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しかくい話。

今もふと浮かぶ、奇妙な記憶

祖父母の家は、裏手が山になっていた。

風呂は五右衛門風呂を改装したタイル張り。洗い場は広々として、湯気がこもらない作りで、冬は寒いが、夏はせいせいして気持ちが良い。

脱衣場で身体を拭いていると、山側の窓によくヤモリがへばりついていて、すりガラスを通して、指先の小さな吸盤まで、しげしげと眺めたものだ。

奇妙なのはそこからである。

ヤモリ観察に飽きて振り返れば、そこにはやはりタイル張りの洗面台がある。

周りから銀が腐食し始めた古々しい鏡に、白い四角が貼りついているのだ。

2つだったり、4つだったり、まれに6つのこともあったが、いずれにせよ偶数の四角が、キチンと2列に並んでいた。

あれはいったい何だったのだろう?タイルが鏡にくっつくはずはないし、数が増減するのも変だ。

記憶の焦点を合わせようとするのだが、モヤモヤと輪郭がはっきりしない。

半日考えあぐねて、思い余って母に電話した。

田舎の家でさ、鏡になんか白いの貼ってあったでしょ?あれって何だったの?

白いの?鏡に?そんなんあったっけ?

あったよお! 白くて、四角くて…

んー… あーあー! わかった! トクホン!

へ?トクホン?

トクホンよ! トクホンハップ! おじいさん腰が痛かったでしょ…

祖父は腰が悪かったので、始終シップを貼っていた。

風呂に入る時、そのシップをはがすのだが、なにしろ明治の人である。

まだ効き目があるシップは捨てず、風呂から上がって汗が引いたらもう一度使うのだ。

私が見たのは、はがされて待機中のシップだったのである。

ちょっぴりファンタジックな記憶が、一気にビンボ臭い話になってしまった。

でも、貼ったばっかしのシップなんか、ちょっと貼っとくといいかもしれない、と思ってしまったのは、ナイショである。

とくほん
(「貼って爽快 見た目に奇麗」)

急な出張のため、本日の記事は2016/07/21付の再掲載です。
昨日に続き「祖父が貼りつけた」シリーズとしてお読みください。




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むかしむかし | コメント(6) | トラックバック(0) | 2018/07/16 11:30
コメント
No title
湿布は2時間ぐらいしか持たないようですよ。
おじいちゃん効いていたのかな~
昔の人はいろいろ考えたんですね。
トクホン
肩こりにシップを貼る、というのは割と日本では誰でもやること、として「サロンパス」とかありますけれども、アメリカに行ったら全然見かけなくて、文化圏によって違うのだな…と感心した覚えがあります。
 そしてルートビアはシップのにおい…。なるほど、シップがないからこそ、これが食べ物のにおいとして認識されるんだ、と二度、感心しました。
 ちなみに、うちの祖母はピップエレキバンを再利用していましたよ。
出張
お疲れ様でした。

膏薬の再利用。
私もトライしましたが上手くいきませんでした。

思い出せない時はお母様。
Re: No title
Carlos様

>湿布は2時間ぐらいしか持たないようですよ。

ウフフ…2年前にこの記事を最初に載せた時も、そう教えてくださいましたね。

それ以来私もその知識を方々で披露しています。
Re: トクホン
まこ様

イギリス人と結婚した友だちが、イギリス人は肩がこらないらしいと言ってました。

そういえば英語にも湿布という言葉はあるけど、現物は見なかったなあ。
Re: 出張
rockin'様

私なんて新品のシップも上手く貼れなくて毎回難渋しております。

エアーサロンパスでごまかす日々です。

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