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ノハナシ本。

ブログをつけていることは、隠しているわけではないけれど、周囲にはあまり話していない。

なかでもネタの宝庫おばーちゃんには、絶対に秘密である。

先日、ひょんなことで、知人にブログの存在を知られた。さっそく読んだらしく、2、3の感想をくれたあと

あのタイトルはアレ?イジューイン?

は?

教えてくれたその本はコレ

のはなし
(「のはなし」伊集院光著 宝島社刊)

「○○」の話と題する挿話を、五十音順に並べたエッセイ集だ。

私が毎回のタイトルを「○○○○話。」としたのは、毎日書くなら、何かひとつ制限があるほうが書きやすいだろう、と思っただけである。

なんとなく親近感をおぼえて、読んでみた。

立川談志に会ったエピソードがいい。

噺家だった著者は、談志の噺に衝撃を受け、自分はとてもこうはなれない、と思い知らされて落語を辞めた。

ラジオ番組で人気を得たのち、ゲストに迎える機会があって、興奮気味にその旨を伝えたところ

上手い理屈が見つかったじゃねえか

ズバリと返されたというのだ。

人は新しく動き出すとき、つい誰かのおかげで、とか、誰かのせいで、と言いたくなる。

もちろん、他人の言動が、きっかけとなり、判断の材料になることもあるだろう。しかし、本当の本当の理由は、自分の中にしかないのである。

この話だけじゃなく、短い文章のどれもにちゃんと落ちがあって、面白い本だった。

そりゃそうだ、噺家からラジオパーソナリティーになった、いわば言葉のプロだ。

こんな本に倣ったと思われちゃマズい、ひじょーにマズい。某さんには、力を込めて否定しておきたい。

本日、落ちナシ!



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2022/07/21 11:30

40ねん話。

高校時代の美術の先生の個展がある、と同級生に聞いた。退職後に創作に専念され、専業の画家になっておられるらしい。

ずいぶんと長くお会いしないし、このところ仕事以外に出かけていないので、見に行きたい。

場所は、オフィス街の大通りを1本入ったビルの中の画廊。

まちのがろう

古いビルディングを改装してオシャレな店舗にした、こういう物件が多い地区だ。

木の手すりを頼りに、うす暗く急な階段をのぼれば、ドアを開放した明るい一角。

イーゼルに載せたカンバスに、センセイのお名前が書かれている。

外観に不似合いな、眩しいライティングに目を細めつつ足を踏み入れると、狭いスペースに小太りのオジサンが2人、窮屈に立っていた。

1人は画廊の主、もう1人がセンセイだ。

センセイ ご無沙汰しております… 

ご挨拶すると、センセイは記入したばかりの芳名帳に目をやって

おお、おお…

懐かしげに名前を呼んでくださった。

まずはひと回り、作品を拝見する。

会場の明るさはライトのせいだけではなく、多用された明るい原色のためでもあった。

記憶にあるセンセイの作風は、寒村や漁港を、黒や土色の絵具を使い、荒いタッチで厚塗りした、暗い絵だったから、驚いた、と言うと

ワシもいろいろ 思うところはあって…

パサパサの髪、黒縁のメガネ、ちっともお変わりにならないセンセイを見ていると、若かりし日のあれこれが思い出されて、懐かしい。

しかし、どうやらセンセイのほうは、私の名前しか覚えてらっしゃらないようだ。話しているうちに、話の端々から、うすうす感じる。

卒業以来、じつに40年

センセイの画風はがらりと変わり、女子高生だった私も、いまや還暦近いオバハンである。

なにかシミジミして、帰り道はゆっくり歩いた。



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むかしむかし | コメント(4) | トラックバック(0) | 2022/07/20 11:30

もどかし話。

夏場、なにかと使うもみ海苔

ありあけさんのりのたちおとし

たくさん買うと使い切る前に湿気てしまうので、これくらいの小さな缶がちょうどいい。

おひるのお蕎麦にパラパラかけて使い終わり、空き缶をゴミ箱に入れようと思ったら

もみのりのかんのそこ

アラ?まだ残ってる

缶を逆さに振っても、出てこない。

よく見ると、缶の胴と底のつなぎ目に、はさまっているようだ。

缶ビールほどの細い缶で、手が入らない。ならばと箸を突っ込んでみたが、薄い海苔だから、箸でしっかりつかんで引っ張れない。

うーむ…

1センチやそこらの破片ならともかく、6~7センチはたっぷりある、立派な海苔である。

なにしろ私はケチなので、食物がそのままゴミになるのは、どうにも我慢できないのである。

悪戦苦闘、隔靴掻痒、試行錯誤の数分が経過。

💡!

