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つつまれ話。

またしてもとお思いだろうが外壁工事のお話。

工程はベランダの塗装(→ みられた話。)から壁面へと、順調に進む。

作業員が足場を通行する音にも、電動工具のキューン音にも、すっかり慣れた。

ところが今朝、ふと気づくと、そのガシャガシャがいつの間にかやんでいる。

それどころか、逆にものすごく静かである。

静寂に包まれるという表現があるが、まさにそんな感じだ。

 太郎をねむらせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。

 次郎をねむらせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。  (三好達治「雪」)


季節外れもいいとこだが、しんしんと雪に降り込められたら、こんな風ではないか。

いったいどういうことだろうと思いつつも、支度をして家を出た…が

バタン!

自分の目が見たものに驚いて、いったん玄関に戻る。

改めておそるおそるドアを開けたら

うひゃー…

思わず小さく声が出た。

目に入る限り、何もかもがビニールに包まれている。

塗装が飛ばないように、ガラス、金属部や床面が養生してあるのだ。

振り返れば、わが家のドアノブも窓も、インターフォンまでも、シートとテープでガッチリ隠されているではないか。

昨日帰宅の際は気配もなかったのに、寝ている間に静かに雪が積もったみたいだ。

せっかくなのでいったん荷物を置き、見物に出かけた。

見慣れた建物が、いちめんにビニールの薄皮をかぶり、違う景色に変わっている。

つい写真を撮ってしまうのも、雪の日と同じだ。

はしゃいであちこちにカメラを向ける私を、若い作業員が不思議そうに見ていた。

つつまれたしょうかき
(消火器も動かされることなくそのまま包まれている)



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ごきんじょ | コメント(4) | トラックバック(0) | 2019/05/31 11:30

りりりの話。

冷蔵庫にマグネットで貼った紙が、ヒラヒラと落ちたので、拾い上げた。

はいすいかんせんじょうのちらし

雑排水管洗浄のお知らせ

台所、風呂場、洗面所の排水管を高圧洗浄する、マンション住まいの方にはおなじみのメンテナンス作業だ。

当日は業者が入るので、人間性が疑われない程度には片付けておかねばならない。

いつだっけと日付を見てドキッとした。

つい昨日、友人と会う約束をした日ではないか。彼女は忙しい人で、簡単に代わりは取れない。

チラシをマジマジと眺めれば、こちらは都合が悪ければ日程の変更もできるようだ。

…変更ご希望の方は…キャッ!今日まで!

慌てて記載の番号に電話するが、出ない。イライラしながらリダイヤルをする。

もしもしい~

だいぶ待って、ようやくのんびりした声が応答した。変更したい旨を伝えると

分かりました~ では土曜日、午前中でいかがですか~

了承して電話を切った。

ヤレヤレ、早く気が付いてよかった。そう思いながらカレンダーをめくり、その日に印をつけようとすると

キャー!何か書いてある!

合唱団の練習が、場所の都合上、変更になった日だった。

慌てて電話に飛びつき、リ・リダイヤルをすると、さっきの声が

もしもしい~

先ほどの者です、その日は都合が悪かった、と打ち明けると、相手は腹を立てたようすもなく

分かりました~ では日曜午後でいかがですか~

代わりの日を言ってくれた。

じゅうじゅうお礼を言って電話を切り、再びカレンダーをめくったら

ギャー!また何か書いてあるう!

またしても電話に駆け寄り、リ・リ・リダイヤルをする。3度めののんきな声が

もしもしい~

ホントにすみません、さっきの者です、またダメだった、そう伝えると

分かりました~ じゃあいつなら大丈夫ですか~

いらだちや怒った気配はないが、「じゃあ」の語気がちょっとだけ強い気がする。

申し訳なくて、見えないと分かっていても、電話口にペコペコしてしまう。

大丈夫な日に予定を入れて、電話を切った時には、ドッと疲れていた。

3度も電話してきた、困ったオバサンが、会社のランチの話題になることはまず間違いない。恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。

