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カバカバ本。

2年というもの、旅行らしい旅行をしていない。

もともとインドア派で、出かけないのはそう苦にならないが、県境はおろか、市境も越えない生活が、息苦しくなってきたのだろうか。

ふと気づけば旅行記のたぐいを手にしている。

感動の絶景や、立派なテーマなど要らない。

フラリと思い立って出かける、目的らしい目的もない、はかない旅に惹かれる。

先日手にしたのがこの本。

かばにあう

桜散るあなたも河馬になりなさい

カバの連作で知られる俳人が、全国で飼育されているカバを、訪ね歩いた記録である。

カバが好きだから、カバを見に行くという、単純な目的がいい。

飼育員に怪しまれながら、檻の前で1時間もカバを見つめるという、孤独なバカバカしさもいい。

孫もいるいいオジサンがひとり、カバを見つめる図がなんとも味わい深く、楽しく読んでいたら

運転していたカミさんが…

ふいに奥さんが飛び出してきて、驚いた。

なーんだ、ひとりじゃないのか。

しかも、運転手させてんのか。

そう知って読むと、ちょくちょく一人称の「私」が「私たち」になっている。

筆者への関心が、しゅるしゅるとしぼむ。

奥さんがいいなら、別にいいんだけど、カバ見るくらいひとりで行きゃいいのに。

亭主の趣味に付き合わされる奥さんの感想も聞きたいが、そういうことは書いてないのであった。



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/08/31 11:30

がらがら話。

平日のショッピングモールは、予想より混んでいた。

人の少ないところを選んで歩き、なんとかトイレにたどり着く。

個室に入って、マスクをとって、呼気に蒸れた顔を冷ます、ホッとするひと時。

…ガラガラ…

隣の個室から、紙を引く音が聞こえる。

…ガラガラガラガラガラガラガラガラ…

なっげえな!

あたりをはばかることなく、延々と引き出される紙の音の、あまりの大きさに

もしかして私、紙の使用量少なすぎ?

逆に不安になりだしたとき、反対側の隣から

…クスッ…

思わずこぼれたらしい、笑い声が聞こえて、ちょっと安心した。

その声が聞こえたか、いったんは途絶えた音が

…ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ…

また鳴りはじめ、さっき以上に長く続いている。

もしかしたら、ただ用を足しただけでなく、大量の紙が必要になるような大変なことが、隣で起きているのだろうか。

どこかに通報すべきかと思ったけれど、どこにすればいいか分からない。迷いながらも自分の用を済ませて、個室を出た。

すくないぺーぱー
(きっとひと巻き使い切っていると思う)



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ごきんじょ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2021/08/30 11:30

くどくの話。

日曜朝のニュースショー。

画面では、コメンテーターが昨今の情勢について、雄弁に語っている。

終始大マジメに番組が進む中、なぜかテレビの前で薄笑いになるのは

クドクの人だ…

思い出してしまうからだ。

ゲスト席にご立派におさまりかえっているこの人が、まだ若かった頃。

それは10年余も昔になるだろうが、出始めたばかりのテレビで

…その クドクテンを…

口走ったのを聞いて、最初は何のことか、分からなかった。

口説く店?功徳天?

話題は何だったのか、覚えていないが、その後も2度3度と連呼されて、気がついた。

くとうてん

句読点のことなのだ。

たしかに、口に出して発音することは少ないかもしれない。それにしても、学校で習って、卒業して、それまで誰にも直されなかったのだろうか。

そう思うとちょっと貴重な気がする。

あれからずいぶん経つが、今のこの人は、この言葉をどう読むか、もう知ってるのかしら。

エラそうにしてると、周囲の人が間違いを指摘しにくいから

ここのクドクテン、どうするかな

あんがい間違ったままかもしれない。



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てれびじょん | コメント(10) | トラックバック(0) | 2021/08/29 11:30

うりいえ話。

最寄り駅に着いたときは、もう暗くなっていた。

昼は暑さ厳しいけれど、吹き渡る風はもう真夏のものではない。暗闇がヒンヤリ湿り気を含んで、虫の声がそこここに聞こえる。

飲みに行くことも無くなって、この時刻に出歩くのも久しぶりだ。

夜遊び気分で、家までの道を歩く。

街路樹が吐き出す夜気に混じって、どこからか、木の香が漂ってきた。

樹木ではない。木材の、それも古い材の匂いだ。

ああ、あそこかな…

なんとなく心当たりがあった。

初夏に泡立つように咲く、ツツジの垣のある家。

数年前まで住民がいたが、いつの間にかガレージに車が無くなった。

溜まったチラシがポストから覗くようになって、玄関先に雑草が生えはじめたと思ったら、売家の看板が貼り出された。

この辺りは開発から20年ほどが経ち、建替えや取壊しが目立つ。

新築のころは働き盛りだった住民も、高齢になって同じように暮らしていくのは難しいのだろう。

建替えになるのはまだいいほうだ。

スクラップアンドビルド、などというが、スクラップアンドそのままとなることも多い。

区画された住宅地に、歯抜けのように増えていく空き地。

あの豪奢なツツジの生垣はどうなっただろう。

見ないで済むなら見たくなくて、いつもは曲がらない角を、曲がった。

つつじのいえ



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ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/08/28 11:30