やにわに立ち上がり、道具箱をガサガサ探して、手にしたはピンセット

さっきまでの苦労がウソのように、あっさり取れた。

あらゆる精密作業に

ピンセットのケースに書いてある文字に

あらゆるにもほどがあるな…

フフフと笑って、海苔の欠片を口の中に入れたら、ほんのりと磯の香がした。



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もろもろ | コメント(9) | トラックバック(0) | 2022/07/19 11:30

せみとり話。

…じゃんじゃんじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん…

連休最終日、セミの声で目覚めた。

今年は少なそう、という根拠のない希望的観測を裏切り、いきなりの爆鳴きである。

雨が続いて気温は低めなのに、耳が暑い。

昼の暑さが思いやられて、ウンザリしながら身支度をし、バスに乗った。

冷房の風にホッとして、座席に身を委ねる。

…つぎ とまります…

車内アナウンスのあと停まったバス停で、60代くらいの女性が乗ってきた。ぴったり身に合ったアイボリーのスーツを着た、オシャレな人だ。

真っ白なレースのブラウスの胸元には

!!!

でかいクマゼミがとまっているではないか。

セミの1匹や2匹に悲鳴を上げる私ではないが、車内では話が別だ。

驚いたセミが、耳をつんざく声を上げつつ、ガラス窓にぶち当たっては、四方八方に飛び回る状況を考えたら、総身がこわばる。

虫が苦手な人なら、ショックで半狂乱になりかねない。ひどいことになる前に、捕まえてあげようかと、あらためて女性の胸元に目をやると

…なあんだ…

それは、光るガラスの羽の黒い鳥が2羽、頭を寄せる姿を模した、素敵なブローチだった。

とりのぶろーち
(似た感じのをネットで検索しました)

大きさといい、白と黒の配色といい、クマゼミにソックリだ。

失礼! 動かないで!

あっけにとられた女性からブローチをむしり取る自分を想像したら、プルプルと震えが来た。



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ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2022/07/18 11:30

ぎおんの話。

テレビを点けたら、浴衣姿のレポーターがマイク片手にそぞろ歩いている。

ああ、今年はあるんだ。

疫病退散を祈る、京都八坂神社の祇園祭。3年ぶりに山鉾巡行が行われるようだ。

疫病退散なら、休まないでやんなきゃダメじゃん、などと、見に行く気がない私がとやかく言うべきことではない。

若いころ京都で過ごし、今も私鉄で1時間かからない場所に住みながら、このお祭りにはさっぱり縁がない(→よいやま話。)。

大学に入ってすぐのころ、宵山だったか、宵々山だったか、1度見に行ったきりだ。

豪奢な山や鉾を巡り、老舗や旧家がとっておきの調度を飾る店先を、物珍しく眺めて

たいした持物自慢だなァ

感心して、それっきりである。

それより何より、蒸し暑さと人出の多さに疲れ

1回見りゃいいや…

思ってしまって、今日に至る。

そういえば、ムスメもムスコも、今はうちよりも、もっと近い場所に住んでいる。

別件で連絡してきたムスコに

そういえばアンタ見に行ったことあんの?

何の気なしに聞いてみたら

無い 予定も無い

にべもない返事であった。

ムスメにも聞いてみようかな、と思ったけれど、やめておこう。

あの子は浴衣が着られるはずだから 素敵な人と行ってるといいな

自分のことは棚に上げて、ムシのいい母親だ。

扇風機の涼しい風に当たりつつ眺める画面では、ぞろぞろと行列が始まっている。

ぎおんまつり



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2022/07/17 11:30

よばれる話。

土曜の朝はチコちゃん。

ちこちゃんにしかられる

先生をつい、お母さんと呼んでしまうのはどうして?

