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せんぱい話。

その昔、就職協定というものがあった。

会社訪問や採用選考、内定日に制限があり、その解禁日の1つが8月20日

ウブだった学生時代に念じすぎたためか、いまだにこの日付を見ると緊張感が蘇る。

あの頃はリクルートスーツも決まったものが無く、今ほど黒一色ではなかった。

暑い盛り、キチンとしてかつ涼しい格好がよかろう、と、ワンピースなんか着てオフィス街をウロウロしたのだから、ノンキな時代である。

その日は、有名企業にお勤めのセンパイを訪問する日。

先輩といっても、学部が同じだけの見ず知らず。志望する会社にお勤めの人に個別に連絡を取り、人事につないでもらうというのが、当時の就活の常套手段だった。

下宿のピンク電話から、大学の名簿を見て、ドキドキしながらご自宅に電話をかけ、なんとかアポイントメントを取り付けたのである。

指定された高級ホテルのロビーで柱にもたれていると、

えーと、ぢょん子さん?

優しい声で呼びかけられた。

銀縁の眼鏡で、紺のスーツをスッキリと着こなした、細身の若い男性。センパイだ。

あわてて会釈をしながら

き、今日はお忙しいのに お時間をいただいてありがとうございます!

使い慣れない敬語を精一杯使ってご挨拶すると、センパイはけむったそうに顔の前で手を振り

そんなにしゃっちょこばらなくてもいいですよ 気楽に…

そう言いつつ、ホテルの喫茶室にいざなわれた。

ほてるのらうんじ

はじめて会う男性とお話しするのだ。気楽にと言われても、そうリラックスできるものではない。

促されて飲み物を注文したものの、ストローをくわえるのもためらわれて、結露したグラスの中では氷が溶けていく。

センパイは優しかった。

会社の業務について、社風について、福利厚生について。ひととおりの紹介に続いて

ぢょん子さんは専攻は? 

サークルでは何を?


モタモタと答える私を急かすこともなく、軽くうなずきながら、いかにも興味がある表情。

天井が高く、ひんやりと冷房された喫茶室。一張羅のワンピースで、豪華なソファに埋まるように座って、まるでお姫様になったようだ。

やがて約束の時間がきて、センパイは伝票をさっと取り、お支払いをしてくださる。

ぎこちないお辞儀をしてオフィス街を右左に分かれた後も、フワフワと夢の中だった。

あれが就職活動だったなんて、今思えばおかしくって、笑えてくる。

センパイの会社とは、ご縁が無かった。あれ以来、お会いする機会もない。



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むかしむかし | コメント(8) | トラックバック(0) | 2018/08/20 11:30
コメント
No title
懐かしいですね。
私にもありました。
ご実家の親父様から始まって、私を一人の人間として扱っていただいたことがうれしいような、
しっかりしていかないといけないんだなと思たような。
いろんな方によくしていただきましたが、一つ儲かりませんでした。
これは
短大だったからなんでしょうか、やったことないです!なんだかお見合いっぽいですね!
私の時は紺のスーツで就活しましたが、クリーニングに出した日に、しょうがないから、とベージュのスーツを着ていったら、そのことばっかり質問されてぐったりした覚えがあります。
 結局、もう疲れ果てて内定をもらってすぐやめましたけど…。
今日の記事はかわいいぢょんさんが目に浮かぶようでした。
No title
就職活動ね~この暑いのに、リクルートスーツを着て・・・
私はコネで入ったので就職活動は経験がありません。
のどかなじだいだったんです。
忘れもしない東京オリンピックの年です。
それを
機会にお二人は恋に落ちた。
と、思ったのはきっと私だけではないはず。
罪作りなぢょん でんばあ様!
Re: No title
unagi様

そうですね、海のものとも山のものともつかぬ学生風情を、大人扱いしてくださった、そのことが嬉しかったのだと思います。

圧迫面接なんてものがある昨今のような状況だと、私は就職できなかったかもしれません。
Re: これは
まこ様

うちは女子が1割もいない男子校みたいな大学だったので、女子というだけで珍しがってもらえたんでしょう。

天ぷらをおごっていただいたこともあります。今じゃ考えられませんね。
Re: No title
Carlos様

今の子の就職活動は本当に大変そうですね。

あんなんじゃあ私には就職できないかも。
Re: それを
rockin'様

残念ながらそんなドラマチックなことは無かったです。

でも素敵な先輩でした。

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