つらいよ話。

テレビっ子のわりに、サスペンスの再放送を除き、ドラマはほとんど見ない。

筋を追うのがめんどくさいのだ。

特にキライなのは、欠点のある主人公が、にもかかわらず、あるいはそれゆえに、周囲にむやみに愛される話である。

そういう人はだいたい、性懲りもなく同じ過ちを繰り返す。(→ろーらの話。

今日してしまった失敗を、明日に生かす。弱点を克服できないまでも、反省し、改善に努める。

人生って、生きるって、そういうことじゃないのか!

自分のことは棚に上げて、画面のこちら側で憤懣やるかたなき私である。

そんな主人公の典型が、この人。

ふーてんのとらじろう

チャンネル権が父にあった子供の頃、否も応もなく見せられたせいで、今もあまり好きではない。

いちばん気に食わないのは題名である。

「男はつらいよ」って、いったい何がつらいんだ。

そもそもが刻苦勉励、志望校に受かるとか、家族を養うとか、毎日会社に行くとか、つらいことを避けて逃げ出した人だろう。

逃げ出すのは悪いことじゃない。私自身、今までいろんなつらいことから逃げてきた。

だけど、彼みたいに逃げられたら、つらくはないじゃあないか。

主人公に振り回されるや、人生に疲れ、ひと時のささやかな安らぎを彼に求める、マドンナたちのほうが、よっぽどつらい。

つまり、正しくは「女はつらいよ」なのである。

今日は「男はつらいよ」の日

1969年の今日、映画「男はつらいよ」シリーズの第1作が公開された。



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てれびじょん | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/08/27 11:30

すいはん話。

ゲリラ豪雨の話をしていたときのこと

え?今 何てった?

調子よく話していたのに、急に聞き返された。

は?えー、あわてて炊飯器を って…

だからなんで 炊飯器と夕立に関係あるわけ?

あーごめんごめん うち、ベランダでゴハン炊いてんだよね

そうなのだ。

ご飯を炊くと、湯気が出る。

冬ならいいが、この季節、高温の蒸気が部屋に溜まるのはつらい。いったんこもった熱気を追い払うのは、またひと苦労なのだ。

だから 延長コードで ベランダに出してから スイッチ入れてんの

へえー

返事はあったものの、いっこうに感心しない、という顔である。

おかしな人だと思われただけらしい。

炊飯器を外に出すだけで、体感室温で3度は違うのだが、こうなった相手に言っても無駄である。

ねえ~聞いて聞いて!ぢょん子さんったらね…

うかつにも、彼女に、夕飯どきの話題を提供してしまったようである。

でんしすいはんき



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もろもろ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/08/26 11:30

めんくい話。

少しだけ暑さが引いた日のお昼。

お湯を沸かすのもイヤで、食べる気がしなかったインスタントラーメンを、久しぶりに作ろう。

バリバリと袋を開け、スープの小袋を取り出してから、鍋に麺を入れる。

煮えるまでの間に、冷蔵庫に首を突っ込み

何か入れるもん… ラーメンに入れるもん…

モヤシや焼豚はないけど、ハムとネギがあった。

収穫を手にコンロ前に戻ると、調理台に点々と、白いものが落ちている。

めんのかけら

麺のカケラだ。

鍋に入れる時、袋をさかさまにしたので、こぼれたらしい。

無意識につまんで、口に入れた。

粉と、塩と、うっすら揚げ油の味。

ちょっとマズいものが好きな私は、こういうのも平気である。安いラーメンだと、茹でる前の乾麺のほうが好きかもしれない。

かといって、1袋全部、茹でないままで食べたら、きっとイヤになるだろう。

たまたまポロッとこぼれたのを、ポリッと食べるくらいが、ちょうどいい。

そういうことって他にもあるよな、と思ったけれど、それが何なのかは思いつかなかった。

鍋の中では、こぼれなかった麺が煮えている。

今日は即席ラーメン記念日



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もろもろ | コメント(10) | トラックバック(0) | 2021/08/25 11:30