ハハハ…あるある。

クラスメイトが元気よく手を上げて

ハイハイハイ おかーさん!

ひときわ大声で言ってしまい、みんなに笑われて顔を赤くしていたことなど思い出す。

そういえば、昔はよく、母に

クミコ!…あ、ちがった、ぢょん子!

叔母の名前で呼ばれた。

当時は、成人のおばちゃんと、子供の自分を間違えるなんて、なんでだろうと不思議だった。

顔だってぜんぜん似ていない。

いま自分が母親になってみると、うちにいる小さい子を、かつて周りをウロウロしていた妹の名で呼んでしまうのは、わりに自然なことに思える。

末っ子のクミコおばちゃんは、私が子供のころはまだ大学生で、祖父母の家にいた。

本を読ませてくれたり、レコードをかけてくれたり、遊びに行くとかまってもらって、楽しかった思い出ばかりだ。

しかしその後、いろいろと事情があって、おばちゃんは身内との連絡を絶ってしまった。

悲しいかな、去る者は日日に疎し。

クミコおばちゃんが、家族の話題に上らなくなり、長い年月が経つ。

先生をお母さんと呼んでしまうのは 心の辞書で 隣に並んでいるから~!

つまり、世話をしてくれる親しい大人という点で、母親と先生の存在が似ているので、混同が生まれるのだという。

母の心の辞書に、叔母はもういないのだろうか。

私と呼び違えることも、すっかりなくなった。



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てれびじょん | コメント(15) | トラックバック(0) | 2022/07/16 11:30

ゆでたま話。

たまご

週1度の生協の配達で、玉子が1パック届く。

10個を使い切らずに次が来た時には、残ってるのをまとめて茹でる。

茹で玉子にはいろんな使い道があるし、ちょっと時間の経った玉子のほうが剥きやすいからだ。

朝、冷蔵庫を覗くと、今日もいくつか玉子が残っていた。

しかし、私の朝は忙しい。

水を張った鍋に玉子を入れて火にかけたら、バタバタと他へ行ってしまう。

ある日は洗濯物を干し、ある日はタオルを交換してと、することがたくさんあるのである。

ひとしきり立ち働いたあとで台所に戻ると、鍋はグラグラと煮立っていて

あっちっち~

お湯を捨て、水道の水を注いで冷まし、さっそく1個にひびを入れ、ぺりぺりと剥く。

さーてどうかな 固茹でかな~

タイマーをセットしていないので、剥いてみるまでわからない。

お、ラッキー半熟!

白身はしっかりと、黄身が透明感あるオレンジに固まりはじめた、好みの茹で加減だ。

いつもうまくいくとは限らない。硫黄のにおう、カッチカチの固ゆでになることも、剥けないほどデロンデロンのこともある。

ちゃんと計って作れば、と10人が10人が思うだろうけれど、ギャンブルも宝くじもやらない私の、これはちょっとした楽しみなのだ。

ゴキゲンで冷蔵庫を開けたら

♪ゆでたまごつく~ろ~♪

聞いたことのあるメロディーが、替え歌になってこぼれた。

季節感ゼロだけど、雪だるまも、茹で玉子も、白くて丸いもの同士、まあいっか。

残りの茹で玉子をしまって、ドアを閉める。



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もろもろ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2022/07/15 11:30