それにしてもリダイヤルボタンなんて、久しぶりに押した。

せめて電話機の機能が確認できて、よかった、と思うことにしよう。



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ごきんじょ | コメント(4) | トラックバック(0) | 2019/05/30 11:30

きらいな話。

今日は実家に届け物。

やりとりの後はいつものように、お茶とお菓子が出る。おばーちゃんの淹れるお茶はおいしい。

味わっていると、不意にリモコンに手を伸ばしたおばーちゃんが、いきなりテレビのチャンネルを変えた。

ビックリして顔を見ると、やけに表情が険しい。

どうしたの 急に

大キライなの…

シブいものを吐き出すように、飛び出してきたのは、しょうじきピンと来ない俳優の名前。大好きでもないが、嫌うほどの人とも思えない。

わざとらしいニコニコ顔… 目が笑ってないし…

へえ~ そんなもんかね

ハラにイチモツって ああいう顔のことよ 

ふーん…

どうも分からない。

娘の私よりずっと若いその俳優と、おばーちゃんには何の接点もない。

テレビで見ているだけの知らない相手に、ここまで嫌悪の念が湧くものだろうか。

昔からこんなだったかなあ。

わが母を見れば、眉間には深いしわが刻まれて、さながらガンコババアの風貌である。

この人ももう80なのだ。そう思うとせつなくて、熱いお茶が苦くなった。

おちゃ



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てれびじょん | コメント(8) | トラックバック(0) | 2019/05/29 11:30

たちぐい話。

今日は家で仕事。

けっこう手間も時間もかかって、朝から机に向かったきり。

お腹がぐうと鳴って、時計を見ればもう午後である。

お昼だお昼だ、昼ごはんにしよう。

ロクなものを食べちゃいないが、おひるという響きは楽しい。

立ち上がって身体を伸ばすとホッとする。

簡単な食事を準備してリビングに運び、テーブルにのせたが、腰かけるのにためらった。

さっきまで椅子に押し付けられていたおシリが、座りたくないと言っている。

テレビを点ければ、再放送のサスペンスドラマ。

なんとなく立ったまま、テレビ見い見いお昼ごはんをつまんだ。

自分ちで立ち食い、初めてだし、ヘンテコだけど、わるくない。

なにより、半日座りっぱなしだったので、いい感じの息抜きになる。

調子に乗って、仕事を片付けた後、マグカップ片手にテレビの前に立ち、クッキーを食べた。

達成感も手伝って、せいせいした、いい気分だ。

お行儀を叱る人もない1人暮らし、自宅立ち食いは、どうやら定着しそうである。

たちぐいそば
(ムスメの高校時代の行きつけだが私は入ったことがない)



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もろもろ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2019/05/28 11:30

あげてる話。

…手を…上げて…

…左足をヒザから…上げて…


お皿を洗っていたら、テレビで健康法のコーナーがはじまった。

水が流れる音で、ところどころしか聞こえないが

…足の裏を…上げて…

…背筋をゆるめて…上げて…


アッチもコッチも上げっぱなしで、下ろす指示がぜんぜん無い。

そろそろ出演者が宙に浮くのではと心配になり、水を停めて見に行ったが、特に重力に反する様子もなく、ホッとする。

うちゅうゆうえい
(こんなだったらどうしようかと思った)

若い男のインストラクターが、優しい声で言うことには

…つま先を上に向けてあげて

…ひじをしっかり伸ばしてあげてください…


なんだ、上に上げるんじゃないのか。

それにしても『してあげる』の大安売りである。

『して』より『してあげて』のほうが、優しく丁寧なつもりなのだろう。

そういえば、いつぞや愛犬家のナニガシさんに「犬にエサをやる」と言ったら

まあイヤだ!ゴハンをあげると言って!

