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キジンノ本。

畸人伝の類が好きである。

葛飾北斎、南方熊楠など、有名な変人も面白いが、市井に隠れ、名誉を求めず、わが信ずる道をただ歩んだ人の逸話は、ことのほか味わい深い。

性質上、あの人はあんなだったらしい、この人はこんなことをしたそうだ、というエピソードの聞き書きになるのはやむを得ない。

正直なとこホンマかいなと思うものも多い。

ある画家のエピソードとして挙げてあるものに、こんなのがあった。

とある田舎の馬方が、ちょっと酒屋で一杯ひっかける間、馬と客を店の前に待たせた。イイカゲンで外に出てみると、馬上の客もろとも、馬がいなくなっている。

慌てた馬方は方々駆けまわって探したが、見つからない。

せんかたなく家に戻ると、ヒヒンといななき声が聞こえ、行ってみると、馬が背中に客を乗せたまま、厩におさまっている。

馬方は驚いて、客に向かって事情を尋ねたところ、馬が歩き出したので、行くに任せたら、ここに着いた、とすましている。

既に日も暮れ、仕方なく馬方のあばら屋に投宿した客は、一夜の宿りの礼に、と、障子紙に見事な絵を描き残した。馬方はその障子紙を剥がし、今も秘蔵しているという。

面白い話だが、さてこれを誰が喧伝したか

登場人物は2人だけである。

目に一丁字無い馬方に、さしたる発信力があるとは思われない。かといって、画家自身が

あのさア、オレさア、こないだ馬乗ってさア…

と、誰かにトクトクとエピソードを語ったとすると、これは艶消しもいいところだ。

同じ画家のエピソードではこんなのもある。

家じゅう反故を描き散らして、寝ていた画家のところに泥棒が入った。なにがしか盗み取って立ち去ろうとした泥棒を、画家は呼び止め

おいおい、金ならここにもあるよ オレはこの反故があればそれでいいから…

と、文字通り、盗人に追い銭をしてやった、というのである。

金銭に恬淡とした人柄を表す逸話として紹介されているのだが、まさか泥棒が言いふらすとも思えないし、

うちさア、こないだ泥棒が来てさア…

と、画家本人が語ったとすると、これまた大変に残念なのである。

しんばしのたぬきせんせい
(「増補 新橋の狸先生」 森銑三著 岩波文庫)



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2018/03/16 11:44
コメント
No title
講釈師見てきたような嘘をつき・・みたいに誰かが面白可笑しく語ったのが残ったんでしょうかね~
登場人物は2人
そうか?
そう言い切れるか?
誰かが盗み聞きしたのかもしれません。
その盗み聞きした者が稀代のおしゃべり人間だとしたら。
あ、これまた艶消しもいいところか。


No title
落語ネタのようですね。
面白そうな本。
これ探そう。

そういえば、古澤巌という天才バイオリニスト。
変人でも知られていて、
弦楽合奏の練習を終わった生徒さんに、
讃岐饂飩をプレゼントしたそうだ。
なんと饂飩を入れていたのはズボンの中。
十二玉も入れていたという。
どう考えても下腹部の様子が異様だったろうに・・・
眉唾の話かと思ったら伝説的な実話だという。
Re: No title
Carlos様

多分にその気味はあると思います。

それだから面白くなるんでしょうね。
Re: 登場人物は2人
rockin'様

もしかして…

馬が?
Re: No title
NANTEI様

古澤さん、今期のイタリア語講座に出てらして、イタリア人にも負けないオシャレなオヤジ、と思ってたので、意外です!

テレビではぴっちりしたズボンでしたよ。あれでは1玉も入らないでしょう。


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