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にゃおんの話。

海外で借りた家は、家具付き物件だった。

家主が彼女の家に引っ越すので、要らない家を家財ごとまるまる貸すことにしたのだ。

ソファやテーブル、洗濯機に掃除機、カップやお皿、フォークにナイフ…。

呆れたことに、までついている。

家主のデイヴは

彼女がネコがキライなので隣にあげたんだ

と言うが、猫のほうでは、自分があげられたとはサラサラ思っていない。

裏庭に続く勝手口を開けると、当然のようにそこにいて、キッチンに入ってくる。

日本ではあまり見ない、中途半端な長毛種の黒猫を、マンガに出てくる猫にちなみ、ニャオンと命名した。

最初こそ戸惑ったものの、ニャオンはいたって気さくで手間のかからない猫だった。

しばらく様子見した後、食事と寝床はもらわれた隣家で、日中は見慣れない日本人がいる元の家のキッチンで過ごす、と決めたらしい。

毎朝、勝手口を開けると、足元をニャオンがすり抜けてくる。

不思議なことにキッチンから先には入ってこず、床のマットの上で身づくろいをすると、だらんと伸びて寝てしまう。

小さいムスメがさわったりなでたりしても、嫌がるでもなく、されるがままになっていた。

外に出たくなると、ドアの足元で、ニャーンとひと声だけ鳴く。

こちらが気づかないでいると、しばらく我慢してもう1度、ニャーンとだけ鳴く。

ドアを開けてやると、裏庭を散策する。園芸音痴の私が荒れ放題にしている庭について、ニャオンは批判的な意見を持っているようだった。

見回りが終わったら、離れた陽だまりにきちんと座り、私のしていることをじいっと見る。

ニャオンのお気に入りは、張り渡されたロープに干した洗濯物で、風にはたはたと揺れるシャツやタオルを、いつまでもいつまでも眺めていた。

今でも晴れた日に洗濯物を干していると、ニャオンを思い出す。

猫を飼いたいな、と思うのはそういう時である。

にゃおん
(本家・ニャオンは「動物のお医者さん」佐々木倫子)



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むかしむかし | コメント(7) | トラックバック(0) | 2017/03/28 11:40
コメント
この
猫と家と飼い主の三者の距離と関係に心を打たれました。
絶妙な均衡を保っております。

不干渉であり不侵害であり相互理解。
理想的な世界です。

世界はこうでなくっちゃ!
No title
こんにちは
猫付きの借家なんて聞いたことがありません。
でも猫、可愛いですよね。
私も子供の頃飼ってました。
No title
私も家具付きの家でしたが、さすがに猫までは付いていなかったわ(笑)
ところで、帰国するときニャオンはどうしたのですか?
次の借り手がやって来るまで外だけで生活??
ニャオンのその後が気になります。
No title
あ、すんません。
ちゃんと書いていらっしゃいましたね↓
> 食事と寝床はもらわれた隣家で

そうなると、次の借り手が入室を受け入れてくれたかが
気になってきました〜〜。知るすべもなし・・かしら。
Re: この
rockin'様

あまり飼いものをしたことがないせいか、昨今の、動物と人間を区別しない傾向にはちょっと抵抗を感じる私です。

あんな感じでまた猫と会えたらと思いますが、難しいでしょうねえ。
Re: No title
Carlos様

契約書にはコマゴマ什器の説明がしてありましたが、猫は書いてなかったです。

でもいてくれてうれしかったですよ。

Re: No title
さとちん様

ニャオンは隣の家では別の名前で呼ばれてご飯をもらってました。

お隣が旅行に行くときは、当然のようにうちに猫缶を置いていかれました。

家主はその後彼女と破局したらしいので、ニャオンと元サヤになったんじゃないでしょうか。

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