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ぽけべる話。

ポケベルと聞いて、ナニソレ?というのは、若い人である。

ポケベルと聞いて、万歩計みたいに横長で、デジタル画面のある端末を思い浮かべるのは、私より若い人である。

私の知っているポケベルは、チョコボールの箱くらいの縦長の黒い箱だった。

当時はまだ、個人でポケベルを持つということはなかった。

営業マンは朝礼が済むと、次長の卓上の手提げ金庫から、自分の名前の貼られたそれを取り出す。

付属の鎖の環を、失くさないようズボンのベルト通しにとめたら、ポケットの上から確認するようにポンと叩き、取引先へ飛び出していくのだ。

内勤の社員にとって、バリバリの営業マンは、煙たくて怖い存在だった。

まず全員、タバコくさくて声が大きい。

お客さんの依頼を、規定上できないと返事すると、血相変えて詰め寄られたし、月末の締日に出てない伝票を催促に行けば渋い顔。

そのくせ自分の売上に関わる事務処理は早く早くと急かすのだ。

そんな食えないオジサンたちが、かわいらしく感じる時、それがポケベルを鳴らした時だった。

応接室に約束のお客様がいらしているのに、一向に出先から戻らないので、ポケベルを鳴らす。

鳴り終わるかどうか、ほとんど入れ違いのように外線が鳴って

ナントカ産業さんお越しですよ!待たされて、怒ってらっしゃるかも…

電話口で少々大げさに脚色すると、汗をダラダラ垂らした営業マンが、必死の形相で戻ってくる。

ちっちゃなポケベルを鳴らすだけで、オジサンが息せき切って駆け戻ってくるのである。これほど面白いことがあるだろうか。

そう思ったのは私だけではなく、部長や次長が

おい誰か!ナニガシ君呼んで!

フロアに声をかけると、新人OLはみんな、争って呼びたがった。

ケイタイもメールもなかった、30年前の話だ。

今日、日本で唯一ポケベルを提供していた東京テレメッセージ株式会社が、ポケベルのサービスを終了する。
 
ぽけべるがならなくて
(不倫オヤジ役が緒方拳だったのが意外といえば意外)



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むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2019/09/30 11:30

きんぼし話。

土曜の夜、遅い電車内。

そのジジイに気付いたのは、音量調節ツマミが壊れたデカい声のせいだ。

話し相手は小柄な老妻。こちらは周囲を気にして、聞こえないほど小さな相槌を打っている。

その表情には、夫の傍若無人ぶりを、過去に繰り返しいさめては聞き入れられなかった、無力感が漂う。

ニュースで見ればいいんだ!

…… (妻、何か返事)

どうせ負けるんだから まあ 何点取れるかだな!

…… (妻、おそらく反論)

2位と5位じゃ レベルが違うんだよ!

ここまで聞いたら、スポーツを知らない私にも、さすがにラグビーワールドカップの話題であろうと見当がついた。

どうやらこのご夫婦、テレビ中継を前半まで見て、勝敗を見届けず家を出てきたらしい。

おそらく夫の独断で、奥様は不満なようだ。

…… (妻、なおも言い募る)

いくら応援したってな 強いほうが勝つんだ!

奥様は、人生全てをあきらめたように、ついに反論をよしてしまった。

自信たっぷりに妻を黙らせたジジイの鼻先に、スマホを突き付けたい衝動に駆られる。そこには

ラグビー日本代表 再び大金星 アイルランドに勝利 

らぐびーわーるどかっぷあいるらんどせん

ネットニュースの速報が入っていたのである。

スマホを持たない老夫婦には、家に着くまで確認の手段はなさそうだ。

家に帰って、テレビを点けて、あんぐり口を開けるジジイの間抜け面。

ほら見なさい!