と、ひどく叱られたのを思い出した。

私は子供にはミルクを「やった」し、小遣いも「やる」ので、

マゴのナントカちゃんにお年玉をあげて

などと聞くと、おシリがモゾモゾとかゆくなる。

しかし「『あげる』じゃなくて『やる』じゃないんですか」とは、こっちが粗野な人間のようで、非常に言いにくいのだ。

…息を吐きながら ゆっくり戻してあげてくださいね…

あーハイハイ、オニイチャン、アンタがお優しいのは分かったよ

優しくないオバチャンはテレビを消して、さっさと皿洗いに戻った。



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てれびじょん | コメント(10) | トラックバック(0) | 2019/05/27 11:30

ざっしの話。

郵便物のなかに、色合いの違う封筒が1枚まじっていた。

封を切れば、ビックリマークの飛び散る文面が

今!ご継続ください!お得な割引が受けられる、ラストチャンスです!

最後の最後を告げる。

長らく続けてきた雑誌の定期購読を、自動継続から任意に切り替えて1年。

その期日が来たのだ。

在外のころ読んでいた雑誌を、日本でも購読できると知り、申し込んだのは帰国間もない頃。

私の身の上にもいろんなことがあったが、経済的に苦しくても、意地のように続けてきた。

かつて住んでいた国の食べ物やゴシップ、ファッションにテレビ番組、休暇旅行とクロスワード。

そんなことが、何に役立つわけでもない。

遠い日本でいまさら知っても仕方がないあれこれを、ページを繰って眺めるひとときは、慌しい日々の中、静かな逃避をもたらした。

無用な情報こそが、その時は必要だったのだ。

毎月届く雑誌を待ちに待った日々も遠く、近頃は読み忘れが多くなってきた。

次の号が来てはじめて、慌てて前のをめくることもある。

きれいな写真を眺めても、文字はしみ込まず、心の表面をすべっていく。

もういいかな…

感じ始めたのは、去年のこと。そしてたぶん、継続の手続きはしない。

長いことありがとう 私はもう大丈夫

ダイレクトメールの封筒を、ゴミ箱に投げ入れた。

magazines.jpg



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もろもろ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2019/05/26 11:30

¥500話。

芸能界でいちばん500円玉貯金をしているのは誰か、というバカな番組を見てしまった。

500えんだまちょきん

ランキング形式で芸能人の貯金箱を開けて見せている。1位ともなると100万円に迫る金額だ。

スゴイですねと言いつつ、全体に漂うのは

芸能人なのにセコイことやってんのね

といった冷笑の雰囲気だが、私は

ゲーノージンってやっぱ、ムダにお金あんだなー

と思っていた。

それというのも、過去に500円玉貯金をしようとしたことがあるからだ。

サイフに500円玉があれば、貯金箱に入れる。それだけで貯まるなら、いいじゃないか!

ところが、ビンボー人の現実は厳しかった。

サイフから500円を出すと、当然ながらサイフの中身が500円減る。

何万円も入っているサイフなら、500円は少額かもしれない。

しかし、1日の食費を千円台でやりくりするサイフから、ランダムに500円が失われるというのは、じつに大きな痛手なのだ。

豚肉が鶏肉になり、心づもりのお菜が1つ減る。

それに気付いた私は、早々に500円玉貯金をあきらめた。

代わりに始めたのが50円玉貯金である。

100円玉より出現頻度が低く、500円玉より献立に影響の少ない50円玉を、見つけるたびにコインケースに入れる。

百円均一のコインケースは、1本に50枚入って2500円。4本貯めてやっと1万円だ。

海外旅行には行けそうにないけれど、それくらいが分相応かなと思っている。



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てれびじょん | コメント(8) | トラックバック(0) | 2019/05/25 11:30

ぼさつの話。

私はオバサンであり、オバサンの常として、たいへんマジメだ。

やらねばならぬと決めたことは必ずやる。

人類でもっともマジメで、ねばならぬ精神が強いのが、オバサンだと私は思う。

昨年の冬、腰痛対策に始めたストレッチも、マジメに続けている。

太ももの裏やおシリの筋肉が硬いことが、腰痛の原因の1つらしい。

そこで椅子に腰かけ、片側のヒザにもう片方の足のカカトをのせて、おシリを伸ばす。簡単な動作だが、効果がある気がする。

しかし、マジメに続けたがために、慣れてしまうのも人間だ。

左のヒザに右カカトをのせながら、

上半身がヒマだな…

余計なことを考えた。

たしかにこのストレッチの間、腕や頭は何もしていない。そもそも、脳ミソがヒマなのだ。

ヒマな脳ミソはさらに思う。

このポーズ、何かに似てんな…

記憶の中で、日本史の教科書のページが、ペラペラとまくれる。

アレだ!半跏思惟像!

