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かのやま話。

お彼岸なので、母と墓参する。

分家の分家であるわが家では、父の七回忌も過ぎた今、その手の行事はいたってイイカゲンだ。

大雨だとか、忙しいとか、そんなときは、仏壇にボタモチなど供えて済ませてしまう。

しかし今年の3連休はお天気もよし、おまけに例のウィルス騒動。

お墓くらいしか、行くとこないし

口には出さねど正直なところである。

おぼんのれいえん

観光地の展望台が好きだった父のために、選んだ丘の上の霊園は、お天気のいい日には遠くの山が見晴らせて、とても気持ちがいい。

手桶に汲んだ水が、歩くにつれてポチャポチャと跳ねる。花を抱えた母も、風の香をかぐように

あ~ いい気持ちねえ!

のんびり深呼吸したと思うと

まあ、こんな時だからね お墓くらいしか 来るとこないし!

母よ、私が思っても言わぬことを…。

見渡せば山はいちめん新芽にけむって、山笑うの言葉が頭に浮かぶ。

彼の岸(かのきし)と書いて、おひがん。

父はかの山に居て、笑っているのかもしれない。



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ごかぞく | コメント(6) | トラックバック(0) | 2020/03/21 11:30

あしゅれい話。

新型ウイルスの感染が拡大する英国で、ローラアシュレイが破産を申請した。

パステルカラーの花柄の生地や、優雅なヴィクトリアンスタイルのインテリア雑貨などで、有名なブランドである。

優雅から最も遠い私からその名が出るとは、意外に感じる方も多かろうと思う。

遠い昔、英国在住のころ。

石畳の美しい古い街で、緑の看板の店に入った。

看板の文字はLaura Ashley

1人なら用はないけれど、その時の私には、幼いムスメがいたのだ。

いかにも英国風のその店は、母親なら必ずわが娘に着せたくなるドレスであふれていた。

ろーらあしゅれいのこどもふく

わが家の貧しい家計にとっては、決して安くない子供服。

選びに選んだ赤いコートは、親の欲目を割り引いても、色白のムスメによく似合った。

誕生日、クリスマス…それからいくたび、ムスメのためにあの店に行ったろうか。

時は移り、とうに私の背を越した彼女に、ドレスを買うことはないけれど、求めてもできないことは、やはり寂しい。

またひとつ、私の英国が、なくなった。



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もろもろ | コメント(12) | トラックバック(0) | 2020/03/20 11:30

べいちょう話。

この時代に生まれて、幸せだったのか、と、時々考える。

高度成長の下、未来は右肩上がりに良くなると信じた子供時代。

周囲を満たしたきらめきが、すべて泡沫となるとも知らずに浮かれた、青年期。

そして、世の中悪くなる一方に思える今、それでもこの年に生まれて良かったと思うこと。

それは、東西の名人の落語を、生で聞けたことである。

同級生がポップスターに熱を上げていた時代、私のアイドルは噺家だった。

談志がいた。志ん朝がいた。そして枝雀がいた。

高校生が、行列も徹夜もせず、ロックコンサートよりずっと安く、フツーに独演会の切符を買えたのだから、贅沢な時代である。

すぐ目の前の白木の板の上、汗の滴が見えるほど近くで、彼らの噺を聞けたことは、私の数少ない自慢の1つだ。

そんな私も学校を出て、就職して、銀行だか何だかにお使いに出されたある日。

大阪駅前の大きな交差点で、を見た。

舞台で見るよりずっと小柄で華奢だが、思い切って派手なチェックの上衣と、スッキリした立ち姿が、その世界の人であることをうかがわせる。

上方落語の至宝と呼ばれた人が、意外にも付き人の1人も連れず、信号の変わるのを待っていた。

後で知ったのだが、事務所が近くのビルにあったらしい。

爆笑王・枝雀は既に亡く、その弟子に遅れること15年、米朝師匠も亡くなった。

生で聞いた米朝の地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)は、今も私の宝である。

かつらべいちょうししょう
(三代目桂米朝 1925.11.6- 2015.3.19)



本日没後5年について、2018年6月13日の記事を再掲いたします。



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むかしむかし | コメント(14) | トラックバック(0) | 2020/03/19 11:30

むすかり話。

結婚していたころは、転勤族だった。

何度目かに住んだ、団地の1階の部屋には、小さな庭がついていた。

ムスメもムスコもまだ幼くて、双方の祖父母は、カワイイ孫に会いに来ては

庭に何か植えたら?