はじめて快哉を叫ぶ奥様を想像し、かろうじて思いとどまった。



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ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2019/09/29 11:30

そばうち話。

ホームズは引退した後、田舎に隠遁してミツバチを飼い、ポワロはまた、カボチャを育てて過ごす老後を夢見た。

そして、日本のオジサンはソバ打ちを始める。

定年後の田舎暮らしを紹介したテレビ番組を見ていると、3人に1人はソバ打ちオジサンである。

ある者はバンダナを巻き、ある者は作務衣をまとい、麺棒を構える姿はさながら求道者の趣。

男とは、老いも若きも棒を振り回すのが好きな生き物である。

しかし、ソバ打ちってそんな大層なものなのか、私はちょっと疑っている。

だいたい、やってるのがオジサンばかり、というのがアヤシイ。

定年まで、うどん玉を茹でたこともないオジサンが、いきなりやりだすから難しくなる。

そして、オジサンというのは、難しいことをさらに難しくするのが得意な人たちである。

料理はただでさえ言語化しにくい分野だ。

冷凍コロッケを揚げる、というだけのことでも、言うに言えないコツというのはあって、それを言葉にしようとすると、大変な理屈を必要とする。

ソバ打ちを語れば、いたずらに饒舌になるのも、むべなるかなである。

たとえば、ふだんの食事を作るオバサン連中が参入すれば、意外にカンタンなのがバレるんじゃないだろうか。

ソバの実る山里の家の台所で、小さなおばあさんが、軽々とソバを打つ姿などを、ふと想像する。

そばうちせっと
(メルカリやヤフオクに出てるので、いきなり新品は買わないほうがいい)



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てれびじょん | コメント(14) | トラックバック(0) | 2019/09/28 11:30

らーめん話。

ブログやSNSの記事を拝見しているとラーメンがお好きな方は大変多いようだ。

外食の機会も多いが、私はもう長いことラーメン屋に行っていない。

けっしてキライではないのに、何故だろう。

お腹が空いている時に、ラーメン屋の前を通るとする。

あ、ラーメンだ おいしそうだな

そう思うまでは思うが、のれんをくぐるに至らない。私を拒む何かがある、としか思えない。

考えるに、ラーメンは美味しすぎるのである。

激戦を勝ち抜くため、どの店もスープに麺に、様々に研究して、最高の1杯を作ろうとする。

うどんやそばに比べて後発であるぶん、自由度が高く、工夫の余地もあるのだろう。

材料を厳選し、無数の試行錯誤を経たラーメンは、たしかに美味しい。

しかし、私はそこになんともいえないを感じてしまう。

坊主頭を手ぬぐいで巻いた店主が、カウンターの向こうで真剣に働く様子を見ると

いや…いいから…私ごときにそこまで…

なんだか申し訳ない気分になるのである。

誤解を恐れずに言えば、ラーメンをそんなに美味しくしてくれなくていい。

私は、ハナウタ交じりにテキトーに作った、そこそこのラーメンを、気楽に食べたいのだ。

そういうラーメン屋がないものだろうか。

はい!うちなんかめっちゃテキトーです!

と言われたら、それはそれで困る気もするが。

スタミナラーメン
(近所で唯一のラーメン屋はけっこういいセン→ まいどの話。



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もろもろ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2019/09/27 11:30

うどんの話。

久しぶりの大阪の街、時計はそろそろお昼。

紺の暖簾にうどんの文字が風に揺れて、フワッとおつゆの香りが漂ってきた。

きつねうどん

涼しくなると温かいうどんが恋しくなる。

おうどん、食べたいな…

午後の予定を頭に浮かべ、確認してから、ヨシ、大丈夫、と踏み出した。

それというのも、私はうどんを食べると、もんのすごく眠くなるのである。

学生時代、昼にうどんを食べると、午後の授業は開始直後に気絶していたし、社会人になってからも、平日の昼はうどんを避ける。

うどんの重みでお腹がくちくなるせいか、お出汁で暖まるせいか。

冷やしうどんやかけそばでは眠くならないので、温かいおつゆとうどんの組み合わせが、私を心身ともにリラックスさせるのだろう。

今日はさいわい、午後からさしたる業務はない。うどんを食べて、思う存分眠くなってやろう。

楽しい気持ちで入店、と思いきや、

讃岐うどん

誇らしげな看板に、なあんだ、ときびすを返す。

讃州香川に恨みはないが、これでもかとコシの強さを誇るさぬきうどんは、今の気分じゃない。

だいいち、さぬきうどんを食べて眠くなるということがあるだろうか。

薄色のお出汁にヤワヤワ浮かび、スルスルのどを落ちるうどんだからこそ、緊張を緩和する。

うどんの1本1本に、きびしいカドカドを見ると、その主張に圧倒され、リラックスどころではない。

立ち向かう、というような気分になってしまう。

世の中はさぬきうどん流行りで、昔ながらのフワフワのうどんはいささか劣勢だが、無いとなると食べたくなるものだ。

風が吹いて雲は高く、すっかり秋の空。

少し距離はあるが、懐かしい大阪うどんに、足を向けよう。



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もろもろ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2019/09/26 11:30

