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せいらん話。

久しぶりのショッピングモール。

駐輪場へ抜ける通路の脇に自転車売場がある。

新しい自転車が欲しいなあ。

愛機白鹿号の調子はよくない。油を注したり、タイヤの空気をマメに入れて、今日もだましだまし乗ってきたのだ。

前回は白がなく断念した(→しろいの話。)けれど、せっかく通りかかったから、見て行こう。

広いフロアの一角に設けられた自転車コーナーは、目に鮮やかな新車の塗料と、機械油のにおい。

ある一角で、足が止まった。

ミントブルーの、ステキな自転車。サドルはマスタードイエロー、カゴやハンドルは焦げ茶。

大好きな配色だ。

すみませーん!

待てしばしも無く、店の奥に声をかけ、気がつけばカウンターで、防犯登録の用紙を書いていた。

2代目白鹿号は、白じゃなくちゃ、なんて言ったのも忘れ、買ってしまった新しい自転車。

古いのは引き取りますよ、と言われ、引き入れた白鹿号は、いつもに倍してボロッちかった。

乗ってきた時はこうなるとは夢にも思わなかったろう、と胸が痛んだけれど、そんな気持も、新車にまたがり、走り出した瞬間

おお、ペダルが軽い!

感激にかき消された。

ゆるい上りの坂道が、下り坂に変わったみたいに、ぐんぐん加速する。

夏に近づく風が、頬を撫でていく。

青い嵐と書いて、セイランと読む。

そうだ、おまえの名は青嵐号。青嵐号にしよう。

じぇいくのじてんしゃ 



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もろもろ | コメント(18) | トラックバック(0) | 2021/05/11 11:30

せいしゅん話。

朝の洗顔が、冷たい水でもつらくない季節。

ザバザバ洗った顔を、タオルにうずめて

はー、サッパリした…

手に広げた色鮮やかなタオルを、ふと見つめる。

うちのタオルはほとんどがもらいもの。引出物、内祝、粗品、そんなのばかりだ。

たおるつめあわせ

数少ない例外が、今朝のこれである。

ムスメはずっと、ある音楽グループのファンであった。

テレビ番組は録画し、CDを買い、ファンクラブに入り、ライブに行ってはグッズを持ち帰った。

タオルはそのツアーグッズなのだ。

ツアータイトルが描かれたタオルは、もちろんふだんに使ったりしない。彼女の部屋のクローゼットに、大事にしまわれていた。

ある年の、連休のこと。

アパートから帰っていた大学生のムスメが、何を思ったか、自室の片付けを始めた。

1人暮らしを始めて以来、物置と化していた部屋から、散らばった雑誌を集め、洋服を袋に詰め

これ捨てといてね!

言い残すと、風のように去って行った。

その「捨てる」が大変なんだよ。いい気なもんだよな。ブツブツ言いつつ、しかたなく雑誌を縛っていると、雑誌じゃないものが混じっている。

件のミュージシャンのファンクラブの会誌だ。

○○のファンクラブ会誌あったけど これ捨てていいの?

急いでLINEで尋ねたら

あー、いい いい 捨てといて!

あっさり返事が来た。

古着の中にあった、何枚かのツアータオルを

モッタイナイからうちで使おう…

拾い上げれば、ムスメの部屋は、明るい日に照らされ、清々しく広く見えた。

彼女も、もう大人だ、そう思った。

大昔、私にもきっと、こんな日があった。それもあの日みたいな、晴れた日だった気がする。

青春の、終わりは5月。



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ごかぞく | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/05/10 11:30

てがみの話。

…手紙を送りませんか?



呼びかけに目をやれば、若い女優がミュージシャンに、お母さんに手紙を書くよう勧めている。

生まれた時からメールやSNSがある世代。

手紙やハガキを書くというのは、彼らにとってはきっとずいぶんと特別なことなのだろう。

そういえば、いつぞや取引先の某さんが

今の子は 封筒の宛名書きから 教えなきゃいけない!

いささかご立腹であったが、まあ想像はつく。

そんなことを思い出しながら、画面を見ていたら

ん?

てがみのへや1

CMの最後、切手を封筒の右上に貼っている。

切手は左上じゃないの?

きってのいち

しばらく考えて

ああ、横書きの封筒か!

やっと思い当たった。

縦長の封筒に縦書きの宛名なんて、もはや古臭くて、郵便局のCMにさえ出てこないのだ。

急にトシをとった気がした、母の日の朝である。



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てれびじょん | コメント(10) | トラックバック(0) | 2021/05/09 11:30

