちで、今日もムスコの勧めた本を買いに行く。

ぺんぎんはいうぇい
(ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦著 角川文庫)



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2018/08/13 11:30

あべっく話。

昨日の記事(→ やまいく話。)を書いていて、私って意外にオテンバだったな、と思った。

自分ではインドア派の文学少女のつもりが、それなりに暴れていたらしい。

電話をかけて来たおばーちゃんにそう言うと

そりゃそうよ アタシと違って アンタは田舎育ちだもん

と、ちょっと得意げに言われた。

母方は商売をしており、おばーちゃんは中学まで、目抜き通りにある店の2階に住んでいたので、文句なしの街っ子である。

子供時代の遊び友達はいたものの

ショーウインドー見て歩いたり 図書館に行ったり 花っていえば公園のバラだったワ

わー オシャレ!

アタシは身体も弱かったし アンタと違っておとなしかったからネ

あー、そうかい。

そんなことを話すうちに、だんだん昔のことを思い出したおばーちゃん。

そうそう公園といえばさ 昔もアベックって結構いたのよ

へえ~ そうなの?

今みたいに大っぴらにデートできるとこ あんまりなかったんじゃない?手をつないで…

フフフ…かわいいね

その、手をつないだアベックの後ろから

へ?

走ってって 2人のあいだ、手の下をくぐって通り抜けて… 

は?

ほらアタシ、小柄だったからさ みんなビックリして面白かったあ!

悪っりぃガキだな!

しかも、みんなってことは、1度や2度じゃないね?

ハハハ…そうかもね

おばーちゃんは、愉快そうに笑った。

あべっく



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むかしむかし | コメント(6) | トラックバック(0) | 2018/08/12 11:30
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