オウジノ本。
祖父母の家に遊びに行くと、まずは探検だ。
長く使われていない部屋は、湿っぽく冷たい。
叔父の部屋には、見たこともない美人女優のピンナップやペナント、革のかびた登山用具。
上の叔母の部屋の窓には、自分で縫ったらしきカーテンがかかり、モクメンを固く詰めたバンビのぬいぐるみが、丸い目でこちらを見ている。
間取りに余裕があるせいか、子供世代はめいめい自分の持物を残しており、そんな忘れられた品物を、宝探しのように見つけては、眺める。
手にとってはあった場所にそっと戻す、それだけのことがとても楽しかった。
いちばん最後に家を出た下の叔母が残したのが、硝子戸の付いた小さな書棚だ。
編み物に英文タイプ、切手収集や海外文通…趣味の実用書を引っぱりだして、ホコリくさいページを繰るたのしみ。
大人の顔しか知らない叔母の、娘時代を思う。
中にはもっと小さかった頃に読んだらしい、お話の本も何冊か混じっていた。
書名に惹かれて手に取った小さな本は、茶色の粗末な段ボールの函入り。
赤い模様の表紙を開けば、すっかり黄ばんだページの上、はかなげな少年が風に吹かれ、瞳のない小さな目で、こちらを見ていた。
初めて読んだその本が、なんだか手放しがたくて、つい、こっそり部屋から持ち出した。
ちょうだい、と言えば、きっと祖母は許しただろうに、なぜか言えなくて、黙って手提げに入れたその本は、今も私の書棚にある。

戦後間もないクリスマスに創刊された岩波少年文庫は、70周年。(→少年文庫創刊70年特設サイト)
懐かしい祖父母の家も、今は無い。

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長く使われていない部屋は、湿っぽく冷たい。
叔父の部屋には、見たこともない美人女優のピンナップやペナント、革のかびた登山用具。
上の叔母の部屋の窓には、自分で縫ったらしきカーテンがかかり、モクメンを固く詰めたバンビのぬいぐるみが、丸い目でこちらを見ている。
間取りに余裕があるせいか、子供世代はめいめい自分の持物を残しており、そんな忘れられた品物を、宝探しのように見つけては、眺める。
手にとってはあった場所にそっと戻す、それだけのことがとても楽しかった。
いちばん最後に家を出た下の叔母が残したのが、硝子戸の付いた小さな書棚だ。
編み物に英文タイプ、切手収集や海外文通…趣味の実用書を引っぱりだして、ホコリくさいページを繰るたのしみ。
大人の顔しか知らない叔母の、娘時代を思う。
中にはもっと小さかった頃に読んだらしい、お話の本も何冊か混じっていた。
書名に惹かれて手に取った小さな本は、茶色の粗末な段ボールの函入り。
赤い模様の表紙を開けば、すっかり黄ばんだページの上、はかなげな少年が風に吹かれ、瞳のない小さな目で、こちらを見ていた。
初めて読んだその本が、なんだか手放しがたくて、つい、こっそり部屋から持ち出した。
ちょうだい、と言えば、きっと祖母は許しただろうに、なぜか言えなくて、黙って手提げに入れたその本は、今も私の書棚にある。

戦後間もないクリスマスに創刊された岩波少年文庫は、70周年。(→少年文庫創刊70年特設サイト)
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岩波文庫の表紙がとても懐かしいです。
亡き父の本はほとんど誰も読まないけれど、なかなか捨てられません。
娘の私はたいして読書しません。
ごめんよ、お父さん。
子供にとって探検は楽しかったでしょうね。
星の王子様、まだ本棚にあるんですか~
うちは逆で、父はあまり本を読まない人でした。
亡くなってから本棚の整理をしましたが、こりゃ積読だなと思う本がいっぱいありましたよ。
田舎の大きなうちだからあんなことができたんですね。
今の子にはなかなかできない経験かもしれません。