すいこう話。

小学生の頃から、作文は長くなるたちだ。

毎日ここに載せている文章も、はじめはだいたい3倍の字数がある。

長大な名作が書ければ文豪だけど、凡人の悲しさ、長くなればなるほど、内容は薄くなる。そこで書いた文章を短く詰めるわけだ。

これがなかなか簡単でない。

もともとたいしたことを書くわけではない。

不要と思える部分を省くと、もっと不要な部分だけが残り、そもそも書く必要なかったじゃん、という仕儀に相成る。

時間をかけて書いたところを消すときは、まさに泣いて馬謖を斬るの心境である。

自分の文章を見直していて、多いなと思うのが「ちょっと」

あとは「なんだか」「ふと」、「つい」なども、つい書いてしまう。

「なんとなく」という言葉が、1つの作文に4つ入っていたこともある。

ちょっと、なんだか、ふと、つい、なんとなく。

これらオールスターは、ふだんいかに無意識で、ボンヤリした文章を書いているかの証左である。

いつかある日、とんでもなく長い文章になったら

あーこりゃ詰める時間か 気力がなかったんだな

そう思って、どうかご寛恕願いたい。

なんとなくくりすたる



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もろもろ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/05/08 11:30

くるくる話。

わが街でも、いよいよ新型ウィルスの高齢者向けワクチン接種が始まる。

私は朝から緊張していた。

おばーちゃんのため、接種日時を予約するという、重大な任務を課せられたのである。

当の本人は

そのうちイヤでもさせられるんじゃないの~?

いたってお気楽であるが、娘としては80を越えた母に、少しでも安全でいてほしい。

私が予約するから!

つい請け負うと

あらそーお?じゃあアタシ、ホテルがいい

当市の指定会場は、公民館、商業施設、有名ホテルの3か所。

同じ受けるならイイトコで、というのが、母上のご希望である。

離れて暮らすイモートからも

おねーちゃん お願い!

念を押され、9時スタートの1時間前から、パソコンの前に陣取る。

web予約システムの画面を開いて、事前に聞き取っておいた必要事項を、間違えないようゆっくり入力し、あとは予約ボタンを押すのみである。

立ったり座ったり、落ち着かない時間はのろのろと流れ、やっと定刻。

画面上の予約ボタンをクリックすると、アレが現れた。

ぐるぐる

なんと呼ぶか知らないが、クルクル回るアレ。

短気な私は、アレが回りだすとイライラして画面を閉じるのだが、今回はそうも行かない。

老母のため、なんとしても早めの予約をとらねばならぬのだ。

画面を凝視して念を送っても、局面はいっこうに変わらない。

世の皆様は、アレがクルクル回っているあいだ、どのように過ごされているのだろうか。

私は無意識に胸の前で指を組んでいた。

あまつさえ、組んだ手を何度も天に差し上げ、クルクルに祈る形になっていたのである。

何のマジナイか、宗教か。事情を知らぬ人が見たら、さぞかし鬼気迫る形相であったろう。

永遠に思える時が流れ、祈りは天に通じた。

クルクルがフッと消えると、予約完了の、頼もしい文字が、忽然と現れた。

取れたよ!取れた!ホテルで、希望日で!

実家に電話すると

よく取れたね!○○さんも ◎◎さんも なかなかつながらなくて 7月になっちゃったって…

どなたも親御さんのために一所懸命なのだ。

そんな中で、うまく予約がとれたのは、おそらくクルクルに祈りを捧げたおかげであろう。



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もろもろ | コメント(14) | トラックバック(0) | 2021/05/07 11:30

ぽすたー話。

ポストに行った(→あがった話。)帰り道、もう少し歩きたくなった。

手ぶらだし、そう遠くへは行けないが、遠回りで戻ることにしよう。

知ってるような知らないような景色の中を、ブラブラ歩くうち、見覚えはあるけど、降りたことのないバス停を通りかかった。

バスを待つ人もない建屋に、貼られっぱなしで、セピア色に日に焼けたポスター

合唱団の公演ポスターだ。

所属している合唱団の、練習が中断して1年以上になる。

まず年末の第九の公演が中止になり、夏の定演が中止になり、次の年末もまた、集まって歌うことはできなかった。

うち捨てられたポスターに、うっすら浮かぶ指揮者の、ドラマティックなポーズが悲しい。

それよりも、歌うこと自体を忘れているこのごろの自分が、悲しい。

歩いた疲れがドッと来たようで、つい、バス停のベンチに腰掛けた。

ちょうど定刻にバスがやってきたので、乗りません、というつもりで、運転席に手を振ったから、バスは減速することなく、バス停を通過した。

それでよかったんだけど、なんだか取り残されたみたいで、かってに寂しくなる。

さあ、雨が降る前に、うちに帰ろう。

バス通りのツツジも、今年は終わりらしい。

ひらどつつじ



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ごきんじょ | コメント(4) | トラックバック(0) | 2021/05/06 11:30

あがった話。

家に籠ってやっていた仕事が、やっとこさ仕上がった。

書類を封筒に入れ、テープをビーッと出して封をすれば、清々しい気分だ。

うーんと身体を伸ばして、さて、どこのポストに出そうかしら、と考えた。

コンビニの店内ポストや、住宅地に立つ一本足の小さなポストなど、歩いて行ける距離にけっこう多様な選択肢がある。

ここ数日というもの座りっきりだから、坂の上の四角い、大きいポストまで行って来よう。

軽い靴を履いて、家を出る。

外気に若葉の匂い。丸まった背を伸ばして、胸を張って歩く。

あら?

