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いちいち話。

例によって点けっぱなしのテレビで、何かドラマが始まった。登場人物がセーターやコートを着ているから、冬に放映した再放送らしい。

怪我で不自由している大叔父の、身の回りの世話をするために、東京からやってきた若い女。

勝手の分からない京都で、あちこちお使いに出されながら、次第になじんでいく。

何といって事件も起こらない淡々とした画面。

老舗の鰻に、レトロな洋食に、「おいしい!」と喜ぶ娘に、大叔父は

当たり前のこと いちいち言わんでよろし

いたってクールである。

帰る日の朝、火鉢で焼きたてのお餅を手渡され

あっつー

思わずこぼすと、大叔父の口癖に

当たり前のことを…

自分も声を合せた。

こんなほほえましい場面に、温かいご飯にコツンと小石を噛みあてたように、蘇る思い出。

別れた亭主が、当たり前のことをいちいち言う男だった。

夏はワイシャツの胸をばたばたさせながら

アーツアツアツ…

騒がしく帰ってくるし、冬は冬で、朝、玄関を

うー…さむっ!

一声無しには出かけられない。

私はおしゃべりだが、言っても仕方のないことは言わずにおこう、という抑制は効くほうである。

暑いのも、寒いのも、誰だって分かるんだから、わざわざ言われたくない。不愉快なことを言う、と、いつもイライラした。

まさに性格の不一致というやつだが、私も若かったし、共感する力が無かった。

当たり前のこと いちいち言わんでよろし

もしあの時、サラッと言えたなら、違う行先があったのだろうか。

まあ、無いだろうな。

曲がり角が違うだけで、着く場所は同じ。そういうものである。

ちょこっときょうとにすんでみた
(→年末スペシャルドラマ「ちょこっと京都に住んでみた」



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てれびじょん | コメント(6) | トラックバック(0) | 2020/07/26 11:30
コメント
No title
当り前のことをつい言ってしまうことありますね~
そうか~当たり前のことは言わない方がいいですかね~
多分年配者が若い人に言うから大丈夫なんですよ、きっと。

これが夫婦だと言いづらいんじゃないかな。
当たり前のことを
したり顔でいかにも大切なことのように言う。
ありがちです。
特にジジイには。
気をつけよう!

しかし梅雨は湿度が高くてジメジメしている。
あっ!
友人の家で見ました。
私が木村文乃さんのファンな事を知っていてHDに録画してくれていました。
私のトコにはTVが無いので・・・。
良い作品でした。

「当たり前のこと いちいち言わんでよろし」
俳句の創作と同じだなぁ~、と、頷きながら共感しました。
中学生の頃、
教科書で『最後の一葉』を読んだことがきっかけで、O.ヘンリーの短編をいくつか読んだのですが、その中でずっと長く心に引っ掛かっている作品があります。

パリを目指して村を出奔した若者が、大きなT字路でどちらに進むか迷い、左に進んで死ぬ。次の章では右に進んで死ぬ。最後の章では村に引き返すが、やはり死ぬ…。
中学生の私には、衝撃的な展開でした。

あの曲がり角で間違えさえなければ、よい結果が得られたはず、という後悔は誰にでもあることでしょうが、自分が自分である限り「着く場所は同じ」、と思い定める年齢になりました




Re: 中学生の頃、
Westwing様

「運命の道」でしたっけ?私も覚えてます。珍しくバッドエンドでつらい話でしたね。

この記事を書くときには思い出せませんでした。

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