fc2ブログ

ドリトル本。

子供の頃は、12月25日の朝起きると、枕元にリボンの包みが置かれていた。

サンタクロースのプレゼントだ。

今は当たり前かもしれないが、50年前のその頃、毎年サンタが来る家はわりに珍しかった。

父は旧式の男であるから、ハイカラで夢見がちな母の差し金であったろう。

うちに来るサンタは、子供の希望を聞いてくれるタイプではなく、先方で勝手に決めたプレゼントを持ってくる人であった。

スモック刺繍のブラウス、薔薇模様のオルゴール、象牙色の手鏡とヘアブラシのセット…。

そんな品物が、知らぬ間に調えられ、枕辺に届く。ウキウキと気持華やぐ、クリスマスの朝だ。

女の子らしくキレイなものばかりのプレゼントは、こそばゆく嬉しい。

でも、同時に、それを見るたび

かわいい女の子になりなさい 優雅で上等な女の子になりなさい

そう言われているようで、心のすみっこがチクリと痛かった。

幼いながらも、自分はそうはなれないと、どこかでわかっていたのだと思う。

素敵なプレゼントを、必ずしも大喜びしていない私を、サンタは遠くで見ていたのだろうか。

ある年のクリスマスの朝、プレゼントらしからぬ、ぺたんこの地味な包みが、枕元にあった。

茶色の包み紙をバリバリと開けると

どりとるせんせいこうかいき
(「ドリトル先生航海記」 ロフティング著 井伏鱒二訳)

白黒で字のいっぱいある、でもとても面白そうな、ずっしり重い本が入っていた。

あの日の嬉しさを、私はけっして忘れない。

そして私は、お化粧や洋服よりも、本の好きな女になったのだ。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

スポンサーサイト



ブックガイド | コメント(13) | トラックバック(0) | 2018/12/25 11:30
コメント
親に感謝
60+α年前のクリスマスを鮮明に覚えており
両親を誇らしげ語られることは
ブログを訪問したものにとって
最高のクリスマスプレゼントです

この認証番号が8881でした
バーバーは一番でした
No title
ごねんなさい
認証番号の8881は
母は一番でした
No title
50年以上前の話。
私が子供の時、クリスマスの朝枕元にあったのは…

【ヤンマー】と書かれたエプロンでした。
ヤン坊・マー坊のイラスト入り。
実家は、農家でしたからね…

でも嬉しかったのを覚えています。
いいなあ…
うちでは、サンタさんは「お話」であると最初から暴露されておりまして、「まこちゃんはクリスマスになにをもらったの?」と聞かれたときに「なんにも」と言わないように、と「ノート」だの「鉛筆」だのがプレゼントになってました。年末に特別に買ってもらえるものはあったのですが、それは「お父さんのボーナスが出たから」という理由になっていて、なんともロマンのないはなしでした。
No title
クリスマスプレゼント、うれしかったですね。
私も貧しいながら母がクリスマスプレゼントを用意してくれたんでしょう。
一番うれしかったのがハーモニカでした。
今年もサンタさんいろんな家に笑顔を届けてきたことでしょう。

お洋服やお化粧にも
力を入れましょう。

金魚のようなドレス。
オウムの様なジャケット。
うん、これで行きましょう。
見たいな、このようなお姿を。
No title
枕元に「ドリトル先生」!考えただけでワクワク~(^^)
いいなぁ~!気の利くサンタさんで!
Re: 親に感謝
くんざん様

クリスマスはいかがお過ごしでしたか?

子供の頃当然と思っていたことでも、いざ自分が親になってみると、とても同じようにはできない。そう思うことが多いです。
Re: No title
はこべ様

ヤン坊マー坊、懐かしいです。

かわいい二人の天気予報を楽しみにしていました。
Re: いいなあ…
まこ様

親御さんの考えも色々ですよね。

うちは母が夢夢しいタイプなので、色々わかるようになってからは、おかーさんに付き合ってあげてるという感じでしたよ。
Re: No title
Carlos様

銀色に光るハーモニカのプレゼント、ステキな思い出ですね。

今もお吹きになれるかしら?
Re: お洋服やお化粧にも
rockin'様

化粧品、予算ゼロ。衣類は下着のみ。

書籍代は青天井。

来年もこれで行く予定です。
Re: No title
きと様

岩波のドリトル先生、全巻いまだに持ってます。

子供らはあんまり読まなくて、ちょっと残念。

管理者のみに表示