見上げた先に、こいのぼり

近頃めずらしい大きなこいのぼりが、民家の庭先ではためいている。

高い竿があるのに、ここ数年はお節句にも、何も揚げていなかったお宅である。

お子さんが大きくなったので、もうお蔵入りなのだろう。そう思っていた。

今年になってまた揚げたのは、お孫さんができたのかしら。

それとも、ちょっとした気まぐれかな。

自粛期間の片付けで、こいのぼりが出てきたのかもしれない。お出かけもしないし、子供も遊びに来ないし、くさくさしたお父さんが

ヨシ、こいのぼりでも揚げてやれ!

景気づけを思いついたのかもしれない。

こどもの日の予報は、雨。

雨雲を運んでくる風に吹かれて、こいのぼりは、まばたきできない丸い目を見張っている。

こいのぼり



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ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/05/05 11:30

えんどう話。

職場でエンドウ豆をいただいた。さや入りで、もぎたての新鮮なものだ。

くださったのは、郊外の大きなお家で、ご両親と同居のホンマさんである。

どうしたんです こんなにたくさん!

それがね…

聞けばお気の毒な話だった。

先日来、各地で猛威を振るった強風

当地でも、3日にわたって、吹き荒れる風の音が怖いほどであった。

マンション暮らしでガーデニングもしない私など

マア… すごい風の音!

そんなもんだが、ホンマさんちでは違った。

お父様丹誠の畑があるのである。

家庭菜園と呼ぶには規模の大きい畑に、ずらりと植えられた、うすいえんどう

これからまだまだ新しく実をつけるはずだったのに、根こそぎ倒されてしまったのである。

しかたがないから 今ついてる実は 全部もぎってきたの…

だからもらってね、と言われれば、否やは無い。ズシリと重いビニール袋を、手提げに入れた。

新しいうち 豆ごはんにしてね

言われたものの、さーて、どうしようか。

ほとんど好き嫌いの無い私の、唯一苦手なもの、それがグリーンピース(→ぴーすの話。)。

まめごはん

子供の頃、豆ごはんが出ると本当に憂鬱だった。

今日5月4日は、うすいえんどうの日



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ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2021/05/04 11:30

がいとう話。

大型連休も半ば。

必死の呼びかけにも関わらず、人出は減らないようで、わが街にも観光客がやってくる。

人口当たりの感染者では全国3位、東京より多いというのに、物好きなみなさんだ。

ニュースは今日も、街を歩く人々を映し

がいとういんたびゅー

意外に人が多いので ビックリしました!

変異ウィルスが怖いので さっさと帰ります!


くちぐちに答えるのを見ては、ヘンな感じがしていた。

インタビューを受けているのは、みな外を歩いている人である。

不要不急か否かを問わず、要するに、このご時世だけど、お出かけしましょと決めて家を出てきた人だけが、話を聞かれているわけだ。

自粛の呼びかけに応じて、家を出ず、自宅警備にあたる人の意見は誰にも聞かれないのである。

これでは偏向の誹りを免れまい。

ほんらい街頭インタビューは、さまざまな層の、さまざまな意見が聞けるから意味がある。

あなたは犬派?それとも猫派?

納豆に何を混ぜますか?


そんな質問ならともかく、すでに外に出ている人にだけ、外出の是非を尋ねるのはおかしい。

試合日の甲子園球場の前で、阪神ファンですか?と聞くくらい、意味がないと思う。

そんなことを考える私は、もちろん家にいる。

さあ、誰か意見を聞きに来てくれ給え。

ピンポンされても、出ないけど。



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てれびじょん | コメント(10) | トラックバック(0) | 2021/05/03 11:30

ぴあすの話。

ハデ好きなのでアクセサリーも大きい。

ネックレス、ブローチ、ペンダント…安物でいいから、デカくて色のきれいなのが好きだ。

困るのが、イヤリング

なにしろ今、耳にかけるといえば、何はなくともマスクである。

デカいイヤリングは、マスクのかけ外しの度に、落っことしそうになるのだ。

そのせいかこの1年で、もう3個無くしている。

ピアスにすれば?ラクよォ

そう言うイシザキさんは、50歳になった記念にピアスを開けた、カッコいい先輩である。

たしかにこのごろは、アクセサリーショップに行っても、いいなと思うのはほとんどピアスだ。

金具の交換もできるが、ピアスでデザインされたものを、はさむイヤリングに換えても、イマイチパッとしない。

ピアスですか…うーん…

つい渋るのは、生来のコワガリのせいもあるが

福耳なんですよね私…

そう言って髪をかき上げて見せると

福耳?あ、ホントだね でもそれがなんで…

イシザキさんは、わけが分からないという表情をした。

ミミタブが分厚いと 貫通する距離が人より長いんじゃないかと… どう思います?

うーん、どうかなあ… 

マジメに答えてくれる彼女のミミタブは、桜貝のように薄くて、なんだかうらやましい。

みみ33



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もろもろ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2021/05/02 10:40
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