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ふなとぎょ話。

晴れの続くうちに風を通しておこう、と、和箪笥の抽斗を抜く。

とりどりに広げた中に見つけた、懐かしい柄は、藍の地に白く月と兎を抜いた、私の浴衣

最後にこれを着たのはもう何年前だったか。

膝に広げたら、吹き上がる川風に顔をなでられたような、気がした。

大阪の夏のお祭り、天神祭

見どころはなんといっても、大川の川面を、お囃子も賑やかに何艘もの船が行き交う船渡御だ。

船には天満宮の氏子さんが乗り込むほか、青年会議所や業界団体の仕立てる船もあり、めいめいに揃いの法被や団扇で、景気の良い眺めである。

その年、取引先から乗船券をもらった彼氏に、お祭りに誘われた。

いわゆる社内恋愛で、付き合い始めたばかり。

新しい浴衣に袖を通し、待ち合わせ場所に着くと、西日にまぶしそうな目を細めた彼がいた。

乗り込んだのは、繊維関係の団体の船らしく、年配のご夫婦の多い中、若い私たちは、ちょっぴり居心地が悪かった。

やがて日の落ちるころ、船はゆるゆる滑り出す。

川は街より低い

ふだん前を行き来するビルを、振りあおいで見る不思議な感覚。

笛や太鼓、囃子方の船は、船足も速く、他の船の間を縫うように、にぎやかに行き来する。

川風に髪をなぶられ、暗い船ばたに出れば、

ヒュー… どどん!

夜空に大輪の花火が咲く。

花火のあかりで照らされた、隣の船の乗客の顔に、ドキンとする。

お…

あ… おじさん…

商売仲間と一緒に乗っていた叔父だった。慌ててつないでいた手をほどいたが、時すでに遅し。

フフフ…と微笑を含んだ叔父を乗せた船は、すぐに離れて行った。

その後、身内の集まりなどでも、あの時のことを言われた記憶はない。

何年かたって、結婚式に招待した時、私の横にいたのはその時の彼氏ではなかったけれど、叔父は黙っていてくれた。

今年の船渡御は本日、午後6時から。

てんじんまつり2018
(天神祭総合情報サイトは→ こちら 



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むかしむかし | コメント(12) | トラックバック(0) | 2018/07/25 11:30
コメント
素敵!!
なんとも粋なおじ様。
うら若き時分の私なら、ぜひ紹介願いたいものです。
No title
青春の淡い思い出に浸りましたね。
浴衣を着てもう一度川辺に行ってみてはいかがですか?
日常に戻る時
素敵なシュチエーション浸っている時
その時の気分と物と結びついている気がします
だから『それ』を観る度に気持ちが呼び起こされるのではないでしょうか

それが現実に引き戻される瞬間が有ると思います
それは
身内の顔を見た時
その時の気まずい気分と言ったら…
σ(^◇^;)
No title
船渡御、今夜、メイン会場ではなくて端の端で見ました。
船に乗って御神楽や花火を見るのはまた格別だったでしょう。
とってもいい思い出ですね。叔父様に気づかなかったなら・・。
ものすごい偶然ですね。
私も新婚の年にたまたま知人に誘ってもらって乗りました。
トイレがなかったのでビールを飲み過ぎないようにと言われました・・・。
花火の煙がすぐ近くに迫って大迫力でした。
おはようございます!
実話ですか?

とても良いシチュエーションが、
想像させてくれるお話、

夜なろうとする時間の心、
川の匂い、下れば海の香り、
花火の彩と光の音、

そして、今この手にある浴衣の想い、


良い夏でしたね。

ステキな
ぢょん でんばあ様の艶やかなお話にドキドキしました。

今も昔もモテモテのぢょん でんばあ様❗️
Re: 素敵!!
花ばあば改め不良な熟女様

そっちですか!

さすが熟女様の面目躍如ですね。

Re: No title
Carlos様

近頃はこんなノンキなものじゃなくて、大変な混雑。

関西ではテレビ中継がありますので、もっぱらそちらです。
Re: 日常に戻る時
山猫様

まあ、父親じゃなくて、叔父でよかったです。

浴衣は畳んで引き出しの奥に仕舞いました。

Re: No title
たんぽぽ・ママ様

橋の上でしたか、ご覧になったこと記事にされてましたね!

私は今年も、ビール片手にテレビで…。
Re: おはようございます!
ダリルジョン様

懐かしいですね。

きっと誰にも、こんな若い日の思い出の一つや二つはあるでしょう。

少々美化されている点はお許しを(笑)。
Re: ステキな
rockin'様

昔はともかく今はサッパリですよ。

まあこの年でモテても困りますけどね。

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