こぼった話。
仕事納めも済んだこの時期に、響く工事の音。
出かけついでに見に行くと、住宅地の一角に重機が入っているようだ。
たぶん、ずっと空き家だった場所だ。
作業着に混じって、ヘルメットをかぶって現場に入る、初老の男性がいた。
離れて住んでいた息子が、亡くなった親の家の処分に立ち合っている、というところだろう。
鉄のアームがバリバリと音を立てて、土壁に、木の柱に食い込んでは倒していく。
よそ目にも無残に思える光景だが、男性は腕など組んで見物している。
こちらに背を向けていて表情は見えないが、厄介な古家を取り壊すことができて、あんがいホッとしているのかもしれない。
不意に男性が、組んでいた腕をふりほどき、重機の作業員を手で制して止めると、足場の悪い中に踏み込んでいった。
気になるものを見つけたようだ。
瓦礫の中から何か拾い上げると、手のひらに乗せて見つめた。
しばらく眺めたあと、ガクリと首を後ろに倒し、天を仰いでギュッと目をつぶる。
それから、手に乗せていたものを、必要以上の力を込めて、瓦礫の山に投げ捨てた。
古家を壊すことを、こぼつ、と言う。
毀つと書いて、こぼつ、と読むが、何気なしに使うとえ?と聞き返されることが多い。
旧弊な関西弁には、古語に近い言葉が生き残っており、その1つなのだろう。
次の日、こぼたれた家の跡にはもう人けも無く、不動産屋の看板だけが立っていた。


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出かけついでに見に行くと、住宅地の一角に重機が入っているようだ。
たぶん、ずっと空き家だった場所だ。
作業着に混じって、ヘルメットをかぶって現場に入る、初老の男性がいた。
離れて住んでいた息子が、亡くなった親の家の処分に立ち合っている、というところだろう。
鉄のアームがバリバリと音を立てて、土壁に、木の柱に食い込んでは倒していく。
よそ目にも無残に思える光景だが、男性は腕など組んで見物している。
こちらに背を向けていて表情は見えないが、厄介な古家を取り壊すことができて、あんがいホッとしているのかもしれない。
不意に男性が、組んでいた腕をふりほどき、重機の作業員を手で制して止めると、足場の悪い中に踏み込んでいった。
気になるものを見つけたようだ。
瓦礫の中から何か拾い上げると、手のひらに乗せて見つめた。
しばらく眺めたあと、ガクリと首を後ろに倒し、天を仰いでギュッと目をつぶる。
それから、手に乗せていたものを、必要以上の力を込めて、瓦礫の山に投げ捨てた。
古家を壊すことを、こぼつ、と言う。
毀つと書いて、こぼつ、と読むが、何気なしに使うとえ?と聞き返されることが多い。
旧弊な関西弁には、古語に近い言葉が生き残っており、その1つなのだろう。
次の日、こぼたれた家の跡にはもう人けも無く、不動産屋の看板だけが立っていた。


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私も4年ほど前に田舎の家をこぼちました。
業者に全部任せたので立ち会ってません。
今年、その後地を見に行ってきました。
子供のころ過ごした家の跡地を見るの辛かったです。
聞いたことあります。
漫画の「コボちゃん」みたいでちょとかわいい。
うちも主人の実家をこぼちました。
ここに人が住んでいたのか、という無惨さ。おまけにかなりお金もかかる。
うちは賃貸。案外気楽でいいかも。
去年の台風の影響でか、近所は空き家が更地になることが多くて、駐車場か、ちょっと広いと民泊用のマンションができることが多くて、風景も変わっています。
>しばらく眺めたあと、ガクリと首を後ろに倒し、天を仰いでギュッと目をつぶる。
>それから、手に乗せていたものを、必要以上の力を込めて、瓦礫の山に投げ捨てた。
切ない・・。 実は私の生家も10年ちょっと前に壊されまして、なのでこういう記事を読むと他人事ながら切ないです。
大阪に住んで30年以上になりますが、「こぼつ」という言葉、初めて知りました。故郷にいた年数よりも大阪に来てからの年数の方がずいぶん長くなってしまったのに、自分はやっぱり大阪の人間ではないんだなあと。こういうことは多々あり、自分がどこに行っても異邦人みたいでちょっと切なくなるんです(苦笑)
どうぞ良いお正月をお迎えくださいね。
私も実家を立て直してここに両親と住んでいます、
取り壊し(毀つ)に立ち会いましたが、
感慨深いものです。
想い出が壊されて行く中、、、
その中に家族にしか分からない物が
見つかったとしたら、、、
間取り一つ一つが思い出の写真のように
フラッシュバックします。
ジョンさん、よいお年をお迎えくださいな!
「穴を開ける」みたいなイメージを持ってました。
一つ語彙が増えました。
ありがとうございました。
濫用したいと思います。
以前おっしゃってましたね。
私が子供のころ住んでいた家ももうありません。こぼったところは見てませんが、ぜんぜん違うものがもう建っていて、悲しいというより驚きでした。
何だか忘れましたが古典を読んでいたら出てきたので、単なる方言ではないと気づきました。
ポツポツそういう古い言葉が残っていて面白いです。
そうそう取り壊しにもかなりお金がかかるんですよね。壊すと固定資産税も上がりますし。
年の暮れに世知辛い話題になりました。
あれって不思議ですけど、更地になると以前そこが何だったのかスッパリ忘れますね。
あーれー?みたいな感じ。
私は大阪生まれですが、転々としてるんでじっさい大阪に住んだのは20年にもなりません。うちの子たちもそうで、今は関西弁使ってますが、生まれた土地はそれぞれ違うところです。
人は皆異邦人…なんて久保田早紀みたいな。
ご実家建て替えられたんですね。私の生まれた家は、もう影も形もなく、その上によその人が住んでいます。
ジョン様もよいお年を!
ありがとうございます。
私は「やつす」を濫用したいと思います。