せんてい話。

髪が伸びて、ボウボウになってきた。

カチューシャで上げたり、ゴムで結わいたりしてきたが、もはやごまかしきれない。

感染者が過去最高を更新する中、気が進まないが、いよいよ切らねばならないようだ。

最小限の移動と時間で済ませるため、いつぞやのカット専門店(→かっとの話。)に行こう。

清潔で広い店内、券売機で支払を済ませ、キッチリ仕切られたブースに入れば、世間話もなく仕事に入る美容師さん。

以前なら味気なく感じたことが、今は安心感になる。

あっという間にカットが終わり、シャンプー代わりの掃除機で吸われて、店を出た。

軽くなった後頭部を撫でながら、ウインドウに映るわが姿を見れば、イマイチなような気もするが、なにしろ千円だから、文句は言えない。

美容師さんの当たりはずれもある。

若い頃は、美容院のあと、ためつすがめつ、鏡で出来栄えを確かめた。納得できなくて翌日、別の美容院に行ったこともあった。

このトシになると、そんな情熱も失せて、少々の不出来にはビクともしない。

髪なんてどうせ1カ月で元の木阿弥なのだ。

伸びた分が無くなって、サッパリしてれば大満足のOK牧場である。

これはアレだな、植木の剪定だな。

人生は、どんどん簡単になっていく。

ぱぱはうえきやさん
(誰でもいいとはいえこういう人はやはり困る)



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もろもろ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2021/08/24 11:30

おくらの話。

朝のワイドショー、人気の漫才師が、旬の野菜料理を紹介するコーナーの

オクラやないか!

…そしたらオクラやないかあ…


今日の野菜はオクラ。

そういえば、今年はオクラを食べていない

安いし、栄養はあるし、調理は簡単だし、私のために生えているような野菜なのに、すっかり存在を忘れていた。

忘れた理由は、おばーちゃんが去年まで、庭に植えていたからではないか、と思う。

植えたことがある方はご存知だろうが、オクラの花は大変きれいである。

おくらのはな

クリーム色の芙蓉のような、はかなげな花が咲いて、そのうえ実が食べられるというお得感からか、実家では毎夏、オクラが栽培されていた。

しかし、やはり植えたことのある方はご存知であろうが、オクラの実の成長は大変速い。

花が散ったと思ったら、あっという間に見慣れた形になり、うっかりすると食べるには大きすぎ、固すぎる巨大なオクラが出来上がる。

そのため、オクラの実が生りはじめると、老母はアタフタしていた。

3日にあげず収穫に追われ、食べきれぬオクラの行き先に悩み、ついに

今年はやめとくわ もうシンドイから

という仕儀に相成った。

もらって食べるだけだったから、オクラを買う習慣が無い。そのせいで、食べていなかったのだ。

たぶん母は、来年もオクラを植えないだろう。

そろそろ自分でお金を出して、オクラを買うようにしなければならない。

手始めに今日、スーパーに行ってみるか。



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ごかぞく | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/08/23 11:30

メイジン本。

歴史の本を読んでいると、時代を担った人たちの若さに驚く。

もとより、30代で国を変えた維新の英傑に、自分をなぞらえるつもりはないが、若いなあ!と、感慨を覚えることはたまにある。

はじめてそれを感じたのは、日曜洋画劇場で見た「ロミオとジュリエット」。

ジュリエットを演じた女優が、当時15歳だと知った時、何とも言えない気持ちになった。

あの感情は何だったんだろう。

ハリウッド女優と田舎の高校生じゃ、およそかけ離れていて、嫉妬もないし、羨望とも違う。

あるいは、自分はまだ何者でもない、という焦燥だろうか。

30年以上経つけれど、あの気持ちは鮮やかに覚えていて、思い出すたびあの日の自分を、ぎゅっと抱きしめてやりたくなる。

それに似た気持を感じたのが、かつて愛読した、この本。

ちちのわびじょう
(「父の詫び状」 文春文庫)

ここでの記事に他の著書を紹介した(→ 「すぐみた話。」 )こともある。

学生のころ、この著者の一連のエッセイを、熱心に読んだものだ。

無駄のない文章、鮮やかな結末、まさに「突然現れてほとんど名人」である。

しかし、どんなエピソードにもオチがつく巧みさや、窮屈すぎるほどの美意識が鼻につくようになり、少しく離れている間に、あの事故が起きた。

誤解を恐れずに言うが、なるほど、と思った。

巧すぎる文章には、早い結末がふさわしい。痛ましい事故だが、いったんそうなると、他に彼女の退場のしかたはなかったように思えてしまう。

彼女が亡くなったのは、40年前の今日。51歳だった。

自分が、その年齢を越えてしまったことに、ある感慨がある。

そして、それが何の感情なのか、この年になってもまだ、うまく説明はできないのだ。

むこうだくにこ
向田 邦子(1929年11月28日 - 1981年8月22日)



著者没後40年に際し、2015年8月22日の記事に加筆再掲載いたします。



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ブックガイド | コメント(4) | トラックバック(0) | 2021/08/22 11:30
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