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クマノコ本。

30年ばかり前、はじめてロンドンに旅行した時、行ってみたい場所があった。

パディントン駅である。

くまのぱでぃんとん
「くまのパディントン」 ボンド作 フォートナム画 福音館書店

ペルーのリマの「老グマホーム」に入居することになったおばさんと別れて、イギリス行きの船に忍び込んだ仔グマ。

ブラウン夫妻は、遺失物取扱所の郵便袋の陰で、スーツケースに座っている彼に気づく。

帽子をかぶり、首には

どうぞこのくまのめんどうをみてやってください。おたのみします。

札を下げたこのクマを、夫妻は出会った駅にちなんで、パディントンと名づけた。

プーさんと並んで、イギリスで一番有名なクマ、パディントンの誕生である。

小さい頃から親しんできたクマの、名の由来となる場所をちょっと見てみたい。記念碑とか土産物屋なんかが、あるかもしれない。

国鉄と地下鉄の両方が乗り入れる巨大ターミナル駅の高い天井の下、私は途方に暮れていた。

およそ取り付く島もないほど、忙しそうに行き来する乗客たち。やっと捕まえた駅員に

パディントンベアのメモリアルはないか?

たどたどしく尋ねても、要領を得ない。

今ならアッサリあきらめるだろうが、当時は私もまだ若く、粘り強かった。

何人も聞き続けると、ようやく中の1人がああ!と思いついた様子で、こっちへ来い、と手招いてくれた。

駅舎の長い廊下を歩いて、ドアを入れば、そこは窓口のある長いカウンターを備えた事務室。

壁際の小さなガラスケースの中に、ぼさぼさしたクマのぬいぐるみが飾られている。

これだけ?あの有名なクマの、記念がたったこれだけ?

拍子抜けしつつ、案内してくれた係員のニコニコ顔に励まされ、パチパチと写真を撮る。

日本なら、きっと駅のそこらじゅう、ポスターに、看板に、クマだらけにするだろう。

パディントンチョコレートにパディントンクッキー、パディントン饅頭がキオスクに並ぶだろう。

ここはオトナの国なんだな、と思った。

ありがとう、と部屋を出て振り返ると、扉の上に、さきほどは気付かなかった表示が読めた。

遺失物取扱所

嬉しくなって、黒ずんだ金属のプレートをしげしげ眺めていると、失くし物をした人が、おかしな東洋人がいるよ、という顔で中に入っていった。

プレートの写真は、撮っていない。

paddington-statue.jpg
(私みたいなやつがよほど多かったのか、今は銅像があるらしい)


くまのパディントンの誕生日に際し、2017年6月25日の記事を再掲載いたします。


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ブックガイド | コメント(4) | トラックバック(0) | 2021/06/25 11:30
コメント
No title
あらら!記念館じゃなかったんですか~
でもよく遺失物取扱所にクマのぬいぐるみがありましたね。
誰かの忘れ物?
パディントンは昔NHK教育でやっていたのをちらりと観たくらいです。

元々作者の持っていたぬいぐるみなんですね。くまのプーさんもそうでしたよね。

熊って実物はそれほどあどけなくないのに、やたらぬいぐるみになるのがなんだか不思議です。
Re: No title
Carlos様

もう大昔の話ですから、今は記念館くらい、あるかもしれませんね。

また本を読みたくなりました。
Re: タイトルなし
うさきち様

ぬいぐるみを動かすモーションピクチャーの番組ありました。

本物でも子熊はぽてぽてしてかわいいですよね。

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