ちゅうぐうじはんかしゆいぞう
(中宮寺菩薩半跏像 伝如意輪観音)

えーっと、アレはどうなってたっけ…

椅子をひきずり、姿見の前まで移動する。

おぼろげなイメージを頼りに、右手で影絵のキツネを作り、人差し指をほっぺたに当ててみた。

おお、コレコレ!

目を半眼に閉じ、観音菩薩をカンペキに再現したところで、ふと我に帰った。

何やってんだ私…

およそフマジメなこの状況、しかしそれは、マジメゆえに生じた事態に他ならない。

一面的な判断では、真実に到達できないのである。



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もろもろ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2019/05/24 11:30

しゅうごう話。

ホテルの会議場を借り切って、イベントが行われた。いたってマジメな、意義深い集まりである。

午後のセッションがはじまる前、参加者全員が、会場外の広場に集合させられた。

この手の催しによくある集合写真撮影だ。

カメラ係にあっちを向け、こっちを詰めろと指示される間も、初夏の日差しが照り付ける。

暑いのも人に指図されるのもキライな中高年たちは、どんどん不機嫌になり、結果ムクレ顔の集合写真が出来上がる。

むっつりしたオッサンオバハンが、階段状に居並ぶ写真。

もう写りたくないし欲しくもないので、なるたけ後ろに並ぶ。撮れた写真は有料なら申し込まないし、無料でくれても捨てる。

早く終わらないかな、とボンヤリしていたら、前列にさざ波のような動揺が起こった。

青葉美しい植栽から、小さなものがゆらゆら

あれ

爽やかな初夏の風に吹かれて、右へ、左へ、行先のさだまらぬまま、しかし確実に降りてくる。

ところが、カメラを構える写真係には、なぜかそのざわめきが伝わらなかったようだ。

私を含む全員が「それ」に注目するなか

ハイ、チーズ!

能天気な掛け声とともに、シャッターが切られた。

おそらく全員が上目遣いの集合写真。ちょっと、欲しい気がする。



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ごきんじょ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2019/05/23 11:30

せつなの話。

駅への道は、上り坂と下り坂。ちょっとした峠だ。

自転車だと、前半ハアハア言いながら立ち漕ぎでがんばり、後半は漕がずにラクラク。

楽しいんだかツライんだかわからない。

昨日もそんな調子で、街路樹の緑が美しい下り坂を、ノーブレーキで爆走していた。

カラフルな家々が、目の端をすっとんで、シャツの袖口から入る風は、後ろ首から抜けていく。

坂の中腹で、帽子のおでこ辺りに小さく、しかし確実な感触が

ぽて…

しかし絶賛爆走中の私は、そこに手をやることができない。

鳥の落とし物(婉曲表現)か?

それともアレか?

(アレ↓)

あれ

ぎゃ~!

払い落とさなきゃ!あ、直に払うと刺される?

そういえばムスコが幼稚園の時、毒の毛が手に刺さって、痛がってカワイソウだった。

それに、もしアレじゃなくて、鳥の落とし物なら、慌てて払うとかえって大変だ。

乾かしてからはじき落として、それから洗濯かなあ…。最悪この帽子、捨てることになるかも…。

そしたら、こないだ見たあのカワイイ帽子を買おう!わー、新しい帽子!嬉しい!楽しみ!

…とまあ、これだけのことを「ぽて…」から、自転車を停めるまで、3秒くらいの間に考えた。

いやあ、人間の脳ってスゴイですね~。



本日早朝より多忙のため、2014年5月22日の記事を再掲いたします。



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2019/05/22 11:30
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