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みていた話。

…ゴー………

ドライヤーの音が、いつまでもうるさい。

夢の中でむかっ腹を立てて、目が覚めるとそれは雨の音だった。

ヘンな起きかたをしたせいか、それとも低気圧のせいか、コーヒーを飲んでも、ずっと昨日の続きみたいに、ボンヤリしている。

カーテンを絞って、降りやまない雨を眺めた。

雨の音って、雨が地面や木の葉を打つ音なんだなあ、などと考えていると、窓の下が騒がしい。

見降ろせば、学齢期の子供が3人。

うるさいなあ…

2人も産んどいてナンだが、私は子供がキライである。

追い払いはしないが、こんなアンニュイな朝に、わざわざ近寄りたくない。

ところが、早くあっち行け、との思いをよそに、なぜか子供らは立ち止まって動かず、建物の壁のひとところを、じっと見上げている。

…ツイ…

ふいに彼らの頭上を、小さな黒い影が横切った。ツバメだ。

3人が熱心に見ていたのは、ツバメの巣作りだったのである。

しばらく眺めて、ようやく得心がいったのか、モゾモゾ動き出したと思うと、チョロQみたいにいっさんに駆けて行ってしまった。

カサをさし、ナガグツを履いた後姿。

彼らがツバメを見ていたのと同じだけ、私も彼らを見ていたのだと思うとおかしくて、フフフ…と笑いながら、カーテンを閉めた。

かさ



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2021/05/21 11:30

40ねん話。

梅雨時ではあるが、実家に工事が入った。

物干し場の差し掛け屋根の波板の交換と、足元が腐ってきた濡縁の掛け替えだ。

初日には私も馳せ参じ、見慣れた外構がバリバリと撤去される様子を、感慨深く眺めた。

子供の頃住んでいた田舎の家から、今の家に越してきたのは、私がハタチのときだから、まもなく築40年を迎えようとしているわけである。

いつまでも新築の感覚があったけど、それなりに古びていると、あらためて実感された。

工事は雨の合間を縫って数日かかるので、ここしばらく、おばーちゃんからのLINE

昨日は縁側のペンキ塗りでした!

今日は雨が強いので 工事はお休みです!


工事の進行状況の報告が主となっている。

そして、いよいよ完成の日。

今日で工事終わりです 柵にもペンキを塗ってもらって、また40年大丈夫!

楽しい報告がきたと思えば

40年後は私はいないから、おねえちゃん よろしくね

と来た。

オカアサン、40年後は私も97歳だよ

単純な足し算だが

びっくりぱんだのすたんぷ
ないてるぱんだのすたんぷ

矢継ぎ早に押されたスタンプを見るに、老母にはなかなかショックであったらしい。



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2021/05/20 11:30

ぶらんの話。

雨が続くと思ったら、なんと梅雨入りである。

家にばかりいるとカビが生えそうなので、カサをさし、歩いて出かけた。

駅前の花壇が、雨に濡れて鮮やかだ。

地域の有志が整備しており、四季折々に植え替える花、それぞれに手作りの名札が立ててある。

プリムラポリアンサだの、オステオスペルマムだの、ピテカントロプスエレクトスだの、園芸音痴の私は知らない名ばかり。

いつもならチラリと見て通過する花の名を、今日はひとつひとつ、読みながら歩いた。

見栄えのしないモサモサの茂みの陰にも、何か植わっているらしい。名札の後半「…ブラン」だけが見えている。

ブランといえば、モンブランのブランだから、きっと白い花が咲くんだろう。

覗き込んでみると、隠れた前半は「フィリヤ」と読めた。

フィリヤ ブラン…どんな花なのかしら

楽しく想像しながら、歩を進める。

フィリヤ ブラン  フィリヤ ブラン…

妙に頭に残る響き。

フィリヤ ブラン  フィリヤ ブラン…

早く生えて、花が咲くといいな。

フィリヤ ブラン  フィリヤ ブラン……ん?

不意にひらめいて、踵を返す。

モサモサに隠れた名札をよくよく見直すと

フイリヤブラン

イの字が小文字じゃない

くわえてブランはフランス語でも、ラテン語でもなかった。

フイリヤブランは斑入り藪蘭、まぎれもない日本語で、あのモサモサそのものが、ヤブランという植物なのだった。

小暗い茂みの陰で、白いフィリヤブランの花は、幻と消えた。

ふいりやぶらん
(Liriope muscari variegata 夏咲く花は白ではなく紫)



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もろもろ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2021/05/19 11:30