おはぎの話。

お彼岸のお下がり いらない~?

おばーちゃんから電話がかかる。

お彼岸にお参りすると、お寺からいただける折箱入りのオハギ

おばーちゃん1人では食べきれないので、私に声がかかるのだ。

往復のバス代を考えたら、オハギなんて買ったほうが安い。ぜんぜん割に合わないのだが

いるいる ちょうだい~!

喜んで返事するのも、親孝行である。

そうと決まればナマモノだから、急いで出かけねばならない。バスに飛び乗って、しかしなあ…と、思いを巡らす。

どういう名目かは知らないが、お参りの時には、会費的なお金を払っているはずなのだ。

たしか1年分で1万円

すると引き換えに、オハギの折を渡される。

8つ入りだから、1個当たり1250円である。

私は算術には弱いが、こういう時の割り算だけはめっぽう早い。

おばーちゃんは毎年、当然のように払っているが、こういうのっていつまで続くのだろう。

自分は引き継ぐとしても、ムスメやムスコに、あとヨロシク、と言える気がしない。

いつかなんとかしないと、などと思っていたら、降りる停留所に着く。

まいど~!

いつものように勝手口から入ったら、私の顔を見たおばーちゃんは開口一番

6個になってた!

折箱を手に渋面を見せた。

なぬっ!じゃあ1個1667円?!

繰り返すが、こういう割り算だけは異常に早い私である。

おはぎ
(いい和菓子屋さんのオハギで、味はおいしい)



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ごかぞく | コメント(6) | トラックバック(0) | 2019/09/25 11:30

しおぱん話。

たまに買うパン屋に久しぶりに入る。ここでのお目当ては塩パンである。

しおぱん

かじるとまず、カリッとした外側に塩の味。

噛みしめれば、生地にしみたバターがじゅわっとにじみ出る。

オイシイものってけっきょく、塩と油なんだ。

ところが、心覚えの棚に近寄ると、なんだか様子がおかしい。

まさか、塩パンがない?

トングをカチカチ鳴らしつつ、キョロキョロ見回すと、違う位置に見慣れた形を発見、ホッとしてトレイに取ろうとして値札に気づいた。

塩バターロール ¥100

名前が変わってる…。

文字数で考えて「塩パン」の「塩」は33%

対して「塩バターロール」において「塩」の占める割合は、わずか14%である。

塩の存在感を薄めようとする力が働いている、と、直感した。

見た目は同じだけど、なにやら悪い予感がして、3個買うところを、1個だけにした。

うちに帰って、ドキドキしながら袋を開け、ひと口かじる。

チクショー、やりゃーがったな!

バターをケチった生地に、寝ぼけた塩味。

健康志向の何者かが、塩と油の軽減を図ったようである。

よけいなお世話なんじゃー!



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もろもろ | コメント(16) | トラックバック(0) | 2019/09/24 11:30

ぱるむの話。

晩ごはんは済ませたけど、もうちょっと何か食べたい気がする。

♪なんかオイシイもの~♪

こういう時いつも歌う、デタラメ歌を歌いながら、冷蔵庫を覗く。

自分が買って自分で入れてるのに、意外な美味が入ってるはずがない。だいたいはガッカリして、ドアを閉めることになる。

そもそも現実問題、飛び上がるほどオイシイものなんて、そうは無いのだ。

分かっているのについ、冷蔵庫を見てしまう、悲しい習性である。

ところが今日は発見があった。

ぱるむ
(→森永チョコレートアイスクリームバーPARM

夏休み、子供にと思って買ってあったアイスクリームバーが、1つ残っていたのだ。

今まで何度も買ったが、食べたことのないアイスである。

ムスメもムスコも、何種類か買っておくと、真っ先に食べるので、きっと好きなのだろう。

2人とも当分帰って来ないから、これを食べてやろう。

ベリベリと包みを開けて、コロンと丸いアイスをパクリとかじる。

…お… オイシイ!…なんだコレ!

