ばいりん話。

出勤途中、どこからかふと梅の香が漂ってきた。
梅の花が咲いているようだ。
すがすがしい香りが、遠い記憶を呼び起こす。
冬のさなかに生まれた初めての子供は、ありがたいことに大きく生まれて健康な赤ん坊だった。
新米の母親として、無我夢中で3か月。
ずっと新生児と2人、家の中に閉じこもっていたが、その朝、小さな肌着を干しながら
いいお天気だなあ…
そう思ったら、用もないのに外に出たくなる。
ちょっとお散歩のつもりで、簡単に赤ん坊の支度をし、ベビーカーを押して出かけた。
春めいた日差しが、赤ん坊の細い髪をキラキラと照らす。
平日の商店街を抜けた時、スッと前を横切った香りに、思わず大きく息を吸いこむ。
梅の花が どこかで咲いている…
見回せば、小さなお宮の森。迷い込むように入ったそこは、意外なほどりっぱな梅林だった。
人はチラホラ、花は6分咲き。
ベンチに腰かけて見る枝越しの青空は、なんだか久しぶりの気がした。
いつまでもいたい気持ちで、背伸びなどしていると、それまで静かにしていた赤ん坊が、にわかにむずかりだした。
赤ん坊が泣く理由といえば、オムツか、おっぱいか。
お散歩のつもりの軽装で来たので、どちらの準備もしていない。
泣き声に焦って、どうしよう、と頭に血が上り、気がつけばもう、おっぱいをやっていた。
人目もあるのに、外なのに。
私って、こんなことができるようになったんだ。おかしくて、子供を胸に抱きながら、ひとりでに笑えてきたのを覚えている。
あれから24回目の春。
歩を進めれば一瞬の梅の香は薄れ、やがて消えてしまった。
花の姿は、探さない。

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梅の香りに誘われて、、、 24年前の情景を美しく 手に取るように描かれて…
現実に戻って 花の姿は、探さない。 と〆られて 美し過ぎてしびれます!。
一生懸命子育てをやっている若いお母さん。梅の風景とその若いお母さんの瑞々しさが目に浮かんで思わずニッコリしました。
花の香りは余裕がないと気付きません。
そしてその姿も視界を斜めに通り過ぎるだけです。
自分の事より、人目を気にせず、ただただ、我が子のことを一番に考え、行動してしまっている。
母親になったんだと気付かされる一瞬ですね。
その時の記憶が、この季節になると梅の香りと共によびおこされる。
いいお話ですね。
娘さんも24歳ですか~そろそろ母親になる年ですね。
どんなお姑になるんでしょうね。
お祖母ちゃんに似るかな?
お褒めの言葉ありがとうございます。
何のことはない昔話ですが、梅の季節には思い出します。
お母さんの先輩であるヒノリッチ様に褒めていただけて、うれしいです。
あれから20年以上経つなんて自分でもびっくりです。
毎日毎日同じことの繰り返しだったので、合間にあったことはとても小さいことでも覚えていますね。
梅の香りは今も大好きです。
今でもベビーカーを押している若いお母さんを見ると、胸が詰まるような気持になることがあります。
きっとみんなこんな思い出があるんでしょうね。
こういう記事を読んで、他人事じゃなく、ご自分の奥様に想像が及ぶというのは、きっと良い旦那さま、良いお父さんなんだろうなと思います。
ぜひ聞いてみてください。
もうおばあさんになる想像ですか?!
考えたことなかったなあ。