いもほり話。
どろんこの長靴をはき、重そうなビニール袋を提げた母子とすれ違った。
幼稚園のイモ掘りの帰りらしい。
ハロウィンやらクリスマスやらに混じって、素朴な行事が生き残っているのは、嬉しいことだ。
ムスコの幼稚園では、親同伴のイモ掘り遠足があった。
バスで郊外まで。丹精された農家の畑のフカフカの土からは、立派なお芋が、面白いほどゴロゴロ出てくる。
ムスコは夢中で土を掘り、お友だちとお芋の大きさを競って、笑った。
どろんこの手だけを洗って、畑の畔に並んでお弁当を食べ、収穫したお芋は山分けにする。一日の終わりには、みんなすっかり満足した。
幼稚園の前でバスを降りて、解散。今日見た親子のように、お芋の袋をぶら下げ、歩いて帰るのだ。
ところが、家までの道のりの、ちょうど真ん中あたりで、ムスコが
おなかイタイ…
と言い出した。周囲は住宅街で、ご不浄を借りられそうなお店などもない。
顔をしかめ、お腹を押さえるムスコを励まし励まし、しばらく歩くと、町工場らしいうちの前に出た。
仕事は終わっているようだが、薄暗い中を覗いたら、ちょうどホウキでお掃除中のおばさんと目が合ったので、ダメもとで
すみません… 子供が、おなか痛くしちゃって…
と言ってみたところ、前掛けをしたおばさんは気安く
あー、お便所ね!いいよ、こっちこっち!
手招きしてムスコを奥に連れて行ってくれた。
掃除途中の、誰もいない工場の床には、木っ端や鋸屑が落ちていて、新しい木の香がする。
しばらくして、すっかりサッパリしたムスコが、おばさんに連れられて戻ってきた。
ありがとうございました!ほら、アリガトウは?
…あーりーがーとー!
いーのいーの! 間に合ってよかったねボク!
お店なら、お礼も兼ねて何か買って帰るのだが、工場じゃそうもいかないな、と思ったら、手に提げていたものに気付いた。
あの!今日おイモ掘りだったんです よろしかったら…
袋に手を突っ込んで、手に触れた一つをひっぱりだす。
アラアラ… ボク、せっかく掘ったんでしょ… ワルいわ…
いいえ、いっぱいありますから… ほら、おばちゃんにハイドーゾして
…どーぞ!
アラアラ… それはどうもありがとう…
ムスコの手からおばちゃんが受け取ってくれたそれは、どうやら一番大きな、形のいいお芋だった。
大きなお芋をあげてしまって、ムスコは残念がるかと思ったが、むしろ誇らしげに、嬉しそうである。
おばちゃんに おイモあげたねえ…
よかったねえ…
おばちゃん、アリガトウいってたねえ…
うれしそうだったねえ…
道みち何度も、ふたり確かめるように言いあいながら、家に帰った。

(掘ったお芋はすぐ食べないで、しばらく干すと甘くなる)

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幼稚園のイモ掘りの帰りらしい。
ハロウィンやらクリスマスやらに混じって、素朴な行事が生き残っているのは、嬉しいことだ。
ムスコの幼稚園では、親同伴のイモ掘り遠足があった。
バスで郊外まで。丹精された農家の畑のフカフカの土からは、立派なお芋が、面白いほどゴロゴロ出てくる。
ムスコは夢中で土を掘り、お友だちとお芋の大きさを競って、笑った。
どろんこの手だけを洗って、畑の畔に並んでお弁当を食べ、収穫したお芋は山分けにする。一日の終わりには、みんなすっかり満足した。
幼稚園の前でバスを降りて、解散。今日見た親子のように、お芋の袋をぶら下げ、歩いて帰るのだ。
ところが、家までの道のりの、ちょうど真ん中あたりで、ムスコが
おなかイタイ…
と言い出した。周囲は住宅街で、ご不浄を借りられそうなお店などもない。
顔をしかめ、お腹を押さえるムスコを励まし励まし、しばらく歩くと、町工場らしいうちの前に出た。
仕事は終わっているようだが、薄暗い中を覗いたら、ちょうどホウキでお掃除中のおばさんと目が合ったので、ダメもとで
すみません… 子供が、おなか痛くしちゃって…
と言ってみたところ、前掛けをしたおばさんは気安く
あー、お便所ね!いいよ、こっちこっち!
手招きしてムスコを奥に連れて行ってくれた。
掃除途中の、誰もいない工場の床には、木っ端や鋸屑が落ちていて、新しい木の香がする。
しばらくして、すっかりサッパリしたムスコが、おばさんに連れられて戻ってきた。
ありがとうございました!ほら、アリガトウは?
…あーりーがーとー!
いーのいーの! 間に合ってよかったねボク!
お店なら、お礼も兼ねて何か買って帰るのだが、工場じゃそうもいかないな、と思ったら、手に提げていたものに気付いた。
あの!今日おイモ掘りだったんです よろしかったら…
袋に手を突っ込んで、手に触れた一つをひっぱりだす。
アラアラ… ボク、せっかく掘ったんでしょ… ワルいわ…
いいえ、いっぱいありますから… ほら、おばちゃんにハイドーゾして
…どーぞ!
アラアラ… それはどうもありがとう…
ムスコの手からおばちゃんが受け取ってくれたそれは、どうやら一番大きな、形のいいお芋だった。
大きなお芋をあげてしまって、ムスコは残念がるかと思ったが、むしろ誇らしげに、嬉しそうである。
おばちゃんに おイモあげたねえ…
よかったねえ…
おばちゃん、アリガトウいってたねえ…
うれしそうだったねえ…
道みち何度も、ふたり確かめるように言いあいながら、家に帰った。

(掘ったお芋はすぐ食べないで、しばらく干すと甘くなる)

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ココロがほっこりしました。
優しい息子さんでよかったですね。
「自慢の息子」さんなのでしょうね。
幼稚園の芋ほりの思い出ですか~
その息子さんも来春は受験ですね。
子供の成長はあというまですから。
当時はまだ育児に協力する気があったダンナ(元)が同伴してくれたっけ。
掘ったイモを前にして畑の黒い土の上にどっかり座り、楽しそうに笑っているムスコとダンナの写真がまだどこかに残っているはず。背景は秋の澄んだ青空…。
あれから何年が経ったのだろう、と考えて、
私、気付いてしまいました。
(今まで気付かないのが変だろう、と言われれば、確かにそうなのですが…)
当時のダンナの年齢を、ムスコは既に超えていることに!
ちょっとショックでした(大汗)。
摩擦を減らす潤滑剤です。
一方通行は良くありません。
ですから、コンビニで何も買わずトイレだけ借用することはよくありません。
さすがぢょん でんばあ様とご子息。
15年ほど前は、のんびりしててかわいくて、自慢の息子だったのでございます。
今はそれを縦に引き延ばしたようにでかくなり、薄らひげの生えたデクノボーです。
本当に月日の経つのは早いものですね。
同じ丸い顔が今は私の頭の上にあります。
このイモ掘りに行った頃はちょうど別居騒動になってた時だなあ、と、私も思い出してました。
うちは40代で離婚してますので、Westwing様のショックにはまだ間がありそうですね。
でもきっと、あっという間なんだろうな~。
あのおばさんの立場になれば、よく見ず知らずの親子にお手洗いを貸してくださったと思います。
その後も通園で前を通り、時々お話する間柄になりました。少しだけどお礼しておいてよかった、と、あとあとずっと思ってました。