そんなに高価でもない、どこにでもあるアイスバーだが、ビックリするほどおいしかった。

アイツら こんなオイシイものを ハハに勧めもせず…親不孝者が!

一瞬ムッとしたが、子供を責めるのは筋違いである。

もうオトナなんだから、自分のお金でじゃんじゃん買って、じゃんじゃん食べればいいのだ。

♪なんかオイシイもの~♪

次に歌う時のために、冷蔵庫に入れておこう。



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ごかぞく | コメント(12) | トラックバック(0) | 2019/09/23 11:30

てんぷら話。

友だちのカナイさんと久しぶりのランチ。

前 会ったのいつだっけ~?

1月?12月?1年にはなんないか~

実家と義家、双方の介護を担っている彼女とは、時々電話するものの、なかなか会えずにいた。

百貨店の食堂街で、どこに入ろうかブラブラ。

ノンちゃんどうしてる?元気?

相変わらずよ~ ムスメちゃんは?

近況を交換するうち、天ぷら屋の前にさしかかる。

そういえばこないだ、ここだったね ランチ…

あ、ほんとだ!

同じってのも芸がないし、違うとこにしよっか

そ~ね~

天ぷら屋以外で、と意見がまとまり、選択肢が1つ減った。

麺類がいい、とカナイさんが言い、イタリアンレストランが混んでいたので、うどん屋に入る。

運ばれた熱いほうじ茶をズズズとすすり、

涼しくなったわよね~

ホントよね~ 先週だったらこんな熱いお茶…

…飲む気しなかったもんね~

久しぶりに会ったって、大した話をするわけじゃない。

お互いいろいろあるけど、たまにしか会えない人に、つらいことは言いたくない。

愚痴を言って発散できる人もいるらしいけど、私は違う。イヤな気持を言葉にすると、耳から倍になって戻る気がする。

カナイさんが好きなのは、そういうところが私と一緒だからだ。

やがてそれぞれ注文の品が前に届く。

カナイさんは天丼ととろろそばのセット。私は季節の野菜天ぷら定食。

あのさあ…

ん?

けっきょく天ぷら食べてない?アタシたち…

 ウッ… 

スナオに天ぷら屋に入ればよかったね

ホントだ… タハハ…

ウフフ…

友だちとの大切な1日は、またバカ話で終わる。

うどん屋の天ぷらは、けっこうおいしかった。

てんぷら



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ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2019/09/22 11:30

しめった話。

今日からまた、3連休。

外出の予定があるので、天気が気になってテレビを点けた。

…近畿地方は 南海上から北上する前線の影響で 上空にしめった空気が停滞し… 

…奈良県の今日は しめった空気の影響でおおむね雨と…


なんだかえらくしめってるな、と思うと同時に、何度も出てくるフレーズの、独特の発音が耳に引っかかる。

しめったくうき。

「し」が低くはじまり、「めったく」の部分が平坦な高音で、「うき」で低く戻る。

ドレミで表すと

しめ った  くうき
↓↓  ↓    ↓↓↓
レソ ッソ  ソレレ


という感じだろうか。

しめった海苔。

しめった洗濯物。

他の言葉で「しめった」をこんな風にシリアガリに発音することは無い。

どうも「空気」の時だけ、ちょっと違う気がするのである。

「しめった空気… しめったくうき… うーん… しめったくうき…」

首をひねりながら何度も何度も発音しているうちに、台風17号は強い勢力を保ったまま、日本に接近中である。

どうやら、しめったくうきは、日本上空でずいぶんと活躍しているらしい。

あたたかくしめったくうき



本日早朝より他出のため、2016年9月21日の記事に加筆して掲載いたします。



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てれびじょん | コメント(8) | トラックバック(0) | 2019/09/21 11:30
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