のうない話。

今日のテレビは健康番組。

認知症の早期発見に関する情報を、興味深く見ていたら、脳の画像検査の様子に、いつぞやの職場の話題を思い出した。

記憶とはどのようなものか、という話である。

ある人は、頭の中に、抽斗がずらり並んでいると言う。記憶を探る時は、そのひとつひとつを順に開けていくらしい。

またある人の脳内には、職場みたいなファイルボックスがあって、そこに「お花」とか、「息子の幼稚園」とか、題名がついているのだそうだ。

そういえば、昔の友達で、語呂合わせやシャレがものすごく得意な人がいた。

ああいう人の脳ミソの中は、コトバが五十音順にギッチリ詰まっていて、ひとつ引っ張り出すと、前後の言葉がバラバラ出てきちゃうんだろう。

蔵書の多い図書館みたいな感じだ。

とまあ、想像はしてみるが、じつはぜーんぜん、ピンと来ない。

私の脳ミソには、ファイルも無ければ、抽斗も、書架も無い。

ニトリのカラーボックスさえ置いていない。

ただが立ち込めているだけなのである。

ヴィクトリア朝のロンドンもかくやという、濃い霧の中には人影もなく

チカ…ピカ…

ときおり霧の中を漂う粒子どうしがぶつかって、火花が光る。

それが、思い出す、とか、思いつく、という瞬間なのだ。

ボンヤリしていると、くだらない想念が

チカ…ピカ…

今日もひらめいては消えていく。

…ぼ~…

ああ、遠くで霧笛が鳴っている。

ぢょんこののうない
(早期発見云々以前に、大丈夫か私)



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もろもろ | コメント(4) | トラックバック(0) | 2021/05/18 11:30

おくれた話。

雨の日のゴミ出しはゆううつ。

窓を開けて、空を見上げると、風があるし、雲の動きが速い。

もしかして 小止みになるかも…

甘い考えがアダとなった。

ハッと気づいて時計を見たら、収集車の来るギリギリの時間!

あわててゴミ袋をひっつかみ、降りやまない雨もものかは、外へ飛び出した。

…ガー…

アッ、来てる!加速装ー置!

さいぼーぐ009

サイボーグ009ならば言うだろうが、オバサンの悲しさ。

せいぜいドタドタとゴミステーションに到着したところ、収集を終えた作業員が、ちょうど後ろを向いたばかりだった。

スミマセーン!

声をかけても、振り向かない。

作業服の背中の緊張が、私の声が聞こえたことを、はっきりと示している。

かすかな悪意。

こんなオバサンに、いちいちとりあっていたら、作業が長引いてしかたないだろう。

好意で応じて報いられることも、かつて無かったのかもしれない。

かたくなに前を向いた彼を助手席に乗せて、収集車は次のステーションへと走り去った。

ゴミ袋を手に、うちに帰る。

すこしうつむいて歩けば、濡れたアスファルトに、エゴノキの花が散って、星空のようだった。



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2021/05/17 11:30

タビノヒ本。

旅行だの、旅だの、そういったものから遠ざかってずいぶん経つ。

私の場合、旅は徒歩や自転車じゃなく、乗り物、できれば電車に乗りたい

それも5分や10分では物足りない。少なくとも2時間は乗りたいものだ。

なぜ2時間かというと、飲み食いがしたいためである。

電車の狭い座席で、不自由を感じつつ飲み食いをする楽しみといったら、こたえられない。

動き出すのを待ち、こぼさぬように用心しつつ、プシッと飲物を開ける。

ひと口飲んだら安全な場所に置き、今度はお弁当を開ける。

斜めにかけた掛け紙の上を、ダンダラの紐で十字に結わえた、幕ノ内なんかがいい。

紐は丁寧にテイネイに結び目を解く。御弁当と書かれた掛け紙は、くしゃくしゃ丸めたりせず、折の下に敷いておく。

魚の形の醤油さしの赤いフタを、チマチマと指先で開け、醤油が必要と思われるおかず全てに、まんべんなく順番にかける。

次は箸だが、お弁当の割箸は往々にして安物で、きれいに割れないので、要注意だ。

なんとか食事に差し支えない程度に割れたら、額ににじむ汗を拭き、飲物をもうひと口。

改めて割箸を持ち、準備万端整ったお弁当に向かう。

大げさだけれど、この瞬間が私の旅の最高潮である。

行先でどんな絶景があろうとも、どんな美味に出会おうとも、この時ほどの感動は無い。

なんならどこも行かなくたって、乗った電車を下りず、折り返してきてもいいくらいだ。

ただしその場合、終着駅で飲物とお弁当の補給は必須である。

また扉が閉まり、動き出したら、缶のリングを、プシッ

ああ、旅がしたい!