お花が咲いたら子供が喜ぶわよ


提案をするが、2人の幼児で手いっぱいの、新米の母親は、園芸に手を出すつもりなど、さらさら無かったから

そうですね~ そのうちに…

言葉を濁しては、ごまかしていた。

ある年の、春のいまどきの時季。

朝、洗濯物を干しに庭に出たら、目の覚めるような青い花が、鈴なりに咲いているではないか。

むすかり

柵ぎわのそこに、雑草にしてはやけにしっかりした葉が茂っていることには、私も気づいていた。

そういえば前の年の秋、遊びに来たシュートメが

ムスメちゃんとお庭で遊びましょ!

出て行く後姿が、なぜか袋を提げていたことも。

何も植えない私に業を煮やし、ついに実力行使に出たのだ。

気づけばムスメとムスコも、庭にしゃがみ、頭を寄せて、見慣れぬ花をめでている。

やられた~!

ひとしきり笑った後、シュートメに送る写真を撮るため、カメラを取りに部屋に戻った。

有難いことに、青い花は特段の手入れも要らず、毎年同じ時期に芽を出し、花を咲かせて、小さな庭で少しずつ陣地を広げていった。

その花をムスカリと呼ぶと知ったのは、いつのことだったか。

あれから20年以上が経つ。

古い団地の窓の下には、今も青い花が咲いているだろうか。



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むかしむかし | コメント(4) | トラックバック(0) | 2020/03/18 11:30

くっきん話。

なるたけ普通に過ごそうとしているけれど、例のウィルスの影響はやっぱりある。

仕事もかなりキャンセルになり、なんだかヒマなので、片付けでもしよう。

食品庫を開けるや、発見したのは

てづくりわらびもち

手作りわらびもちセット。

自分では買わないから、もらい物だろう。

続いて現れたのは

ねりごま

練り胡麻である。

これは自分で買った気がするが、何にするつもりだったのか、今となっては思い出せない。

どっちもたっぷり賞味期限を過ぎている。

となれば、やることはただひとつ…そう、

チャレンジクッキング!

今まで数々の賞味期限切れ食品に挑んできた(→じっけん話。つくだに話。)が、今回はさらに無謀な挑戦となりそうだ。

2つの食材を前に、しばし想像の翼を広げる。

💡!

わらびもち粉に分量の水を加え、そこへ練り胡麻を少しずつ溶き入れる。

泡立て器を動かしながら、思いついて冷蔵庫に向かった。

なっとうのたれ

取り出しましたるは使い残した納豆のタレ

これも封を切って、ボウルの液体に加える。

この、謎の混合液を鍋に移し、ガス火にかけた。

加熱された液体は次第にモッタリとし、かき混ぜる手が重くなる。

額に汗をにじませ、なにごとか呟きつつ混ぜ続ける姿は、さながらお伽話の魔女である。

いいかげん疲れたので火を止め、デロンデロンの混合物を密閉容器に移して、冷蔵庫へ。

数時間後、グレーの不気味なカタマリを、薄笑いしつつナイフで切り分ける、私の姿があった。

小鉢に盛って、ワサビを添えれば、胡麻豆腐の出来上がりである。

いやホント、マジで。



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ちゃれんじ | コメント(14) | トラックバック(0) | 2020/03/17 11:30

かしぱん話。

人気ピアニストのインタビューをテレビで見た。

彼は母親からスパルタ的音楽教育を受け、朝から晩までピアノ漬けの幼少期を過ごした。

ところが、彼に子供が生まれて、おばあちゃんになると、その同じ母親が

子供はのびのびと育てるのがいちばん!

