コソコソ本。
今でこそ誰はばかることなく、のべつ本を読んでいるが、昔はなかなか気を使うことも多かった。
私は、不活発で外遊びの嫌いな子供だった。
ガキが集まって、走ったり飛んだりして何が面白い、そんな生意気なガキであった。
しかし、母親族とは子供は風の子信仰に憑かれているものである。
寒くても暑くても、晴れていれば読みかけの本を取り上げられ、外で遊びなさい、と玄関を放り出される。
しかたなく外にいるものの、何をするわけでもない。電柱にもたれて、さっきまで読んでいた本の挿絵の一場面から、まだ読んでない先を想像したりして、時間をつぶす。
しばらくして母のガードが緩くなったころを見計らって家に忍び入り、こっそり本を取り戻して、オシイレに入る。今度こそ見つからないように、最後まで読むのだ。
夢中になっていると、背後からアヤシイ気配を感じる。振り向けば鬼の形相の母がいて、
そんな薄暗いところで!目が悪くなるでしょう!
また、こっぴどく叱られたものだ。
風の子信仰や視力低下恐怖の他にも、私を阻むものがあった。
それは、子供らしい本主義である。
学校の図書室で借りてきた本なら、母はちらりと見るだけで、すぐに無関心に目を背けた。
しかし街の古本屋の50円コーナーから、ワクワクするようなミステリーを掘り出してくると、
そんな大人の本、まだ早いわ
と眉をひそめ、いい顔をされない。
もっと子供らしい本を読みなさい!
とも言われた。でも、子供らしい本なんか、全然面白くないのである。
早く大人になって、好きな本を好きな時に好きなだけ読みたい!少女期の私の将来の希望といえば、ただそれだけであった。
今になってしみじみ思うが、大人に隠れてコソコソ読む本ほど、面白いものはない。
見つかったら叱られる、とドキドキしながら隠れて読む、半裸の美女や残虐な密室殺人、衒学的な名探偵の言辞の魅惑的なこと。
この本も、そんな風にコソコソ読んだ中の一冊である。

(「夜歩く」 ハヤカワミステリ文庫)
今日は作者カーの没後、40年らしい。

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私は、不活発で外遊びの嫌いな子供だった。
ガキが集まって、走ったり飛んだりして何が面白い、そんな生意気なガキであった。
しかし、母親族とは子供は風の子信仰に憑かれているものである。
寒くても暑くても、晴れていれば読みかけの本を取り上げられ、外で遊びなさい、と玄関を放り出される。
しかたなく外にいるものの、何をするわけでもない。電柱にもたれて、さっきまで読んでいた本の挿絵の一場面から、まだ読んでない先を想像したりして、時間をつぶす。
しばらくして母のガードが緩くなったころを見計らって家に忍び入り、こっそり本を取り戻して、オシイレに入る。今度こそ見つからないように、最後まで読むのだ。
夢中になっていると、背後からアヤシイ気配を感じる。振り向けば鬼の形相の母がいて、
そんな薄暗いところで!目が悪くなるでしょう!
また、こっぴどく叱られたものだ。
風の子信仰や視力低下恐怖の他にも、私を阻むものがあった。
それは、子供らしい本主義である。
学校の図書室で借りてきた本なら、母はちらりと見るだけで、すぐに無関心に目を背けた。
しかし街の古本屋の50円コーナーから、ワクワクするようなミステリーを掘り出してくると、
そんな大人の本、まだ早いわ
と眉をひそめ、いい顔をされない。
もっと子供らしい本を読みなさい!
とも言われた。でも、子供らしい本なんか、全然面白くないのである。
早く大人になって、好きな本を好きな時に好きなだけ読みたい!少女期の私の将来の希望といえば、ただそれだけであった。
今になってしみじみ思うが、大人に隠れてコソコソ読む本ほど、面白いものはない。
見つかったら叱られる、とドキドキしながら隠れて読む、半裸の美女や残虐な密室殺人、衒学的な名探偵の言辞の魅惑的なこと。
この本も、そんな風にコソコソ読んだ中の一冊である。

(「夜歩く」 ハヤカワミステリ文庫)
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私は子供の頃はまったく本を読まない子でした。
夜まで外で遊びまわっておりました。
中学生の頃、富田常男の「姿三四郎」を呼んで、本っておもしろいものだな~と気づき、それから読むようになりました。
古本屋さんの、10円、30円、50円の文庫本にはよくお世話になったものです。私も、ふと今、どこかの古本屋へ、文庫本をさがしにいきたくなりました。
小口が茶色くなって焼けたようなのを。
ドキドキ、ハラハラしますし。
母は本が好きでした。
で、私に見られたくない月刊雑誌を母はちゃぶ台の下にそーっと隠していましたが、丸見え。
脇が甘い。
では子供に見られたくない雑誌とは何か?
もちろんアダルト色の強い本でした。
外の世界と本の世界はもちろん別ですがどちらが好き、もしくは楽しいかは人によりますね。
そういう「私の一冊」との出会いは忘れられない良いものですね。
私の一冊は何だろう…?
私は10円20円ならキッタナイ本でも喜んで読みましたが、最近はああいう古本はいやがる人が多いらしいですね。
図書館の本も汚いといって、消毒機械を設けているところもあるそうです。
うちの母は育児中は実用書しか見てなかったですね。
婦人百科とか、婦人倶楽部とか。
あの時代、本が好きなお母様ってかっこいいです。