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メイジン本。

歴史の本を読んでいると、時代を担った人たちの若さに驚く。

もとより、30代で国を変えた維新の英傑に、自分をなぞらえるつもりはないが、若いなあ!と、感慨を覚えることはたまにある。

はじめてそれを感じたのは、日曜洋画劇場で見た「ロミオとジュリエット」。

ジュリエットを演じた女優が、当時15歳だと知った時、何とも言えない気持ちになった。

あの感情は何だったんだろう。

ハリウッド女優と田舎の高校生じゃ、およそかけ離れていて、嫉妬もないし、羨望とも違う。

あるいは、自分はまだ何者でもない、という焦燥だろうか。

30年以上経つけれど、あの気持ちは鮮やかに覚えていて、思い出すたびあの日の自分を、ぎゅっと抱きしめてやりたくなる。

それに似た気持を感じたのが、かつて愛読した、この本。

ちちのわびじょう
(「父の詫び状」 文春文庫)

ここでの記事に他の著書を紹介した(→ 「すぐみた話。」 )こともある。

学生のころ、この著者の一連のエッセイを、熱心に読んだものだ。

無駄のない文章、鮮やかな結末、まさに「突然現れてほとんど名人」である。

しかし、どんなエピソードにもオチがつく巧みさや、窮屈すぎるほどの美意識が鼻につくようになり、少しく離れている間に、あの事故が起きた。

誤解を恐れずに言うが、なるほど、と思った。

巧すぎる文章には、早い結末がふさわしい。痛ましい事故だが、いったんそうなると、他に彼女の退場のしかたはなかったように思えてしまう。

彼女が亡くなったのは、40年前の今日。51歳だった。

自分が、その年齢を越えてしまったことに、ある感慨がある。

そして、それが何の感情なのか、この年になってもまだ、うまく説明はできないのだ。

むこうだくにこ
向田 邦子(1929年11月28日 - 1981年8月22日)



著者没後40年に際し、2015年8月22日の記事に加筆再掲載いたします。



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ブックガイド | コメント(4) | トラックバック(0) | 2021/08/22 11:30
コメント
No title
 いつの間にか信長や芭蕉の年齢を越えてしまい、ボーゼンとする私です。あ、でも一休や一茶にはまだ遥かに遠く・・・。
 ぢょんさんの文章もすごいですよ。ちょっと憧れてるんです。国語の先生とかされてましたか?
私も昔何冊も読みました。
一連の作品は、大人の事情なんだけど、どろどろしてなくて品があって、でもちょっと怖い世界だったなぁ。

寿命が延びて、世の中が平和になって、
人間ものんびり緩みすぎましたかねぇ。
それがいいことなのか悪いことなのかはわかりませんけれど。

Re: No title
まっちゃん様

文章を褒められると、とてもうれしいです。ありがとうございます。

先生、はしてませんね。作文は好きですが、人に教えるのは苦手です。
Re: タイトルなし
うさきち様

「かわうそ」とか、怖かったですね。

生きて居たら、何を書いていたかしらと、ときどき想像します。

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