ぬけぬけと言うので、あきれてしまったという。

鬼の形相で子供を叱り飛ばしていたことはすっかり忘れ、都合のいいことばかり覚えていて、母親としての自画像を描いているのである。

私も母親の1人として、こういうババアにならぬよう、自戒せねば、と思いつつテレビを切って、さあ、オヤツだ。

みっくすじゅーすさんみー

定番の菓子パンの、期間限定ミックスジュース味を見つけて、買ってあった。

写真を撮ったついでに、ふと思いついて、LINEの家族グループに流す。

期間限定のサンミー買ってみたよ!

小さい頃から食べ慣れたパンなので、早速イモートから返信。

サンミー懐かしいわ!こっちでは売ってない~

しばらくやりとりしていると、遅れておばーちゃんが登場したが

サンミーって何?

とぼけている。

菓子パンよ!昔よくオヤツで食べたでしょ

確認のつもりで返すと

私は子供のおやつに出来合いの菓子パンを出したことはありません!

語気強く断言された。

ウッソー!

あるよ絶対!しかも、イモートと半分こで。

菓子パンを袋ごと、バーンと包丁で切っていた、後ろ姿だって覚えている。(→きりわけ話。

料理好きだった母は、マドレーヌなど焼いてくれたこともあったが、いつもじゃなかった。

でも、おばーちゃんにとっては、手作りオヤツで子供の帰りを待つ姿が、自画像なのだ。

ちょっとほろ苦い思いで、反論はせずにおいた。



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むかしむかし | コメント(14) | トラックバック(0) | 2020/03/16 11:30

がらがら話。

読書にも飽きて、久々にDVDでも見ようとしたら、プレーヤーの調子が悪い。

まあ寿命だろうが、ヒマだから家電量販店でも見に行こうか。

時節柄空いてるんじゃないか。マケてもらえるんじゃないか。下心があったことは否めない。

予想通り、広く明るいフロアには、人がいなかったが、予想外のこともあった。

店員もいないのである。

DVDのコーナーを探してウロウロする間にも、誰にも会わないのだから尋常ではない。

途方に暮れていると、目の端にチラリと動くものが見えた。

第一村人発見!

逃してはならじと大きく手を振り

スイマセーン!

声をかける。

制服のベストがはじけそうにグラマーな、40代くらいの女性だ。

こちらを認めて小走りに近寄ってきた、その両手にはナニヤラ白い、筒状のモノが、たくさんはめてある。

何なのか、気にはなるが、まずは用件だ。

あのDVDプレーヤーが欲しいんですけど…

あ、ハイ!

えと テレビがシャープなんで…

あー私、イマイチわかんないんで わかる者呼んできます

きますね、のね、が終わるか終わらないうち、彼女はどえらい勢いで行ってしまった。

あっという間に1人取り残され、思わずボンヤリしていると、しばらくして広い通路のはるか遠くに、見覚えのシルエットが現れた。

両腕にはまだ、さっきの何かがはまっている。

と思ったら、行った時に勝るとも劣らない勢いで、駆け戻ってきた。

…ハァハァ…スミマセン 詳しい者がいなくて…

いや、そんな、ちょっと聞いてこうと思っただけだから!

お持ちのテレビの 型番とか…

うっかり言うと、また駆け出しそうな勢いなので

いやもう 大丈夫です!出直します!

必死でとどめた。人手の無い時に来た、私が悪い。自分でも下調べしてから、また来よう。

それにしても、両手にはまったままの白いモノが気になる。

ゼーゼーハーハー息を切らしている彼女には申し訳なかったが

えっと…その腕の…それは何ですか?

あ、これですか これはドライヤーホルダーで 品出しの途中で…

知っていることを聞かれた彼女は、ホッとしたように丁寧に教えてくれた。

どらいやーほるだー
(このように使うもので、便利らしい)