今日5月16日は旅の日につき、2016年5月16日の記事に加筆掲載いたします。



だいいちあほうれっしゃ

(「第一阿房列車」内田百閒 新潮文庫)



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ブックガイド | コメント(12) | トラックバック(0) | 2021/05/16 11:30

とおいめ話。

♪れでぃ~す あ~と ねいちゃ~♪

昼下りのけだるい空気のなか、流れるCM。

見たい番組もなく、消そうとリモコンに伸ばした手がぴたりと止まる。

画面では、カンタンに若く見せるカツラを、モデルが装着して見せている。

あれ?この人…

なかじまはるみ1 

会ったことがある、ような。

それは、いつか遠い昔、初夏の緑の風の中で。
 
同い年くらいの彼女は、眩しいほどいきいきと、輝いて弾んでいた。

なかじまはるみ2

ひとりテレビの前、遠い目になっているうちに、画面はいたって散文的な、ニュースショーに変わっていた。



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てれびじょん | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/05/15 11:30

わくちん話。

かかりつけ医のヒカワ先生に、月に1度の通院。(→あっぷの話。

いつも血圧をとってくれる看護師さんがバタバタして、先生みずから血圧計を操られた。

ゴムの締め具合や、腕をのせる枕の高さをアチコチしていただきながら、近況を報告する。

話題は新型ウィルスのワクチン接種。

いやー 大変でしたわ~

あー お母さんのぶんですか どうでした

老母もこの医院にお世話になっており、先生とは旧知である。

朝から貼りついて なんとか取れました

それは良かった…

喜んでくださる表情が、さえないと思ったら

あの、先生 先生はワクチン…

まだです

みなまで言わせずおっしゃったので、驚いた。

どうしてですか!こんなに毎日 たくさん診てられるのに!

なんでですかねえ どういう順番なのか…

いつも頼もしい先生がお気の毒で、なんだか弱弱しく見える。

じゃあ うちの母の分をお譲りし…

いやいやいや… ハハハ…そりゃダメだ そりゃイケマセン!

笑ってくださったので、少し気持が楽になった。 

診察室を出る時、先生はいつものように

おだいじに

やさしく言ってくださったが、

そちらこそ どうかお大事に…

そう返したい気持を、かろうじて抑えた。

わくちん



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ごきんじょ | コメント(16) | トラックバック(0) | 2021/05/14 11:30

あっぷの話。

どうも はかばかしくありませんねエ…

かかりつけのヒカワ先生はおっしゃる。

私は持病で定期的に通院し、投薬を受けており、その検査の数値の話である。

先生はしばらくカルテとにらめっこをされた後、

よし!クスリを変えましょう!

キッパリとおっしゃった。

素直でマジメな患者である私は

どんなクスリですか?

さっそくお尋ねすると

成分は同じですよ が増えます

量…つまり1錠が2錠に…

いやいやそうじゃなくて…

たしかに、1錠を2錠にするなら、クスリを増やす、であって、変える、とは言わないだろう。

同じ成分が、より多く含まれるクスリに変える、ということらしい。

素直でマジメな患者に、むろん否やは無い。

生活上の諸注意と、処方箋をいただき、シオシオと医院を後にする。自動ドアがガーと開いたとき

値段は?クスリの値段はどうなる?

さいぜん思いもつかなかった疑問が湧いてきた。

有効成分が倍になるということは、値段も倍になるのであろうか。

素直でマジメな患者は、ビンボーな患者でもあったのである。

どうしよう… 断ればよかったかしら…

いまさら迷っても、せんないことである。

薄い財布を押さえつつ、カウンターに処方箋を出すと、なじみの薬剤師さんが

あら おクスリ変わりましたね

そうなんです レベルアップして…

まあ レベルアップ…ウフフ…

オホホ…

お付き合いで笑いながら、内心ヒヤヒヤである。

やがて薬袋が準備され、支払伝票ができてみると、クスリの値段は先月と全く同じであった。

ホッとした半面

成分が倍なのに、値段は同じってどういうこと?きっと原価なんか タダみたいなもんなんだワ!

遅ればせながら製薬会社に怒りをおぼえる、マジメな患者であった。

おくすりてちょう



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もろもろ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2021/05/13 11:30

せいとん話。

冷える日が続いてすっかり遅くなったが、冬じゅう使ったファンヒーターを、ようやく掃除して、片付ける運びとなった。

がすふぁんひーたー

収納の扉を開けて、あんのじょうゲンナリする。

入れたい場所に、なんとなく放り込んだものが、乱雑に詰め込まれているのだ。

片付けの前に、片付ける場所を片付けなければならないというのは、憂鬱な作業である。

だから日ごろから 整理整頓は大事なんだよね…

つぶやきが、あぶくのように浮かんで、パチンと消える前に、ちょっと引っかかった。

整理整頓というのはよく言うし、整理、も使うけど、整頓って単独ではあんまり使わないな。

整理という言葉には、人員整理とか、債務整理とか、怖い使い方もある。

それに対し整頓のほうは、こころなしかのどかだ。

家庭訪問の前に、学習机の上の文房具を並べ直している、小学生のような。

9時に出勤して、黒い腕貫をはめ、昼休みもきちんと取って、5時に帰る事務員のような。

頓の字の、トンという音のイメージもあるかも。

…おっと、またしても作業の途中で、心の旅に出てしまった。

やると決めたら、今日やらなければ。タメイキをひとつだけついて、腕まくりをした。



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もろもろ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/05/12 11:30
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