かぜふく話。
静かな朝、洗濯物を干そうとベランダに出る。
サッシを開けて、いつもの位置にサンダルが無いのでアッと思う間もなく、強風が吹きつける。
メデューサのように髪を乱しながら、吹っ飛んでいたサンダルを、ようよう拾い集めた。
こんなに風が強いのに、家の中にいると全然わからないのだ。
ぴゅーぴゅー ひゅーひゅー びゅーびゅー
風の音を表せと言われたら、そんな風に書く人がほとんどだろう。
都心に住んでいた時は、寝床の中でも
ああ、風の音がする… 今夜は風が強いなあ…
そんなことをよく思った。
ところが、今の家に越してきてからというもの、そういうことは絶えて無い。
風が吹かないわけじゃない。山の上をひらいて建った団地だから、むしろ吹きっさらしだ。
それなのにヒューともピューとも聞こえないのが、最初は不思議で仕方なかった。
その理由に気付いたのは、久しぶりにビル街に出た日である。
コートの裾がはためく程度の風が吹いて、しばらく聞かなかったヒューの音が、頭上で鳴った。
わかった!
ヒューと鳴るのは、張り渡された電線なのだ。
それがないから、いくら風が吹いても、ヒューともピューとも鳴らないのである。
風の音、と思っていたのは、電線の音だった。
電線がなくても、よく注意すれば、風の日だな、と分かることもある。
山で木の葉がざわざわと騒ぐからである。
それは、音とも言えない、気配のようなもの。
今日も春の風が吹き、山は騒ぐ。
何かがそこまで来ていることを感じて、洗濯物のカゴを抱えたまま、目を閉じた。

(風の歌か、あるいは電線の歌か)

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サッシを開けて、いつもの位置にサンダルが無いのでアッと思う間もなく、強風が吹きつける。
メデューサのように髪を乱しながら、吹っ飛んでいたサンダルを、ようよう拾い集めた。
こんなに風が強いのに、家の中にいると全然わからないのだ。
ぴゅーぴゅー ひゅーひゅー びゅーびゅー
風の音を表せと言われたら、そんな風に書く人がほとんどだろう。
都心に住んでいた時は、寝床の中でも
ああ、風の音がする… 今夜は風が強いなあ…
そんなことをよく思った。
ところが、今の家に越してきてからというもの、そういうことは絶えて無い。
風が吹かないわけじゃない。山の上をひらいて建った団地だから、むしろ吹きっさらしだ。
それなのにヒューともピューとも聞こえないのが、最初は不思議で仕方なかった。
その理由に気付いたのは、久しぶりにビル街に出た日である。
コートの裾がはためく程度の風が吹いて、しばらく聞かなかったヒューの音が、頭上で鳴った。
わかった!
ヒューと鳴るのは、張り渡された電線なのだ。
それがないから、いくら風が吹いても、ヒューともピューとも鳴らないのである。
風の音、と思っていたのは、電線の音だった。
電線がなくても、よく注意すれば、風の日だな、と分かることもある。
山で木の葉がざわざわと騒ぐからである。
それは、音とも言えない、気配のようなもの。
今日も春の風が吹き、山は騒ぐ。
何かがそこまで来ていることを感じて、洗濯物のカゴを抱えたまま、目を閉じた。

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我が家では、風が強い日はベランダの洗濯竿がうなり出します。
吹く方向にもよりますが・・・
カギ閉め忘れ警報音だと思ってます。
世代もあり、この時分はまだ新刊の出るごとに読んでいたんですよね。
今はすっかり手が出なくなりました。
ふとした思い付きを書き留めただけですが、そんなものでも深い考察に結び付くヒントになったようで、良かったです。
うちも風の強い日は物干しざおが気になりますので、夜のうちにおろしておくようにしています。
他の棟で、風にあおられた竿が窓を割ったというお話も聞きましたので。
以前仕事していたビルが、どこもかしこも閉めまわしても風の音がする不思議なビルでした。
安普請なのか、老朽化してるのか…。考えてみたら怖いですね。
それにザワザワという木々の摩擦音。
それに純粋な風のゴーっとゆー轟音。
心底、ビビリます。
枝葉のザワザワは風情があるとも言えますが、幹がすれるほどの強風は怖いですよね。
根源的な恐怖を感じます。