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2020/03/15 11:30

おりづる話。

朝から

昨日、図書館で借りてきた本を読んで過ごそう。

予約して順番を待った本には、期待外れのものも多いが、今回は当りのようだ。

コーヒーのマグを手に、雨音を聞きながらページを繰る、静かな時間。

新しいページを開いたとき、ちらっと見えたものに、つい眉をしかめた。

図書館の本は有難いが、有難くないものも見る。美しくない話なので詳細は避けるが、ページの間に挟まった先人の遺物だ。

ヤだなーと思いつつ、見てしまうのが人の常。

今回のそれは、パッと見は消しゴムのカスのようであり、また乾物のヒジキにも似ていたが

<>

よく見れば、やけに直線的に整ったひし形。色も黒ではなく、濃い藍染だ。

それはなんと、小さな小さな折鶴であった。

そっと摘み上げて、紫苑の花びらほどの翼を広げ、人差し指の先にのせてみる。

どんな人が、こんな細かな仕事をしたのかしら。

続きを読むのも忘れ、ぼんやり眺めていると

♪ぴんぽーん♪

玄関ベルが鳴った。

応対を済ませて戻ったら、小さな鶴はいずこへか姿を消して、見えなくなってしまっていた。

ちいさいおりづる
(無くなっちゃったので画像は借り物です)



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ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2020/03/14 11:30

はずかし話。

予約した本をとりに、図書館へ。

地元の図書館は閉館中で、書架の閲覧はできないが、予約本の貸出・返却の窓口は開いている。

自宅待機で本を読む人も多いのか、窓口には列ができていた。

あと3人のところでちょっとした騒ぎが起きた。

予約て何や!何のことや!

見れば、新聞閲覧コーナーでよく見かけるジジイである。

閉館で締め出されたものの行くところが無くて、予約もないのに列に並んでいたらしい。

窓口嬢は小声でていねいに説明するが

…本棚も見れんで どやって予約するんや!

静かな館内にジイサンの声がひびく。

やがて奥から、腕抜きが似合いそうな小役人風の責任者が現れ、応対を代わると、窓口嬢はホッとした様子で隣に移り

お待ちのかた こちらへ…

心なしか声を張って、次を呼んだ。

子供の本をたくさん抱えた若いお母さんが、窓口に向かいつつ、冷たい目でちらっと見るが

…だいたいワシら 毎日来とるのに 

ジイサンの八つ当たりは続く。

分かるよ、ジイサン。恥ずかしいんだよね。

毎日新聞を読みに来て、ヌシ気分でいた図書館の、基本的な利用方法も知らなかった自分が。

予約必須の本の1冊も、読まなかったことが。

自分の無知や不用意が恥ずかしい時、恥じ入ることができる人と、できない人がいる。

できない人は他人のせいにし、こんなふうに大声で喚くしかない。

わめけばわめくほど冷たい目で見られ、慇懃に謝られても、システムは変わらない。

…ネットネットて ワシら年寄りはなア!

やがて列は私の番になり、時事問題になってきたジジイの繰り言をよそに、貸出券を出した。

かしだしけん




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ごきんじょ | コメント(16) | トラックバック(0) | 2020/03/13 11:30

おどった話。

訪ねた事務所は、小規模なビルの5階。

心覚えの入り口を入ると、正面のエレベーターにハリガミがしてある。

停止中

マジか!

仕方ない、急ぐ用件でもなし、運動と思って階段を上がろう。

ヒィヒィ… ハァハァ…

3階を過ぎたところで、情けなくも息が上がり、到着した会社の方には

大丈夫ですか?

労られる仕儀と相成った。

いや…運動不足で…なんかスミマセン…

いえいえ こちらこそすみません

点検中はしょうがないですよね

いやそれが違うんですよ オーナーがね…

例の新型ウィルス。

密室となるエレベーターの衛生状態に不安を抱いたビルのオーナーが、突然エレベーターを止めてしまったのだという。

なるほどなあ。こんなとこにも影響があるのか。

つつがなく用件を済ませ、帰りはラクチンだ。

小さなビルの階段はやけに折り返しが多く、小走りで降りると

ててて… クリン ててて… クリン

なんども方向転換する。

ててて… クリン

回し車に乗ったハムスターになったみたいで

ててて… クリン

なんだかおかしい。

ててて… クリン ててて… クリン

そういえば、この場所踊り場というんだった。

ててて… 

クリン、と回る前に、誰もいないのを確かめて、ちょいとひと踊り

フフフと含み笑いをしつつ、ビルを出た。

おどりば



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もろもろ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2020/03/12 11:30
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