なつかし話。

タオルにパジャマに食器、腐らない日用品に関して、私に選択の余地はない。

老母が長年、ノホーズに買い集めた在庫を、四の五の言わず順々に使う。それが彼女の娘に生まれついた運命なのである。

先日、友だちにキューリをもらったから分けてやる、というので

いつも野菜だけくれるんなら ありがたいのに

内心は押し隠して、出て行った。

待合せのバス停で、見慣れた小柄な姿に近づく。

あら~ 懐かしい…

会うのはちょっと久しぶりだが、懐かしがられるほどではないはず、と首をひねると

その日傘 懐かしいわ~

何年か前、買ったばかりのお気に入りを失くして以来、使っていたおばーちゃんのお下がりの日傘だった(→なくした話。)。

そう言うご本人は、いつ買ったのか、またしても見慣れない日傘を小脇に抱えている。

プッ…ツン

コメカミのあたり、何かがブチ切れる音が、確かに聞こえた。

うわの空で、キューリの他にも、コマゴマ頼まないものが入った紙袋を受け取って、最寄の喫茶店でアイスコーヒーを飲んだあと、うちに帰った。

着替えもせずにパソコンを開けて、以前から

いいなあ 素敵だなあ でも高いなあ

思っていた日傘を、ポチリと購入する。

お下がりの日傘なんか、すぐブン投げてやろう。ちょうど明日は、燃えないゴミの日だ。

ひがさをさす
Claude Monet (1840-1926)



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ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2022/07/14 11:30

こどくの話。

忙しい日々…ひとりになったとき…ふとした瞬間 コドクを感じることはありませんか…

点けっぱなしのテレビから、なにやら聞こえて

朝から湿っぽいなァ

呟いて、スイッチを切る。

ポットに麦茶を移していたら、洗濯機がとまったので、ベランダに干しに出る。

あっつ~い…

日差しに顔をしかめつつ、洗濯物を干しながら

そうだ!アレを試してみよう!

いいことを思いついた。

新しい日傘が、昨日届いたのである。ずっと母のお下がりだったので、久しぶりの新調だ。

タグを外して、ベランダに持って出た日傘を広げてみると

おおお…!

99%遮光素材が作る、真っ暗な日陰。

さすが、新製品の機能は素晴らしいと、満足して部屋に戻れば

おっと 体操体操…

日課のテレビ体操の時間だ。さっき消したテレビを、急いで点ける。

画面の先生の指示通りに、大真面目に手を振り、身体を曲げていると

オヤ…

床に落ちた小さな欠片が目に付いてつまみ上げた。さっき掃除機をかけたばかりなのに

これ、何だろう?

ゴミの正体に、ひとり首をひねる。

今日も予定では、誰とも口を利かない。コドクっちゃコドクだけれども、私の毎日はやかましい。

わりに仕合せな孤独やな

殿山泰司が、誰だかの小説を読んで、もらしていた感想を思い出したりする。

とのやまたいじのしゃべくり105にち



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てれびじょん | コメント(4) | トラックバック(0) | 2022/07/13 11:30

つみきの話。

朝、今年初めてのセミの声を聴いた。

例年より遅い気がするのは、梅雨開けが早かったせいだろう。

夏といえばセミが鳴くものと思っているが、そういえば鳴かない夏もあった、と、ふと思い出す。

海外赴任が決まったとき、まだ幼稚園にも上がっていなかったムスメに

日本語を忘れないようにね

教育ババの義母がくれた餞別は、昔ながらのあいうえおの積木だった。

祖母の思いをよそに、不熱心な母親が教えないものだから、ひらがなはちっとも覚えなかったが、積木じたいは気に入ってよく遊んだと思う。

地域の育児グループで仲良くなったニッキーが、ある日子供連れで遊びに来た。

ムスメと同い年のアレックスが、暖炉の前に出しっぱなしの積木に、さっそく興味を示す。

謎の記号を書いた木の板をひっくり返すと、色とりどりの絵があるのがお気に召したようだ。

あひる… さかな… りんご…

描かれたものの名前を、元気よく言っていたが

まま~ これなに?

差し上げて見せたのは、の字の積木だった。

ひらがなつみき

うーん… ハエかしら?

ニッキーの答えに、そうだ、そういえばここにはセミがいない、とはじめて気づいた。

ねえぢょん子、これ何?虫よね?

聞かれてたちまち困る。

まず、英語の名前がわからない。指で大きさを示したり、夏の虫で…木にとまって…おっきな声で鳴いて…しどろもどろで説明すると

大きな声?鳴くの?!

あんがいな勢いで驚かれた。

今ならスマホで動画を出して、難なく済むところだ。こんな小さなエピソードにも、ずいぶん長い時の流れを感じたりする。



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むかしむかし | コメント(13) | トラックバック(0) | 2022/07/12 11:30
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